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映画『Sappy』あらすじ感想と評価考察。猪征大主演スリラーが名作オマージュと共に描く《何者にもなれない現実》とは

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『Sappy』は下北沢トリウッドで2025年5月9日(金)より劇場公開!

世間の人々を見下し、小説家になることを夢見る男の現実と妄想が入り乱れていくノンストップスリラー『Sappy』。映画配給レーベル・Cinemagoが贈る特集企画「終点なき映画たち Route:1」の1作として、下北沢トリウッドで2025年5月9日(金)より劇場公開されます。

夜の東京を車で走り、日常の雑踏を横目に何者かになろうとする男の姿、広がるイマジネーションは『タクシードライバー』(1976)や『ファイト・クラブ』(1999)を彷彿させます。


(C)NIHILISM WORKS/Cinemago

監督は本作が初長編作の上田修生。本作は第23回TAMA NEW WAVE「ある視点部門」に選出され、期待の新人監督です。

ドラマ『御上先生』(2025)の猪征大が主人公を演じ、主人公を導く売れっ子小説家・小林役を『真夜中乙女戦争』(2022)の結城あすまが演じました。

肥大化した自我の滑稽さと、足掻く若者の青さが痛々しいまでに突き刺さります。

映画『Sappy』の作品情報

【公開】
2025年(日本映画)

【製作・脚本・監督・編集】
上田修生

【キャスト】
猪征大、結城あすま、川上明莉、犬童みる、土屋土、藤田晃輔、橘舞衣、吉田憲明

【作品概要】
映画配給レーベル・Cinemagoが贈る特集企画「終点なき映画たち Route:1」の1作として、下北沢トリウッドで劇場公開される『Sappy』。監督・上田修生の初長編作である本作は、第23回TAMA NEW WAVE「ある視点部門」に選出されました。

主人公を演じたのはドラマ『御上先生』(2025)、『あとがき』(2024)の猪征大。

主人公を導く売れっ子作家を演じたのは『真夜中乙女戦争』(2022)の結城あすま。さらにシンガーソングライターや『僕のヒーローアカデミア』など舞台でも活躍する川上明莉をはじめ、犬童みる、土屋土、藤田晃輔、橘舞衣、吉田憲明が出演。

映画『Sappy』のあらすじ


(C)NIHILISM WORKS/Cinemago

風俗嬢を乗せる送迎車の運転手をしている《主人公》(猪征大)は、小説家になることを夢見ていました。

そんな主人公に、恋人は「才能がない、読者のことを考えていない嫌なやつ」と別れを切り出します。別れ話よりも「才能がない」と言われたことに動揺した主人公に、恋人は軽蔑の言葉をぶつけました。

送迎の仕事をしながら夜の雑踏を眺め、そこに生きる人々を「連中」と見下す主人公。そして「自分は“小説を書いている”から彼らとは違う」と考えていました。しかし書き上げた小説を見せても、出版社には相手にされませんでした。

ある時、一人の風俗嬢が送迎車に乗ります。その風俗嬢はスマートフォンを見ず、外の景色を眺めています。その姿を見た主人公は「連中」とは違うと感じ、彼女のことを小説のネタにしようと考えます。

思うように小説が書けない主人公の前に、かつての同級生で今は売れっ子作家の小林(結城あすま)が現れます。最初は小林との再会を喜べなかった主人公ですが、小林に助言を求め、導かれるようにその助言にしたがっていきます。

小説の中の出来事なのか、現実の出来事なのか……虚実が混迷する中、小林が提案した《計画》を実行すべく、主人公は物語を突き進んでいきます。

映画『Sappy』の感想と評価


(C)NIHILISM WORKS/Cinemago

期待の新人・上田修生監督が描き出す、夢を追うことの狂気と肥大化した自我のエゴイズム

独りよがりになりがちなテーマでありながら、名作映画を彷彿させるスタイリッシュさでサスペンスフルな映画に仕立て上げています

眠らない、夜の東京のネオンはそれだけで、何か掻き立てられるような焦燥感と、孤独、虚しさを感じるものです。小説家になることを夢見るも誰からも相手にされていない、何者でもない自分に焦りを感じる《主人公》にとって東京の街、そこにいる人々は苛立ちを感じさせるものでした。

そこに現れた売れっ子作家の旧友・小林は、人の目も気にせず刺激を求め、人とは違っていることで世間から認められている人物でした。主人公にとって本当はそうでありたいのに、なれない存在が小林なのです。

なぜ小説家になりたいのか、どんな小説を書きたいのか……そんな理由はとうに忘れ、ただ小説家になることだけを追い求める主人公の姿に、観る者は何を思うでしょうか。

同情を求めるわけでもなく、独りよがりの狂気でもなく、どこか乾いた距離感で主人公を描いているのが、本作の印象的なところです。

加速した狂気、現実と妄想の境界線が曖昧になった中で、主人公が突き進む先にあるものとは……映画的なメタ展開でありながら、等身大の現実味も感じさせる、単なる青さだけではない魅力がそこにあります

まとめ


(C)NIHILISM WORKS/Cinemago

映画配給レーベル・Cinemagoが贈る特集企画「終点なき映画たち Route:1」の1作として、下北沢トリウッドで2025年5月9日(金)より劇場公開される映画『Sappy』

本作の見どころの一つは、主人公を演じる猪征大と小林を演じる結城あすまの狂気のぶつかり合いでしょう。畳み掛けるように《主人公》のエゴイズムを抉り、自分の論を展開する小林に対し、朦朧とする中で、次第に狂気に目覚めていく《主人公》の姿が印象的です。

対照的な2人のようで、実は瓜二つのようなライバルであり、共犯関係でもある、絶妙な空気感が見事です。また、神出鬼没な小林のユーモラスであり、どこか狂気的な姿もインパクトがあります

「第四の壁」や、クライムムービーを彷彿させる演出などスタリッシュさと自主映画らしさが融合した世界観にも注目です。



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