リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの大ヒットアクション映画第2作
『ベテラン』(2015)から9年の時を経て制作された続編。ベテラン刑事ソ・ドチョルが対峙するのは、法では裁かれない悪人を標的にした連続殺人犯。
不条理な世の中への大衆の不満が、殺人犯を「ヘチ」と名づけ正義のヒーローかのようにもてはやすようになります。
行き過ぎた正義の前にソ・ドチョルはどう立ち向かうのでしょうか。
ソン・ドチョルが所属する広域警察のチームのメンバーは前作のキャスト陣が顔を揃え、新人警官役には、ドラマ『D.P. 脱走兵追跡官』シリーズなどで知られるチョン・ヘインが務めました。
『密輸 1970』(2024)、『モガディシュ 脱出までの14日間』(2022)のリュ・スンワン監督らしい、アクションシーン満載のエンタメ作。
映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の作品情報
(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
【日本公開】
2025年(韓国映画)
【英題】
I, the Executioner
【監督】
リュ・スンワン
【脚本】
リュ・スンワン、イ・ウォンジェ
【キャスト】
ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、シン・スンファン
【作品概要】
『密輸 1970』(2024)のリュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの大ヒットアクション映画第2作。
前作に引き続き『国際市場で逢いましょう』(2015)のオ・ダルスや、『三姉妹』(2022)のチャン・ユンジュをはじめとした広域警察チームのメンバーが顔を揃えるほか、新人警官役に『ソウルの春』(2024)のチョン・へイン。
前作よりさらにスケールもアクションもパワーアップしたエンタメ大作になっています。
映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』のあらすじとネタバレ
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家族のことを気遣う暇もなく、仕事に追われるベテラン刑事のソ・ドンチョル。
ドンチョルの所属する凶悪犯罪捜査班の前に、連続殺人事件が飛び込んできます。その連続殺人事件の被害者は、どれも有罪になって然るべきであるのに、法で裁かれて罰を受けることなく過ごしていた人たちでした。
その連続殺人犯を韓国の想像上の生物であり、法の番人である「ヘチ」と名づけたのは、元記者で、今は動画配信をしているパク・スンファンでした。
「ヘチ」と呼ばれた殺人犯は、法で裁けぬ人間に罰を与える正義のヒーローとしてもてはやされていました。同一犯と思われるヘチは、過去に被害者が起こした事件と全く同じ状況で殺されているのが特徴でした。
そんななか、「ヘチ」が次に狙う人物として名前が上がったのは、かつてドンチョルが逮捕した財閥3世のテオの下で働く所長のチョンでした。
ドンチョルたち凶悪犯罪捜査班は、自分たちが捕まえたチョンを警護する任務をつかされます。嫌々ながらもチョンの警護をしますが、大勢の人が出所するチョンの周りに集まり、「ヘチ」に殺してほしいと頼んだり、卵を投げたり、大変な騒ぎになります。
そんな騒動の中、ナイフを持った男がチョンに飛びかかろうとします。その男に対し、果敢に対峙したのが、新人警官のパク・ソヌでした。
ソヌの動きを見たドンチョルは感心し、若いのに勇敢だと称えます。
チョンは、警察が管理している隠れ家に移し見張っていましいた。その場所にいることを知るのは、凶悪犯罪捜査班をはじめ警察内部の人間だけです。
しかし、チョンは何者かに呼び出され、監視の目を潜って脱走し、「ヘチ」らしき人物によって殺されました。死んで当然だと言うかのように、殺人現場に詰めかける大衆に「殺人に良い殺人も悪い殺人もない」とドンチョルは声を荒げます。
映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の感想と評価
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ファン・ジョンミン演じる熱きベテラン刑事ソ・ドンチョルが仲間と共に帰ってきたシリーズ第2作。
新人警官パク・ソヌが警官を志した理由には、ドンチョルが関係していました。
前作で描かれたドンチョルが乱闘の末財閥3世のテオを逮捕した映像を見て、ソヌは警官になることを決めたのです。
それが結果として行き過ぎた正義に繋がってしまいます。ソヌは犯人を逮捕する際、殺す気で向かっています。
そんなソヌに対し、ドンチョルは「本当に殺す気じゃなかったよな?」「いつか足元をすくわれるぞ」と言います。
それでも、怖がることなくナイフを持った男に立ち向かうソヌに対し、最初は頼もしいと自分に似たものがあると感じていました。
同様にソヌも自分とドンチョルは同じだと感じています。しかし、2人には決定的な違いがありました。
ドンチョルは越えてはいけない一線があることが分かっていて、それを越えない理性も持っていました。
どんな罪人であれ、殺していい理由はありません。「殺人にいい殺人も悪い殺人もない」と野次馬でやってきた大衆にドンチョルは怒ります。
しかし、ソヌは法で裁かれない罪人は生きている価値がない、だから殺してもいいという行き過ぎた正義感を持っています。
ソヌが利用したミン・ガンフンは、バイクに乗って暴走運転をしていた人々によって恋人を失い、麻薬中毒に陥っていました。
そんなミン・ガンフンを利用した上に、ソヌは殺して自分の正体がバレないようにしようとしました。
この行為はもはや行き過ぎた正義の執行ではなく、身の保身です。
行き過ぎた最後の執行としての殺人自体許されるべきことではありませんが、ソヌの中でしっかりとした軸がなくなっている様子も伺えます。
ドンチョルとチームによって追い詰められたソヌは、わざとシートベルトをせずに、ドンチョルの乗った車に突っ込んで行きます。
ソヌは自分自身も許されるべき存在ではないと自覚していたのでしょうか。それとも捕まるくらいなら死んだ方がいいと思ったのでしょうか。
心肺停止となったソヌに、ドンチョルは必死で心臓マッサージを行います。
そこには、どんな罪人であれ殺していい理由はない、目の前の人間は救うというドンチョルの正義感が表れています。
それだけでなく、ドンチョルによって生み出されてしまったとも言えるソヌに、贖罪をする機会を差し伸べているとも言えるのです。
一方で、ソヌ=「テチ」を盛り立てたのは他でもなく動画配信者であり、その視聴者です。
不満の矛先をSNSを通して誰かにぶつけやすくなった世界で、誰かを扱き下ろすことで優越感、承認欲求を満たそうとします。
その中でたまっていく不満、理不尽なヘイト……様々な負の感情はさらに自分より下のものへと向かっていく恐ろしさに無自覚でいてはいけないのです。
そのような現代社会の闇を浮き彫りにしつつも、前作に引き続きソ・ドンチョルのチームの絆やコミカルなやり取り、迫力満点なアクションとリュ・スンワンの手腕が光るエンタメ大作になっています。
まとめ
(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの大ヒットアクション映画第2作『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』。
本作の見どころの一つは、なんと言ってもアクションでしょう。
前作においても、ボクシングを習っていた財閥3世のテオと、ドンチョルのアクションは見応えがありました。
本作では、チョン・ヘイン演じるパク・ソヌの三角絞めが何度も出てきます。
そして、「ヘチ」の正体にドンチョルが気付いたのもこの三角絞めでした。
ラストのドンチョルとソヌの対決も見応えがありますが、1番インパクトがあるのは、ポスターにもなっている雨が降る屋上でのアクションでしょう。
土砂降りのなかスライディングしながらアクションを繰り広げるドンチョルとソヌ。
しかも、ソヌは偽のヘチであるミン・ガンフンを殺そうとしており、ドンチョルは殺そうとするソヌを制止しつつ、ミン・ガンフンを捕まえようとするややこしい構図になっているのもミソです。
ソヌは周囲の状況を判断し、自分が殺そうとしたのではなく、捕まえようとしてやむなく殺してしまったかのように見せかけようとします。
しかし、ドンチョルの目を欺くことはできませんでした。
それぞれの思惑が交差するなか、大迫力で展開されるアクションに監督、キャスト陣の熱量を感じます。