ヴィクトル・ユーゴー原作の大ヒットを記録した有名ミュージカルを映画化
パンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャン。
仮釈放後、情けをかけてくれた司教のもとで盗みを働いてしまいますが、改心し生まれ変わることを決意します。
その後、不幸なフォンテーヌから娘のコゼットを託されたジャン・バルジャンはジャベール警部の追跡を逃れながらコゼットを育てますが、激動の時代の波に巻き込まれていきます。
『英国王のスピーチ』(2011)でアカデミー監督賞を受賞したトム・フーパーが監督を務めました。
ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイと豪華なキャスト陣が顔を揃え、アン・ハサウェイは本作でアカデミー助演女優賞に輝きました。
映画『レ・ミゼラブル』の作品情報
【公開】
2012年公開(イギリス)
【原題】
Les Miserables
【原作】
ヴィクトル・ユーゴー
【監督】
トム・フーパー
【キャスト】
ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、アーロン・トベイト、サマンサ・バークス、イザベル・アレン、ダニエル・ハトルストーン、コルム・ウィルキンソン、ヘレナ・ボナム・カーター、サシャ・バロン・コーエン
【作品概要】
1862年に出版されたヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』は、1980年代からミュージカルとして上映されるようになります。そして、世界43カ国で上演されて大ヒットを記録しました。
ヴィクトル・ユーゴーの原作を元に映画化、テレビドラマ化された作品も数多くありますが、本作はヴィクトル・ユーゴーの原作を元にしたミュージカルの映画化となっています。
ヒュー・ジャックマンやラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメインら豪華キャスト陣が歌う名曲の数々が見どころです。
映画『レ・ミゼラブル』のあらすじとネタバレ
1815年。フランス革命から26年経ち王政復古となったフランス。飢えていた妹の子供のためにパンを盗んだ罪で捕えられたジャン・バルジャン。19年に及ぶ刑務所生活を経て仮釈放となります。
仮釈放となっても自由ではなく、呼ばれたら出頭しなければなりません。仕事をするにも、食事をするにも身分証を見せて囚人であることがわかると、皆冷たい対応をします。
そんなジャン・バルジャンに手を差し伸べ、温かい食事と寝床を与えてくれたのは司教でした。しかし、ジャン・バルジャンはそこから銀食器などを盗み明け方に教会を抜け出します。
すると警察に捕まり、教会に連れ戻されます。「司教がくれた」というジャン・バルジャンの嘘を咎めることなく司教は「その通りだ、私があげた」と言います。
驚いているジャン・バルジャンに司教は「兄弟よ、慌てすぎて一番大事なものを忘れている」と蝋燭台を差し出します。
司教の優しさにジャン・バルジャンは己を悔い、神の前で「正しい」人間に生まれ変わることを誓います。
時が立ち、ジャン・バルジャンはマドレーヌと名前を変えて工場経営で成功し、モントルイユの市長になっています。
ジャン・バルジャンが経営する工場で働くファンテーヌは工場長から性的な嫌がらせをうけていましたが、クビになるわけにはいかず耐えています。
しかし、手紙からファンテーヌに子供がいることが知られ、「大人しい顔して夜は淫売か」とクビにされてしまいます。ファンテーヌは娘を宿屋に預けていましたが、娘が熱を出しお金が必要だと言われています。
困り果てたファンテーヌに、娼婦が声をかけてきます。ファンテーヌの髪を触り、「美しい髪だね、10フランで買おう」と言われます。
10フランあれば娘を病院に連れていくことができると、泣く泣く髪を売ります。そんなファンテーヌに人々が群がり、歯を売るように仕向けます。
更に追い討ちをかけるように、失うものは何もないと体を売るように仕向けます。娼婦となったファンテーヌは、客を選べる立場にもありませんが、乱暴をされて抵抗し、男性の顔に傷をつけてしまいます。
訴えられそうになったファンテーヌですが、その場に居合わせたジャン・バルジャンによって、病院へと連れて行かれます。
ファンテーヌは、自分のせいでクビになり、このような目に遭っていることを知ったジャン・バルジャンは謝罪をします。
ジャン・バルジャンの誠実さに触れたファンテーヌは、娘のコゼットをジャン・バルジャンに託しそのまま息を引き取ってしまいます。
コゼットを引き取りに行こうとしたジャン・バルジャンですが、数日前に警部として赴任してきたジャベールによって、ジャン・バルジャンではないかと疑われていました。
そしてジャベールは市長の正体が罪人であると報告しましたが、ジャン・バルジャンは捕まって裁判にかけられるというのです。
そのことを聞いたジャン・バルジャンはほっとする一方で、自分と間違われて刑務所に入れられる人がいることに罪悪感を感じています。
しかし、捕まったらコゼットの面倒を見ることはできません。それでも見殺しにできず、裁判所に出向き、ジャン・バルジャンは自分だと名乗り出ます。
「警部がそのことを知っているはずだ」と言い残し、ファンテーヌがコゼットを預けた宿屋に向かいます。
宿屋を営む夫婦はしたたかで良心の欠片もなく金を巻き上げるためなら何でもする夫婦でした。ファンテーヌに対しても何かと理由をつけては金を巻き上げ、娘のコゼットは奴隷のように働かせていました。
ジャン・バルジャンは彼らの言い値を払ってコゼットを引き取り、姿を消します。その後にやってきたのはジャベールでした。しかし、一歩遅く、ジャン・バルジャンを捕まえることはできませんでした。
映画『レ・ミゼラブル』の感想と評価
因果と救い
本作の主人公であるジャン・バルジャンはパンを盗んだ罪で投獄されますが、刑期が19年に伸びたのは数回にわたって脱獄を試みたため、刑期が伸びたのです。
確かに投獄される必要があったのか、という罪ではありますが、その罪だけならば10年も経たずに出られたのです。
19年に及ぶ囚人生活でジャン・バルジャンの心は荒み、人を信じられなくなっていました。出所後も、世間から冷たい目で見られ、ジャン・バルジャンは世間に対し憎しみを募らせていました。
そんなジャン・バルジャンを人として扱い、温かい食事と寝床を与えてくれたのが、司教でした。更に盗みを働いたジャン・バルジャンを責めることなく、彼の嘘を肯定したのです。そんな人の優しさに触れたジャン・バルジャンは、「正しい人」に生まれ変わることを決意したのです。
コゼットを娘として愛し、育てたジャン・バルジャンは、娘を奪う若者がくること、そして自分の正体をコゼットに知られることを恐れていました。一方で、自分の罪を告白して許されたいという思いもあったのではないでしょうか。
しかし、そうすればジャン・バルジャンは罪人として刑務所にいき、罪人の娘としてコゼットは辛い人生を送らねばなりません。19世紀という時代において、コゼットの母・フォンティーヌが苦労したように、社会的地位の低い女性が1人で生きていくのは困難です。更に、罪人の娘となればもっと過酷な生活が待っています。
そのことが分かっているからこそ、ジャン・バルジャンはコゼットに真実を言うことができませんでした。
生まれ変わることを決意したジャン・バルジャンですが、ジャベール警部をはじめ様々な人によって己の犯した罪の因果から逃れられず、苦しみます。
「正しい人」でいること、生まれ変わることはそう簡単ではありません。
それは外的要因だけでなく、内面的な要因からもそうと言えるでしょう。19世紀を生きた人々だけではなく、現代を生きる私たちもそうです。自分は「正しい人」だと胸を張って言えるでしょうか。
誰かのために生きることは、全てがそうではないとしても、「正しい人」であろうとする表れかもしれません。人は1人では生きられないというのも、誰かの支えが必要という意味もそうですが、誰かを支えることも人は必要なのです。
ジャン・バルジャンを罪人たらしめたのは、恩赦のない法や貧しい人々に冷たい時代のせいでもありますが、ジャン・バルジャン自身でもあります。
妹のためにパンを盗んだことではなく、自分に手を差しべてくれた司教の銀食器を盗み、自分がここまで堕ちてしまったと絶望し、その罪を悔いています。そんなジャン・バルジャンの最期に訪れるのは、コゼット、そしてファンテーヌによる赦しという救いです。
己の罪を悔い続け、コゼットを守り育て、正しい人になろうとしてきたジャン・バルジャンの魂は祝福され神の御国への扉が開くのです。19世紀に書かれた原作ということもあり、キリスト教の思想が表れていますが、感動的な場面です。
まとめ
本作は、ヴィクトル・ユーゴーの原作の映画化ではなく、それを元にしたミュージカルの映画化となっています。
名曲が流れる名シーンも沢山あるなか、印象的なのはアン・ハサウェイ演じるファンテーヌの「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream)ではないでしょうか。
恋した人は出て行き、1人娘のコゼットを育てるファンテーヌ。しかし、娘を預けた宿屋の夫婦は何かにつけお金をせびります。
必死に働いていたというのに、娘がいることを知られ工場をクビにされてしまいます。仕事がなければ娘を育てることはできないと絶望するファンテーヌにめざとく声をかける人々によってファンテーヌは髪を失い、次には歯も失い、失うものはないと体を売ります。
不幸ばかり降りかかり、絶望したファンテーヌの魂の叫びがまさに「夢やぶれて」なのです。本作でアカデミー助演女優賞を受賞したアン・ハサウェイの身を切るような演技が観客の心をとらえます。
他にも印象的な曲として「民衆の歌」(Do You Hear the People Sing?)があるでしょう。ヴィクトル・ユーゴーの原作小説は、1830年の7月革命をモデルにしていると言われています。
この民衆蜂起により、シャルル10世が退位をし、立憲君主制に移行します。しかし、結局上層のブルジョワが権力を握り、選挙も普通選挙ではなく、制限選挙でした。労働者層を中心とした不満が1848年の二月革命につながっていきます。
革命に燃える学生や労働者の希望に満ちた思いと強い信念、そして王政に対する怒りが込められた「民衆の歌」は、その強いメッセージ、メロディー観客までもが拳を振り上げたくなるような高揚感に満ちています。
そんな信念も王軍に包囲されると絶望に満ちていきます。命が散ろうとも、最後まで戦い抜いた人々。その革命精神が受け継がれ、長きにわたる戦いと勝利につながっていきます。
歴史的背景を踏まえつつ、自由への叫び、信念を貫く姿は、普遍的なものでもあります。時代に翻弄されながらも愛と信念を胸に生き抜こうとした人々の姿、壮大な音楽に感動を覚えます。