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【ネタバレ】推しの子 The Final Act|あらすじ感想と結末の評価考察。実写で描く原作ラストまでの復讐劇

  • Writer :
  • 糸魚川悟

2回目の人生をすべて捧げた復讐のクライマックス

2020年から2024年まで『週刊ヤングジャンプ』で掲載された、赤坂アカと横槍メンゴによる漫画「【推しの子】」。

本作は非業の死を遂げた男が「推し」のアイドルの息子として生まれ変わる、というややコメディタッチな導入から、「推し」を奪われた男の人生を賭けた復讐劇へと物語が変容していく様が人気を集めました。

「芸能界」を題材としたこの作品は2023年からのアニメ化に際し、現実とリンクする部分が賛否両論を巻き起こしましたが、YOASOBIによる主題歌「アイドル」が紅白歌合戦に出場するなど大きな話題にもなりました。

そして、2024年11月14日に完結したばかりの「【推しの子】」が、2024年の12月に全8話のドラマと劇場版で実写映像化。

今回はそんな話題の渦中である実写版の完結編となる映画『【推しの子】 The Final Act』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

映画『【推しの子】 The Final Act』の作品情報


(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【監督】
スミス

【脚本】
北川亜矢子

【キャスト】
櫻井海音、齋藤飛鳥、齊藤なぎさ、原菜乃華、茅島みずき、あの、成田凌、金子ノブアキ、倉科カナ、吉田鋼太郎、二宮和也

【作品概要】
原作・赤坂アカ、作画・横槍メンゴの両名によって2020年から2024年まで『週刊ヤングジャンプ』で掲載された漫画「【推しの子】」を、AKB48からマキシマムザホルモンまで幅広いアーティストのMVを手掛けたスミスが映像化した作品。

映画『噓喰い』(2022)で映画初出演を果たした櫻井海音が主人公アクアを演じ、齊藤なぎさや齋藤飛鳥、あのなど元アイドルを積極的に起用したキャスティングや物語のキーパーソンとなるカミキヒカルを二宮和也が演じることが話題となりました。

映画『【推しの子】 The Final Act』のあらすじとネタバレ


(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

宮崎の総合病院で研修医として勤務する雨宮吾郎は、難病を患い闘病生活を続ける天童寺さりなから慕われていました。

さりなは人気急上昇中のアイドルグループ「B小町」のセンター「アイ」の大ファンであり、アイを推すことを長い闘病生活の支えとしてきました。

吾郎はそんなさりなを勇気づけ、アイが東京ドームに立つ日を共に迎える約束を交わしていましたが、さりなは13歳を迎えることなく病没してしまいます。

研修生活を終え産婦人科医となった吾郎は、さりなから貰ったアイのキーホルダーをきっかけにさりなに代わりアイを全力で推すファンとなっていました。

吾郎がアイの体調不良による活動休止のニュースを見た日、吾郎の前に双子を妊娠したアイこと星野アイが現れます。

推しの妊娠に動揺する吾郎でしたが、出産後には出産を隠した状態でアイドルに戻り、母親としての喜びもアイドルとしての喜びも手にする覚悟と自信を目にした吾郎は、アイの出産を全力で補助することを決意。

アイが産気づいた出産の日、吾郎は公開されていないアイの名字を知った上で彼女を訪ねてくる不審な男を目撃し、後を追いかけます。

裏山の山中まで男を追いかけた吾郎は男に不意を突かれて崖下に転落し、そのまま息を引き取りました。

意識を失った吾郎が目覚めると、出産を終えたばかりのアイの息子・アクアとして転生しており、こうして吾郎の次なる人生が始めることとなります。

双子の妹・ルビーもアクアと同じくアイを推す転生者のようでしたが、二人はお互いを詮索することなくアイの子供と言う生活を満喫していました。

子供の存在を隠したままアイのアイドル活動は順調に躍進を続け、「B小町」は遂にドーム公演を決定します。

しかし、ドーム公演を間近にし、住居も新たにしたアイたちの前に吾郎を殺害したストーカーが現れ、アイの腹部を包丁で刺しました。

多くの人間に嘘をつき続け、人を愛したことも愛されたこともないアイでしたが、アクアとアイに「愛してる」と伝えると「アイツのせいだ」と呟き息絶えました。

月日は流れ2024年、アイの死んだ日から復讐のためにだけ生きてきた俳優のアクアは遂に、ストーカーを唆しアイを殺害させた元凶の人物にたどり着きます。

同じ事務所の女優でありルビーと共に新生「B小町」を結成した有馬かなのスキャンダルをもみ消すために、12年前に死亡したアイの隠し子であることを公表したアクアは、母の尊厳を踏みにじったとしてルビーに絶縁を宣言されました。

実はアクアはかなを救うためだけでなく、真犯人を追い詰めるための最後のカードとしてアイの息子であることを公表しており、アクアは自身の恩師でありアイのドキュメンタリーを撮ろうとしていた監督・五反田に声をかけアイの生涯を描いた映画の製作を持ち掛けます。

プロデューサーの鏑木は業界でも有名な「ある人物」をアイ殺害の真犯人として糾弾する脚本に驚きますが、アクアの説得によってこの物語が事実であることに納得し製作に協力することを決めます。

一方その頃、大手プロダクションの取締役であるカミキヒカルは、アイの生涯を描いた映画「15年の嘘」の主演女優としてキャスティングされていた話題の女優・片寄ゆらを事故に見せかけ殺害していました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『【推しの子】 The Final Act』のネタバレ・結末の記載がございます。映画『【推しの子】 The Final Act』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

五反田は主演女優としてルビーを推していましたが、彼女を巻き込みたくないアクアと事務所を運営する斉藤夫妻はルビーへのオファーを断ります。

主演女優としてオファーされた黒川あかねは、脚本を読み映画を企画したアクアの考えを読み取り、ルビーを炊きつけることで彼女がオファーを受けるように仕向けました。

あかねはアクアが映画に失敗した場合、自ら真犯人を殺害する可能性を感じ取っており、ルビーを守るために行動に映していたのです。

「15年の嘘」の撮影が始まり、撮影班はアイの人生を追体験していくことになります。

幼少期、父親の顔を知らないアイは彼女を疎ましく思う母親に捨てられ、児童養護施設で人を喜ばせる「嘘」を会得しました。

斉藤壱護にアイドルとして見出されたアイは、いつか人を心から愛すことの出来る日を夢見てアイドル活動を始めますが、アイはすぐにアイドル活動に飽き始めてしまいます。

そんな中、劇団のワークショップでカミキヒカルと言う空虚な少年と出会ったアイは、彼に自身と同じ思考を感じカミキの子を身ごもることになります。

アイはお互いのことを考えカミキとの子を自分一人で育てることを決意しましたが、カミキはアイのファンである良介を巧みに操ることでアイを抹殺させることを企み始めていました。

運命の日を演じる日が近づき、ルビーが精神を乱し始める中、アクアは彼女の前世がさりなであることに気が付き、ルビーもアクアの前世が吾郎であることを知ったことで二人は仲を回復させます。

アイの死を演じたルビーは、アイの最後に残した「アイツのせいだ」と言う言葉を恨み節ではなく優しい口調で演じ、アイがカミキを許そうとしてたのではと言う考えをアクアに吐露しました。

撮影が完了し、マスコミの試写が行われると、インタビュアーとの対談でアクアは映画に多額の出資をしていたカミキと二人きりで対峙する場を得ます。

アクアになぜアイを殺したのかを問われたカミキは「自分でも良く分からない」と語り、彼の持つ空虚な思想を露わにしていきます。

アイを自分と同じ「嘘つき」だと言い切ったカミキは、映画の公開後に警察に自首すると言いアクアの前を後にします。

アクアは人生を賭けて殺害を目論んだ復讐相手が、アイがカミキすらも救おうとしたことにすら気づかない哀れな人間であることに打ちひしがれ、アイの望んだように自身も幸せな未来を生きることを考え始めました。

一般試写会の日、舞台挨拶中に映画館内が煙に包まれ、アクアは何者かに腹部を刺され、煙が晴れるとルビーがその場から姿を消していることに気づきます。

連絡を受けたアクアは埠頭に佇むカミキに会いに行くと、そこには気を失ったルビーが横たわっていました。

カミキは自身の命に価値を感じられず、価値のある人間を殺害することで自身の命の重さを感じていたことを語り、アクアを刺したナイフを彼に差し出すと、自身をアクアに殺させルビーを犯罪者の妹にする計画をアクアに聞かせます。

アクアはアイもルビーもこんな価値のない男を救おうとしていたのか、と吐き捨てると事故に見せかけるためカミキを掴み、共に海へと身を投げました。

その後、二人の遺体は海から発見されることはなく転落死として処理され、黒川や有馬は俳優として活躍し、アクアの死を乗り越えたルビーはアイドルとして活躍していくのでした。

映画『【推しの子】 The Final Act』の感想と評価


(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

批判の対象となる「実写化」を恐れずに成し遂げた作品

「【推しの子】」には人気漫画の「実写化」を話題としたパートが存在し、作中では原作者が「実写化」での物語やキャラの改変に異を唱え、作品作りに大きな混乱を巻き起こしていく物語が展開されます。

「実写化」における原作者や原作ファンの想いと、「実写化」の製作陣の想いや届けたいターゲット層が一致しているわけではないとして、必ずしも「実写化」を一方的に批判した物語ではないものの、本作を「実写化」することは大きな批判を生むことは容易に想像が出来たはずです。

しかし、本作は先行して配信されたドラマが前評判を覆す高評価を得たように、「雑」な改変を行わなず誠心誠意原作と向き合うことで、原作ファンとして鑑賞しても納得できる作品へと仕上がっていました。

「実写化」となる「東京ブレイド」は原作では「舞台」でしたが、ドラマでは「ドラマ」として描かれたように、本作は意図して「実写化」の批判に立ち向かうと言う意志を確認できる改変が行われており、現実の芸能界の問題点を描いた「【推しの子】」らしい映像化作品と言える作品となっていました。

原作の最後までを描き切った完結編


(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

本作は原作が完結していない段階で製作が行われた映像化作品であり、原作ファンの間では物語の終盤がオリジナル展開となることが予想されていました。

しかし、本作は細部や尺の関係上でのエピソードのカットこそあれど、基本的に大筋は原作に沿った完結を迎えることとなります。

このことからも原作者と映画製作陣との間で密接なやり取りがあったことを窺い知ることが出来、本作が原作をリスペクトした上で製作されたことが分かりました。

物語のラストを描く上で避けて通ることの出来ないカミキヒカルへの「復讐」を物語の初めから演出上の主軸としてガッチリと固めていた本作は、「【推しの子】」と言う作品のラストに相応しいクライマックス感を満足なほどに感じることが出来る完結編映画でした。

まとめ


(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

少ない登場時間ながら物語の黒幕となる役を演じた二宮和也の演技はまさに怪演であり、空っぽだからこそ何よりも怖い「邪悪」を持ったカミキヒカルの映像化がこの作品にはあると言えるほど

話題となった漫画「【推しの子】」の魅力を完全に再現できた実写化作品の完結編映画『【推しの子】 The Final Act』は、原作ファンでも、続きを待ち望むアニメファンでも、はたまた全く原作を知らない人にでもオススメすることの出来る作品となっていました。


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