見ると死ぬという呪いのビデオ……Jホラーの金字塔『リング』の続編
見ると死ぬという呪いのビデオが巻き起こす惨劇を描いた鈴木光司のベストセラー小説をもとに中田秀夫監督が高橋洋脚本で映画化した『リング』(1998)。
『リング』と同年に制作された『らせん』(1998)は、同じく鈴木光司の小説をもとに『NIGHT HEAD』(1994)の飯田譲治監督が脚色し、映画化しました。
幼い息子を死なせて以来、自殺のことばかり考えている監察医の安藤。ある日、彼は大学の同期であった高山竜司の解剖をすることになり、一片のメモ紙を見つけます。
そして、高山の恋人であり、第一発見者である舞に出会い呪いのテープの話を聞かされます。
最初は信じない安藤でしたが、次第に呪いのテープの存在を知り、不可解な出来事に巻き込まれていくのでした。
映画『らせん』の作品情報
【公開】
1998年(日本映画)
【原作】
鈴木光司
【監督、脚色】
飯田譲治
【キャスト】
佐藤浩市、中谷美紀、真田広之、鶴見辰吾、佐伯日菜子、松重豊、小木茂光、松嶋菜々子、伴大介、真鍋尚晃、安達直人、加倉井えり、菅原隆一、岡田智宏、上沖俊、丹野由之、清水宏、鈴木光司
【作品概要】
鈴木光司の小説をもとに制作された『リング』(1998)と同時期に制作された『らせん』(1998)は、『リング』の続編となっています。
また、本作とは別に中谷美紀主演で、中田秀夫監督が映画化した『リング』の続編、『リング2』(1999)もあります。
『リング』に引き続き、真田広之や中谷美紀、松嶋菜々子、松重豊が出演するほか、本作出演後『壬生義士伝』(2002)をはじめ現在に至るまで様々な役を演じてきた佐藤浩市が主演を務めます。
映画『らせん』のあらすじとネタバレ
幼い息子を死なせて以来、自殺ばかり考えているが、自分の手を切る勇気が持てずにいる安藤満男。
ある日、そんな安藤のもとに大学時代、同期であった高山竜司が不審死をとげ、今日解剖に回ってくることを同僚の宮下に聞かされます。
安藤は、学生時代に高山と交わした会話を思い出します。“ripper”というメモの意味を高山に尋ねると、「わからないか、未来のお前だよ」と言われます。
それは、後に安藤が監察医になることを示唆しているようであり、いずれ安藤が高山を解剖する日が来ることを予見していたかのような言葉でした。
安藤は、解剖している最中に、胸を切り裂かれた高山が突然起き上がり「自分の手首を切れないくせに、人の体は切り刻むのか」と言ったかのような幻想を見て動揺します。
解剖の結果、高山の直接の死因は心筋梗塞であると推測されたほか、数字が書かれた不思議なメモが高山の胃から出てきます。
解剖結果を伝えると、警察は、高山の別れた妻と息子が行方不明であることや、市の直前に元妻・浅川玲子に連絡していること、浅川がビデオテープを持って行ったことを確認していることなど、高山の死について不可解なことを安藤に話します。
そして、第一発見者であった高山の恋人・舞と話してくれるよう頼まれます。
舞は何を聞かれても「分かりません」と答えようとしませんが、何か知っているかのような様子です。警察が痺れを切らして強く尋問すると舞は気を失ってしまいます。
病院のベッドで寝ていた舞は目を覚ますと「ビデオテープ」と言います。「呪いのビデオテープを見ると死んでしまう。4人も死んだ」と言う舞の言うことを「馬鹿馬鹿しい」と安藤は信じようとしません。
安藤のもとに事故で浅川とその子供が亡くなったと連絡がきます。現場に駆けつけた安藤に警察は、息子の方は、事故の前に死んでいたようだと言われます。
車の中にビデオデッキとビデオテープを見つけた安藤は、舞が言っていたことを思い出します。
浅川の上司だという吉野が車の中をのぞき写真を撮っています。
そんな吉野から呼び出された安藤は、浅川が残した手帳に書かれている内容から呪いのビデオのこと、浅川が貞子の正体を調べていたことを聞かされます。
更に吉野は安藤にビデオテープを渡し「気持ち悪くて見たいとは思わないが、君は科学者だ。科学的知見が欲しいから協力してくれ」と言います。
学生時代、暗号を作ることが流行りだったことを思い出し、高山が遺したメモが暗号なのではないかと安藤は思い始めます。
数字に様々な文字を当てはめ、高山の暗号は「present」であると安藤は考えました。
呪いのビデオテープについて信じていませんでしたが、ビデオを見てしまいます。安藤の中に貞子の意識が入り込んできます。
貞子の名前を叫び、刃物を振り回す男、井戸の中で苦しむ貞子……。叫び声を上げた安藤に触れたのは、なんと貞子本人で、貞子は安藤と体を重ねようとします。
安藤は恐怖を感じながらも貞子を振り解きます。いつの間にか貞子はいなくなっていました。
映画『らせん』の感想と評価
見ると死ぬという呪いのビデオが巻き起こす惨劇を描いた『リング』(1998)により、Jホラーの象徴ともなった貞子。
オカルト要素の強い『リング』に比べ、『らせん』は主人公が監察医であり、医学、科学的観点で呪いを紐解こうとしたサイエンスホラーになっています。
本作にも貞子は登場しますが、井戸から出てくる髪の長い貞子の姿ではなく、本作はオカルトホラーとはまた違った恐怖を描いていると言えます。
それは本作が『リング』と同時期に制作され、『リング』と併映で上映されたということにも関係しています。併映ということで違ったテイストの映画である必要があったのでしょう。
恐怖の演出だけでなく、本作ではベッドシーンも盛り込まれ、それが貞子に加担しているという恐ろしさに繋がっていきます。
また、小説では安藤と舞が体を重ねることはなく、舞は排卵日に高山が遺したビデオを見てしまったことで、受精のような形で貞子がこの世に再生したという形になっています。
ビデオを見ることで呪われる図式はシンプルでありながら、オカルトだからこそ許されたものと言えるかもしれません。
しかし、本作は呪いによって亡くなった人間を解剖し死因から関連性を見出し、呪いのルールを紐解いていくというアプローチをしています。
ビデオテープそのものにウイルスが付着しているわけではなく、あくまでビデオを見ることが感染方法であるため、接触感染ではないということになります。
バイオテロなどをはじめとしたウイルスのパニックムービーは基本的に飛沫感染や、接触感染で感染が広まっていきます。
ビデオを見て感染するというのは、荒唐無稽ではありますが、説明のつかない呪いの現象に対する一つの説明にはなっていると言えるかもしれません。
また、安藤は性行為によって貞子の計画の協力者となりますが、性行為や受精はホラー映画によって重要な意味を持つものとして描かれることがあります。
呪いを人にうつす方法として性行為が描かれている印象的な映画に『イット・フォローズ』(2016)があります。それだけでなく、母体、マザーは恐怖を生み出す存在として描かれることがあります。
「エイリアン」シリーズにおいては、エイリアンが人に寄生して成長したり、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)では妊娠した子供が悪魔の子なのではないかという恐怖を描いています。
『ザ・ブルード 怒りのメタファー』(1987)では、怒りから奇形の子供を生み出す女性の姿が描かれています。
そのようなホラーと比べると、ただ再生するために卵子を利用しただけの本作は、やや意味付けの弱い印象もあります。
しかし、『リング』と違ったアプローチで描かれた本作は、『リング』シリーズを見る上で興味深い映画と言えるでしょう。
まとめ
見ると死ぬという呪いのビデオが巻き起こす惨劇を描いた『リング』(1998)と併映で上映された『らせん』。
オカルトホラーであった『リング』とは違い、『らせん』では医学的な知見で呪いを紐解こうとする主人公たちを描いています。
呪いの正体がウイルス感染であること、そして貞子の目的は呪いを広め世界中に自分が味わったのと同じ苦しみを与えることでした。
そんな貞子の怨念が込められた浅川の手記が出版されるということを安藤が知って物語が終わります。呪いを広めるとともに、ウイルスに感染させるというところからバイオテロのような要素も感じられます。
また、DNA情報から再生し、記憶もDNAが継承しているというサイエンスフィクションらしいエッセンスも加わっています。
安藤が苦しみながらも貞子の計画に加担してしまったのは、自分の息子を失ってしまった喪失感からでした。子供の死を受け入れられず禁忌を破ってしまった親の姿というのも、ホラー映画などにおける王道の展開といえます。
Jホラー界に大きな影響を与えた『リング』とは、違うアプローチながら、『らせん』には後の映画につながる要素がたくさんつまっているのです。