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【ネタバレ】『春に散る』あらすじ感想と結末評価。ボクシング映画に演技派俳優として佐藤浩市x横浜流星が“チャンピオン師弟”を演じる

  • Writer :
  • 谷川裕美子

一度は諦めた夢へ再び突き進む男たちの物語

映画『春に散る』は、『ラーゲリより愛を込めて』(2022)『護られなかった者たちへ』(2021)の瀬々敬久監督作。

『深夜特急』で知られるノンフィクション作家・小説家の沢木耕太郎が朝日新聞に連載した同名小説を、佐藤浩市と横浜流星主演で映画化しました。

1度はあきらめた夢を追うふたりのボクサーの姿を熱く描きます。

共演は橋本環奈、片岡鶴太郎、窪田正孝、山口智子。過酷なトレーニングを積んで挑んだ横浜流星と窪田正孝のリアルなボクシングシーンは必見です。

映画『春に散る』の作品情報


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
沢木耕太郎

【監督】
瀬々敬久

【脚本】
瀬々敬久、星航

【編集】
早野亮

【キャスト】
佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、板東龍汰、松浦慎一郎、尚玄、奥野瑛太、坂井真紀、小澤征悦、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子

【作品概要】
『深夜特急』がバックパッカーのバイブルと呼ばれ、ノンフィクション界で独自の世界を築いた沢木耕太郎による朝日新聞連載小説『春に散る』を、『ラーゲリより愛を込めて』(2022)『護られなかった者たちへ』(2021)の瀬々敬久監督が実写映画化。

佐藤浩市と横浜流星を主演に迎え、ボクシングチャンピオンを目指して奮闘するふたりのボクサーの姿を熱く描きます。

肉体と魂を燃やす尽くすリアルなボクシングシーンが見どころです。橋本環奈、片岡鶴太郎、窪田正孝、山口智子ら実力派俳優が集結しました。

映画『春に散る』のあらすじとネタバレ


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

40年ぶりに故郷の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一。引退を決めたアメリカで事業を興し成功を収めましたが、不完全燃焼の心を抱えて突然帰国しました。

居酒屋で騒ぐ若者を一発で倒した広岡を見た若者・黒木翔吾は、自ら勝負を挑んで広岡にダウンを奪われます。その後、広岡を翔吾は探し回りました。

広岡はかつて所属したジムを訪れ、昔広岡に恋心を抱き、今は亡き父から会長の座を継いだ令子に挨拶します。それから、今はすっかり落ちぶれたという二人の仲間、佐瀬と藤原に会いました。

やがて翔吾が広岡の前に姿を現し、広岡の指導を受けたいと懇願します。不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた翔吾の身の上を聞き、佐瀬らは広岡にも同じ経験があることを話しました。心臓の持病を抱えている広岡は迷いながらも、熱い思いをぶつける翔吾を受け入れます。

やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、翔吾はもちろん、一度は夢を諦めた周りの人々を巻き込んでいきました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『春に散る』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『春に散る』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

翔吾は令子のジムの大塚に勝利し、チャンピオンの中西と対戦することになりました。父親を失った広岡の姪の佳菜子も加わり、不思議な共同生活が始まります。

やがて翔吾の目に異常があることがわかります。広岡と医者は試合を棄権させようとしますが、翔吾は聞き入れません。

間に入ろうとした佳菜子に広岡が「関係ない」と怒鳴りつけたことから、佳菜子は出て行ってしまいます。翔吾は佳菜子を実家に住まわせました。

一人で初詣に行った広岡は、心臓発作を起こして病院に運ばれます。駆けつけた翔吾は、自分の身ばかりを案じてくれる広岡の手を握って泣き崩れました。

やがて退院した広岡は再びリングに立ち、翔吾の指導を始めました。中西も厳しい練習を黙々と積みます。

そして迎えたタイトルマッチ当日。死闘を制して翔吾は勝利したものの、顔に数々のパンチを受けて目が見えなくなってしまいます。それでも翔吾は晴れやかな顔で、後悔していないと広岡に言いました。

広岡が病院の外に出ると、桜の花びらが舞い散る中で令子が待っていました。「勇気もらった」と言う令子に、桜を見てくると言って広岡は立ち去ります。

その後、満開の桜の木の下で広岡は息を引き取りました。

半年後。会社に向かう翔吾を、佳菜子が笑顔で見送ります。翔吾は広岡と最初にトレーニングをした川原で涙をぬぐいながら、「わかったよ。走るよ」と空に向かって言い、笑顔で駆け出しました。

映画『春に散る』の感想と評価


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

圧巻のリアルなファイトシーン

一度は失った夢に向かって、再び駆けだしていく男たちを熱く描くヒューマンドラマです。

40年ぶりに故郷の日本に戻った元ボクサー・広岡のもとに、ボクシングを教えて欲しいとやってきた青年・翔吾。ふたりには、不公平な判定負けに怒ってボクシングを離れたという同じ過去がありました。

燃え残っていた情熱がプスプスと音を立て、やがて燃え上がっていくさまに心打たれます「今、この瞬間を生きる」というふたりの情熱は、やがて周囲の人々の心までも動かし始めます

本作の見どころはなんと言っても、横浜流星と窪田正孝が臨んだリアルなボクシングシーンです。ふたりの磨き上げた鋼のような肉体に思わず魅入ってしまうことでしょう。

一流の空手家として知られる横浜は、ボクシングプロテストにも合格するまでに鍛え上げて本作に臨みました。以前にもボクサー役を演じている窪田とのファイトシーンは、演技の域を超えています。

クライマックスのファイトシーンを見つめる人々の思いが交錯するさまも、大きな見どころです。

広岡の仲間の佐瀬と次郎、そして元所属ジムを引き継いだ令子の真剣な眼差し。翔吾が誰よりも大切にしている母・和美に寄り添い、彼女の勤め先のガソリンスタンドのテレビで一緒に応援する広岡の姪の佳菜子。

危険を顧みずにまっしぐらに突き進んでいく師弟の姿を、心配と恐怖の入り交じった感情で見つめていた人々が、やがて大きな感動に包まれていきます

男同士の熱い友情


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

いくつもの男同士の熱い友情にも胸打たれる一作です。

40年ぶりに帰国した広岡がまずしたのは、昔仲間だった佐瀬と次郎に会うことでした。心臓に病を持っている広岡は、年老いた友人たちの今後のことを心から心配し、手を差し伸べようとします。左瀬はそんな広岡と愛弟子の翔吾に最後まで寄り添い、次郎は広岡の手を振り払いながらも温かな友情でつながり続けます。

今を力一杯生きたいと熱い思いを語る翔吾に、広岡はいつしか自分の夢を託すようになり、共にチャンピオンを目指して戦い始めます。失明の危機に陥った翔吾を案じて棄権させようとするものの、翔吾のチャンピオンへの熱い思いを誰よりもわかっていた広岡は、翔吾をリングに送り出す決心をするのです。

将来を思って相手の体を案じるべきか、今目の前の夢をつかむチャンスを与えるべきか。その選択は本当に難しいものです。後者を広岡が選んだのは、翔吾の本当の願いを広岡が痛いほど理解していたからに他なりません。

リングで戦った男たちの間に芽生える友情も確かなものでした。翔吾と大塚、翔吾と中西が試合後に互いを称え合い、血まみれで抱き合う姿に感動せずにはいられません。拳を交えた者同士だからこそ理解し合える世界が確かにあることを教えられます。

まとめ


(C)2023映画「春に散る」製作委員会

豪華俳優が集結した感動のボクシングヒューマンドラマ『春に散る』

男の世界の物語の中で、橋本環奈演じる佳菜子が光ります。彼女は男たちを支える側としてだけではなく、自らも人生と戦う女性として存在しています。

翔吾の試合に駆けつけず、翔吾が誰よりも愛する彼の母に寄り添ってテレビで応援する姿に、佳菜子の精神性が表れているといえるでしょう。

大きな傷を負った翔吾ですが、佳菜子という新たな人生の伴走者を得て、再び力一杯走り出せるに違いありません。



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