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Entry 2024/02/26
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【上西雄大監督インタビュー:後編】『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』での過去と今の時を超えた出会い×時代が変わっても“人間の変わらないもの”を描く

  • Writer :
  • 河合のび

映画『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』は2024年2月16日(金)なんばパークスシネマにて大阪先行公開、3月1日(金)シネ・リーブル池袋ほかで全国順次公開!

沖縄県・宮古島の小さなヴィラを舞台に、人々の絆と再生を描いた人間ドラマ『宮古島物語ふたたヴィラ』の続編となるシリーズ第2作『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』。

俳優であり実業家の柴山勝也と、シリーズ前作を手がけた上西雄大監督が主演を務め、古川藍、徳竹未夏、ルビー・モレノ、松原智恵子が前作から続投。さらに賀集利樹、奈美悦子、村田雄浩、笹野高史らが新たに顔を揃えました。


(C)藤咲千明/Cinemarche

今回の劇場公開を記念し、映画『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』を手がけた上西雄大監督へのインタビューを、前後編にわたって掲載

前編記事に続き、後編記事では創作の現場における「役者」の視点、これからも変わらない映画が生み出す「再会」、シリーズ第2作の撮影現場で得られた過去と今の出会いなどを語ってくださいました。

【上西雄大監督インタビュー記事《前編》はコチラ→】

役者として書き上げた脚本は役者へ


(C)Yudai Uenishi

──映画監督・舞台演出家・脚本家・そして役者として活躍されている上西監督ですが、創作の現場では常にどのような視点で作品制作に向き合われているのでしょうか。

上西雄大監督(以下、上西):僕は元々役者として今の活動を始めているので、映画や舞台などの作品を観る視点は、いつも監督というよりも「役者」なんです。

その上で脚本も執筆しているため、自分は「この登場人物は、自身のこういった感情をこの言葉につなげている」「そうやって自身の想いをつなげた言葉を、他者に向けている」と考えながら書き進めています。

そしてキャストの皆さんは、同じ役者である自分が脚本に記した意図をその内に落とし込んだ後に、新たなものを生み出していってくれる。『再会ぬ海』の撮影現場で監督として、共演者として見せてもらえたものは、今回出演してくださった方々の高い力量だからこそ、見ることのできたものだと感じています。

僕が脚本の中に3色ほど埋めていた余白が、実際に役者の皆さんが演じられる際には30色以上はすでに埋められている。演技における色彩を、自分の想像をはるかに超える解像度で応えてくださるので、それをいかに受け取り・返すのかを現場では続けました。

映画が生み出す「再会」は変わらない


(C)Yudai Uenishi

──第1作・第2作と「再会」の物語を描き続けてきた本シリーズですが、映画しかり舞台しかり、多くの芸術作品は「再会」あるいは「再会の“再現”」を描き続けているといえます。

上西:僕もこうやって映画を制作する機会をいただく中で、「宮古島物語ふたたヴィラ」シリーズのように真っすぐ「再会」という出会いについて描くこともあれば、そうではない形で描くこともあります。

ただ僕個人の「再会」に触れるとしたら、かつて奇跡的に出会うことができたけれど、今では様々な理由で会えなくなってしまった人たちが、僕が制作した映画をどこかで受け取ってくれて「映画、観たよ」と連絡してくれるという状況が、何よりも救いだと感じています。

小学校の頃、僕は本当に映画が好きで、毎週地元の映画館へ通っていたんです。オールナイト上映の存在を知ってからは、親には内緒で何本も映画をハシゴで観るようになったんですが、それを一緒に楽しんでいたのが当時の友人でした。

ただ、彼にも不幸な境遇があったことからその後転校してしまい、お互いにいつも映画の話ばかりしていた相手だったんですが、疎遠になってしまいました。ところが僕が監督した映画を劇場で公開するようになってから、思いがけず再会することができた。今回の『再会ぬ海』も、どこかで観てくれるんじゃないかと信じています。

僕らが子どもの頃の映画館は、とても大きな存在でした。時は経って、映画をスマホで観てもらえる時代がすでに成立していますが、映画を観ることで生み出せる出会い、そして「再会」そのものは決して変わらないんじゃないでしょうか。

名優と盟友、過去と今を超えた出会い


(C)Yudai Uenishi

──上西監督はシリーズ第1作の物語・設定を着想できた理由について、前編記事で「宮古島での思いがけない再会」を語ってくださいましたが、第2作『再会ぬ海』の制作過程ではどのような再会が得られたのでしょうか。

上西:僕は『月はどっちに出ている』(1993)という映画の、特にコニー役のルビー・モレノさんがとても好きなんです。

本シリーズでルビーさん演じるジェニファーが「もうかりまっか?」と口にするのも、僕がルビーさんにお願いして快く引き受けてくださった結果のオマージュなんです。

ジェニファーの娘である陽葵を演じる古川藍と、貴吉の内縁の妻だった優実を演じる徳竹未夏を相手に、ルビーさんが『月はどっちに出ている』の時のコニーのように勢いよくジェニファーを演じてくれている。「“あの時”のルビーさんに再会できた」と思えました。

またルビーさんと共演した古川と徳竹は、僕にとっては劇団「10ANTS」での苦楽をともに旅し続けてきた盟友たちなんです。

そんな二人が撮影現場で、僕の長年憧れてきた「“あの時”のルビーさん」と出会っている。過去と今、時を超えた出会いの瞬間に立ち会えたような感覚にゾクゾクしましたし、それを作品を通じて残せることへ本当に幸せを感じました。

人間の「変わりようのないもの」を描く


(C)藤咲千明/Cinemarche

──完成した映画を改めてご覧になった際には、どのような気づきや学びがありましたか。

上西:一作ごとに撮影現場で気づくこと、完成した作品を観た後に反省したことで得るものなど、学びはどの作品においても多々あります。『再会ぬ海』もそれまでの学びを多く盛り込めた作品である一方で、だからこそより反省すべき点に気づけた作品でもあるんです。

同じ地点にいようとせず、上り坂を上がり続けようとするのは、どうしてもしんどいです。ですが上り坂を上がり続けることで、人はようやく次のステージに行けますから、やっぱり「進むなら“上り坂”を」の想いでこれからも映画制作を続けたいです。

──以前の映画『ひとくず』劇場公開時のインタビューにて、上西監督は「“人間”を描き続けたい」と語られていました。それは、これからも変わらないのでしょうか。

上西:僕らが子どもだった頃に比べると、今の社会は本当に様々な情報を容易に入手できる、だからこそ子どもがすぐに「大人にならされる」時代だと感じています。

僕が描こうとし続けている「人間」というものは、あくまで自分という人が見聞きし感じとった「人間」の姿に過ぎません。そして僕がこの先も生きていく中で、自分は全く異なる時代を生き育ってきた人を描く時、果たしてその人間にどんな想いを見るのかは、今後とても気になっている点でもあります。

ただ、いずれにしろ大事なものは変わらないのではとも感じています。親子の愛情や友情などは、たとえ世代や時代が変わっても、人間の根底からは絶対に外れない。そういった人間の変わりようのないものは、どんな形の作品でも必ず描くべきじゃないかと思っています。

インタビュー/河合のび
撮影/藤咲千明

【上西雄大監督インタビュー記事《前編》はコチラ→】

上西雄大監督プロフィール

1964年生まれ、大阪府出身。俳優・脚本家・映画監督・劇団「10ANTS」代表。2012年に10ANTSを旗揚げ後、関西の舞台を中心に活動を開始。

他劇団への脚本依頼を受けたのを機に、現在では劇映画・Vシネマ「コンフリクト」「日本極道戦争」シリーズの脚本なども手がける。そして2012年、短編オムニバス映画『10匹の蟻』より映画製作を始めた。

自身が主演も務めた監督・脚本作『ひとくず』(2020)はミラノ国際映画祭での最優秀作品賞・最優秀男優賞など多数の海外映画祭で受賞。その後も『ねばぎば 新世界』(2021)『西成ゴローの四億円』(2022)『宮古島物語ふたたヴィラ』(2023)『ヌーのコインロッカーは使用禁止』(2023)など多くの映画を監督する。

2024年2月・3月からは『宮古島物語ふたたヴィラ』の続編となる『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』が公開されるほか、『うさぎのおやこ』が同年春に公開を予定している。

映画『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』の作品情報

【公開】
2024年(日本映画)

【監督・脚本・プロデューサー】
上西雄大

【エグゼクティブプロデューサー】
柴山勝也

【キャスト】
柴山勝也、上西雄大、古川藍、徳竹未夏、賀集利樹、筒井巧、優木千央、ルビー・モレノ、春田純一、佐々木勝彦、奈美悦子、村田雄浩、笹野高史、松原智恵子

【作品概要】
沖縄県・宮古島の小さなヴィラを舞台に、人々の絆と再生を描いた人間ドラマ『宮古島物語ふたたヴィラ』の続編となる第2作。2023年のマドリード国際映画祭では、最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(上西雄大)のW受賞を果たした。

主演は柴山勝也と、本作の監督・脚本を務めた上西雄大。前作から古川藍、徳竹未夏、ルビー・モレノ、松原智恵子が続投で出演する他、新たなキャストとして賀集利樹、奈美悦子、村田雄浩、笹野高史ら豪華俳優陣が顔を揃えた。

映画『宮古島物語ふたたヴィラ 再会ぬ海』のあらすじ


(C)Yudai Uenishi

大阪から宮古島にやって来た不動産業の碧海貴吉が建設した小さなヴィラ、ふたたヴィラ。そこは泊まれば心から願う再会をかなえてくれると言われ、様々な人が訪れるようになる。

その後、島ではかんかかりゃ(神様)と呼ばれるようになった貴吉の死により、ふたたヴィラを継承した娘・陽葵は父の意思を引き継ぎ、人々に再会と救いをもたらすために宮古島に身を置くことに。

再会をもたらすふたたヴィラによって様々な家族の絡み合った糸がほどかれ、再び愛情を取り戻していく……。

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche





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