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Entry 2021/03/29
Update

【奥原浩志監督インタビュー】『ホテル・アイリス』映画制作を行うイマジネーションに“国境”という隔たりはない

  • Writer :
  • 西川ちょり

大阪アジアン映画祭2021・コンペティション部門正式エントリー作品
『ホテル・アイリス』2022年劇場公開予定

エロティシズム溢れる小川洋子の同名小説を奥原浩志監督が映画化した『ホテル・アイリス』が第16回大阪アジアン映画祭にて世界初上映されました。

寂れた海沿いのリゾート地で母親が営む「ホテル・アイリス」を手伝う少女マリに台湾の新人女優ルシア(陸夏)、彼女と衝撃的な出会いをする中年男性に永瀬正敏が扮し、2人の禁断の愛が描かれます。

台湾の金門島でオールロケを敢行し、台湾からリー・カンション(李康生)やマー・ジーシアン(馬志翔)らも参加。現実か夢想か、今か過去か、煙を巻くような奇妙で謎めいた世界が展開します。


(C)長谷工作室

大阪アジアン映画祭で来阪された奥原浩志監督にインタビューを敢行

『ホテル・アイリス』の原作者小川洋子との映画化に至るやり取り、また主演の永瀬正敏を起用した思い。そして国境を超えて映画を制作し続ける思いなど、貴重なお話しを伺いました。

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金門島で出会った「ホテル・アイリス」


(C)長谷工作室

──まず、映画『ホテル・アイリス』の製作の経緯を教えていただけますか。

奥原浩志監督(以下、奥原):もともと「官能もので原作があるもの」という縛りのプロジェクトの依頼が来たのが始まりです。

そこですぐに小川洋子さんの小説『ホテル・アイリス』が思い浮かんだんですね。そのあと、企画自体は立ち消えてしまったのですが、台湾の金門島に旅行に行って民宿に泊まった際、「ここがアイリスだ」って感じたんです。

そこからまた自分で一から企画を練り始めました。あの「ホテル・アイリス」となった民宿に出会っていなければ、この映画は生まれていなかったと思います。

2012年の奥原浩志監督作品『黒四角』


(C)2012 Black Square Film Gootime Cultural Communication Co.,Ltd

──奥原監督は、前作『黒四角』で北京、今回は台湾・金門島と日本を離れて映画を撮られています。

奥原:『黒四角』を撮った時は俳優の中泉英雄と何かやろうということで中国・北京を舞台にして撮影したのですが、その時に思ったのは、映画を撮ること自体はどこの国でもやることは同じだということです。

自信と言いますか、どこで撮っても同じじゃないかという覚悟は出来ましたね。

小川洋子の世界を映像化するということ


(C)長谷工作室

──小川洋子さんの原作を映画化するにあたってどのようなアプローチをとられたのでしょうか。

奥原 : 原作者の小川洋子さんに一度脚本を読んでいただいたのですが、懇切丁寧なお返事をメールでいただいて、いろいろご指摘を受けました。どれも納得出来るもので、今思うとそれがよかったんですね。それでもう一回改めて原作に向き合ったんです。

いろいろと考えていく中で原作がお守りというか、バイブルのような存在になっていきました。撮影中も迷いがあると、救いの言葉がどこかに書いてあるんじゃないかと原作に戻るというのを繰り返していました。

──非常に不思議な物語で、登場人物も生きているのか、死んでいるのか、わからなかったり、不在の人たちが重要な位置を占めていたりもします。「小川洋子の世界」をどのように描こうとされたのでしょうか。

奥原:小川洋子という作家の特徴だと思うんですけど、すごい簡潔な言葉で、普通に起こったこと、思ったことが書かれているのに、読めば読むほど、疑わしく、謎が深まってくるんです。

例えばこの男は自分を翻訳家だと言っていますが、本当に翻訳家なのか、そう言っているだけじゃないのか、そもそもこの人たちは本当に存在するのだろうか、そういうことを考えさせる。だからこそこの作品を選んだと言えるのですが、映像化するにあたって、原作の解釈や説明を加えるのはまったく意味がないことで、そのまま映画に写し込んでいきたいという想いで撮りました。

小川洋子さんは小説を書く動機になった作品に『アンネの日記』をあげておられます。『ホテル・アイリス』に限らず小川さんの作品には不条理で、理不尽な、何か見えない力によって閉じ込められている少女というモチーフがあるんですね。映画化する時に、そのイメージを結構使わせてもらいました。

アンネ・フランクも屋根裏部屋に身をおきながら架空の友だちに日記を書いていて、それによって自分を保ち続けている。彼女がイメージして書いている日記が虚構で外の世界が事実なのかというと、彼女にとってはどちらも真実ですよね。そのような映画を撮ったつもりです。

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スタッフとの共作を楽しむ


(C)長谷工作室

──ロケ地になった金門島自体が非常に雰囲気のある場所なのですが、その切り取り方が鮮やかで、より魅惑的な世界として観る者に迫ってきます。カメラがパンしていったり、俯瞰で撮っているシーンも多いですね。

奥原:今回、ユー・ジンピン(余静萍)という台湾人のカメラマンと初めて組みました。

これまでの自分の作品は、カメラをじっくり据えて、フィックスで延々役者を撮っていくというスタイルでやってきたのですが、彼女は、もう少しカメラが動いて、カットで見せていくという映像を撮る方なので、せっかくなら彼女の良さを出そうとプランを立てました。

現場で作品を作っていくのは監督とカメラマンの共作という部分もあるじゃないですか。そういうのを楽しみたいなという意識はすごくありました。

彼女のことは以前から知っていて、もともとはフォトグラファーとして活躍していたんです。それが知らないうちに映画の撮影を始めていて今やとても人気のあるカメラマンです。デレク・ツァン(曾國祥)監督の『少年の君』(2019)も彼女の撮影です。

──永瀬正敏さん扮する男の部屋の内装など、美術面も素晴らしいですね。

奥原:美術は金勝浩一さんにお願いしました。金勝さんは日本から一人で来られて、助手は全員台湾人の若い子たちという勝手が違う中で、仕事量や負担は相当なものだったと思います。

予算が限られていることもあり、僕からの要求も無茶なものになりがちなところを見事にやってくださって、本当に頭が下がる思いです。作っていただいたものは全て画(え)に遺憾なく使わせてもらいました。

永瀬正敏との刺激的な現場


(C)長谷工作室

──最後にヒロイン・マリ役のルシア(陸夏)さんと永瀬正敏さんについてお話をきかせていただけますか

奥原:ルシア(陸夏)さんはオーディションで決めました。台湾の若い女優さんは、ドラマに出ていますという感じの可愛らしい方が多かったんですけど、陸夏さんはオーディションで入ってきた時に、映画女優っぽい雰囲気をすごく感じたんです。

肌の露出も結構ある役なので、台湾ではその条件で女優さんを探すのは難しかったのですが「演る」と言ってくれて、それと彼女は日常会話のコミュニケーションが取れるくらい日本語を話せるんですよ。勿論、あれだけの台詞量ですから相当練習もしてくれましたが。そういうこともあって彼女を選びました。

永瀬正敏さんに関してはこの映画の最初が金門島だったとしたらその次が永瀬さんだったんです。日本側のプロデューサーから「永瀬さんはどう?」と推薦されて、原作は「初老の男」となっているのでイメージとは違うのですが、「そういう『ホテル・アイリス』もあるかもしれない」といろいろ想像したんですね。

そうしたら永瀬さん以外考えられなくなってお願いすることにしました。撮影中は永瀬さんから意見、提案もいただき、非常に刺激的な体験でした。いろいろ学ぶことも多かったですね。

インタビュー/西川ちょり

奥原浩志監督プロフィール


(C)ReallyLikeFilms

1968年生まれ。『ピクニック』がPFFアワード1993で観客賞とキャスティング賞を、『砂漠の民カザック』がPFFアワード1994で録音賞を受賞。第9回PFFスカラシップ作品『タイムレス・メロディ』(2000)では釜山国際映画祭グランプリを受賞。その後『波』(2001)でロッテルダム国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受ける。

2012年、全編北京語による『黒四角』が第25回東京国際映画祭コンペティション部門に正式出品。

その他の作品によしもとよしともの漫画を映画化した『青い車』(2004)、『16[jyu-roku]』(2007)がある。

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映画『ホテル・アイリス』の作品情報

【日本公開】
2021年公開(日本、台湾合作映画)

【監督・脚本】
奥原浩志

【キャスト】
永瀬正敏、陸夏、菜葉菜、寛一郎、リー・カンション(李康生)、マー・ジーシアン(馬志翔)

【撮影】
ユー・ジンピン(余静萍)

【美術】
金勝浩一

【作品概要】
エロティシズム溢れる小川洋子の同名小説を奥原浩志監督が映画化。少女マリに、台湾の新人女優ルシア(陸夏)を抜擢。彼女と衝撃的な出会いをする中年男性に永瀬正敏が扮し、菜葉菜、寛一郎、リー・カンション(李康生)やマー・ジーシアン(馬志翔)らが脇を固めています。

台湾の金門島でオールロケを敢行し、嵐の夜に衝撃的な出会いをした男女の禁断の愛が描かれます。

映画『ホテル・アイリス』のあらすじ

ある寂れた海沿いのリゾート地。日本人の母親が経営している「ホテル・アイリス」を手伝っているマリは、ある嵐の夜、けたたましい女の悲鳴を聞き、体をこわばらせます。

階段の踊り場で赤いキャミソールを着た女の頬を男が平手打ちしているのが見えました。男は無言で階段を降りてくるとくしゃくしゃの紙幣をマリに手渡し、そのまま出ていきました。

町で買い物をしていたマリはあの時の男が歩いているのに気付き、後をつけます。孤島に渡ろうとしていた彼は振り向き、「なぜ後をつけるのですか?」と問うてきました。彼はホテルでの非道を詫び、「ひどい夜だった」とつぶやきました。

男は、ロシア文学の翻訳家で、小舟で少し渡った孤島に独りで暮らしていました。住人たちは、彼が過去に起きた殺人事件の真犯人ではないかと、まことしやかに噂していました。

また、マリ自身、台湾人の父親が不慮の事故死を遂げた過去を持ち、そのオブセッションから立ち直れずにいました。マリは男に激しく惹かれている自分を感じ、男と共に、彼の住む孤島へと向かいます。

男とマリの奇妙な巡り合わせは、2人の人生を大きく揺さぶっていきます。

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