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Entry 2021/04/02
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小森はるか+瀬尾夏美インタビュー|映画『二重のまち / 交代地のうたを編む』本の朗読と震災の記憶を通じての“継承のはじまり”

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『二重のまち /交代地のうたを編む』は2021年2月27日(土)よりのポレポレ東中野・東京都写真美術館ホールでの公開をはじめ、4月2日(金)より京都出町座、4月3日(土)より大阪シネ・ヌーヴォと新潟シネ・ウインド他にて全国順次公開!

映画『二重のまち /交代地のうたを編む』は、東日本大震災後のボランティアをきっかけに活動をはじめ、人々の記憶や記録を遠く未来へ受け渡す表現を続けてきたアーティスト「小森はるか+瀬尾夏美」によるプロジェクトから生まれました。

東日本大震災で津波に襲われたかつてのまちのことも、震災後に造られた新しいまちのことも知らない4人の若き「旅人」たち。2018年、「旅人」たちはワークショップに参加するために岩手県陸前高田市を訪れ、15日間を過ごしました。


Photo Fuda Naoshi

「旅人」たちは人々の話に耳を傾け、街を歩き、画家・作家の瀬尾夏美が綴った物語『二重のまち』を朗読。遠い場所からやって来た彼らが、他者の語りを聞き、伝え、語り直すという行為によってその土地の過去・現在・未来を架橋していく過程を繊細に描いていきます。

このたび小森はるか・瀬尾夏美両監督にインタビューを敢行。震災後の陸前高田で生まれる語りや風景を「継承」することへの思い、映画作中でのワークショップならびに「語り」という行為の意味など、たっぷりお話を伺いました。

小説『二重のまち』誕生の経緯


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──はじめに、瀬尾夏美さんが物語『二重のまち』を書かれた経緯を改めてお聞かせいただけますか。

瀬尾夏美監督(以下、瀬尾):『二重のまち』を書いたのは2015年、陸前高田で復興工事が盛んに行われていた頃でした。それまでは、被災した街の跡がまだ残っていて、そこで人々が花を手向けたり、壊れたものを片付けたりしながら、かつての街を想起し、思い出話をするような時間がありました。ですが、復興工事によってその跡が次々に埋められ、山もどんどん削られてゆき、街の人たちの多くは「まだこんなに失うことがあったのか」と感じるような“第二の喪失”に襲われた、つらい時間が訪れていたんです。

わたしもその頃は陸前高田に住んでいて、その風景自体が痛々しくて見ていられませんでした。全てが茶色に塗り潰され、過去も未来も寸断されたような風景に感じられたんです。そう感じた時に、物語によって、地下へと埋もれてしまう場所とこれからの時間をつなぐことは出来ないだろうかと考えて書いたのが『二重のまち』でした。

物語の時代設定である「2031年」は震災から20年後であり、ちょうどひとつの一世代が入れ変わる時期でもあります。2011年を知る人たちの中にはすでに亡くなっている方がいるかもしれないし、当時の子どもたちは親になっているかもしれない。そして震災の後に生まれた子どもたちも、自らの言葉で語れるほどにまで成長しています。

時間経過によるいろいろな変化を通じて、かつての街のことを誰もが知っているという前提が揺らいでいくような、すこし遠い未来にも、きっとこのまちの人たちは、「上と下はちゃんとつながっている」という実感を持ちながら暮らしているんじゃないかと想像して書きました。

物語から「継承」のワークショップ/映画へ


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──そのように誕生した物語『二重のまち』ですが、のちに実施されたワークショップならびに映画『二重のまち /交代地のうたを編む』とは、どのような過程を経てつながっていったのでしょうか。

瀬尾:様々な経緯が重なってはいるんですが、2016年から2017年にかけて、ダンサーの砂連尾理さんが『猿とモルターレ』という舞台公演を行われた際、『二重のまち』を戯曲のようにして舞台で取りあげてくださったんです。その舞台で、大阪の追手門学院高校の生徒たちが『二重のまち』の夏の章を身体で表現しているのを観て、「彼らが想像している風景というのは、実際の陸前高田で起きていたこととはすこし異なるかも知れないけれど、誠実に想像しようとする身体からは伝わってくるものがたくさんある」と強く感じられたんです。

その経験が、まちの人と遠くの土地からやってきた若い旅人が出会い、対話を重ね、風景を共有するための仮設的な場をつくる「二重のまち /交代地の歌を編む」のプロジェクトへとつながっていきました。そして、復興工事が進んで、すでに嵩上げ地の上に新しいまちが出来つつある2018年に陸前高田でそのワークショップをやることになったとき、「旅人」たちが過去を想起する際の補助的な役割を『二重のまち』が担えるのではないかと思い、この物語を組み込むことにしました。


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──「旅人」こと4人の若者は、オーディションで選ばれたとお聞きしました。

小森はるか監督(以下、小森):オーディション自体は「映像作品の出演者を募集する」という形で行いました。「震災当時高校生以下だった方」「震災との距離を抱えている方」「陸前高田で15日間過ごしてお話を聞いて、歩いて、『二重のまち』を朗読したいと思う方」というような条件で、演技経験は問いませんでした。

応募者の方にはスカイプ面談で動機などをお聞きし、『二重のまち』とは別の瀬尾が書いた作品を朗読してもらいました。瀬尾の書く文章は一人称語りなので、自然と「わたし」という人間の声を発するわけですが、「わたし」になりきり過ぎず、かといってただ文章を読み上げているのとは違う。自分の声なんだけれども、物語に書かれている人物を想像しながら読めるような、ゆらぎのある声で読んでくれた方たちを「旅人」に選びました。

「継承のはじまり」をバックアップする


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──「継承のはじまりの場を作る」というプロジェクト自体、とても画期的なものに感じられました。昨今では「当事者性」という言葉が注目され、「当事者以外は関わる資格がない」と断じる傾向が存在します。このプロジェクトは、そうした風潮を超えられる発想だなと感銘を受けました。

瀬尾:「当事者性」という言葉が東日本大震災以降あまりにも言われ過ぎて、まるで大きな問題のようになりすぎていると感じています。語っていい人、語ってはいけない人という風に人々が分断されてしまうのもそうですが、その「当事者性」をつきつめていくと、その中心は死者になるので、もう誰も語れなくなってしまうんですよね。もちろん被災地の中でも、その被災の経験はさまざまです。

そのような状態で時間が経っていくと、さらに誰も語れなくなってしまう。そもそも、「当事者」だけに「継承」という役割まで負わせるのは大変すぎる。一方で、その人たちだけが語っていいということになると、まるでその語りだけが正しいかのようになってしまい、誰も触れなくなってそれもそれで怖い。新しいまちが出来て以降とくに顕著になってきた気がしますが、陸前高田の人たちも暮らしが落ち着いてきて、日常の中で震災の話をする機会が減ってきているように思います。

一方で、被災地域とは離れたまちで、「当時は小学生だったけれど、今なら何かできるんじゃないか」「自分は被災地とは遠い場所に暮らしていて、何も出来ず申し訳なかったけれど、今ならやりたい」という風に感じている、震災当時小学生から高校生くらいだったような人たちに出会う機会が結構あったんです。

そういう両者が同時代を生きているというときに「継承のはじまり」の一番最初の部分をバックアップするような、そのためのメソッドを作ってみたいと考えたんです。

自らの思いを再認識し、自らの言葉で語ること


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──映画作中、旅人のみなさんがテキストを読まれる際に、前置きのような言葉をそれぞれ語られています。あれは旅人の方がご自身で考えられたものでしょうか。

瀬尾:ワークショップ中は毎日『二重のまち』を朗読する時間を設けていたんですが、その際に、「あなたが読む話がどんな話か、自分の言葉で語ってみてください」とお願いしていました。私は「内容の要約」みたいなものをイメージしていたんですが、とくに最初の方は誰もできなくて、なぜなんだろうと考えていました。

ワークショップの最後の3、4日は「語り直し」のワークショップを重ねていったんですが、その中で感じたのは、彼らが他者から聞いた話を語る時に、彼ら自身が自分について語ることが足りていないのかなという点でした。どういう立場で引き受けたいのか、自分がどういう経験を持っているからここが気になるのか、自分の内にある思いへの言語化が足りてなかったんです。

そのためワークショップの最後の頃は個人面談のような形で、「旅人」たち自身の「ふるさと」のことや、そこでの生活のことなどについて話を聞きました。一見ワークショップの大筋とは関係がないように感じられますが、話をする中で、「この話は自分にとってはこういう話だ」ということがだんだん見えてきて、「自分にとっては将来、おばあちゃんになった時のお話です」とか、「子どもからのお返事のようなお話です」などの言葉が出てきました。

それで、朗読の前の「語りだし」のテキストは、「旅人」たちとの会話の中で見えてきたものを私が要約し、それを再度本人とやり取りしながら仕上げていきました。


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──そのテキストを読む場面では、テキストを読む声が別の画面に重なる形で提示されています。また地元のおじいさんたちの前で読んでいる場面では、読み終えた「旅人」がホッと顔を上げた瞬間、画面が真っ暗になります。読み終えた後の風景を敢えて映さないようにされていますね。

小森:物語を朗読している時間が接続したままで終わりたかったんです。実際の現場はその後拍手が起こり、とても暖かな、その場自体の良さもあったのですが、映画の中で見せてしまうと発表会のように見えてしまうのではと感じられたんです。

基本的に『二重のまち』を朗読する声は、スタジオで収録した音声を使っていますが、最後は「旅人」の一人である三浦碧至さんが、陸前高田の人たちの前で朗読している場面で終わりたいという思いがあったので、その実際に収録された声を生かしつつ、読み終えたところで画面を切るという編集をしました。そうすることで、映画を観た方がテキストを聞いていた人々のこともより想像できれば、という思いもありました。

他者の声を聞き、反芻することの重要さ


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──瀬尾監督が思う「語り」において最も重要なこととは何でしょうか。

瀬尾:私が一番大事だと思っているのは、他者の声を聞くことです。そしてときには、自分の思い描いていた想像が裏切られるような体験をすることがとても大切だと感じています。

「被災者の方はこういうトーンで話すだろう」「つらいからこの話はしたくないだろう」とか、そんな様々なことを想像してしまいますが、実際に相対すると、意外とカラッとした声で話されたり、自分が予期していたものとまったく違うことがほとんどです。そうして何度も自分が勝手に膨らませていた想像が壊されながら、他者がまったく違う思考や世界の認識の仕方をしているという現実を実感することが大事だと思います。

自分の想像力が寧ろ弱いものであることに気づいたうえで、その予想外の返答に対して「じゃあ、なんでこの人はこういう思考・認識をしているんだろう」と反芻する力を身につけることが、聞き手として、そして語り手として、何よりも重要だと感じています。

「歩く旅人たち」が示すものとは


(C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

──映画作中では、「旅人」である4人の若い男女が街を歩く場面がたびたび映し出されます。歩く姿を撮ることに、特別な思いはあったのでしょうか。

小森:『二重のまち』を「旅人」たちが朗読する際に、そのお話がどういうイメージと結びついて映るのかを常に考えていました。その時に何となくですが、読んでいる人の顔ではなく、彼らの声や歩いている姿がいい気がしたんです。

また『二重のまち』の作中に登場する新しい公園や防潮堤といった風景は、2015年に作品が発表された段階ではまだ存在しなかったんですが、2018年時点では実際に街の中にある風景になっていました。だからこそ、物語の風景にも現実の風景にも見えるものとして、その場所を歩いている人々をまず撮りたかったんです。

そして、その「間」にあるものが映らないかという期待もありました。『二重のまち』の物語には「下の街」と行き来できる人々が登場するんですが、下には行けない代わりに、旅人たちが歩くことで「下の街」と「上の街」が横に繋がっていく風景を移動しながら撮影していこうと思いました。

──映画のエンディングでも、「旅人」の一人の坂井遥香さんが大阪の地を歩く場面が描かれています。その姿からは、彼女がどのような思いを胸にこの地を歩いているのだろうかと想像してしまいます。

小森:実はプロジェクトが終わった半年後、4人にもう一度集まってもらい、その後どう過ごしていたかを聞き合うワークショップを行ったんです。その時に坂井さんは「陸前高田のことを考えながら、大阪の街を歩いていました」「自分の体の中にもう一つ層が出来て、大阪の街もいつも見ていたものとは違うように見えるようになったり、日常的にも、人の話を聞くことが変わっていきました」と語ってくれたんです。

4人それぞれにそのような変化が訪れていたことが分かったので、15日間を終えて半年経った今も彼らの身体の中に「語り」が続いているんだということを、映像としてどのように見せればいいかと考えました。その結果、半年後に行ったワークショップの映像自体は敢えて用いずに、坂井さんが大阪を歩いている姿だけで映画を終わらせることにしたんです。

インタビュー/西川ちょり

「小森はるか+瀬尾夏美」プロフィール

2011年3月、ボランティアで沿岸地域を訪れたことをきっかけに活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年仙台にて、東北で活動する仲間とともに、記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人NOOK」を設立。

主な展覧会などに「3.11とアーティスト──進行形の記録」「Art action UK レジデンシープログラム」(2012)、「記録と想起 イメージの家を歩く」(2014)、「あたらしい地面/地底のうたを聴く」(2015年)、「波のした、土のうえ」(2015〜2018)、「遠い火|山の終戦」(2016〜2017)、「キオクのかたち/キロクのかたち」(2017)、「継承のしさく」(2019)、「東京スーダラ2019──希望のうたと舞いをつくる」「第12回恵比寿映像祭」「ことばのいばしょ」「聴く──共鳴する世界」(2020)など。

【小森はるかプロフィール】
映像作家。1989年生まれ、静岡県出身。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。長編ドキュメンタリー映画『息の跡』(2016)、『空に聞く』(2018)が劇場公開される。

【瀬尾夏美プロフィール】
画家・作家。1988年生まれ、東京都出身。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程油画専攻修了。著書に『あわいゆくころ──陸前高田、震災後を生きる』(2019)。『二重のまち/交代地のうた』(2021)。 文学ムック『ことばと vol.2』(2020)に小説『押入れは洞窟』を掲載。

映画『二重のまち / 交代地のうたを編む』の作品情報

【日本公開】
2021年公開(日本映画)

【監督】
小森はるか+瀬尾夏美

【撮影・編集】
小森はるか、福原悠介

【作中テキスト】
瀬尾夏美

【キャスト】
古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至

【作品概要】
東日本大震災後のボランティアをきっかけに活動を始めたアーティスト「小森はるか+瀬尾夏美」のプロジェクトから生まれたドキュメンタリー作品。

陸前高田を拠点とするワークショップに集まった4人の若者たちはまちの人の声に耳を傾け、まちを歩き、瀬尾夏美によるテキストを朗読する。他者の語りを聞き、伝え、語り直すという行為の丁寧な反復の先に、奇跡のような瞬間が立ち現れる。

映画『二重のまち /交代地のうたを編む』のあらすじ

2018年、岩手県陸前高田市に集まった4人の若者たち。彼らは東日本大震災で津波に襲われたかつてのまちのことも、震災後に造られた新しいまちのことも知らない「旅人」です。

15日間の滞在の中で、「旅人」たちは、人々の話に耳を傾け、街を歩き、『二重のまち』を朗読します。『二重のまち』とは、かつてのまちの営みを思いながらあたらしいまちで暮らす2031年の人々の姿を、画家で作家の瀬尾夏美が想像して描いた物語です。

距離的にも時間的にも遠い場所からやって来た「旅人」たちは、他者の語りを聞き、伝え、語り直すという行為によって、時に思い悩みながらも、その土地の過去・現在・未来を架橋していこうとします。




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