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Entry 2021/05/07
Update

【大窪晶インタビュー】『ANOTHER』如月小春の戯曲×配信上演を通じて東京の片隅で吠える僕たちを面白がってほしい

  • Writer :
  • 咲田真菜

演劇ユニットLABO!公演「LABO! volume16『ANOTHER』」は2021年近日にて配信公演予定!

1980年~90年代に活躍し、2000年に44歳という若さでこの世を去った劇作家・如月小春が20代前半で書いた戯曲『ANOTHER』。

劇作家・如月小春没後20年に際し、如月演劇の魅力を広く深く伝えるため立ち上げられた「2020如月小春プロジェクト」の一つとして上演予定でしたが、3回目の緊急事態宣言の影響により急遽配信での上演が決定されました。


(C)Cinemarche

今回、配信にて上演されるLABO!公演『ANOTHER』で主役を演じる俳優・大窪晶さんにインタビューを敢行。如月が描く独特の世界観で演じる難しさ、意気込みについて語ってくださいました。

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公演延期により主演へと抜擢

(C)Cinemarche

──本作は「2020如月小春プロジェクト」の一つとして2020年4月に上演される予定でした。しかし公演が延期となったことで、新たな主演として大窪さんが抜擢されました。

大窪晶(以下、大窪):2021年の1月中旬頃、学生時代から如月小春さんと「劇団綺畸(きき)」で活動し、現在は演劇ユニット「LABO!」を主宰している瀧川真澄さんから出演依頼をいただきました。

ちょうどその頃、僕は劇団 THEATRE MOMEMTSの舞台『楢山節考』で辰平を演じている最中でした。『ANOTHER』がとてつもない作品だということも知っていましたから、早く台本を読み込みたかったのですが、辰平という役も大変な役でしたし、その時は『楢山節考』に専念する必要がありました。公演が終わった3月になってようやく台本を読み始めて「参った……」と(笑)。

──主演として座組に加わることになり、プレッシャーもあったのではないでしょうか?

大窪:2020年4月の公演延期に伴い、僕の他にも2名が新たなメンバーとして加わりましたが、ほとんどのメンバーはすでに1年間の稽古を積んできていました。

2020年3月の第1回目の緊急事態宣言で上演できなくなり、その失意は相当のものだったので、座組としての団結の強さを感じました。キャストは、ずっと如月さんと芝居をしてきた方たちもいれば、若い学生たちもいます。そうした雰囲気の中に主演として入っていくことへのプレッシャーは少なからずありました。

ただオファーをしてくださった瀧川さんとは、とあるワークショップでご一緒させていただいたことがあったことにくわえ、以前別作品の出演オファーをいただいた時にスケジュールが合わずお断りしたという経緯がありました。

ですから今度、もし瀧川さんが声をかけてくださったら「やろう」と決めていましたし、僕が演じるのは重要な役どころですから、改めて頑張らなくては……と思いました。

役を“消化”するのではなく“表出”する


稽古場風景:撮影/片桐久文

──先ほどおっしゃった通り、大窪さんが演じられる「くすりや」と「俺」は物語において独特の立ち位置に存在し、非常に重要な役どころですね。

大窪:「俺」はこの物語が生まれるきっかけを作る役。「くすりや」は“夢”を売る、いわば“都市”そのもののような役です。まわりを翻弄したり、引きこませたり、他の役と交わらない存在なので確かに独特ですが、僕の役は他の役でもあるので、稽古では他の役を演じる役者が何を出しているかをとにかく浴びて、どんなことが起きているのか、何が生まれているのかを体感しようと肝に銘じて稽古しています。

この作品の舞台は東京・杉並区です。僕は杉並区の出身ですから、時代が違うとはいえ、セリフの一言一言が、自分の中のルーツに触れているような気がしています。物語の中では杉並区を“月並区”と呼んでいるのですが、「もっともだな」と思いました。それとこれは戯曲の言葉ではありませんが、如月さん自身もかつて杉並区に住んでいて自身の居る場所、心の様子を“辺境”という言葉で表現されており、そういうニュアンスや感覚がとても自分の中でフィットしました。

でもいざ演じてみると、如月さんの言葉はすさまじく、展開もめまぐるしいし、話している趣旨が入れ替わることもあります。表面的な表現では太刀打ちできないので、自分の中にいろいろな層を持ち、さまざまな瞬間に違う層が出てくるように演じないと難しいと感じられました。

役を自分の中で消化できるかどうかは、正直役者としてどうでもいいことだと思っていて、僕はそれを表出することに意味があると考えています。僕が杉並区の風景を見て育ってきたということを頼りに、自分の中で整理がつかなくても、どんどん表現にトライしていこうと考えました。

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突如発見された如月小春の「構想ノオト」


稽古場風景:撮影/片桐久文

──本作は執筆当時24歳だった如月さんが、何を書けばいいのか悩んでいた時期に生み出した作品ですね。24歳が書いたとは思えない非凡さを見せつけられた気がしました。

大窪:僕は如月さんを直接存じ上げないし、台本を読んで想像するしかないのですが、自分が何者かということを含めて、常に存在意義を自問自答していた方なのかなと感じています。如月さんは“都市”と“個”を同一化し、常に意識を内外に向けてビビッドなアンテナを持ちながら、世の中で何が起きているのかをいろいろ考えて自身に繋げていた方だと想像しています。

実はひょんなことから、如月さんがこの作品のために「構想ノオト」というものを書いていたことが分かったんです。昨年の12月、瀧川さんが実家の掃除をしていたら偶然に見つかって、演出の堀内仁さんと読み返したら、すごいことが書いてあって……。これが発見されたことで、昨年上演するはずだった本作のつくりを改めて見直す必要が出てきたと聞きました。

構想ノオトには本作の構想は基より、「芝居とはこうである」「演劇とはこうである」という既成概念を持って芝居をすることの狭さ、私たちがやりたいのはそういうことではない……ということが書いてありました。如月さん自身が何を書きたいのか、何を思ってこれを書いたのかということを役者やスタッフに共有し、生活をしてほしいと思っていたようです。

──物語の中で、大窪さん演じるくすりやが口にする「きっと超えていけます。これしきの壁じゃありませんか」というセリフがとても印象的です。このセリフに込められた想いを、大窪さんご自身はどのように捉えられたのでしょうか?

大窪:僕はいろいろな意味合いが含まれているセリフだと思っていて、想いは一つに絞っていませんし、絞る必要もないと感じています。台本を読めば読むほど新しい発見が出てきますし、他の役の言動を見ていて、ハッと気づくところがあります。

どんな“壁”なのか、具体的に意味があるとは思うのですが、そんなものはちっぽけなもののような気がしています。たとえば都市を描いてきた如月さんの作品が、緊急事態宣言で都市により封鎖され上演できなくなった皮肉のような想いも今は強くなってきました。

世の中にはいろいろな壁を持って生きている人たちであふれていると思います。そうした人たちに響くセリフであればいいなと思っています。ただこのセリフを言うのが、どこか胡散臭いくすりやなのがミソでもあります。何しろ如月さんの戯曲はトリッキーなので、この言葉をくすりやに言わせるということに、勧善懲悪ではない何かが含まれている。そんな点も面白いところです。

“学びの心”から足を踏み入れた役者業

(C)Cinemarche

──大窪さんが俳優を志したのは、いつですか?

大窪:20歳ぐらいですね。その頃はなぜ勉強をしなければいけないのか、なぜ生きているのかも分からなかったのですが、映画だけは好きでした。また映画照明に興味があったので、そのことについて勉強したいとも思ったのですが、当時は映画照明を専門に教えてくれる場所が見つけられませんでしたし、技術スタッフの雇用もありませんでした。

ですが、せっかく自分の中で火がついた「やってみたい」という想いを大切にしたいと感じ、映画がダメなら演劇で、舞台照明を勉強してみようと思いました。そうした中で、自分で舞台に立ってみなければ照明のことは分からないと思うようになったんです。

その時、演劇を通してコミュニケーションを考えようという「コミュニケーション・ラボ21」という団体に参加して、役者のようなことをやってみました。そこで初めて自分が生きていることを感じられ「もっと役者を勉強してみたい」と考え始めました。そして学ぶならどこだろうと思った時に、岸田今日子さんや現在の代表である橋爪功さんといったものすごい方たちがいる「演劇集団円」を知り、研究所へと入りました。

──2021年現在、大窪さんが目標とされていることとは何でしょうか?

大窪:僕には「芝居はこうあるべきだ」「演劇はこうあるべきだ」……といったこだわりはありません。おこがましいかもしれませんが、だからこそ如月さんの芝居に対する考え方にとてもシンパシーを感じています。

時々「あなたはどんな役者ですか?」と聞かれることがありますが、それは僕が決めることではなくて、芝居を観るお客さんや僕を選んでくださる方が決めることです。「役者・大窪晶」というものについて、実は僕の中に存在意義はないのです。

ですが、「大窪晶」としての目論見はあります(笑)。数年前、演劇集団円にピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団出身の振付家ファビアン・プリオヴィル氏を招き、演劇でもダンスでもない『DOUBLE TOMORROW』という公演をしました。その公演のように、境界線がない作品に自分は憧れがあります。今回の作品にある「超えられます。きっと超えていけます」というセリフじゃないですが、ある壁や線引きをどうにか超える手立てはないだろうかと日々考えている。もしかすると、どんどん時代が先にいってしまうから、それに追いつこうとしているのかもしれません。

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“配信”として上演できる奇跡

(C)Cinemarche

──『ANOTHER』の配信公演が決定された時、大窪さんはどのように感じられましたか?

大窪:僕は、正直に言うと「この作品は配信で表現しきれないのではないか」と感じていました。演劇の半分はお客さんが作ってくれるものですから、お客さんがいない中、どれだけのものが伝わるのかの確証が持てなかったのです。

3回目の緊急事態宣言が発令され、劇場の閉鎖が決まった日、キャスト・スタッフ全員で議論していく中でいろいろな意見が交わされました。その中で、最年少である19歳の大学生が言った言葉がとても刺さりました。彼女は「私は一番年下だし、先輩方の言っていることに従うしかない。何か言いたくてもうまく言葉が見つからない。けれども、そんな簡単に済む芝居ではないんじゃないんですか」と涙を流しながら言ったのです。彼女の言葉を聞いた時に、奇跡的に配信公演だけでもできるのは稀有なことだと気づかされました。

ひょっとしたら意気込む気持ちばかりが先に立ってしまうかもしれません。ですが配信を通じて、お客さんに何か感じてもらえるものがあるのではないかと思います。

──最後に、改めて『ANOTER』の見どころをお聞かせ願えますか?

大窪:この作品は、今の時代に響くものです。何かを我慢したり、負けそうになっていたりする方たちにぜひ観てもらいたいです。そして「どこに見どころがあるのかを見つけてほしい」という点こそが、この作品の見どころです。エンターテインメントが散りばめられていて、表層の下にとても重要なものが多層にわたってあるので、さまざまな見方ができると思います。

この公演は、2020年の最初の緊急事態宣言で延期となり、満を持して2回目に挑んだら再び緊急事態宣言によって上演できなくなりました。この悔しい想いは、計り知れないものがあります。なんとか一縷の望みをもって「都市」に向かって叫ぶ芝居、そしてそのエネルギーは映像でも伝えられると思います。東京の片隅で「ANOTHER」を求めて吠えている人たちがいるということを、一緒に面白がってくれればうれしいです。

インタビュー・撮影/咲田真菜

大窪晶プロフィール

1975年生まれ、東京都出身。演劇集団円、俳優部所属。
2015年にピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団出身のダンサー達 と共に製作した『SOMAプロジェクト』の出演を果たし、日本・ドイツ公演に参加。2017年には舞台『後ろの正面だあれ』 (作 別役実)に出演、『DOUBLE TOMORROW』(吉祥寺シアター/作・演出ファビアン・プリオヴィル)では企画・出演。

最近では、短編連続映画『ANTI JAPONISM』(2020年、監督・脚本 荻颯太郎)にて企画・主演。舞台『楢山節考』(2021年、演出 佐川大輔)では辰平役で出演。

今後の出演作は三野龍一監督作品・映画『鬼が笑う』(2021年公開予定)、演劇集団円公演『夏の夜の夢』(2021年10月公演)など。
その他に、舞台『孤独から一番遠い場所』(作 鄭義信・演出 森新太郎)、舞台『夏の方舟』(作・演出 東憲司)、『こころ』(NHK)、『こちら本池上署』(TBS)、『坂の上の雲』 (NHK)、『ギフト』(CX)、『LADY』(TBS)、『ブラックボード』(TBS)などに出演。

「LABO! volume16『ANOTHER』」の作品情報

【配信】
2021年6月予定

【脚本】
如月小春

【演出】
堀内仁

【照明・舞台監督】
伊倉広徳

【音楽・演奏】
Darie・近藤達郎

【キャスト】
瀧川真澄・大窪晶・甲斐智堯・中村優子・高木愛香・牧野隆二・栗山辰徳・西尾早智子・小池亮介・吉田真優・伊木哲朗・高橋真紀・五木田美空・尾崎真生・阿部真澄・片桐久文

【作品概要】

劇作家・如月小春の初期戯曲(1981)であり、圧倒的な都市社会の中で絶望的なまでに〈つながり〉を断たれている匿名の〈個〉たちが、あがき、苦しみ、限界の壁を超えようとさまよう群衆劇。

劇作家・如月小春没後20年に際し、如月演劇の魅力を広く深く伝えるため立ち上げられた「2020如月小春プロジェクト」の一つとして上演予定でしたが、3回目の緊急事態宣言の影響により配信での上演が決定されました。

演劇ユニットLABO!公演・「LABO! volume16『ANOTHER』」は2021年近日にて配信公演予定!

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