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【ネタバレ】ファースト・カウ|あらすじ感想と結末の評価解説。ドーナツ販売の成功がアメリカンドリームに繋がる

  • Writer :
  • からさわゆみこ

西部開拓時代の“アメリカン・ドリーム”を
夢見た2人の男の友情物語

今回ご紹介するケリー・ライカート監督の映画『ファースト・カウ』は、第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門にてノミネートされ、ニューヨーク批評家協会賞(NYFCC)では作品賞を受賞しました。

物語の舞台は1820年代のアメリカ西部開拓時代のオレゴン。料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルーは、共に成功を夢見てアメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきました。

偶然出会った2人は叶えたい夢を語り合い、この地に初めてきた“富の象徴”である、一頭の乳牛からミルクを盗み、作ったドーナツで夢への足がかりを狙う計画を思いつくのですが……。

映画『ファースト・カウ』の作品情報

(C) 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【公開】
2021年(アメリカ映画)

【監督】
ケリー・ライカート

【脚本】
ジョナサン・レイモンド、ケリー・ライカート

【原題】
First Cow

【キャスト】
ジョン・マガロ、オリオン・リー、トビー・ジョーンズ、ユエン・ブレムナー、スコット・シェパード、ゲイリー・ファーマー、リリー・グラッドストーン

【作品概要】
現代アメリカ映画の最重要作家と評され、最も高い評価を受ける監督のひとり、ケリー・ライカート監督の長編7作目となる『ファースト・カウ』は、世界の映画祭で公開されると157部門にノミネートされ、27部門で受賞を果たします。

原作者のジョナサン・レイモンドはライカート作品の脚本を手掛け、本作でも小説『The Half-Life』から着想され、監督と共に脚本を手掛け制作されました。

クッキー役には『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016)のジョン・マガロが務め、原作にはいないルー役は選考基準が曖昧ないため、苦慮した末にオリオン・リーに決定します。

映画『ファースト・カウ』のあらすじとネタバレ

(C) 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

大きな運搬船がゆっくり通航する河川の近く、手つかずの自然が残る森の中で、一匹の犬が地面を嗅ぎながらさまよっています。

近くにはひとりの女性がいて、犬の名前を呼びながら戻るよう捜します。犬はある場所を執拗に嗅ぎ、土を掘り始めました。

そこに女性がやってきて犬が掘っていた地面を見ると、地面から少し出ていた丸みを帯びた乳白色の物をみつけます。それは一見して何かの骨の一部だとわかりました。

女性は慎重に手で土を掘り埋まっていた頭蓋骨を発見します。さらに掘り進めていくと、それほど深くない地中から、横たわるように並んだ2体の遺骨が出てきました。

1820年代のアメリカでは手つかずの未知の資源を求め、多くの入植者が海を渡って来ていました。

フィゴウィッツ(クッキー)もその1人です。彼は森の中で食用となる野草やキノコを採取していますが、藪から気配を感じ声をかけますが反応がなく、行動を共にしている一団に戻ります。

クッキーはビーバーの毛皮で一儲けを目論む一団から雇われた料理人兼案内人です。荒々しい男たちは空腹と疲労でイライラし、クッキーに食べる物を要求します。

そして、猟場となるビーバーの生息地まで案内できなければ、彼の持ち金を取り上げると脅します。雇われ金をもらっているクッキーは彼らに逆らえず従っていました。

その夜、クッキーは寝つけず森の中に入っていきます。すると藪の中に気配を感じて、凝視すると身に何もまとっていない男が、隠れるようにしていました。

クッキーは男をテントに連れて行き、毛布を渡すと空いてるところで寝るよう勧めました。男は中国からの移民で、行動を共にしていたロシア人とトラブルになり、身包みはがされ殺されかけて逃げたと話します。

早朝、食材を探すために外に出たクッキーは川で魚を見つけ、慌てて網を取りに戻り急いで捕まえます。魚を手に入れ喜ぶクッキーは、川に飛び込み泳いでいくルーの姿を見ます。

以下、『ファースト・カウ』のネタバレ・結末の記載がございます。『ファースト・カウ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C) 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

数カ月後、クッキーは狩猟団を離れ集落に辿り着きました。その集落は交易所で入植者達が各々の商売を始め、流通と経済を回し小さな社会を築き始めていました。

そして、その集落に1頭の“乳牛”も到着します。酪農に向いていない土地に来た初めての牛でした。交易所の周辺を散策した時、クッキーはその雌牛を見つけました。

クッキーは集落の中に入ると、人々の動きを観察し一軒の酒場へと足を向けます。クッキーは客たちの会話を聞きながら、情報を収集しようとします。

酒場には働きもせず博打をうつ男達、目的のない男などが昼間から酒を飲んでいます。クッキーの隣りには赤ん坊の子守をする男がいます。

男は博打に興じる男たちにバカにされ、ケンカに発展すると男はクッキーに子守の代わりを頼み、外に出て行ってしまいました。

クッキーがあっけにとられていると、そこに身綺麗な東洋人の客が入ってきます。ロシア人に追われ裸で隠れていた中国人の男です。

再会を喜ぶ2人、中国人の男はキング・ルーと名乗りました。新天地での暮らしについて語り始め、男はこの土地(オレゴン)には夢を実現できる、未知の資源が眠っていると熱く語ります。

ルーはクッキーを家に招くと言い、クッキーの子守を放りだし連れて行きます。ルーの家は廃材を組み立てただけの粗末なものでしたが、ストーブもありちょっとした調理ができました。

クッキーはルーが流暢な英語を話すことを不思議に思っていました。ルーは10代の頃から世界に憧れ、船乗りとして働き世界を周っているうちに覚えたと話します。

交易所周辺を見てまわったクッキーは、牝牛のいる家の事を聞くとイギリス人の“仲買商”の家だと教えます。

2人は夢の話をしました。 ルーの夢は農場を経営することで、クッキーの夢はサンフランシスコで、ホテルかパン屋を営むことです。

しかし、その夢を叶えるためには元手となる資金が必要だと、集落での仕事をどうするか考え始めます。

クッキーは小麦粉と卵があればドーナツが作れると言うと、ルーが材料を出すとクッキーは、さっそくドーナツを作ってルーに食べさせます。

するとルーはひらめきドーナツを交易所で売ろうと提案します。翌日、2人はドーナツを数個作り交易所で売ってみました。

一人の男が冷やかしで買って食べると、ドーナツの美味しさと味の懐かしさにとても感動します。瞬く間にドーナツは売り切ってしまい、商売の第一歩を成功させました。

評判になったドーナツは翌日以降も即完売します。そして、クッキーは“ミルク”があればもっと美味しくできるとつぶやきました。

そこでルーはまたひらめきます。仲買商の家にいる雌牛から、ミルクを少量だけ調達して作ろうと言いだします。

クッキーは盗みに抵抗しますが、ルーは資金が貯まるまでと説得します。その晩、2人は仲買商の家に向かい、乳しぼりをするのがクッキーで、ルーは木の上で見張りをします。

雌牛に優しく話しかけながら接するクッキーは、少量のミルクを絞ってそれを持ち帰り、翌日の仕込みをします。

目論み通りドーナツの味は一層良くなります。客から材料を聞かれても、ルーは秘伝の材料だと言って教えませんし、ドーナツの価格も上げていきます。

ドーナツの数を増やすことで、盗むミルクの量も増えていきますが、こうして2人はドーナツで多額の資金を集めていきます。

(C) 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ある日、仲買商の執事がドーナツを売るクッキーとルーの所に来て、主人が買いに来るから取り置きしておくよう命令します。

仲買商がドーナツを一口食べると、その味がイギリスにいた頃に食べたお菓子の味だと、とても気に入り材料のことを聞き、クッキーとルーに緊張が走ります。

ルーはすかさず“秘伝”の材料と言うと、疑うこともせず感動しています。さらに仲買商はどこで作り方を覚えたのかクッキーに聞きます。

彼はメリーランドの有名なパン屋で修行し、作り方を覚えたと話すと、クランベリーの“クランブル”は作れるか聞きます。

クッキーはクランベリーは時期が違うが、その辺で採れるブルーベリーを代わりに作れると言います。

仲買商は土曜日にイギリス中隊の隊長が視察で訪問するため、もてなしのティータイムに作ってきてほしいと依頼します。

隊長は未開の地で暮らす仲買商を常にバカにしていたため、こじゃれたスイーツでもてなし、鼻を明かしたいと思っていました。

2人は断れば疑われると考え依頼を請け、約束通りクランブルを作り、土曜日に仲買商の屋敷を訪ねます。

仲買商は隊長にヨーロッパの流行りや、ファッションのことを聞くと、ビーバーの毛皮が重宝されていた時期は去った情報を聞き、先住民との交渉に難色を示しました。

お茶の時間になり仲買商は隊長に紅茶を入れ、飼っている雌牛のミルクを入れながら、3頭買う予定だったが牡牛と子牛は、移動中に死んでしまったと話します。

しかも生き残った雌牛はミルクの出が悪いと嘆きます。それを聞いたクッキーとルーの緊張はピークに達します。

次にクランブルの出番です。思いがけずイギリス伝統の焼き菓子を食べた隊長は、予想通り感動し2人に材料を聞きますが、ルーが秘伝の材料だと答えました。

そして、仲買商は隊長に雌牛を見てみないかと誘いました。クッキーとルーも仕方なく後に続きます。クッキーが雌牛に近づくと、牛の方からすり寄ってきます。

妙に雌牛に懐かれるクッキーでしたが、2人は誤魔化し家へと帰り、ピンチを切り抜けました。ところがミルクを使用していることがバレなかったことで、ルーは気が大きくなっていました。

ミルクを盗みに行こうと誘うルーに、クッキーは用心してしばらくおとなしくしていようと言います。それでもルーはもう少しで満足のいく資金が貯まるからと、クッキーを口説いて犯行に向かいました。

気乗りのしないクッキーの予想は的中してしまいます。就寝時間を狙っていた2人でしたが、その晩に限って仲買商が飼っている猫が、家の外に出てしまい使用人がランプを持って出てきます。

それを見たルーはクッキーに合図を送りますが、彼は全く気がつかず慌てたルーは、木の上から落下し、使用人に気づかれてしまいました。

不審者がいると屋敷では大騒ぎになり、仲買商と隊長、部下たちが銃を持って出てきます。クッキーとルーは命からがら家に逃げ帰るも、すぐにばれると森の中に逃げました。

仲買商は繋がれている雌牛のところに行き、ミルクが盗まれていたことを理解します。そして、捕まえて殺してやると怒りをあらわにします。

クッキーとルーは逃げる途中ではぐれてしまい、クッキーは山肌に足を取られ、滑落して頭部を強打して気を失います。ルーは川下の方へ逃げようと先住民に舟を出してもらいます。

どのくらい気を失っていたのかクッキーが、目を覚ますと淡い灯りの中、窓の外で先住民が不思議な踊りをしているのを見ます。

立ち上がろうとしても体がいうことをきかず、そのまま横になって再び眠ってしまいます。クッキーはこうしてしばらく先住民の家で、介抱を受けながら体力を取り戻します。

ある朝、クッキーが目を覚ますと、家から先住民がいなくなっていました。クッキーはルーを探すため家を出て出発します。

ルーは隠した夢の資金を取りに家に向かっていましたが、ならず者が2人を捜しに家に来て、家を破壊していきます。さらに藪に身を潜めながら、銃を持って捜索する若い兵士もいました。

ルーが隠し金を持って歩きはじめると、戻ってきたクッキーと合流することができました。その土地では暮らせないと判断した2人は、西を目指して旅をはじめます。

しかし、頭を負傷していたクッキーの体調は長続きしません。丁度よさげなくぼみを見つけ、横になると静かに眠ってしまいます。

そしてルーもクッキーの隣に横たわると、やがて周囲は暗くなって静寂がおとずれます・・・。

映画『ファースト・カウ』の感想と評価

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夢の始まりがあった風景

映画『ファースト・カウ』はアメリカのルーツを探る物語です。しかし、“アメリカ開拓時代”や“アメリカン・ドリーム”という言葉から連想される、巨万の富を手に入れる冒険活劇というニュアンスはありません

この映画は未開の地と呼ばれるオレゴンに、何があるのか知らないまま、大きな“可能性”が秘められている……そんな漠然とした希望を抱き入植してきた者の物語で、昼間でも日の光が届かない自然の中の暗さが、スクリーンに映し出されます。

その暗さは当時の様子がわかる色付きの資料もなく、製作チームですら想像力で描いている究極の撮影法であり、眼に見える世界が事実だとは限らない伏線とも捕らえられます。

また、ケリー・ライカート監督の狙いには、スクリーンサイズもありました。本作は4:3の四角いフレームで撮影することによって、森の中の閉塞感や2人の主人公の親密さなどを表すとともに、巨大化したアメリカの序章の姿を象徴するようにも見えます

開拓者は粗暴であったり、知性に乏しく泥にまみれた姿をしています。知性が乏しい代わりに、修行で身に着けた技術や旅の経験で得た処世術など、生きていくための力が2人の主人公にはありました。

クッキーは石橋を叩いて渡るような慎重派で、ルーは様々な国を渡ってきた経験から、相当な野心家だったと見て取れ、コンビとしては相性がよかったと感じます。

しかし、アクセル全開のルーに従うだけのクッキーは、ルーの暴走を止められず非業の死をむかえます。

現代のシステムの中で暮らしていると元手ができた段階で、“仲買商”にドーナツ作りの話をし、ミルクを購入して製造販売する過程を踏んでいたら、彼らの計画(夢)は実現できたのではないかと単純に思います。

冒頭で発見された2体の白骨体はクッキーとルーだと思われますが、クッキーは頭部の強打によるものとわかりますが、ルーの死因は不明です。2人には追手が迫っていたので、寝込みを銃で打たれたのかもしれません。

いずれにせよクッキーとルーのような開拓者がいたからこそ、社会的なシステムの構築ができてきたと考えると、あの2体の白骨体がその“礎”のように感じます

史実を知ると解釈が深まる映画

本作の舞台となった1820年頃のアメリカ・オレゴンは、まだ州にはなっておらず“オレゴン・カントリー”と呼ばれていた時代です。

オレゴン・カントリーは18世紀の後半に、アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ロシア、スペインが、同じ地域の別の土地を発見したことから領有を主張していました。

19世紀に入り、アメリカとイギリスは多くの河川があることで、この地域を交易する場所として、領有権を確保するため境界紛争が起きていました。

1811年に測量探検家のデイビッド・トンプソンが、コロンビア川とスネーク川の合流地点を発見し、カナダの毛皮交易会社“ノースウェスト会社”が交易基地を建設します。

ところが1821年にはライバル会社である、イングランドの“ハドソン湾会社”と合併します。ハドソン湾会社はこの地域の先住民と公益免許を維持し、毛皮交易を専門に力を入れていたため力を持っていました。

オレゴン・カントリーは毛皮交易で成功した者と、その成功を知った新しい入植者でにぎわっていました。クッキーが料理人として雇われていた狩猟団も毛皮で一攫千金を追い求めに来たのです。

ところが現実はビーバーの乱獲によって、毛皮交易も下降の一途の時でした。“仲買商”が先住民と毛皮の交渉をしている時、先住民の長が「ビーバーはわんさといる」と表現したのに対し、稼げる時代が過ぎたことを知っているクッキーは苦笑します

毛皮に変る産業を模索するクッキーは、甘いものを欲する入植者をターゲットに、料理人の知識を使って成功を果たしつつありました。

さて、この仲買商の立場に近い実在の人物がいます。“オレゴンの父”と呼ばれるジョン・マクローリンです。

ジョン・マクローリンはハドソン湾会社から派遣された、オレゴン・カントリー(コロンビア地区本部)の主任として配属されます。

マクローリンは先住民の言葉を知っており毛皮の交渉に携わります。そして、彼の妻は先住民とヨーロッパ人のハーフです。

作中の仲買商の妻も先住民でしたし、仲買人の家はオレゴンシティ市にある、マクローリンの元住居がモデルかもしれません。

ただし、人物像としてはかけ離れているように感じます。マクローリンは人種の壁を超え、オレゴン・カントリーに暮らす先住民やアメリカ人開拓民を、イギリスの暴挙から守りオレゴン準州への道筋を開きました

まとめ

(C) 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画『ファースト・カウ』の冒頭には、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの長編詩「地獄の格言」の一節として「鳥には巣、蜘蛛には網、人には友情」が出てきます。生きていくための拠り所を表しているのでしょうか?

しかし、「地獄の格言」の翻訳された全文を読むと詩の内容が、本作に描かれているということがわかります。

正直、本作はどう解釈したらよいのかという分かりにくさはあります。されど「どういうことなのか?」という探究心は、まるで未開の地に入る開拓者のような気持ちになり、この映画の核心に迫ることができます。

ライカート監督は友情についてフォーカスしていたようですが、どちらかと言うと富の象徴と言われる、雌牛の視界の範囲から始まった人間社会と、その上で成り立っていいる現代社会の構図を感じさせた作品でした。



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