映画『成功補習班』は第36回東京国際映画祭・ワールドフォーカス部門で上映!
台湾ドラマ『ショコラ』で長澤まさみと共演した俳優ラン・ジェンロンが監督した『成功補習班』が、第36回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門に出品されました。
ラン監督自身の体験も含めた、亡き恩師に捧げた青春回顧録をレビューします。
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映画『成功補習班』の作品情報
【日本公開】
2023年(台湾映画)
【原題】
成功補習班(英題:After School)
【監督・脚本・製作総指揮】
ラン・ジェンロン
【製作総指揮】
デニス・ウー、ハンク・ツェン
【共同脚本】
ダニエル・ワン
【撮影】
ジャオ・ウェイジエ
【編集】
キポ・リン
【音楽】
リン・ゲンノン
【キャスト】
ジャン・ホァイユン、チウ・イータイ、シャーリーズ・ラム、ラン・ジェンロン
【作品概要】
『僕らのメヌエット』(2014)の主演俳優ラン・ジェンロンが亡き恩師をモデルに、1994年の台湾を舞台に予備校に通う3人の男子高校生を描いた監督第2作。
主なキャストはジャン・ホァイユン、チウ・イータイ、シャーリーズ・ラムで、監督のランも出演しています。
本作は台北映画祭2023のクロージング作品に選ばれ、第36回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で日本初上映されました。
映画『成功補習班』のあらすじ
1994年の台湾。チャン・ジェンハン、チェン・シャン、ホー・シャンの仲良し高校生3人は、厳格な指導で知られる成功補習班に通っていました。
そこに、アメリカ帰りの新任講師ミッキーが赴任。ゲイであった彼は生徒に恋愛やセックスについての風変わりな講義を行い、人気を博していきます。
やがてミッキーに導かれるようにゲイ・カルチャーと触れ合うことで、チャンたちの人生は大きく変わっていくのでした……。
映画『成功補習班』の感想と評価
ゲイ・カルチャーと向き合った青春回顧録
本作『成功補習班』は、台湾で俳優として活躍するラン・ジェンロンが、『ぼくの人魚姫』(2020)に続いて監督を手がけました。
2018年に51歳で亡くなった、『美麗少年』(1998)、『非婚という名の家』(2005)などのドキュメンタリーを手がけた恩師ミッキー・チェン監督の哀悼と、ラン監督自身の高校時代の思い出を投影した内容となっています。
進路や恋愛に興味津々のティーンエイジャーの青春を描いた作品は、日本を含めて世界各国で見受けられますが、興味深いのは、LGBTQ+という昨今のダイバーシティ(多様性)事情を反映している点でしょう。
メインキャラクターとなるチャン、チェン、ホーら男子高校生3人が通う成功補習班(日本でいう予備校に相当)に新しく赴任してきた英語教師ミッキー。恋愛とは自由であるということを生徒に説く彼は、ゲイであったミッキー・チェン監督がモデルとなっています。
教師ミッキーとの出会いにより、3人は各々が内面にあったセクシャリティに向き合うことに。恋愛も性的欲求を抱く対象も女性のはずなのに、男同士でじゃれ合うのも楽しくて離れがたい……同性の仲間に友情なのか愛情なのか分からない感情を抱くというのは、おそらく誰しも一度はあるかと思います。
男同士のブロマンスな関係を描いた秀作に『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)がありますが、本作ではさらに突き詰め、ゲイ・カルチャーへの理解と弊害にも迫っています。
本作では、身内の秘められたセクシャリティを知り嫌悪感を示す人物も登場します。ただ、そうした人物を単純に敵対者扱いしていない点にも注目したいところ。どうしても葛藤や戸惑いが生じてしまうのは、LGBTQ+への理解が高まった現在でも少なくないでしょう。
ラン監督は、LGBTQ+当事者の心情を代弁する曲としてレスリー・チャンの『モニカ』を引用。吉川晃司の原曲とは異なる歌詞のカバーを歌うのがレスリーというのが、メッセージ性を高めているのは言うまでもありません。
「『モニカ』はミッキー監督の好きな曲で、使用料は高かったけど、東京でこの映画を上映できたことに運命を感じる」と映画祭公式上映後のQ&Aで語った監督。なお2023年は、レスリーの20回忌にあたります。
レスリー・チャン『モニカ』
まとめ
ラン・ジェンロン監督『成功補習班』Q&A
相手が同性だろうと異性だろうと、愛に変わりはない。自分らしく生きていければいい。
劇中でラン監督は41歳のチャンを演じていますが、そのほかの2人の友人チェン、ホーにも実在のモデルがおり、今でも交流が続いているそう。
Q&Aでの「短い人生には良いことも悪いこともあるけど、その中で大切な友人と過ごす時間を大事にして生きてほしい」という監督のメッセージには、早くに亡くなった恩師への謝辞が伝わりました。
アジア諸国の中でも親日家が多い台湾が舞台ということもあり、90年代の日本芸能がチラつくあたりも面白く、その頃ティーンエイジャーだった人は懐かしく、そうでない人も当時のトレンドを楽しめる一作です。