映画『正欲』は第36回東京国際映画祭・コンペティション部門にて最優秀監督賞・観客賞をダブル受賞!
この世界で生き延びるために大切なものを、深い感動とともに提示した痛烈な衝撃作の映画『正欲』。
朝井リョウによるベストセラー小説を原作にした本作は、第36回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀監督賞・観客賞のダブル受賞を果たしました。
本作は『前科者』(2022)『あゝ、荒野』(2017)の岸善幸監督が、一般常識から外れた趣向を持つ人々の苦悩を描いた作品です。
キャストの稲垣吾郎や新垣結衣が好演し、新境地を開いた映画『正欲』は2023年11月10日(金)より全国ロードショーされます。
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映画『正欲』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【原作】
朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)
【監督】
岸善幸
【脚本】
港岳彦
【キャスト】
稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
【作品概要】
朝井リョウの原作小説を映画化。監督は『あゝ、荒野』(2017)が主要映画賞にて多数の作品賞を獲得し、前作『前科者』(2022)では希望と再生の物語を感動的に描いた岸善幸。
主人公の検事・寺井啓喜を演じるのは『半世界』(2018)『窓辺にて』(2022)などで高い評価を得てきた稲垣吾郎。数々のヒット作の瑞々しい演技が評されている新垣結衣がヒロイン・夏月を演じます。
第36回東京国際映画祭・コンペティション部門にて、最優秀監督賞&観客賞のダブル受賞。
映画『正欲』のあらすじ
横浜に暮らす検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突していました。
ある日、啓喜は事務官の越川(宇野祥平)から、現在扱っている案件に類似した過去の事件として、新聞配達員が蛇口を盗み捕まった事件があると聞かされます。
「警察施設に侵入し、水を出しっぱなしにして蛇口を盗んだとして、新聞配達員の藤原悟が窃盗と建造物侵入容疑で逮捕された。容疑者は『水を出しっぱなしにするのが嬉しかった』と供述している」という、15年前の小さな新聞記事を見せられました。
広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月(新垣結衣)は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返しています。そんなある日、中学の時に転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知りました。
ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也(佐藤寛太)。学園祭で「ダイバーシティ」をテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を企画した神戸八重子(東野絢香)は、そんな大也を気にしていました。
全く異なる背景と生活基盤を持つ彼らの人生は、ある事件をきっかけに交差します。
映画『正欲』の感想と評価
映画『正欲』は、現代の社会では「異常」「倒錯」と評される性愛を描いた作品です。
息子の不登校に悩む検事の寺井啓喜は、担当している事件が15年前に起こった「新聞配達員が“蛇口”を盗んだ事件」と類似していることに気が付きます。その犯人の動機は「水を出しっぱなしにするのが嬉しかったから」というものでした。
社会では「普通」とされる感覚と比較すると、それはおかしなことで、理解しがたい理由です。しかし犯人の理由を聞いて、ハッと気がついた人々もいたはずです。
「蛇口から流れ出てくる水」への愛。蛇口の窃盗は犯罪ではあるものの、その愛自体については、一体どこが悪いのか……はっきりとはわからないが、「明らかに『普通』の人とは違う」という感情だけが多数派の人々の心を支配し、時には「排除」という暴力へと生み出すこともあります。
多数派の価値観を基準とした物事を「正しいもの」とするのなら、少数派とされた人々の価値観は「正しくないもの」になる。自ら好んで「異常」な性愛者となったわけではないのに、生涯苦しむことになり、当事者の哀しみは一層深いものとなるのです。
夏月を演じる新垣結衣が、「『正しくないもの』にされた人々の心」を巡って、稲垣吾郎演じる寺井啓喜と対峙する場面は印象的でした。
まとめ
朝井リョウのベストセラー小説を原作とした映画『正欲』をご紹介しました。
第36回東京国際映画祭・コンペティション部門に正式出品された本作は、2023年11月10日(金)に全国ロードショーを迎えます。
映画では、「普通」ではないと片付けられてしまう人間と「普通」という価値にこだわる人間の両者が登場します。大多数の人が後者ですが「普通」ではないと片付けられてしまう人間の切ない心境を鋭く描いています。
この世界において何が「正しい」というのでしょう。絶対に大多数側が「正しい」とは言えないのではないでしょうか。映画の投げかける問題点が胸を貫きます。
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