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『隣人X』映画原作ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。ジャンルはSFかラブストーリーか?パリュスあや子の異色のミステリーロマン

  • Writer :
  • 星野しげみ

パリュスあや子の『隣人X』が待望の映画化決定!

『隣人X』(パリュスあや子著)は、第14回小説現代長編新人賞を受賞した作品です。

地球へ逃れて来た「惑星難民X」を日本政府も受け入れることにします。地球人そっくりに変形する「惑星難民X」。見た目誰が「惑星難民X」か全くわかりません。

誰が「惑星難民X」かとマスコミは「惑星難民X」を捜し出そうとします。そんな騒ぎに、ごく平凡な暮らしをしていた40歳半ばの柏木良子も巻き込まれます。


(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社

隣人が本当の人間かと疑いたくなるような小説『隣人X』。この度タイトルを『隣人X 疑惑の彼女』とし、『君に届け』(2010)や『おもいで写真』(2021)の熊澤尚人が、主演に上野樹里と林遣都を招いて映画化しました。

映画『隣人X 疑惑の彼女』は2023年12月1日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

映画公開に先駆けて、原作小説をネタバレありでご紹介します。

小説『隣人X』の主な登場人物

【土留紗央】
派遣社員として大手企業で働くOL

【柏木良子】
コンビニと宝くじ売り場とのダブルワークをする女性

【グエン・チー・リエン】
良子と同じコンビニでバイトをするベトナム人留学生

【笹憲太郎】
柏木良子と付き合っている雑誌記者

【拓真】
音楽活動をしているリエンの恋人

【柏木紀彦】
田舎でひっそり暮らている柏木良子の父

小説『隣人X』のあらすじとネタバレ


(C)パリュスあや子/講談社

200X年、惑星Ⅹ内の紛争により「惑星生物Ⅹ」は宇宙を漂っています。「惑星生物Ⅹ」は、対象物の見た目から考え方や言語までそっくりそのまま取り込むことが出来る無色透明の単細胞生物です。

アメリカではスキャン後に人型となった惑星生物Ⅹのことを「惑星難民Ⅹ」という名称に統一し、受け入れることを宣言。

202X年、惑星難民Ⅹの受け入れが世界的に認められつつあるなか、日本においても「惑星難民受け入れ法案」が可決されました。日本人型となった「惑星難民Ⅹ」を受け入れ、マイナンバーを授与し、日本国籍を持つ日本人として社会に溶け込ませることを発表しました。

土留紗央

そんな日本のある町に、新卒派遣として大手企業に勤務する土留紗央がいました。

平凡な毎日の中で彼女は会社の先輩智子に誘われる形で、会社主催の飲み会に出席。その帰りにひどく酔っぱらった彼女を気にかけるひとりの男性と出会います。

酔い覚ましのつもりで入ったカラオケ店で、優しかったその男が次第に胸の内を暴露するようになり、態度も紳士から猛獣のように変貌します。

恐怖を感じた紗央は、男から逃げようとしますが、その途中で会社の社員証を落としたようでした。

次の日、紗央は出勤して社員証が無いことに気が付き途方に暮れますが、やがて交番から電話が入り、社員証が交番に届けられたことがわかりました。

喜んだ紗央は仕事を終えて、交番へ社員証を受け取りに行きました。

柏木良子

紗央の社員証を見つけたのは、就職氷河期世代でコンビニと宝くじ売り場のかけもちバイトで暮らす40代半ばの柏木良子でした。

その日もコンビニの早朝シフトに入るため、店までの道を急いで歩いていると、道に見慣れない社員証が落ちているのを見つけたのです。

社員証の顔写真を見ると、よくコンビニを利用する女性客のようです。そして同時に大学生の頃の苦い思い出が蘇って来ました。

大学生の頃、キャバクラでバイトをしていた良子は、古閑という男性と知り合います。良子の常連客となった古閑でしたが、ある日店の外でふたりで飲み、良子は古閑から暴力を振るわれました。気付いた良子のもとに警察から、落とし物として良子の学生証が届けられたと連絡が入ります。

古閑とはそれっきりの中ですが、以来良子の人生においてなぜか深い中になった男は何十人もの数になるのです……。苦い青春時代を思い出した良子ですが、結局この社員証を落とし物として交番に届けました。

仕事を掛け持ちしてかつかつの生活をおくる今でも、良子には付き合っている彼がいます。

33歳の笹憲太郎。5カ月前に、良子のバイト先宝くじ売り場で初めて当たった宝くじに大喜びした男性でした。それが縁で親しくなり、今はお互いの部屋を行き来する仲です。

この日も笹の部屋に行き、恋人同士の楽しい時間を過ごしますが、「良子さんのご両親に会ってみたいな」という笹の言葉が飛び出します。

「結婚」という言葉が頭に浮かび、良子は軽い興奮を覚えました。

グエン・チー・リエン

良子が早朝バイトをするコンビニには、同じ時間帯でバイトに入っているベトナム人留学生のグエン・チー・リエンがいます。

リエンは、来日2年目で大学進学を目指しています。日本へ留学するには莫大なお金がいりました。リエンの親は借金をしてリエンを送り出してくれました。

友人も頼る人もいない日本でリエンは借金返済のため、郊外の4人部屋ワンルームアパートで、男3人女2人でルームシェアをし、学校の合間にコンビニと居酒屋でダブルバイトをしています。

日本語がまだたどたどしいリエンは、周囲の人との意思疎通がなかなかうまくいかず、辛い思いをすることも多々ありました。

そんなリエンの心の拠り所は、居酒屋のバイトで知り合った恋人の拓真でした。

恋人と思いたいリエンに反してあまりもあっさりしている拓真。そのうちにふいっと自分を置いていなくなるのではないかと、内心不安なリエンは、バンドをしている拓真から次のライブに誘われて喜びます。

バンド仲間に「彼女」と紹介されて嬉しかったリエンですが、打ち上げの時に仲間の一人から「何言っているのかわからない」と言われ、深く傷つきます。

その頃、ハリウッド映画でなじみのある超人気俳優が「惑星難民Ⅹ」であると告白し、全世界が揺れました。

「私も惑星難民Ⅹだ」と嘘かほんとかわからない書き込みが、SNSに入り乱れます。〈#XToo〉がトレンド入りをし、告白ブームが巻き起こりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『隣人X』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『隣人X』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

笹憲太郎

一方、柏木良子は現在の彼氏であり笹と一緒に故郷へ帰り、両親と笹を会わせました。

実は笹はペンネームをいくつか持つ雑誌の記者で、「惑星難民Ⅹ」を捜し出して取材をし、スクープを取るという使命を受けていました。

日本でも「惑星難民Ⅹ」探しの報道が過熱しています。田舎でひっそりと平凡に暮らしていた良子の父・紀彦が「惑星難民Ⅹ」だと疑われていたのです。

何も知らない良子は、スクープを狙う笹と紀彦を会わせました。紀彦はかいがいしくおもてなし料理を作っています。エプロン姿のままで笹に挨拶する紀彦を見て、良子は感謝したくなります。

笹と両親との面談はうまく行ったはずでしたが、その日から笹との仲が疎遠になりました。何がいけなかったのか理解できずに良子は不思議に思いますが、素朴な両親をけがされたような気がして、笹に対する怒りが沸き起こります。

ある日、笹が書いている雑誌で、紀彦が「惑星難民Ⅹ」であるかのような記事が書き立てられました。それからというもの、良子の実家は好奇の目を向けられることになりました。

実家の家族を気遣って心労がかさんだ良子。バイトを休んでふさぎ込んだ良子を慰めてくれたのは、ベトナム人留学生でコンビニバイト仲間のリエンでした。

リエンは拓真の優しさに触れていますが、自分が日本人でないことでコミュニケーションが周囲とうまくとれないのが気になっていました。

そんな時に、紀彦が噂を否定する中継をテレビで観ました。「私は、惑星難民Xではありません。でも、日本人ではないのかもしれません」で始まる生中継。

「Xでも日本人でも、好きによんでくれてかまいません。私は今まで通り、静かに暮らしていきたいだけだと皆さんにお伝えしたくて、取材に応じました」

その時、紀彦の妻らしき女性が来て、「DV男に騙されて妊娠した自分を救ってくれたのは彼だ」と言いました。女性の告白は続きます。

「彼は私と結婚して、血の繋がっていない娘を僕の子どもだと言ってくれた。これからも一緒にいたいから、私たちのことはほっておいてください」

女性の血を吐くような言葉を聞いて、リエンは涙を流していました。

紀彦の生中継のあと、笹の書いた雑誌記事に対しての抗議が相次ぎます。笹は今度は記事を書いたことについて、弁明の記者会見を開く羽目になりました。

柏木紀彦

ある日、弁明に疲れ切った笹の元へ紀彦が現れました。「あなたにお話しておきたいことがあるんですよ」。紀彦の威圧に負けて笹へアパートの自分の部屋へ彼を入れました。

紀彦は見た目はそんなに変わっていませんが、捉えどころのない威圧感を放っています。そして、「君は日本人ですか」と言いました。「忘れてしまったようですね。この国に放たれたとき、あなたはあまりに小さかったから仕方がないことです。」

その内容に驚く笹は、「なにぬかす。俺は日本人だ、人間だ」と怒鳴りますが、紀彦は「それでいいと、私は思います。あなたはもう日本人だ。自分で心底信じられるほどに。ただ一目見て、私にはわかりました。」と言います。

「私は君が仲間を脅かすために飼われた犬であることを恐れたのですが、あなたは本当に知らなかったようです。娘は本当にあなたのことを好いていたようです。あなたが私に似ていると、あの子がそう言ったと聞かされて、胸を引き裂かれる思いでした」

胸中を吐露すると、紀彦は部屋から出て行きました。

その後……

リエンの通う日本語学校が夏休みになりました。コンビニの早朝バイトを辞めたリエンですが、良子とはその後も仲良くしてもらっています。

2人の休みが重なった日、良子の家にリエンは遊びに行きました。昼寝を2人でしながらリエンは良子が涙を流しているのを観ました。

なんとなく、リエンは「彼に会いたいけれども、なかなか会いに行けない」と良子に言います。すると良子は、「会えばいいよ。私は素直になれなかったけれど、リエンちゃんにはそうあってほしい」と言いました。

良子に背中を押され、リエンは拓真に会いに行きました。真っ直ぐに自分のもとへ来たリエンを拓真は優しく受け止めます。

一方、惑星難民Xのことを小説にしようと、紗央は張り切っていました。「惑星難民X」を主人公に「平均」とは何かを描こうとしているのです。

平均の幸せ、平均の仕事、平均の恋……。それは自分自身を掘り起こす作業になることはわかっていますイチかバチか。スクラッチでも買いたい気分になって、紗央は近くにあった宝くじ売り場に寄りました。

売り場の女性はどこかで見たような顔です。声をかけると、たまに行くコンビニの店員とわかりました。そしていきなり、「社員証、落とされました?」と言われて驚きます。

コンビニの近くに落ちていたから交番に届けたと聞き、紗央はこの人が届けてくれたのかと感銘を受け、深々とお辞儀をしました。そして、お礼がわりにと、購入したばかりのスクラッチを置いていきました。

紗央から礼を言われた良子は、その後も相変わらず忙しい毎日です。

テレビの生中継で自分の出生の秘密を知ってしまっても、あまり驚きはありませんでした。むしろ、毅然とした態度で家族を守ろうとする紀彦を応援したくなりました。紀彦は今までもこれからも良子の父に変わりはないのです。

そんな良子の携帯に笹から電話がありました。「最後に一度だけ会ってもらえないか」という内容に、良子は「ここにスクラッチがあるから、これが当たったらお会いします」と言います。

スクラッチを削りながら、当たって欲しいのか、そうでないのか。どちらであってほしいのか、良子は自分でもわかりません。

小説『隣人X』の感想と評価

もしも身近な人が地球人と区別のつかない惑星難民だったら、自分ならどうするでしょう。小説『隣人X』はそんな人々の揺れ動く気持ちを社会やマスコミのスクープ攻撃と共に描きました

一見何の繋がりもなさそうに見える3人の女性たちの日常が、「惑星難民X」を日本政府が受け入れたという情報の拡散とともに、徐々に繋がっていきます。

3人のうちのひとりである柏木良子に、下心を持って近づいたのは雑誌記者の笹賢太郎でした。彼によって暴露された良子の両親の秘密。「惑星難民X」探しは、平穏に暮らしている人々の毎日を踏みにじむような結果を招きました。

果たして「惑星難民X」が日本人に何か危害を加えたのでしょうか。そんなことはありません。それどころか、人目を避けるようにひっそりと日本人として生きようとしています。

寝ている子を起こして騒ぎ立てるのは、単なる野次馬根性の現れとしか思えないことです。

また、ベトナム人留学生リエンは故郷にいる家族のために少しでも日本語を覚えて働こうと、バイトも勉強も頑張っていました。けれども、拙い日本語では周囲の人との意思疎通もなかなかうまくいかず、泣きたい思いを経験します。

マスコミによる「惑星難民X」騒動によって自分の出生の秘密を知った良子も、毎日を必死で生きるダブルワーカーです。大手企業の派遣社員である土留紗央ですら、派遣という仕事に対して生き甲斐を感じていません。

生き辛い生活をおくる彼女たちとその恋人たちですが、みな懸命に生きようとしています。果たして、誰が「惑星難民X」なのかと疑惑の目を向けますが、そこで見られるのは人間らしく必死で生きている姿でした。

中には、後半にある柏木紀彦の訪問によってわかる特殊な例、自分が「惑星難民X」であることに気が付かないケースもあったようです。

柏木紀彦は、「惑星難民X」には「惑星難民」として生きていくルールがあり、「惑星難民」であることすら忘れてしまっている該当者に「惑星難民」の心得を忠告しました。

誰が「惑星難民X」であっても、静かにその土地の暮らしになじんでいれば、その正体に目をつぶってあげればいいのに、それが許されないのが現実であり、それをさせている格差社会と人間界の闇に腹立ちを覚えます

この記事では書きませんでしたが、原作では、「惑星難民X」が物体をコピーして地球人となる様を描いたプロローグと、「惑星難民X」が生まれた背景の宇宙の星の歴史を語ったエピローグが載っています。

エピローグに書かれている、「人間を傷つけるのはいつの世も人間であり、Xが望むのは平和だけだった」という一文にドキリとします。誰が聞いてもとても耳の痛い言葉と言えるでしょう。

映画『隣人X 疑惑の彼女』の見どころ


(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社

小説『隣人X』は『隣人X 疑惑の彼女』というタイトルで映画化されます。

映画化にあたって注目は誰を「惑星難民X」にするかということでしょう。そして誰の目線でそれを追究していくかということですが、ここは原作の筋を追っていけば、雑誌記者の笹憲太郎目線で描くのが一番だったのでしょう。

雑誌記・笹がスクープを狙うために近づいたのは、ダブルワーカーの柏木良子でした。下調べでは‟男にだらしない女”となっていた良子ですが、実は堅実で誰に対しても優しく包容力のある女性でした。

原作よりも、笹と良子の恋愛にポイントを当てた映画となっているようです

良子という人を知るにつけ、徐々に本気で惹かれていく笹。ですが、彼女の父は「惑星難民X」かも知れない人物で、自分は彼女を利用しようとしているのです。こんな笹の揺れ動く恋心を林遣都が器用に演じます。

また、笹によって家庭の秘密を暴かれショックを受けながらも、どこかで笹を忘れられない良子。一途な良子を演じるのは、7年振りの映画主演となる上野樹里です。

実力派の2人を取りまとめるのは、『君に届け』(2010)や『おもいで写真』(2021)の熊澤尚人監督。

ストーリーの二転三転する真実に交錯する想いと相手を思う気持ちと葛藤する主人公たちを、リアルに描き出します

映画『隣人X 疑惑の彼女』の作品情報


(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
パリュスあや子:『隣人X』(講談社)

【脚本・監督・編集】
熊澤尚人

【主題歌】
chilldspot「キラーワド」(PONY CANYON/RECA Records)

【キャスト】
上野樹里、林遣都、野村周平、川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、酒向芳

まとめ

SF特有の予測不能なラストが待ち受ける異色のミテリーロマンス『隣人X 疑惑の彼女』の原作小説を、ネタバレ有でご紹介しました。

人間そっくりに変形する「惑星難民X」。映画ポスターのキャッチコピー「愛した人の本当の姿をあなたは知っていますか?」の意味がよくわかるストーリーです。

原作小説では「惑星難民X」とはっきりわかるのは、良子の父柏木紀彦だけですが、それらしき登場人物も随所にいました。映画となると、もっと多くの「惑星難民X」が出て来そうです。誰が「惑星難民X」か。それは映画を観ないとわかりませんが……。

もしかすると、現実世界でも隣にいる人は「惑星難民X」なのかもしれないと思えてきます。それぐらいに「惑星難民X」の存在は自然であり、ごく普通の日常に溶け込んでいるものでした。

もしも隣人が地球人でなかったとしても、平和を愛する「惑星難民X」なら、一緒に社会生活を共有していけると信じられますから、それでいいのではないでしょうか。

映画『隣人X 疑惑の彼女』は2023年12月1日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー



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