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映画『おもいで写眞』ネタバレあらすじと結末の感想評価。ロケ地富山を舞台に深川麻衣と高良健吾を通して“人々の輪”が広がる

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『おもいで写眞』は2021年1月29日より公開。

映画『おもいで写真』は、写真を通して人々の繋がりを描く優しいヒューマンドラマです。

「あなたの思い出の場所で写真を撮ります」

東京で夢を追いかけるも上手くいかず、祖母の死により故郷に帰ってきた結子は、祖母の遺影写真がピンボケであったことを心残りに思っていました。

そんな結子は思い出の場所で写真を撮る「おもいで写真」をはじめ、写真を撮ることでその人の思い出に触れ、自分自身の人生、逃げていたことにも向き合い始めていきます。

オール富山ロケで撮影し、人々の営みで溢れた風情ある街並みも見どころの一つです。

映画『おもいで写眞』の作品情報


(C)「おもいで写眞」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
熊澤尚人

【脚本】
熊澤尚人、まなべゆきこ

【主題歌】
安田レイ『amber』(ソニー・ミュージック)

【キャスト】
深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子

【作品概要】
芸能事務所テンカラットの設立25周年の記念作品。主人公結子役を務めるのは『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)の深川麻衣。共演者には高良健吾、香里奈、井浦新と実力者をはじめ、古谷一行、吉行和子とベテラン俳優まで顔を揃えています。

監督を務めるのは『ユリゴコロ』(2017)、『ごっこ』(2018)の熊澤尚人監督。

映画『おもいで写眞』のあらすじとネタバレ


(C)「おもいで写眞」製作委員会

夢を追って東京にやってきたものの、うまくいかず夢破れた音更結子(深川麻衣)は祖母の死をきっかけに故郷の富山に戻ってきました。

祖母の葬式の際、遺影写真がなくピンボケの写真になってしまったことを心残りに思っていました結子に、役場で働く幼馴染の星野一郎(高良健吾)が仕事を紹介します。

それは結子の祖母のように遺影写真がなく、集合写真をのばしてピンボケになってしまわないよう生前のうちに遺影写真を撮るというものでした。

お年寄りが多く住む団地に声をかけても、遺影写真と聞くと「縁起でもない」と煙たがれてしまい、相手にしてもらえません。困っていた結子に一郎は、団地でホームヘルパーをしている樫井美咲(香里奈)を紹介します。

樫井美咲が担当している山岸和子(吉行和子)の元を共に訪れた結子は、祖母の遺影写真に対する心残りを話し、和子に写真を撮ってみませんかと説得します。すると和子はあの場所でなら撮って欲しいと、思い出の場所を指定します。

一郎を呼び出し、車を借りた結子と和子が向かったのは、仕立て屋でした。以前その仕立て屋に通っていた和子は「懐かしい」と嬉しそうに話しながら、たくさんの糸が置いてある棚の前で写真を撮って欲しいと頼みます。

東京で学んだメイクアップの技術を活かして写真を撮ると、和子はその出来に満足し、「遺影写真じゃなくて、おもいで写真だね」と言います。

和子の言葉に触発された結子は遺影写真ではなく「おもいで写真」を撮ろう!と思いつき、一郎に頼んでチラシを作ります。

最初は渋々仕事を始めた結子でしたが自分から率先してチラシを配り、お年寄りに声をかけ「おもいで写真」を撮り始めます。

また、和子が近所のお年寄りや、団地の中に役場が作った寄り合い所に顔を出し、「おもいで写真」の宣伝をしてくれました。その影響もあり、みるみる結子のもとに「おもいで写真」の依頼がくるようになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『おもいで写眞』ネタバレ・結末の記載がございます。『おもいで写眞』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)「おもいで写眞」製作委員会

結子の「おもいで写真」を通じて、団地の住人たちの輪が広がっていきます。その様子を見た一郎は結子のおかげであまり交流していなかった住人たちが活気づいたと感謝の言葉を述べます。

しかし、結子は自分は何もしていないと浮かない顔をします。どこかでまだ祖母に対して申し訳ない気持ちから、自分を許せていないのです。

そこで一郎は、「おもいで写真」が100枚集まったら、団地の寄り合い所で写真の展覧会をやろうと提案します。和子も「おばあさんも結子ちゃんのこと誇りに思っているよ」と勇気づけます。

しかし、次第に結子の元にやってくる依頼は減っていきます。声をかけられる人には写真を撮り、あとは呼びかけても出てきてくれない人々ばかりで、役所でも団地の住人全員のことを把握できていませんでした。

困った結子は寄り合い所で団欒をしている住人に声をかけ、どの部屋に人が住んでいるのか、皆さんの知ってい情報を教えてほしいと頼みます。

住民の力を借りてマップを作った結子は柏葉雅俊(古谷一行)から、ある場所で写真を撮って欲しいと頼まれます。ある場所とは、妻がやっている写真館でした。

写真館があったという場所によるとそこは空き地になっていました。呆然と立ち尽くす柏葉。通りがかった近所の人に奥さんはとっくに店を畳んで弟さんのところに行ったと言われます。

結子はその人に詳しく事情を教えて欲しい、柏葉さんに何があったのかと聞きます。すると柏葉は以前女性と駆け落ちして妻の元に帰らず、連絡もしなかったという事実を知ります。

結子自身も実の母親が出ていき、祖母に育てられ、寂しい経験をしていました。結子のことを愛していたと、祖母が話す言葉を信じられず嘘が許せなくなった結子は、自分自身の経験と柏葉のしたことが重なってしまいます。

怒った結子は、その場に足の悪い柏葉を置き去りにして帰ってしまいました。

事情を聞いた一郎が結子の元を訪ねると、いくら仕事でも柏葉のしたことはひどすぎる、写真は撮れないと言います。

一郎もそうやって嘘が許せなくて、頑固だから人付き合いが上手くできず東京での仕事も上手くいかなかったのではないかと強く言ってしまいます。

柏葉が再びやってきて、どうしても妻に謝って写真を撮りたいと結子に頼み、結子は渋々柏葉と共に出かけます。

妻の弟の家に向かった柏葉でしたが、すでに柏葉の妻は亡くなっていました。謝ることもできなかったと泣き崩れる柏葉をみて、結子の心は動かされます。

祖母が結子に語っていた母との思い出の場所に向かっていた結子はふと、その思い出の場所で結子をなだめていたのは結子の母ではなく、祖母であったということに気づくのでした。

祖母の愛を感じ地元富山の風景を眺めている結子の元に一郎がやってきます。

東京に行こうかと悩んでいた一郎でしたが、結子と共にここでやりたいことがあると告げます。2人は地元の景色を眺めながら笑い合います。

映画『おもいで写眞』感想と評価


(C)「おもいで写眞」製作委員会

深川麻衣さん演じる結子は、真っ直ぐで素直な性格をしています。素直に怒り、納得のできないことは言う。けれどその性格が災いして東京で夢を追いかけて努力するも上手くいかずクビにされてしまいます。

それでも地元富山に帰れなかったのは、夢を応援して、私のことは気にしなくてもいいと祖母が言っていたからでした。

祖母が亡くなり地元に戻った結子は、葬式でなぜもっと早く帰ってきてそばにいなかったのかと責められます。また、ピンボケの遺影写真も心残りとして結子の中に残るのでした。

遺影写真を撮る仕事も祖母に対する贖罪の気持ちもあったのかもしれません。そんな結子が「おもいで写真」を撮り、さまざまな人と交流するなかで自分自身の過去、そして東京で夢破れて帰ってきた今の自分自身と向き合い始めます。

結子の成長と共に人々の優しさを感じさせる本作で、結子にとって大きな影響を与えたのは和子と柏葉の2人でしょう。

どこかで後ろめたさを感じ、自分を責める結子に対し、成功するのが全てじゃない、夢を追いかけて頑張ったことが素晴らしいと言います。

成功せず帰ってきた人を敗北者とするのが今の世の中ではないでしょうか。そんななか振り切って再び前を向くのはそう簡単ではありません。

更に、結子は女性と駆け落ちし連絡もしなかった柏葉に、忘れられず母からの連絡をずっと待っていた自分自身の苦しい思い出を重ねます。

柏葉のしたことは許せないと思いつつも、妻に謝れなかったと泣き崩れる柏葉に心を動かされ、白黒つけるのではなく「どっちも本当」の気持ちである、そういう気持ちもあると理解するのです。

素直に怒り、泣き、笑う。ありのままの結子を深川麻衣さんが伸びやかに演じ、結子を見守る和子役に吉行和子、柏葉役には古谷一行とベテラン俳優が支え、優しく真っ直ぐな映画を作り上げています。

また、富山を舞台にし、地方で少子高齢化が進み孤独死する老人が増えている実態も浮き彫りにしています。

高良健吾演じる一郎は役場の職員として、団地の人々を気にかけていますが、それでも把握しきれず、孤独死する老人を救えないことにもどかしさを感じています。それでも地元が好きでここでできることをしようとする一郎の姿も印象的です。

まとめ


(C)「おもいで写眞」製作委員会

祖母に対する心残りから、思い出の場所で遺影写真を撮る「おもいで写真」を始めた結子と「おもいで写真を通じて広がる人々の輪を描いた映画『おもいで写眞』。

東京で夢破れ地元に戻ってきた結子がお年寄りとの交流を通して、自身が抱えていた後悔、自分の過去に対するわだかまりと向き合い、自分のやりたいことを見つけていく、優しい成長物語です。

また幼馴染の一郎を通して、東京に行くという選択をせず、地元が好きで地元で自分のできることをしようとする姿や、少子高齢化社会の問題も描いています。忘れかけていた人々の優しさ、地方の良さも感じさせてくれる作品です。



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