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Entry 2018/10/13
Update

映画『負け犬の美学』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

  • Writer :
  • 福山京子

そんな父の姿を慕って応援する娘、そしてぶつかりながらも父娘を見守る母。

愛する家族と娘の夢のために、負けっぱなしの父親が最後の大勝負のリングに上がり、伝えたかった真の思いとは?。

自らの信念を貫く一人の人間としての生き様が、観るものを魅了するサミュエル・ジュイ監督作品『負け犬の美学』をご紹介します。

映画『負け犬の美学』の作品情報


(C)2016 – UNITE DE PRODUCTION – EUROPACORP

【公開】
2018年(フランス映画)

【原題】
SPARRING

【脚本・監督】
サミュエル・ジュイ

【キャスト】
マチュー・カソヴィッツ、オリヴィア・メリラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン

【作品概要】
監督作『憎しみ』(1995年)でカンヌ国際映画祭「監督賞」受賞、大ヒット映画『アメリ』(2001年)ではヒロインが恋する相手役を演じるなどマルチな才能を持ち、幅広く活躍するマチュー・カソヴィッツが本格的にボクシング入れ込み、家族のために体を張るボクサーを熱演しています。

主人公がスパーリングパートナーをつとめるテレク役を元WBA世界王者のソレイマヌ・ムバイエが見事に演じ、リアルで臨場感のあるファイトシーンが映し出されます。

また娘のオロール役にはこれからのフランス映画期待の新星ビリー・ブレイン。彼女の父親を慕う眼差しと天使のような笑顔が観るものを魅了します。

映画『負け犬の美学』のあらすじとネタバレ


(C)2016 – UNITE DE PRODUCTION – EUROPACORP

ボクシングの試合アナウンスが聞こえ、一人の男が紹介され、リングに上がっていきます。

その後、ゴングが鳴り観客が去った中を、彼が静かにリングを降りていきました。

今日も敗戦成績を伸ばし、会場の外で黄昏ている男スティーブ。彼は冴えない戦績ながらなんとか生計を立てている中年ボクサーでした。

妻マリオンから50戦したら引退するように諭されており、タバコを吸い終わったスティーブが会場内に入ろうとすると、警備員に止められます。

「選手で、荷物を取りに行くだけだ」とスティーブは説明しますが、警備員は「IDカードを見せろ」の一点張り。

それでもスティーブは、なんとか知り合いに助けてもらうと、どうにか帰途に着くことができました。

家に帰宅すると、寝ている子どもたちにキスをして布団をかけた後、シャワーを浴びます。体には生傷が絶えず、顔面は大きく腫れていました。

そのうえ、スティーブがトイレに行くと、血尿までが出ていました。

あくる朝、妻マリオンが顔の手当てをしていると、娘オロールが「試合見に行っていい?」と何度もせがみますが、スティーブはダメだという告げます。

スティーブのファイトマネーだけでは生活ができず、マリオンの美容師としての稼ぎと、スティーブ自身がレストランで働くことで何とか家計を支えていたのです。

ある日、ボクシングの練習の後にスティーブは、娘オロールが通っていたピアノ教室に迎えにいきました。

先生に「ピアノにできるだけ触れることが一番の上達法です」と言われ、さらに娘オロールの「国立高等音楽院に行きたい」という夢を初めて知ります。

ピアノの授業料も滞納し、他の請求書も溜まっていましたが、それでもスティーブはピアノを買うことを決心します。

そんな時、ボクシングの練習場にチャンピオンのタレクが欧州王座を賭けた試合のために、担当者がスパーリングパートナーを探しにやってきます。

スティーブは全く声もかけられませんでしたが、帰りの車を待ち伏せをすると自ら志願しました。

担当者に「ボコボコにされるだけだ」とスティーブは言われますが、打たれ強いのが自分の良さだと押し通して契約すると、スティーブは良い仕事が決まったと家族とディナーに出掛けます。

しかし、その仕事内容がチャンピオンのスパーリングパートナーだと知ったマリオンに「試合より危険なスパーリングパートナーはやらないと約束してたしょ!」と言い返され、猛反対されます。

マリオンの猛反対を聞き入れず、スティーブはスパーリングパートナーの仕事に向かいました。

以下、『負け犬の美学』ネタバレ・結末の記載がございます。『負け犬の美学』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
スパーリングに向かったスティーブを待ち構えていた場所は、ラグジュアリーな高級ホテルでした。

カジノを通り抜けるとその先にリングがありました。

スティーブは自分が練習している汚いジムとのあまりの落差に躊躇っている中、スパーリングパートナーに選ばれたボクサーたちは、次々と輝かしい戦績を語っていました。

彼は気後れしながらも、何とか初日のスパーリングパートナーを終えますが、チャンピオンのタレクやスタッフにポンコツ呼ばわりされ、すぐに仕事をクビになってしまいます。

翌朝、スティーブはまだ薄暗い早朝にもかかわらず、ホテルの前でタレクを待ち伏せしていました。

ロードワークに出るタレクの後をスティーブが追いかけると、「どういうつもりだ?」と訝しがるタレク。

後を付いて走っているだけでも、ヘトヘトになっているスティーブは「生活がかかっている」と告げます。

それでもタレクは「サンドバックなら間に合っている」と冷たく遇らいます。

スティーブはタレクに無いものを自分は持っていると食い下がります。

それはKO負けの恐怖を乗り越えたこその経験で、タレクにそのことの重要性を伝えることができることを説得します。

そんなことがあって、スパーリングパートナーとしての仕事が繋がったものの、相変わらずスパーリングはボコボコにされる毎日のスティーブでした。

ある日タレクの作戦ミーティングが開かれ、相手の攻めパターンを研究し戦法を変えることをトレーナーが話した時に、スティーブが「それも全て読まれているから、タレクは今のままでいい」と異議を唱えます。

トレーナーは「負け犬は黙ってろ!」とスティーブを罵倒します。

その夜タレクの部屋にスティーブは訪れ、タレクに秘策を授け、二人は通じ合ったのか優しく目を合わせ、スティーブは帰途に着きます。

やがて、タレクの練習公開日がやってきました。その観客席に娘オロールの姿があります。

観客が大入りしていることで気合の入ったタレクは、二番目のスパーリング相手にスティーブを指名します。

「勇敢な良いボクサーだ」とタレクはスティーブを観客に紹介するものの、「試合が始まる前にヘッドギアは不要、1ラウンドで決着をつける」と興奮して宣言。

面白いように翻弄され滅多打ちにされるスティーブを見守る娘オロールでしたが、観客は大喜びしてスティーブに野次を飛ばしながら笑っている状況に居た堪れず、彼女は外にとび出しました。

ある日、スパーリングの後にカジノの横をスティーブが通り過ぎようとすると、奥にいたタレクに声を掛けられ「前座試合に出ないか」と言われました。

タレクが今までお世話になった気持ちだと告げたのです。

それはスティーブにとっては50試合目、つまりは妻マリオンと引退を約束した最後の試合となります。

その日からスティーブは黙々と練習を続け、お世話になったトレーナーにも相談にも行きました。

その後、娘オロール試合を観に行かないと言われ、スティーブは理由を尋ねると、「お父さんを笑う人が許せない、お父さんが好きだから……」と娘オロールは父親スティーブに語ります。

やがて、試合の当日にマリオンは「今日だけは絶対買ってね」と、スティーブに伝えます。

マリオンがリングを見守る中、スティーブの最終選が始まります…。

試合を終えたスティーブが自宅に帰宅。娘オロールのベットで彼女と話します。

「勝ったの?」と尋ねた娘オロールを笑顔で抱きしめるスティーブ。試合の勝敗を越え、何も語らずも父娘は互いの心を感じ合いました。

それから、ピアノの発表会でオロールが、ショパンの「ノクターン」を弾いています。

その観客席には、あのタレクの姿がありました。一方で父親スティーブは舞台裏で終わるまで静かに娘を見守ってました。

映画『負け犬の美学』の感想と評価


(C)2016 – UNITE DE PRODUCTION – EUROPACORP

本作の冒頭から観てられないほどリアルな映像。それはスティーブの痛々しくて、傷だらけで、顔面が腫れ上がっている姿に表れています。

彼の鏡に映った自分を見つめるその切ない瞳やトイレの夥しいほどの血尿が次々に観客の脳裏に焼き付きます。

スティーブは40代半ばで、48戦13勝3分32敗のロートルボクサーで、試合の後に無言で会場の外でタバコを吹かしながら項垂れています。

警備員にも不審者扱いされ、選手だと何度も言うのに、IDカード見せろと全く相手にされません。

ここまでして、なぜ戦うのか。これこそが本作『負け犬の美学』の真骨頂といえるでしょう。

物語が進むに連れ、徐々にスティーブの生活ぶりや家庭の事情が見えてはきますが、それでも兎にも角にもボクシングを愛しているのでしょう。

この作品では、スティーブ自身がボクシングするなかで、弱音や愚痴を漏らす様子はが全くありません。

むしろ娘や弟に、嬉しそうにボクシングを教えている姿だけが何度も描かれ、目に焼き付きます。

スティーブの家にはサンドバックが釣られてあったり、彼は負けて帰ってきても必ずボクシングのパンツを洗濯機で回し、丁寧にグローブの手入れをします。

そのほか、スパーリングの順番を待っている時でさえ、縄とびを黙々と跳んでいる姿も印象的で、彼の全てを物語っているようでした。

そんなスティーブの姿を見ている娘オロールは、言葉を交わさなくても父親同様に、ピアノにのめり込むのは好きな夢を追いかけることの素晴らしさを感じ取っているのでしょう。


(C)2016 – UNITE DE PRODUCTION – EUROPACORP

そして何より、スティーブ妻であるマリオンは、強くて美しい女性です。

彼女の心が美しく感じられるのは、危険なスパーリングを許さないと主張したのにも関わらず、最後の試合では周囲を全く気にせず、何度も飛び上がって「スティーブ!」と叫びながら応援しています。

そんな彼女がありったけの笑顔でスティーブに駆け寄る姿が圧倒的でとても魅力に溢れています。

それはスティーブも本気で頑張ります。

ひとつのことに打ち込む夫とその妻、そして娘の姿を通して家族の絆の深さを感じさせてくれる作品です。

まとめ


(C)2016 – UNITE DE PRODUCTION – EUROPACORP

最後の試合が終わって帰ってきたスティーブが、ベットで寝ている娘オロールに駆け寄る場面は、とても胸にしみる演出でした。

「勝った?」と娘オロールが聞く前に、もう彼女は何もかも分かっているような表情を見せています。

スクリーンを見つめる観客もスティーブと同じ気持ちになって、娘オロールの天使のような笑顔が素敵な瞬間です。

あの一瞬を観るための映画と言っても過言ではない、美しいショットです。

スティーブは父親として、夢を諦めずに続けて行くことが大切であり、人として素晴らしい生き方だという意志を最後の試合までの自分の姿で体現して見せました。

だからこそ娘オロールは、ラストシーンでピアノを弾いていますが、そんな彼女もいかなる困難があったとしても、きっといつまでも夢を諦めずに弾き続けていくのでしょう。

幾つになっても夢を追いかける姿は、身体が痛々しいかろうが、他人に嘲笑わえれようが、尊いものだと感じることができる作品です。

そのことが観客に夢を持ち続けることの意味を問いかけてくれるのでしょう。

娘オロールの今にも止まりそうでありながら、健気に弾く「ノクターン」を聴くと、きっと、誰もがそう思うに違いありません。

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