ヘプバーンの新たな魅力が光る珠玉の名作!
作家トルーマン・カポーティの同名小説を映画化した、女優オードリー・ヘプバーン主演のラブストーリー映画『ティファニーで朝食を』。
当時「清純派女優」として人気を博していたヘプバーンが、都会に暮らすコールガールの主人公ホリーを演じたことで、これまでの映画の価値観を変えた1作として知られています。
監督はブレイク・エドワーズ。ヘンリー・マンシーニが生み出した主題歌『ムーン・リバー』も大ヒットしました。
軍隊から戻ってくる兄のために、富豪との結婚で金持ちになることを夢見るコールガールのホリー。彼女はやがて、兄の面影を感じられる売れない作家ポールに心を開いていきます。
孤独で不遇なヒロインが見つけた真実の愛とは、どんなものだったのでしょうか。不朽の名作『ティファニーで朝食を』の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『ティファニーで朝食を』の作品情報
【公開】
1961年(アメリカ映画)
【原作】
トルーマン・カポーティ
【監督】
ブレイク・エドワーズ
【脚本】
ジョージ・アクセルロッド
【キャスト】
オードリー・ヘプバーン、ジョージ・ペパード、パトリシア・ニール、バディ・イプセン、マーティン・バルサム、ミッキー・ルーニー
【作品概要】
トルーマン・カポーティの同名小説を原作に、ブレイク・エドワーズ監督が映画化した不朽のラブストーリー。ロマンティック・コメディながらも、ヒロインの奥深い心の傷を描くヒューマンドラマとしての魅力も秘めた1作です。
『ローマの休日』(1953)『麗しのサブリナ』(1954)などに出演し、当時は清純派女優として知られていたオードリー・ヘプバーンが、コールガールの不遇な主人公ホリーを演じています。
ジョージ・ペパード、パトリシア・ニールが共演。ヘンリー・マンシーニが作曲した主題歌「ムーン・リバー」は世界的名曲として愛され続けています。
映画『ティファニーで朝食を』のあらすじとネタバレ
高級宝石店「ティファニー」のショーウィンドウの前でデニッシュを頬張る、ドレスアップしたコールガールのホリー・ゴライトリー。
アパートで猫と暮らす彼女は「すぐに失くしてしまう」という理由でアパートの鍵を自分で持たず、住人をベルで起こして鍵を開けさせるなど、自由奔放な性格の持ち主でした。
そんな彼女のアパートに、作家のポールが引っ越してきます。彼は数年前に出版して以来、長く筆をとっていませんでした。また自身のパトロンであり、夫のある身である女性「2E」と愛人関係にありました。
電話を借りにきたポールに、ホリーはティファニーの素晴らしさを話して聞かせます。ところが、彼から今日が木曜だと聞いたホリーは慌てて身支度を始めます。
彼女は毎週木曜、刑務所にいるマフィアのサリー・トマトに会いに行き、彼の話す「天気予報」をある弁護士に伝えることで、大きな報酬を受け取るというグレーな仕事を引き受けていました。
その晩、酔った男に自室まで押しかけられたホリーは、ポールの部屋に逃げ込みました。彼女は、彼が自分の兄にどこか似ているのを理由に「フレッド」と呼ぶようになります。
明け方、彼女は彼の隣で子猫のように眠りました。しかし、眠りについた彼女は怯えた様子で「フレッド」の名を呼んで泣き始めます。どうして泣くのか聞くポールに、ホリーは「おせっかいはやめて」と部屋を飛び出しました。
翌日、ポールはホリーの部屋で開かれた大勢が集うパーティーに招かれます。そしてホリーから、芸能プロのO・J・バーマンを紹介されました。
しかし、大騒ぎに怒った上階の住人が警察を呼んだことに気づき、ポールはいち早く逃げ出します。ホリーは大富豪のラスティと外出した後でした。
ある日、ポールはホリーと一緒に刑務所のサリーに会いに行きます。ホリーはいつも通り、弁護士に伝えるための「天気予報」を聞きました。
その後、小説を書き始めたポールは、窓辺でホリーがギターを弾きながら歌う声に聴き惚れます。そこに2Eがポールの部屋を怯えた様子で訪れ、「表に立っている男は、夫が監視に寄越した人物かもしれない」と話します。
相手が誰なのかを確かめるために外に出たポールを、その謎の男は追い始めました。
映画『ティファニーで朝食を』の感想と評価
飼い猫に名前をつけられないホリー
オードリー・ヘプバーン演じる猫と暮らす自由奔放なコールガールのホリーと、売れない作家のポールの恋を描くラブストーリー映画の名作です。
ヒロインのホリーは猫をかわいがりながらも、決して名前をつけようとはしませんでした。後にその深い理由が明らかとなります。
彼女には不幸な生い立ち故に14歳という若さで、4人の子持ちの年上の獣医と結婚した過去がありました。夫に傷を治してもらった動物たちが皆自然界へと逃げてゆくのと同じように、成長したホリーもまた、夫から逃げて単身でニューヨークへやって来たのです。
彼女の心の拠り所は、高給宝石店「ティファニー」と、軍隊にいる兄フレッドの存在でした。兄を迎え入れるためにわが身を売って金を稼いで暮らすホリーは、兄に似た面差しを持つポールに心を開くようになります。
初めて出会った晩からポールのベッドで眠るホリーですが、そこに性的な空気はまったくありません。彼女は本当の兄に甘えるかのように、彼の隣で猫のように丸まって安心しきって眠ります。しかし、すぐに悪夢にうなされて目覚めるのでした。
兄のためだけを思って常に金持ちの男性を狙ってきたホリーは、ポールへの恋心に背を向けようとします。何度もポールから愛を告白されても、ホリーは頑なに拒み続けました。
自分は「ホリー」でも「ルラメー」でもなく、猫と同じただの「名無し」で、誰のものにもなりたくないと言うホリー。それは、彼女の孤独な魂が、自分を守るための必死の叫び声でもありました。
興奮したホリーは、大雨の降りしきる街に、猫を解き放ってしまいます。
ホリーは、自分が誰かにとっての「大切なたったひとり」になることをひどく恐れていました。猫に名をつけなかったのも、猫が自分にとっての特別な存在になってしまうことを恐れていたからです。
兄のフレッドが事故死して大きなショックを受けたのも、人生への恐怖に拍車をかけていました。愛すれば愛するほど、彼女は臆病にならずにはいられなかったのです。
ティファニーで刻印してもらったおもちゃの指輪をポールから渡されたホリーは、「本物」とは何であるかに気づかされます。そこには、ポールの真実の愛がありました。
雨の中必死でホリーが見つけ出したのは、かけがえのない彼女の飼い猫であると同時に、ポールを心から愛する自分自身の姿だったに違いありません。
陰と陽を演じ分けるヘプバーンの魅力
ドレスアップしたヘップバーンが、ティファニーのショーウィンドウの前でデニッシュをかじる、あまりにも有名な場面から映画は始まります。
この場面こそが、本作のイメージを確固たるものにしたと言えるでしょう。小鹿のように敏捷な細い体のホリーは、素晴らしく魅力的です。
また、その後描かれるさまざまな衣装をキュートに着こなすヘプバーンの姿も、本作の大きな見どころとなっています。
自分ではアパートの鍵を持たずにベルを鳴らして住人に開けさせたり、ポールの家の植木に酒をやったり、自室に大勢招いてパーティーを開いたりと、どこまでも自由奔放なホリー。
その反面、不幸な生い立ちから14歳で結婚させられ、その後夫ドクのもとを逃げ出してきたという悲しい過去を持ちます。
彼女はニューヨークでコールガールとして生計を立て、刑務所のマフィアに関わるという仕事にも手を出すなど、決して上品とはいえない生活をしていますが、性的な匂いを一切感じさせないのはヘップバーンの持つ清潔感ならではと言えるでしょう。
パーティーのドタバタ騒ぎや、ポールの小説が売れたお祝いでティファニーを訪れる場面、ストアでチープなお面を万引きする場面など、ロマンティックコメディならではのコミカルな描写も魅力的です。
その一方で、ギターを手に名曲『ムーンリバー』をホリーが歌う場面では、彼女の内に秘めた悲しみや孤独が映し出されています。金のために裕福な夫人の愛人をしてきたポールは、ホリーの深い孤独と純粋な魂に気づきます。
そしてホリーも、本当に愛していたのはお金ではなく、お菓子のおまけの指輪を大事にするポールの純粋さや、その指輪に10ドルで文字を彫ってくれるティファニーの心意気など、目には見えないものばかりでした。
大雨の中でずぶ濡れになって猫を探すラストシーンでは、当初は悲しみの涙のように感じられた雨が、いつしか歓喜の雨へと変わります。喪失の悲しみから本物を見つけた喜びに変わるホリーの表情の変化は見事です。
雨の中で生まれ変わったホリーの輝きは、ヘプバーンにしか出せないものだったと言えるでしょう。この輝きあってこそ、この映画が不朽の名作となり得たに違いありません。
まとめ
オードリー・ヘプバーンの新たな魅力が解き放たれた名作『ティファニーで朝食を』。
ひとりの女性のリアルな苦悩と、真実の愛にたどり着くまでの軌跡が丁寧に描かれ、今なお世界中で愛され続ける1作です。
さまざまなスタイルを着こなすファッションアイコンとしてのヘプバーンの魅力とともに、彼女の深い演技力と内面性に魅了されます。
ホリーの孤独な魂が真実の愛に出会うラストには、誰もが胸揺さぶられることでしょう。勇気を出して素直に愛に飛びこむことでしか、人が幸せになれる方法はないのかもしれません。