同じ悩みを抱える2人が出会う放課後青春劇
生命活動を維持し、心身ともに健康を保つために必須である「睡眠」。
しかし、時にさまざまな悩みや環境の問題によって眠りに着くことが出来ないこともあります。
今回は、寝るべき時間に眠れない「不眠症(インソムニア)」を抱える高校生の男女が、同じ悩みを持つ人間に出会い眠れない放課後を繰り返していく映画『放課後インソムニア』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『君は放課後インソムニア』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
池田千尋
【脚本】
髙橋泉、池田千尋
【キャスト】
森七菜、奥平大兼、桜井ユキ、萩原みのり、工藤遥、田畑智子、斉藤陽一郎、上村海成、安斉星来、永瀬莉子、川﨑帆々花、でんでん、MEGUMI、萩原聖人
【作品概要】
オジロマコトによる同名漫画を『スタートアップ・ガールズ』(2019)の池田千尋が実写映画化した作品。
主人公の中見丸太を『MOTHER マザー』(2020)の奥平大兼が演じ、もう一人の主人公となる曲伊咲を『ライアー×ライアー』(2021)の森七菜が演じました。
映画『君は放課後インソムニア』のあらすじとネタバレ
九曜高校に通う中見丸太は夜に眠ることのできない「不眠症」を患っていました。
夜に眠れない反動で昼間に睡魔が襲うため、常にイライラしている丸太はクラスに馴染むことができず、幼馴染であり丸太の不眠症を知る受川を除いて友人と言える相手はいませんでした。
中でも同じクラスのモトコは丸太を嫌っており、隅で寝て掃除をサボる丸太にモトコは屋上にある「天文台」から脚立を取ってくるように命じます。
幽霊が出ると噂され誰も近寄らない「天文台」に足を踏み入れた丸太は、隠れ家のような場所に惹かれると同時に横になっていた同じクラスの曲伊咲と遭遇。
明るく友人の多い伊咲でしたが、実は丸太と同じく不眠症を患っており、昼休みや空き時間に「天文台」に忍び込み寝るのを習慣としていて、幽霊の噂も彼女が流したものでした。
鍵のトラブルから外に出られなくなった2人は話しているうちに少しの間寝てしまい、同じ悩みを抱える丸太と伊咲は親近感を覚えました。
伊咲に誘われ数日後に「天文台」を訪れた丸太は眠れない日々を有意義に過ごすために、2人で「天文台」を根城にして楽しい夜を過ごすことを計画し実行に移します。
しかし、「天文台」の設備を稼働させていることを養護教諭の倉敷に見咎められた丸太は、倉敷に自分たちの不眠症を打ち明け逃げ場を求めていることを告げると、5年前に廃部となった「天文部」を復活させることで「天文台」の使用許可を得る提案をされます。
居場所を守るために提案を受け入れた2人は「天文部」としての実績を作るために、5年前にたったひとりで「天文部」を存続させたOGの白丸を訪ねました。
白丸は実績として認められやすい、学生や一般人を招く「観望会」や「星の写真コンテスト」を紹介し、丸太にカメラを勉強するように勧めます。
丸太は父親に買ってもらいながらも全く使用していなかったカメラを使い、夜の寝れない時間に勉強を続け徐々にカメラの知識をつけていきました。
同時に丸太と伊咲は8月の「ペルセウス流星群」の鑑賞を目的とした「観望会」を開催することに決め、丸太は自身が先導して受川や自身を嫌うモトコを始めとした伊咲の友人たちに頭を下げて「観望会」への協力を要請。
丸太の熱意によって協力を受け入れたモトコたちは「観望会」に向けて準備を進めますが、「観望会」の当日は大雨となり「観望会」は中止になってしまいます。
大雨の中、傘も刺さずに街中に配ったポスターを回収する丸太に寄り添う伊咲は自身の不眠症の理由を話しました。
映画『君は放課後インソムニア』の感想と評価
「普通じゃない」と思われることを恐れるふたり
夜の仕事や早朝の仕事など、社会人になると自身の生活スタイルに合わせてある程度の自由が効くようになります。
その一方で、特殊な事情がない限り学生時代は最も周囲と同じであることを強制される期間であり、それぞれの事情によって学校生活は苦しいものとなってしまうこともあります。
「不眠症(インソムニア)」を患う少年少女の物語を描いた本作は、「周囲の人間と違う」と思われることを恐れ自分を苦しめながら生きているふたりを主人公にしていました。
奇異な目で見られることを嫌い事情をさらけ出すことが出来ないふたりが出会う、同じ悩みを持った人間。
世界に絶望するふたりが希望を見出していく心境の変化が繊細に描かれている作品でした。
「眠る」が先にある恋愛物語
常にイライラしているため同級生の中でも浮いた存在である丸太は、「天文台」で出会った友達の多い陽気な伊咲に気に入られ、恐るべき速さで距離を縮めていきます。
物語だけを追うと違和感もあるほどの展開ではありますが、ふたりが「不眠症」持ちでありながら「うたた寝」をしてしまったシーンがこの展開に説得力を持たせていました。
それぞれの「不眠症」はある不安によって生まれたものであり、どんなことをしてもその不安は解消することが出来ていません。
しかし、「不眠症」を告白したお互いの存在によって一瞬だけでも「眠れた」ふたりが距離を縮めていくことは何の違和感もなく、「眠る」が先にあることで展開される独特な恋愛物語となっていました。
まとめ
暗く怖いイメージのある「夜」と言う時間が、「星」の存在によって希望に溢れた時間へと変わっていく。
夜に眠れない「不眠症」の持つマイナスの点が、徐々に夜に眠れないことが武器になっていく。
そんな見方の変化を物語の随所に散りばめた映画『君は放課後インソムニア』。
本作は見方を変えることの大切さや、悩みを共有できる相手の大切さを再確認させられる心温まる作品でした。