ホラー映画の金字塔「ハロウィン」シリーズ、45年越しの最終章
1978年にシリーズ1作目が公開され、現在も根強い人気を持つホラー映画『ハロウィン』。
その正当なシリーズの続編にして、45年越しの“最終章”となった作品が『ハロウィン THE END』です。
『ハロウィン THE END』は「ブギーマン」こと殺人鬼マイケル・マイヤーズと、ローリーの因縁の戦いに終止符が打たれる本作。しかし本作では「何故、怪物が誕生したか?」という部分が重点的に描かれており、それは「人間の闇」とも呼べるものでした。
シリーズを重ねるごとに奥深い作品に進化していく新生「ハロウィン」3部作は、果たしてどのような結末を迎えるのでしょうか?
CONTENTS
映画『ハロウィン THE END』の作品情報
【日本公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
Halloween Ends
【監督・脚本】
デビッド・ゴードン・グリーン
【共同脚本】
ポール・ブラッド・ローガン、クリス・ベルニエ、ダニー・マクブライド
【キャスト】
ジェイミー・リー・カーティス、アンディ・マティチャック、ジェームズ・ジュード・コートニー、ウィル・パットン、ローハン・キャンベル、カイル・リチャーズ
【作品概要】
殺人鬼「ブギーマン」によるハロウィンの夜の惨劇を描いた「ハロウィン」シリーズ。本作は、1978年製作の『ハロウィン』の40年後を描いた正当な続編『ハロウィン』(2018)と『ハロウィンKILLS』(2021)に続くシリーズ最終章です。
殺人鬼「ブギーマン」ことマイケル・マイヤーズとの戦いを繰り広げるローリー役は、1978年版『ハロウィン』でも彼女を演じたジェイミー・リー・カーティスが続投。近年では『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で第95回アカデミー賞・助演女優賞を受賞しています。
またローリーの孫娘であり新生「ハロウィン」3部作の実質的な本作の主役であるアリソンを、前2作に続きアンディ・マティチャックが演じています。
監督と脚本を務めたデビッド・ゴードン・グリーンは、『セルフィッシュ・サマー ホントの自分に向き合う旅』(2013)でベルリン国際映画祭・銀熊賞(監督賞)を受賞した実力派。2018年版からの新生「ハロウィン」3部作を全て手がけています。
映画『ハロウィン THE END』のあらすじとネタバレ
ハドンフィールドに舞い戻り、街を恐怖のどん底に陥れた殺人鬼「ブギーマン」ことマイケル・マイヤーズ。
マイケルと40年越しの戦いを繰り広げたローリーですが、娘のカレンがマイケルの餌食となり、命を落としてしまいました。その後、マイケルは突如姿を消し、ハドンフィールドに残されていたマイケルの生家も取り壊されます。
それから4年の月日が経ち、ローリーは孫娘のアリソンと暮らすように。マイケルが姿を消し、落ち着いた生活を取り戻したローリーは、マイケルとの回顧録を執筆することで自身の過去から解放されようとしていました。
しかし、マイケルは姿を消したものの、ハドンフィールドの住人の心の中からマイケルの恐怖は消えていません。ローリーは「マイケルを挑発し、街に恐怖をもたらした危険人物」として非難を受けていました。
ローリーの影響によりアリソンまでも特別な目で見られてしまい、男性が寄りつこうとしません。アリソンの今後を、ローリーは心配していました。
ある時ローリーは、不良少年に暴行を受けていたコーリーという青年と知り合います。
コーリーは3年前、ベビーシッターの仕事中に子守りをしていた少年を事故で殺してしまったという、暗い過去を背負っていました。
判決は無罪でしたが、街中から非難の目を向けられ「サイコパス」と呼ばれていました。しかし現在は真面目に自動車の修理工場で働いており、街の人の中には「コーリーはいい奴」と評価する声もあります。
不良少年に絡まれ手を怪我したコーリーを、ローリーはアリソンが勤務する病院に連れて行き二人を引き合わせます。
街の住人から非難の目を向けられるつらさを知っているアリソンは、コーリーの苦しさを理解し、力になろうとします。最初は拒否をしていたコーリーも、アリソンの優しさに触れ、次第に心を開くようになります。
そして迎えた、10月31日。アリソンはコーリーをハロウィンパーティーに誘います。ですが、そこで待っていたのは、コーリーを責める非難の目でした。
耐えられなくなったコーリーは、逃げるようにパーティー会場を後にします。アリソンは彼を追いかけますが、コーリーは「だから来たくなかった」とアリソンを置いて帰ります。
その帰り道、コーリーは以前自分を襲った不良少年テリーのグループと遭遇。コーリーはテリーのグループから再び暴行を受け、さらに橋の上から落とされます。
テリーたちが去った後に意識を取り戻したコーリーは、逃げるように下水道の中に入っていきます。そこに現れたのは、姿を消したはずの「ブギーマン」マイケル・マイヤーズでした。
映画『ハロウィン THE END』感想と評価
新生「ハロウィン」3部作の最終章
2018年に「40年ぶりの正当な続編」として製作された『ハロウィン』。マイケルの中の「ブギーマン」が復活し、再びハドンフィールドで惨劇が繰り返されるという内容でした。
2018年版『ハロウィン』は、街に戻ったマイケルが連続殺人を繰り広げる様子を長回しで見せるなど、古臭さを感じない「現代向け」にアップデートされた演出が印象的でした。
そして、2021年に公開された続編の『ハロウィンKILLS』。
2018年版『ハロウィン』のラストから数時間後の物語を描いた同作は、これまで「不死身だけど、少し強いぐらい」という印象だったマイケルが、武器を持った大人数人がかりでも勝てない程の文字通りの「怪物」になっていたという、前作の恐怖を何倍にも増幅させ、エスカレートさせた作品でした。
特に『ハロウィンKILLS』では、マイケルの恐怖に耐えられなくなったハドンフィールドの住人が「マイケル探し」を行い、関係のない人間を殺してしまうという群集心理の恐怖を描いているのも印象的です。
そしてラストでは、「ローリーの娘カレンがマイケルに殺されてしまう」というショッキングな結末を迎えます。
『ハロウィン』でエンジンがかかり、『ハロウィンKILLS』でアクセル全開にスピードアップした新生「ハロウィン」3部作。
そして、マイケルとローリーの決着を描く最終章『ハロウィン THE END』は、『ハロウィンKILLS』の4年後の物語を描き出しました。
「“街そのもの”が生み出す悪」との決着
また『ハロウィン THE END』では、本作から新たに登場したコーリーという青年が物語の中心となります。実は本作は、暗い過去に苦しんでいる青年コーリーが、新たな「ブギーマン」となるまでの物語でもあるのです。
不慮の事故により、ベビーシッターの仕事中に子どもを殺してしまったコーリー。彼は自分の人生をやり直そうとしますが、街の住人たちは「サイコパス」と呼び、コーリーを「異質の存在」として扱い続けます。
また街のためにマイケルと戦ったローリーも「フリーク(変人)」と呼ばれ、コーリーと同じように非難の目に晒されていました。
それは『ハロウィンKILLS』に続く「群集心理の恐ろしさ」であり、マイケルの恐怖に耐えられなくなったハドンフィールドの住人が「自分たちとは違う存在」を受け付けず、閉鎖的になってしまっている様を描いています。
そして『ハロウィン THE END』におけるマイケルは、「ハドンフィールドの根底に潜む悪」を象徴する存在として扱われています。
「恐怖によりヒステリックになってしまった群衆が、図らずも次の悪を生み出す」という構図。つまり、ハドンフィールドの住人の中から恐怖を消さない限り、新たな「ブギーマン」がいくらでも誕生することになります。
人間がいかに「ブギーマン」と化すかを描く一方で、『ハロウィン THE END』のクライマックスではローリーとマイケルの“完全決着”が描かれています。
『ハロウィンKILLS』では無敵に近い強さを見せたマイケルですが、『ハロウィン THE END』では急に衰弱しています。
姉との思い出がある生家が壊されたことが、あるいは第2の「ブギーマン」ことコーリーに自身が抱えていた悪意や憎悪を図らずも“継承”してしまったことが、マイケルの“力”を弱めてしまったのでしょうか。クライマックスでローリーに襲いかかるマイケルに、かつての恐怖がありません。
もしかすると、ローリーとマイケルの因縁が、時が経過したことにより“終わり”に近づいていることを表しているのではないでしょうか。
クライマックスでマイケルを倒したローリーは、街の住人の前でマイケルを粉々にしたことにより、本当の意味で恐怖から解放させます。
「殺人鬼による恐怖」「ヒステリックな群衆による恐怖」「人の心に潜む怪物の部分の恐怖」とさまざまな恐怖を現してきた、新たな「ハロウィン」3部作ですが、マイケルの消滅によって完璧な結末を迎えたと言えるのではないでしょうか?
まとめ
完璧な形で終わりを迎えた『ハロウィン THE END』。
ただ、正直なところ『ハロウィンKILLS』で一気に加速した印象があったので、この勢いのまま『ハロウィン THE END』に突入してほしかった部分もあります。
最終章というより「後日談」のような落ち着いた作風になったのは、少し残念でした。
しかし2018年から始まった「ハロウィン」3部作は、殺人鬼がただただ人を殺すだけの映画ではなく、人間ドラマを内面までキッチリ描いており、かなり完成度は高いです。
シリーズ最終章だけあって、『ハロウィン THE END』のクライマックスにおけるローリーとマイケルの最後の戦いは、4日かけて撮影されたそうです。
1978年版からローリーを演じたジェイミー・リー・カーティス自身も、「ブギーマン」マイケル・マイヤーズとの因縁を完全に終わらせた形になりました。
マイケルはその存在感からホラー映画の人気キャラクターですが、この完璧とも呼べる完結編が製作された今後、彼の姿を観ることはもうないかもしれません。