殺人鬼VS検事の息詰まる対決を長澤まさみ×松山ケンイチで魅せる!
『ロストケア』は、連続殺人犯として逮捕された介護士と検事の対峙を描いた社会派サスペンスです。
松山ケンイチと長澤まさみが初共演を果たし、『そして、バトンは渡された』(2021)の前田哲が監督を務めました。
民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見され、死んだ所長が勤める介護センターに勤める献身的な介護士で、心優しい青年が犯人として浮上。女性検事は、事件の真相を探るべく動き出します……。
法の裁きのもと人の命の尊さを説く検事と、自らの体験から「殺人は本当の人助け」と語る殺人鬼との対決はどうなるのでしょう。
映画『ロスト・ケア』の結末をネタバレあらすじ有でご紹介します。
映画『ロストケア』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社文庫刊)
【監督】
前田哲
【脚本】
龍居由佳里、前田哲
【キャスト】
松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本明
【作品概要】
原作は葉真中顕の小説『ロスト・ケア』。監督を『そして、バトンは渡された』(2021)の前田哲が務め、『四月は君の嘘』の龍居由佳里と共同で本作の脚本を手がけました。
連続殺人犯として逮捕された介護士と検事の対峙を描いた社会派サスペンスであり、松山ケンイチと長澤まさみが初共演。鈴鹿央士、坂井真紀、柄本明らも顔を揃えました。
映画『ロストケア』のあらすじとネタバレ
検事・大友秀美(長澤まさみ)は小さなアパートの一つの部屋に駆けつけました。中はゴミ袋の山があちこちに積まれ、ゴミ屋敷と化しています。秀美は悪臭に鼻を押えつつも、人型にシミのできたベッドから袋に入れて運ばれる遺体を見つめました。
その頃、長野にある訪問介護センター「フォレスト八賀ケアセンター」に、斯波宗典(松山ケンイチ)は勤めていました。訪問介護士として優しくお年寄りに接し、毎日大忙しの日を送っています。
ある日、訪問介護をしている一人のお年寄りが亡くなりました。斯波は担当スタッフと一緒に通夜に行きました。
通夜に行った帰り、看護師の猪口真理子(峯村リエ)は「ポックリ逝ってくれて娘さん助かったよね」と亡くなったお年寄りの話をします。それに反して、見習いヘルパーの足立由紀(加藤菜津)は「そういう言い方はないと思います」と反論しました。
斯波はそんな由紀を無言で見つめていました。まだ若いはずの斯波の髪は、見事なごま塩頭。何かこれまでに、壮絶な苦労をしてきたというのでしょうか。
あまり自分のことを語らないが、訪問介護で訪れる家の人々にはとても優しい斯波。介護士としてとても優れていると、由紀は斯波に憧れています。
フォレスト八賀ケアセンターでは、訪れる介護宅が身寄りのない一人暮らしの老人が多いため、各家のマスターキーを預かっています。また訪問から帰るたびに、そのキーを事務所に返納することになっていました。
ある日、訪問介護で訪れる羽村の家で羽村老人と訪問介護センターの所長・団(井上肇)の死体が発見されました。
死体の発見者は羽村老人の娘・洋子(坂井真紀)。幼い子どもを抱えるシングルマザーで、一人暮らしの羽村の世話のため、パート勤めの傍らで父の様子を見に来たのです。
羽村老人はベッドの上で死んでいましたが、団は階段の下で倒れて死んでいました。マスターキーを使って羽村家に侵入し、泥棒をしようとしたところ、階段から転げ落ちたと見られます。結果、事件として警察が動き出し、大友秀美検事の元へ依頼がきました。
その後の調べで、金に困っていた団所長の近状が判明、やがて捜査線上に浮かんだのは、センターで働く介護士の青年・斯波宗典でした。
大友の取り調べに対し当初は黙秘をしていた斯波ですが、そのうちに「盗みはしていない。羽村老人の具合が心配だったので様子を見に行ったら、団所長が盗みをしている現場と遭遇したから止めようとし揉み合いになった」と話し出しました。
大友は斯波の話を実証すべく、彼の近辺を調べ始めます。その中で、長野県内の訪問介護センターの担当家族の死亡率を調べたところ、ひと際老人の死亡率が高い事業所がフォレスト八賀ケアセンターであることに気付きました。
さらに、助手の椎名(鈴鹿央士)に調べさせた勤務シフト表から、斯波の休日に限って老人の“不審な”死亡率が高いことも割り出しました。
映画『ロストケア』の感想と評価
「絆の呪縛からの解放」は殺人か、救済か?
映画『ロストケア』序盤、ある事件をきっかけに、訪問介護センターの担当するお年寄りたちが多数死んでいたことが判明しました。
認知症のお年寄りの世話が大変だからとか、この生活から逃げ出したいからとか、当事者が抱える悩みを代弁するかのように、都合よく死んでいたお年寄りたち。連続的な不可解な死を不審に思った検事・大友秀美が調べていくと、犯人として介護士の斯波宗典が捜査線上に浮上します。
対面で聴取をしていくうちに、斯波はついに自白します。「お年寄り42人を救った」と。
大友は「殺した」と言い、斯波は「救った」と答える。ここが、本作の最大のテーマでした。
介護で苦しむのは、介護される本人とその家族です。法的救済には大きな落とし穴があり、全ての人が救済を受けられるとは限りません。
また、介護をする家族にとって、介護は言葉では言い尽くせない苦労の連続です。中でも認知症となったお年寄りの場合は、食事・入浴・着替えなど日常生活の小さな行動も注意し続けなければならず、24時間見守らなくてはならないのです。
そして、介護士などによる手伝いがあって少しは休めたとしても、家族としての心のケアは誰も請け負うことができないのです。
また自分の父や母には、明らかに家族の「絆」があり、それは決して切れるものではありません。作中で斯波が語った通り、絆は「呪縛」なのです。
これは、介護に携わった方なら誰もが経験するであろう想いでしょう。認知症患者の家族は、症状が進みだんだんと壊れていく父や母を見るのはとてもつらい……かたや患者は、一時的に症状が落ち着いた時に、自分自身への怒りと嘆きを吐露します。
人を殺せば「殺人」ですが、本作の連続殺人は「殺人」と一言では片づけられず、介護からの救いは本当にあるのかと、鋭く問いかけます。
原作小説との違いは?
映画『ロストケア』と原作小説との違いの一つをあげるなら、やはり斯波と対峙する検事・大友が女性であることでしょう。
優秀な検事を務める大友。実は彼女も父とは何年も音信不通であり、母は介護付き老人ホームに入所しているという家庭の事情を抱えています。
そんな事情を隠したまま、大勢のお年寄りたちを殺めた殺人鬼・斯波と対峙します。しかし斯波は、「殺人鬼」と呼ぶには優し過ぎました。
政府が助けてくれないのなら、自分がこの苦しみから救ってあげよう……一連の真犯人である斯波の目線で物語を描きながらも、本作は女性検事の鋭い社会正義と、それに対し斯波が訴える“社会が掬い取るのできないどん底からの叫び”によって構成されています。
大友を演じる長澤まさみの気迫のこもった言葉を、ゆるりとした自然体で受け止める斯波役の松山ケンイチによる対峙の場面は見ものでした。
また原作では、大友の同級生・佐久間巧一朗、親の介護に苦しむ羽村洋子目線の話も含まれていますが、映画はあくまで「斯波がなぜこの事件を起こしたか」に焦点を置いています。
超高齢社会へと突入し10年以上が経った日本において、介護が抱える問題も山積みです。実際に心中や殺人事件もあり、本作では今後の介護の在り方を考えさせられました。
まとめ
連続殺人犯として逮捕された介護士と検事の対峙を描いた社会派サスペンス『ロストケア』。
もし実際に自身が介護と向き合うことになった時、人は「自分も斯波に救われほしい」と思うのでしょうか。それとも「やはり、斯波が行なったのは殺人だ」と思うのでしょうか。
しかし本作は、「殺す」「救う」の問題と同時に、「絆」という切れない絆を描いていることも忘れてはなりません。
斯波の認知症を患った父・正作が折った鶴の折り紙に書かれた言葉には、誰もが自身の家族との絆について改めて考えることになるはずです。