サスペンスの神様の鼓動58
見知らぬ死体が放置された部屋で、目を覚ました男が部屋からの脱出と事件の核心に迫る、韓国のシチュエーションスリラー『見知らぬ隣人』は、2023年4月14日(金)から「シネマート新宿」「シネマート心斎橋」ほかで公開。
自主製作の短編『Equalizer』(2015)と『Wait There』(2016)が海外映画祭で絶賛されている、新鋭の監督ヨム・ジホが「隣人トラブル」を題材にした『見知らぬ隣人』は、サスペンス映画ながら、コメディ要素の強い作品に仕上がっています。
本作の大半は、主人公のチャヌが目を覚ました、アパートの一室で展開されますが、次々に巻き起こるピンチの連続に加え、中盤以降の二転三転するストーリーが魅力の作品です。
CONTENTS
映画『見知らぬ隣人』のあらすじ
5回目の警察試験に挑む為、安アパートに下宿しながら、浪人生活を続けているチャヌ。
すでに30代になっているチャヌが、警察試験合格の可能性は低く、これまで支援を続けてきた母親にも、見捨てられています。
警察試験の受験申請期限が、次の日に迫っていたチャヌですが、これまで無駄使いを繰り返していたことで、受験に必要な費用が足りません。
さらに、隣の部屋の住人が毎日騒いでいる為、苛立ちを募らせているチャヌは、アパートの大家に、隣人を静かにさせるよう要求していました。
とにかく、試験を受ける為に受験費用を用意しないとならないチャヌは、友人に借金を申し出ます。
友人からは「金は貸すから、飲みに来い」と誘われ、チャヌは嫌々飲み屋へ出かけます。
チャヌの友人たちは、順風満帆な生活を送っており、まだ試験すら合格していないチャヌは引け目を感じています。
チャヌは「今は警察官をやっている」と嘘をつき、当初は飲む予定ではなかったお酒を飲みすぎ、泥酔してしまいます。
次の日、チャヌが目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなく、隣の住人の部屋でした。
さらに、床には見知らぬ男の死体が放置されています。
驚いたチャヌは、急いで部屋を出ますが、スマホを忘れたことに気付き、隣の部屋に戻ることになります。
再度の脱出を図ろうとしたチャヌですが、アパートの大家から連絡を受けたことで、部屋から出れなくなってしまいます。
サスペンスを構築する要素①「見知らぬ死体と部屋からの脱出」
『見知らぬ隣人』は、限定された空間で物語が展開される、いわゆる「ワンシチュエーションスリラー」です。
お酒を飲みすぎ、まともに記憶の無いチャヌが目を覚ましたのは、常に騒音トラブルに悩まされてきた隣の部屋でした。
さらに、床には男の死体が放置されています。
一度は、驚いた勢いで部屋から出たチャヌですが、スマホを忘れたことで戻らないとならなくなります。
「ワンシチュエーションスリラー」は、多くの作品が「どうやって、その状況から逃げ出すか?」が見どころになります。
高い場所だったり、地下室だったり、脱出する為の謎を解かないとならなかったりと、脱出不可能な状況が困難な程、面白くなるのが特徴です。
しかし『見知らぬ隣人』は、舞台となるのがチャヌが住んでいる部屋の隣で、しかも一度は簡単に脱出しています。
簡単に、自分の部屋へ戻れるように思えますが、この状況をややこしくしているのが、アパートの大家さんの存在です。
大家さんはチャヌのことを、非常に気にかけていて、親切にしてくれているのですが、その親切心がチャヌにとって、ややこしい状況を生み出すことになります。
さらに、二日酔いのチャヌは自身の記憶が曖昧になっており「隣人を殺したのは、自分かもしれない」と疑心暗鬼に陥ります。
誰にも気づかれずに、部屋の外に出ることが難しくなっただけでなく、自身の潔白を信じきれないチャヌ。
物理的にも精神的にも、脱出困難な状況が『見知らぬ隣人』最大の魅力となっています。
サスペンスを構築する要素②「タイムリミットは夕方18時」
訳も分からないまま、隣の部屋に閉じ込められたチャヌ。
チャヌは、5回目となる警察官試験を控えているのですが、まだ申し込みを済ませていません。
試験の受付期日は18時まで。
チャヌは、何があっても18時までに自分の部屋に戻り、試験の受付を終わらせないとなりません。
作中では、展開が進むたびに、現在の時刻が表示されます。
チャヌは無事に自分の部屋へ戻り、5回目の試験を受けられるのか?という「タイムリミットサスペンス」的な展開も、本作を盛り上げる要素となっています。
サスペンスを構築する要素③「全部の決断を間違える男チャヌの運命は?」
「閉じ込められた死体のある部屋」「迫る警察官試験の期日」と、チャヌはピンチの連続を迎えますが、ただ言ってしまえば、全部がチャヌの自業自得となっています。
そもそも、警察官試験に必要なお金すら残していないチャヌは、本作の冒頭からダメ人間っぷりを発揮しています。
1人暮らしで、親の援助を受けている立場なのに、本作の冒頭では、自炊をせずに出前を取って、出前の店員さんと顔馴染になってしまっている辺り、節約できない、だらしない人間性が分かる場面となっています。
試験1ヵ月前に、お酒を飲んで記憶が無くなるまで泥酔したことで、チャヌはピンチを迎えるのですが、その後も、事件の証拠を掴む為、独自に捜査を始め、部屋の中の物を素手で触りまくったり、死体の財布からお金を抜いたりと、凄まじいダメ人間っぷりを見せます。
さらに本作の中盤では、ある人物の登場により、展開が大きく変わります。
この人物の登場により、チャヌは部屋から出られなく理由が増えるのですが、この理由には呆れてしまう人もいるかもしれません。
中盤以降、誰もが「早く部屋から出ろよ!」「今、出れたじゃん!」とツッコミを入れたくなるでしょう。
本作において、話をややこしくしているのは、チャヌ本人なのです。
『見知らぬ隣人』は、サスペンス映画ですが、コメディ要素も強く、その大部分がチャヌのキャラクターにあります。
全てにおいて自爆を繰り返すチャヌは、事件の真相に無事に辿り着けるのでしょうか?
映画『見知らぬ隣人』まとめ
誰にとっても身近な要素となる、隣人とのトラブルを「ワンシチュエーションスリラー」で描いた『見知らぬ隣人』。
前半は部屋から抜け出す為に、奮闘するチャヌの姿と、チャヌの脳内で錯綜する、昨夜からの記憶が物語の主軸となります。
ですが、中盤からは事態は大きく変化し、誰を信じて良いのか分からない、疑惑が渦巻く展開となっていきます。
本作で描かれているのは、アパートの隣人とのトラブルで、誰でも身近に起きても不思議ではない出来事です。
さらに、チャヌのだらしない性格が、事態のややこしさに輪をかけています。
とは言え、あるトラブルに、完全に巻き込まれた形となった、チャヌはどのような結末を迎えるのでしょうか?
また、ラストも一瞬「え?」と戸惑ってしまいますが、伏線は張られていますので、そちらもお見逃しなく!