映画『Single8』は2023年3月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開!
平成ウルトラマンシリーズを手掛けてきた小中和哉監督が、自身の原点となる8ミリ映画作りに熱中した青春時代を題材とした自伝的作品『Single8』。
1978年を舞台に、当時日本で公開されたばかりの『スター・ウォーズ』に触発された主人公たちが8ミリ映画作りに没頭する青春の物語です。
2023年3月18日(土)からのユーロスペースでの劇場公開を記念し、Cinemarcheでは8ミリ映画に挑戦する本作の主人公・広志を演じた上村侑さんにインタビューを敢行。
ご自身の実体験を通じて知った「カメラ」の本当の価値、「映画を撮る人間」を演じられた中で気づくことのできた映画作りの一面など、貴重なお話を伺いました。
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世代を超えてつながる“映画への情熱”
──『Single8』の舞台は、小中和哉監督が高校時代を過ごした1978年の日本です。当時について、監督ご本人からどのようなお話をお聞きになっていたのでしょうか。
上村侑(以下、上村):撮影に入る前、小中監督が学生時代に撮られた8ミリ映画を観せてくださったんです。芝居の中で8ミリカメラをとり扱う前に、フィルムで撮った映像に実際に触れることができたのはとても幸運でした。
また僕はそれまで『スター・ウォーズ』を一作も観たことがなかったので、『Single8』への出演をきっかけに初めて観たんですが、「そこにいる」と強く感じさせるエイリアンや宇宙船の造形物としての豊かさに圧倒されました。
1970年代後期にここまで洗練されたセット美術が作り出され、それを最も有効的に映し出す撮影がフィルムによって行われていた。「リアルタイムで、当時の映画館で『スター・ウォーズ』を初めて観た方と同じくらい」は言い過ぎかもしれませんが、本当に衝撃でした。
上村:そうして実感できた感動をふまえた上で、社会現象にまでなった当時の『スター・ウォーズ』への衝撃や、それに触発されて小中監督が学んできた撮影技術などをお聞きできたので、自分も8ミリの特性を活かした撮影技法は徐々に感覚で分かるようになりました。
また撮影中、小中監督が8ミリカメラについて熱く語る瞬間があったんですが、監督の心が高校生の頃に戻っているように感じられたんです。その体験は、ほぼ監督本人と言っていい主人公を演じる上での参考になりましたし、世代差があるはずの監督と同じ目線で楽しみながら撮影に取り組めました。
カメラの“貴重さ”を知った実体験
──上村さんご自身も、SNSにてフィルムカメラで撮影した写真を定期的に投稿されています。フィルムカメラでの写真撮影は、いつ頃から行われるようになったのでしょうか。
上村:俳優業を始める前から、撮ることは日常的に行っていましたね。
ある時、大自然の中で水平線を見た際に「見渡す限りの視界が、本当に美しい」「今見た景色の全てを、何かに収めたい」と思ったことがあります。その瞬間、一番便利なのがカメラだと感じたんです。
母がもう使わなくなった、露出計の壊れたフィルムカメラを譲り受け、祖母の実家がある鹿児島の綺麗な景色などを、スマホで露光について調べながら撮り続けました。
失敗したらすぐ撮り直せるデジタルにはない一手間がかかっているので、「無駄にはできない」という思いの中で、とにかくこだわりながら撮りました。フィルムでの写真撮影の感慨深さは、カメラを手にした高校3年生の時に知りましたし、初めてカメラの貴重さが身に染みた瞬間でもありました。
“一コマ一コマに懸ける思い”を体感する
──「映画を撮る人間」を演じられた本作を経て、上村さんの中ではどのような俳優としての発見や“気づき”がありましたか。
上村:本作では撮影以外での映画の大変さや、映画を完成させるまでに必要な“持久力”など、一キャストとして演じているだけでは感じられなかったことも勉強させていただきました。
演じる人間は、カメラの前で芝居をし、カットがかかったらカメラの前から離れます。このわずかな時間でしか作品の中で生きられません。それに完成した映画に映っているのは、生きてはいない昔の自分だけです。
一方で監督を含むスタッフさんたちは、脚本を書き、それをどう撮影するかをロケ地を探し、見つけたロケ地によっては脚本を修正し、実際に撮影が終わったとしても素材を編集し続け……全ての工程を知ると、映画が完成するまでの道のりは本当に途方もないです。
こだわり始めたらキリがないし、かといって妥協したら自分自身が許せなくなる。そうした作品に対する思いは、広志を演じ続けるうちに共感が強まっていきました。
そして小中監督をはじめ、8ミリ映画を撮っていたスタッフさんたちが映画作りを楽しんでいる姿を目の当たりにしたことで、自分たちには絶対に理解し得ない領域だったはずの“一コマ一コマに懸ける思い”を、ほんのわずかですが体感することができました。
『Single8』に関わらせていただけたことで、これまでは見えていなかった部分にも想像力が働くようになったと感じています。俳優として、映画に関わる人間として、本当に貴重な経験を得ることができました。
インタビュー/タキザワレオ
撮影/藤咲千明
上村侑プロフィール
2002年11月2日生まれ。鹿児島県出身。
デビュー作『許された子どもたち』(2020)にて第75回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。
近年の出演作品には『ワタシの中の彼女』(2022)、『近江商人、走る!』(2022)などがある。
映画『Single8』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本】
小中和哉
【キャスト】
上村侑、髙石あかり、福澤希空(WATWING)、桑山隆太(WATWING)、川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol)、有森也実
【作品概要】
1970年代、8ミリ映画制作に情熱を燃やす若者たちを描いた青春の物語。『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(1999)など人気の平成ウルトラシリーズを手がけてきた小中和哉監督が、自身の青春期を題材に脚本を書き下ろしました。
主人公・広志を演じたのは、主演映画『許された子どもたち』(2020)で第75回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞した上村侑。
マドンナ・夏美役の『ベイビーわるきゅーれ』(2021)の髙石あかり、ホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループ「WATWING」で活躍する福澤希空・桑山隆太など、フレッシュな若手俳優たちが出演。
さらに川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐(lol)、有森也実と小中監督と縁のある個性派キャストが顔を揃えます。
映画『Single8』のあらすじ
1978年の夏。日本で公開された『スター・ウォーズ』に夢中になった高校生の広志は、友人の喜男と一緒に宇宙船のミニチュアを作り、8ミリカメラで撮影し始めました。
最初は宇宙船の撮影だけを考えていた広志でしたが、クラスでの文化祭の出し物会議にて、勢いで映画制作を提案してしまいます。お化け屋敷を提案した生徒から概要を教えるように迫られた広志たちは、次回のホームルームでストーリーを発表することになります。
広志は想いを寄せている夏美にヒロイン役を依頼しますが、あっさり断られてしまいます。彼女とクラスメイトたちを説得するために、広志は喜男、映画マニアの佐々木と一緒にシナリオ作りに取りかかりました。
フィルムを逆に回すリバーズ撮影機能を知ったことから、宇宙人が地球の時間を逆転して人類の進化をやり直させようとする「タイム・リバース」という物語が生まれます。
完成脚本を夏美に渡し、クラスメイトたちに熱く映画のストーリーを説明する広志。夏美はヒロインをやると返事をし……。