エッフェル塔の名前の由来にもなった創設者ギュスターヴ・エッフェルの知られざる愛の物語
パリのシンボル、エッフェル塔。その制作を手掛けたのは、ニューヨークの「自由の女神像」の制作に協力し、名声を得たギュスターヴ・エッフェルでした。
映画『エッフェル塔~創造者の愛~』はエッフェル塔の知られざる誕生秘話と、ある女性への秘められた恋を創作を元に描き出したラブストーリーです。
ギュスターヴ・エッフェルを演じたのは、『真夜中のピアニスト』(2005)でセザール賞にノミネートされたロマン・デュリス。アドリエンヌを演じたのは、『ナイル殺人事件』(2022)のエマ・マッキー。
資金難やストライキ、住民の反対などエッフェル塔の設立には数々の試練が立ちはだかります。数々の試練を前にギュスターヴ・エッフェルはどう立ち向かっていったのか。
「鉄の魔術師」と呼ばれたギュスターヴ・エッフェルの設計した見事な鉄の骨組み、設計方法を迫力満点で映画化しました。
映画『エッフェル塔~創造者の愛~』の作品情報
【日本公開】
2023年(フランス・ドイツ・ベルギー合作映画)
【原題】
EIFFEL
【監督】
マルタン・ブルブロン
【脚本】
カロリーヌ・ボングラン
【音楽】
アレクサンドル・デプラ
【編集】
ヴァレリー・ドゥセーヌ
【美術】
ステファン・タイヤッソン
【キャスト】
ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ
【作品概要】
エッフェル塔の名前の由来となりながら、その人となりについて語られてこなかったギュスターヴ・エッフェル。本作は初めて作られたギュスターヴ・エッフェルの伝記映画となります。
監督を務めたのは、短編映画『Sale hasard』(2004)で監督デビューし、その後もヒット作を生み出し、アレクサンドル・デュマの「三銃士」の映画化の監督に抜擢されたマルタン・ブルブロン。
ギュスターヴ・エッフェルを演じたのは、『真夜中のピアニスト』(2005)でセザール賞にノミネートされ、日本映画リメイク版『キャメラを止めるな!』(2022)などのロマン・デュリス。ギュスターヴ・エッフェルが忘れられない女性・アドリエンヌを好演したのは、『ナイル殺人事件』(2022)のエマ・マッキー。
その他のキャストは、『エタニティ 永遠の花たちへ』(2016)のピエール・ドゥラドンシャン、『燃ゆる女の肖像』(2019)アルマンド・ブーランジェなど。
映画『エッフェル塔~創造者の愛~』のあらすじとネタバレ
アメリカの自由の女神像の完成に協力したことで名声を獲得したギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス)。
モニュメントではなく、人々の役に立つメトロの設計を目指すギュスターヴ・エッフェルが、旧友の記者アントワーヌ・ド・レスタック(ピエール・ドゥラドンシャン)に頼み、大臣らが出席するパーティに参加し、メトロ設計の支援を頼もうとします。
しかし、その席で再会したのは、かつて亡き妻と出会う前に愛した女性・アドリエンヌ(エマ・マッキー)でした。アドリエンヌはアントワーヌの妻になっていました。
パーティの席で、「金持ちは馬車で移動できるけれど、労働者は移動手段がない、そのためにメトロが必要だ」と、エッフェルは大臣らに訴えますが、大臣らはあまり興味を示しません。
話題は、3年後の1889年に開催されるパリ万国博覧会の話になり、大臣らはエッフェルにパリ万国博覧会のシンボルモニュメント制作のコンクールへの参加を提案します。さらに、意見を求められたアドリエンヌが「大臣と同意見です。ぜひ見てみたい。野心作を」と発言します。
するとエッフェルは、「ブルジョワも労働者も楽しめように、パリの真ん中に300mの塔を全部金属で造る」と大胆な発言をし、会場の皆を驚かせます。帰り際にアドリエンヌが話しかけようとするとエッフェルは「再会したくなかった」と言います。
アントワーヌの前では黙っていましたが、2人は初対面ではありませんでした。2人は20年近く前の1860年ごろ、エッフェルが鉄橋の建設のために滞在していたボルドーで出会っていました。アドリエンヌはその地の有力者の娘であったのです。
資金削減で足場が不安定なため、川に転落した部下をエッフェルは川に飛び込んで助けます。その救出劇は街の多くの人が見物し、エッフェルはちょっとした話題になっていました。その場に居合わせたアドリエンヌはエッフェルに興味を持ち自身の誕生会に招待します。
誕生会に参加したエッフェルはアドリエンヌといい雰囲気になり、キスしようとしますが、顔を背けられてしまいます。労働者階級であるエッフェルは、ブルジョア階級のアドリエンヌにからかわれたと思い、素っ気なくします。そんなエッフェルにアドリエンヌは遊びではないと自分の気持ちを告げ、2人は恋仲になります。
結婚の約束までしていた2人でしたが、ある日アドリエンヌの家を訪れるとアドリエンヌの姿はなく、父親に娘はお前と結婚する気はない、遊ばれただけだと言われてしまいます。アドリエンヌとはそれっきりになっていました。
アドリエンヌとの日々を思い出しながらエッフェルは、塔の設計をし、パリ万国博覧会のコンテストに向け準備を始めます。
そして迎えたコンテストの日。エッフェルは審査員に向け、塔の設計や、設立方法などプレゼンしていきます。
セーヌ川も近く、土地が柔らかいのではないかという質問に対し、ボルドーでの鉄橋建設の経験から圧縮法を使えば問題ないと答えます。
それだけでなく雷に当たっても電気を流す仕組みや、風雨にさらされても倒れないようにデザインしたと言います。
審査員らとプレゼンを聞いていたアントワーヌは、エッフェルがボルドーにいたことを知り、妻の実家を知っているかと尋ねます。するとエッフェルは知らないと嘘をつきます。
見事コンテストで受賞したエッフェルは、祝賀会の場で踊るようにうながされると、アドリエンヌの元に向かい「踊ってくれませんか」を手を差し出します。アドリエンヌは夫アントワーヌの顔を伺い、エッフェルのダンスに応じます。
エッフェルはおさえていたアドリエンヌの気持ちがおさえられなくなっていきます。アドリエンヌに自分がいる宿の場所を教えますが、アドリエンヌは「夫がいるの」と退けます。
けれども、アドリエンヌ自身もエッフェルへの気持ちが大きくなっていました。
映画『エッフェル塔~創造者の愛~』の感想と評価
パリのシンボルであるエッフェル塔。しかし、そのエッフェル塔がいつ、何のために、誰が造ったのかはあまり知られていないのではないでしょうか。
エッフェル塔という名の通り、その塔の設計をし、建設の指揮をとっていたのはギュスターヴ・エッフェルという男性でした。そのエッフェルについてもあまり詳細は語られてきませんでした。
ギュスターヴ・エッフェルについて知られていることは少なく、事実を元にしながらも本作は、フィクションを織り交ぜ、建設にかけるエッフェルの情熱と、引き裂かれてしまった男女の切ない恋を描きました。
エッフェルとアドリエンヌの恋模様は殆どが創作によるものだとは思いますが、エッフェル塔の曲線美は確にAの形に似ており、女性的な印象も受けます。
エッフェル塔に込められたロマンティックな物語を展開すると同時に本作は、エッフェル塔の建設方法について非常に丁寧に描かれています。
土壌に固定するために圧気工法を用い、気圧で水を抑えそこにセメントを流し込むという用法を用います。しかし、気圧で圧縮された空間で鼓膜がおかしくなり、中には耳から血を流す人もいました。エッフェルはそんな従業員にも気を使い、何よりも安全を第一としていました。
4つの足を固定する際にも、砂などで数ミリの調整を行います。緊迫感が流れる中、見事器具を差し込むシーンは見応えがあります。
エッフェル塔が作られた19世紀は、現代のようにクレーンや丈夫な足場が組めるわけではありません。鉄を使った建築物もこの頃から作られるようになり、それまでは木造建築でした。
また、エッフェル塔は戦争に負け勢いを失っているフランスのシンボルとなり、多くの観光客が訪れるようにとパリ万国博覧会に向けて造られたものであり、エッフェルをはじめ多くの人はパリ万国博覧会が終わったら解体されると思っていました。しかし、建設の途中でエッフェルは誰にも解体されたくないと解体しにくい器具に変えて固定しています。
エッフェル塔を解体するには多くの費用を要するためそう簡単に解体されなかったということもあるのかもしれませんが、多くの人が訪れ愛されたエッフェル塔は解体されることなく、現代にも引き継がれ、今もなおパリのシンボルとして多くの観光客が訪れています。
また、エッフェルは労働者階級であり、エッフェルが生きた19世紀はまだ階級差が蔓延っていました。アドリエンヌとの結婚が反対された背景には階級の問題もおそらくあったでしょう。
身分の差により引き裂かれてしまった、親と絶縁してしまったという話は当時多かったはずです。
エッフェルとアドリエンヌの引き裂かれてしまった恋の切なさと、塔の建設へかける情熱が美しく壮大なエッフェル塔をより一層美しく際立てます。
まとめ
エッフェル塔の名前の由来にもなった創設者ギュスターヴ・エッフェルの知られざる愛の物語を描いた映画『エッフェル塔~創造者の愛~』。
劇中にも描かれていますが、エッフェルは当初鉄塔の建設にはあまり関心を示していませんでした。それは実用的なものではなく、労働者階級の人々の生活に役立つとは思えなかったからでしょう。
大臣らは、戦争で負けたフランスの権威のためにも大きなモニュメントを必要としていましたが、当時の大臣らも大多数はブルジョワ階級です。エッフェルは自身が労働者階級だからこそ、労働者階級の人々のためになるものの建設にこだわっていました。
そのため、ニューヨークの「自由の女神像」の制作に協力し得た名声もエッフェルにとっては、メトロの資金調達のためであったかもしれません。
ブルジョワ階級は馬車という移動手段がありますが、労働者階級にはありません。そのためにはメトロが必要だとエッフェルは訴えます。
しかし、新たなものを造るには反対がつきものです。住民らの反対もあり実現には厳しいものがありました。
塔の建設を決意したエッフェルでしたが、他に類を見ない巨大な鉄塔の建設に近隣住民は、反対し倒れた場合の死者数まで計算して反対運動を繰り広げていました。
それだけでなく、ノートルダム聖堂よりも高い建物を造ることにバチカンも反対意見を示し、新聞はこぞってエッフェルを批判しました。
当時は新聞が唯一のメディアであり、新聞を見方につけないと世論は動かせませんでした。世論を見て銀行も資金援助を渋るようになってしまうのです。
様々な試練が立ちはだかっても、エッフェル塔を造るという信念を曲げなかったエッフェルの情熱が人々を動かしていくのです。
エッフェル塔に限らず、世界各国のモニュメントにはそれぞれ多くの人が設立に携わり、そこには壮大なドラマがあったのかもしれないと思わせるようなロマンに満ちた映画です。