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Entry 2021/01/18
Update

映画『さくらん』ネタバレあらすじと感想。ラスト結末の評価も【金魚と赤が映える鮮やかな花魁に生きた人たち】

  • Writer :
  • r-h-zaitsu

写真家・蜷川実花の劇場映画デビュー作品『さくらん』

安野モヨコの漫画作品「さくらん」が映画化され、2007年2月24日より公開されました。

世界的なフォトグラファー、蜷川実花の初監督作品であり、モデル・歌手として活躍する土屋アンナが主演を務めた作品。

江戸吉原の遊郭「玉菊屋」を舞台に、逃げ出してばかりだった少女が、立派に花魁として成長していく人生が、赤とブルー、そして黒といった鮮やかな色彩と共に、強烈に映し出されます。

映画『さくらん』の作品情報


(C) 2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ

【公開】
2007年(日本映画)

【原作】
安野モヨコの漫画作品「さくらん」
講談社の雑誌『イブニング』に2001年9月号から2003年第7号まで不定期連載されました。

【監督】
蜷川実花

【キャスト】
土屋アンナ、椎名桔平、成宮寛貴、木村佳乃、菅野美穂、永瀬正敏、美波、山本浩司、遠藤憲一、小泉今日子、夏木マリ、安藤政信、小池彩夢

【作品概要】
江戸の吉原に生きた女性たちを描く青春時代劇。多くの女性ファンから人気のある漫画家・安野モヨコの同名漫画を、写真家の蜷川実花が映画化しました。

主演は、モデルやミュージシャンとしても活躍する土屋アンナ。共演に『アウトレイジ』『新宿スワンII』の椎名桔平、「相棒」シリーズや『クロユリ団地』の成宮寛貴、『蝉しぐれ』『誰も守ってくれない』の木村佳乃。他、菅野美穂、永瀬正敏、美波も集結。

映画『さくらん』のあらすじとネタバレ


(C) 2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ

江戸の遊郭。ある夜見世で掴み合いの喧嘩騒ぎが起こってしまいます。そんな夜見世の話題の遊女、勝気で美しいきよ葉。原色が重なりあう世界で生きていました。

幼いきよ葉が、桜の木々の下を歩いています。身売りされて行き着いた先、江戸吉原の美しい街に見惚れていると「玉菊屋の粧ひ」が通りがかります。豪華な衣装に身を包んだ花魁は、きよ葉の目に鮮やかに印象的に写ります。

上玉の「ひっこみかむろ」と判断されたきよ葉は、あの粧ひという花魁に世話になりながら生活することになりました。遊女たちと生活を共にしつつ、女の世界が怖くなったきよ葉は「玉菊屋」を逃げ出し、神社へ逃げ込みます。

「逃げられない」という現実を教える追手の清次。そんな2人の上に、桜が舞ってきます。街にある唯一の桜の木の下で「桜が咲いたら俺がお前をここから出してやるよ。」「いらねぇよ。てめぇで出らあ」と誓いにも似た言葉を交わしました。

客と床に就く粧ひをふすまの隙間から見たきよ葉は、「金魚じゃ」と呟きます。恐ろしい花魁になってしまうことが怖くなり、その場から逃げ出します。

金魚がお前のせいで一匹死んだと責める粧ひですが、花魁になどなれないと焚きつけ、きよ葉の口から「花魁街道まっしぐらだ」という力強い言葉を引き出します。

手練手管を教えつつ、花魁の覚悟を持たせたのでした。身受けされた粧ひは、自らがさしていた櫛をきよ葉へ与え「一本立ちできたらつけると良い」と言葉を残し、玉菊屋を出ていきました。

「10年に一人の天人だ」と評されるきよ葉は、高尾の名代で御隠居のもとへ向かいます。高尾の嫉妬心を刺激してきよ葉を縛られるように仕向けた御隠居は、高らかに笑います。

突き出しを終えデビューしたきよ葉は、瞬く間に人気をとるようになりました。なぜだか知らないがどう振る舞えば良いか全部わかっていたのです。

そんな煌めくきよ葉にとって運命的な、ある男との出会いがありました。故郷の話を振った惣次郎という男でした。だんだんと惹かれてゆくきよ葉。他の男のことが身に入らなくなってしまいました。

そんなとき、地方の大名の坂口がきよ葉を求めてやってきます。「玉菊屋」にとって大切な客です。しかし、きよ葉に嫉妬している高尾と若菊の動きによって、きよ葉は惣次郎のもとへ向かってしまいました。

このことを知った坂口は怒りまわりながら乗り込んできます。惣次郎はその場から立ち去ってしまいました。初めて失恋してしまったきよ葉は、悲しみに暮れますが日々の生活は進んでいきます。

ある日の夜見世で、高尾と若菊に惣次郎のことを煽られたきよ葉。また取っ組み合いの騒ぎを起こしてしまいました。

以下、『さくらん』ネタバレ・結末の記載がございます。『さくらん』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

惣次郎の本当の気持ちを確かめないと「腹の虫がおさまらない」と、きよ葉は服を替え、足を汚し、惣次郎の元へ向かいます。

雨が降りしきる中、きよ葉は惣次郎がどんな顔をするのか、感情が揺れ動いたまま、目的地へたどり着きます。のれんを分けて問屋から出てきた惣次郎は、きよ葉を見つけてにこっと笑かけました。

「笑う鬼だ」と悟ったきよ葉はそのまま引き返します。川の中で涙を流していると、清次が来ていて、「無駄に涙を流すな」と声をかけます。きよ葉は「誰が泣くもんか。どこへ行ったって同じ。」と答えました。

その頃、高尾は光信と部屋を共にしていたのですが、ふと魔が刺し、目に止まったかみ剃りを手に襲い掛かります。

もみ合った2人の手は高尾の首筋へ。高尾は息たえてしまいました。松の位の遊女がどうしても必要だと、楼主はきよ葉に頼み込みます。清次も「お願いします。花魁。」と言葉を伝えます。

きよ葉は花魁となり、花魁道中を行います。そしてきよ葉は日暮と名を改めました。

きよ葉は相変わらず男を惹きつけており、松本という武士を上客としております。また、清次の方には、楼主と女将から話があっています。2人の姪、梅との縁談の話です。そして「玉菊屋」の跡を継ぐよう諭されます。

通い続けの松本に「ここを出たいと思うか」と問われたきよ葉は「いつでも」と答えます。「出してやれる」「お前は受けてくれるか」と語る松本に「桜が咲いたなら」とこたえてしまう日暮。

日が変わり、寝ている日暮を女将が起こしにきます。「大変だ。松本様が桜を見せたいとおっしゃってさ。見てごらん」。障子をあけるとそこには桜景色が広がっていました。

日暮の話を受けた松本が満開の桜を用意していたのです。「玉菊屋」総出の宴会の席で、松本は「日暮を妻にめとりたい」と宣言します。

おおいに賑わう宴会の中で、日暮は席を抜け出しました。それに気づいた清次は近くへ寄ります。

日暮が妊娠してしまったことを共有する2人。清次は、ほおずきでおろすことを提案しますが、「産むに決まってる。身受けは断る。いっそ一緒にお手打ちになった方がましさ。」とつっぱねます。

夜空を見上げる清次のもとへ、きよ葉のかむろのしげじがやってきます。しげじに「誰が死んだら悲しいか」と問われる清次。日暮は松本へ子ができたこと、誰の子かわからないことを伝えています。

「それでも身受けされてくれ」と応えた松本。驚く日暮はそのまま腹痛に襲われて流産してしまいました。

そんな日暮に清次は「俺の親も女郎だった。産もうと思ってもらえただけで、その子は幸せだ。」と声をかけそばで介抱します。

梅が挨拶にやってきて、自分が身受けされる日に、清次と梅の祝言も行われることを知った日暮は上の空です。日暮と清次。同じ月を見上げますが、それぞれの縁が決まってしまっている2人の視線はすれ違います。

久しぶりに日暮のもとへ御隠居がやってきます。ゆったりした過ごしながら、日暮は久しぶりに会った御隠居に「何もかも諦めなければ生きてはゆけない」と寂しく本音を漏らします。

それを受けたご隠居の「咲かぬ桜など、ありはせんのじゃよ」という言葉は、日暮の心を打ちました。御隠居はそのまま日暮の腕の中で息を引き取りました。

夜の窓際で日暮が黄昏ていると、しげじが膝元へ寄ってきました。日暮が遠くへ行って死んでしまう、怖い夢を見たと怯えるしげじに、「死なねーよ」と勇気付ける言葉をかけ、櫛を差し出します。

「一本立ちしたらつけると良い」という言葉とともに、櫛が受け継がれてゆくのです。日暮は清次のもとへ向かいました。「幸せになれよ」「あんたもな」と交わす2人。

身受けの朝、2人は示し合わせたようにあの桜の木の下に依ります。

「やっぱり咲いてないか」と気を落とす日暮に、清次はふっと笑いかけ、木の枝元を指します。2つの小さな桜が花開いていました。2人は顔を見合わせて微笑み合いました。

玉菊屋ではそれぞれの反応がありました。楼主と女将は怒り呆れていますが、残された松本は微笑んでいました。

ビードロのそとに出てしまった金魚を「この中でしか生きられないんだぞ」としげじが戻してやりました。

2人は桜の咲く広い土地を、笑顔で走り回りました。


映画『さくらん』の感想と評価


(C) 2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ

映画『さくらん』は、花魁の世界観が色濃く映し出され椎名林檎の音楽によってさらに「色」が足され、極彩色豊かに強く心に残る映画でした。とても美しかったです。

「極彩色」とは、種々の鮮やかな色を用いた濃密な彩り、という意味です。

女性の視点からも惹きつけられる魅力的な花魁の女性たちが、愛憎劇を繰り広げる場面では、激しい思いに裏打ちされるように、原色に近い色合いの色彩がショットが使用されています。

それは美しすぎるからこそ、辛いようで、見惚れるという不思議な気持ちになりました。

劇中のラストでは、きよ葉と清次が2人で駆け落ちし、逃げてゆきます。2人が迎えるその先の結末には、いくつかの解釈が映画ファンの中でも生まれたようです。

幸せに過ごすことができたのか、追手がくる日々に怯えたのか、どんな結末を迎えても「2人は幸せだった」と信じたいです。桜の下で誓い、そばに居続け、手を繋いだ2人は、最期まで幸せであって欲しいものです。

金魚を映画としての小道具(美術)の演出に用いて、「誰しも外の世界では生きていけない」ということを表しているようでした。

ビードロから出てしまった金魚がピチピチと跳ね場面もありました。きよ葉の人生に重なるように連想を抱かせています。とても心情に刺さる辛いものです。

ただ、金魚が教えてくれることは、辛い現実だけではない気もします。

金魚は隣のビードロに移動しても生きていける。「呼吸のできる環境が、別にある」そのような“希望”すら、金魚を深く見つめるなかで読み解く解釈もできるのではないでしょうか。

まとめ

安野モヨコの「さくらん」映画化し、蜷川実花の初監督作品であり土屋アンナの主演作。また、椎名林檎も音楽監督として参加し、スタッフに女性が多く起用された話題作です。

2004年公開の中島哲也監督の監督『下妻物語』で女優デビューを果たした土屋アンナ。その作品で2004年度の映画各賞を6つ受賞しています。

土屋アンナのもつ、元来の派手な色合いの魅力と、強さからくるどこか儚げな存在感が、蜷川実花が手掛ける世界と相まって、きよ葉が確かにくっきりとスクリーン上に息づいていました。

また、木村佳乃、菅野美穂の存在も大きく、「色の濃いシーン」がスクリーンに映え、遊女たちの人生劇が美しく描かれていました。

一人に決めきらない男、命をまっとうする男、惚れた女に残される男、思いを遂げる男。成宮寛貴、市川左團次、椎名桔平、安藤政信。女性の世界ばかりの目が行きがちですが、この作品に登場する男性たちも、それぞれの生き様を咲かせています。

辛いけれど鮮やかな遊郭の世界に魅了されながら、ビロードの金魚ように泳ぎ、また“希望”や光を抱くことを、存分に美しく映像で描いた作品が、蜷川実花監督の映画『さくらん』です。



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