連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第128回
今回ご紹介するNetflix映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は、児童小説『チャーリーとチョコレート工場の秘密』で知られるロアルド・ダールの小説『マチルダは小さな大天才』を原作とした映画です。
『マチルダは小さな大天才』は1996年に『マチルダ』と題し映画化。そして2011年にはミュージカルとして舞台化され、2013年のトニー賞では脚本賞を含む5部門を受賞しました。
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は幼い少女が、理不尽で矛盾に満ちた大人に対して「正義のために知性と勇気で戦う」物語です。
自分で生んだ子どもを我が子と思えず、育児放棄した母と娘を息子呼ばわりする父の元で、読書だけが生きがいになった少女が、善良な大人のおかげで学校に行くように。
しかし、その学校は監獄か軍隊のような規律で縛られ、冷酷非道な校長トランチブルによって、全てが牛耳られ自由な発想と想像力とは無縁な場所でした。
【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』の作品情報
【配信】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Roald Dahl’s Matilda the Musical
【監督】
マシュー・ウォーチャス
【原作】
ロアルド・ダール
【脚本】
デニス・ケリー
【キャスト】
アリーシャ・ウィアー、エマ・トンプソン、ラシャーナ・リンチ、スティーブン・グレアム、アンドレア・ライズボロー、シンドゥ・ビー
【作品概要】
主人公のマチルダ役には、アイルランド出身で地元のテレビ番組で、歌や踊りでも活躍するタレントのアリーシャ・ウィアーが抜てきされました。オーディション合格の決め手はずば抜けた歌唱力だったと言われ、アリーシャの歌にも注目です。
『キャプテン・マーベル』(2019)で注目を浴び、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)にも起用されたラシャーナ・リンチが、ミセス・ハニー役を演じます。
そして、『ハワーズ・エンド』(1992)で第65回アカデミー主演女優賞を受賞し、『クルエラ』(2021)でも怪演を見せたエマ・トンプソンがトランチブル校長を務めます。
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』のあらすじとネタバレ
新しい命が誕生する病院では、生まれたばかりの赤ちゃんたちが両親に愛され、祝福され多幸感で溢れかえっていました。
ところが、医師から“臨月”を告げられたミセス・ワームウッドは、頑なに妊娠していることを認めません。しかし、まもなく陣痛が始まり女の子の赤ちゃんが誕生しました。
夫のハリー・ワームウッドは病院に駆けつけますが、勝手に男の子が誕生したと思い込み、赤ちゃんを息子だと言い張ります。
生まれた赤ちゃんは「マチルダ」と名づけられました。“親”になった自覚のないワームウッド夫妻は、マチルダを屋根裏部屋に住まわせ、学校にも行かせませんでした。
成長したマチルダは本を読むのが大好きで、移動図書館をしているフェルプスを訪ね、たくさんの本を読み、即興で考えた物語を話して聞かせていました。
マチルダの両親は彼女への愛情もなく、ただの厄介ものだと思っているので、学校に行かせるという感覚もありません。
しかししばらくすると、福祉の担当者と学区行きの学校からミス・ジェニファー・ハニーが家を訪れて、2人にマチルダを学校に通わすよう話します。
ミス・ハニーはマチルダを見つけるとやさしく声をかけ、学校に来ればたくさんの本もあり、物語の書き方も教えてあげられると話します。
マチルダは両親が学校に行かせてくれるとは思えません。半ばあきらめていましたが、ハリーが部屋にやってきて、福祉局から罰金を科されたと腹を立て学校へ行くよう告げます。
マチルダは学校に行けることを喜びますが、ハリーは電話でトランチブル校長に「問題ばかり起こす悪ガキ」だとマチルダのことを説明したと言いました。
マチルダは不当な扱いをするハリーのヘアトニックにブリーチ剤を混ぜ、彼の髪の色を緑色にするいたずらで仕返しをしました。
ミセス・ワームウッドはハリーの髪色を見て、サーカスの“脱出奇術師”のマネでもしているのかと聞きます。それを聞いたマチルダは“脱出奇術師”の物語を思いつきます。
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』の感想と評価
“毒親”と“独裁教育者”の虐待
ロアルド・ダールの描く小説が世界中で大絶賛をうけても、毒親や独裁的な指導者の“虐待”はなくなることはなく、2022年になってもこうしてリメイク映画が作られるのが、とても皮肉に感じてなりません。
一定数、親によるネグレスト(養育責任と義務の怠慢、拒否)は存在し、子どもが事実を隠してしまう場合も多く、発見に至らず不幸な結果になることもあります。本作のマチルダも、親切なフェルプスやハニーと出会っても、ネグレストの親について話さない現象と同じです。
しかしながらフェルプスのように、マチルダの様子が普通の子と違うと察知できる大人の存在は、決して特別なことではなく、大抵の大人は異変に気づきながら声をかけないか、かけられずにいるだけだと感じます。
では学校にいけば安全なのかというと、子どもが親を選べないのと同様に、学校の指導者も選べません。親子のコミュニケーションがうまくいっていても、なぜかおかしな教育者の情報が、親の耳に入らないことも多くあります。
子どもはなぜ、無知で愚かな大人のことを伝えないのでしょうか。それは、マチルダが最初トランチブルの悪行はただの噂と思っていたのと同様に、大人の思考に“まさか”が念頭にあるからです。そして、“他人に助けを求めたり、親に話し学校にクレームすれば、親や教師からもっと酷い目にあうのでは?”という恐怖があるからです。
劇中、子どもたちが“早く何でもできる大人になりたい”と歌う場面がありますが、子どもの頃の純粋な気持ちを持ったまま、大人になるのは難しいものです。
大抵は、大人から受けた“恐怖”や“不安”がトラウマとなって残り、同じことを繰り返してしまうのが現実だと思い知らされます。
「20世紀の子どもたちにとって最も偉大な語り部」
原作の『マチルダはちいさな大天才』は、ロアルド・ダールが晩年に書いた小説です。
彼の妻はハリウッド女優で、彼女との間には5人の子どもがいました。5人目を妊娠した時に彼女は脳卒中になり、言語や歩行も困難になりましたが、彼女の固い意志と懸命なリハビリにより無事に出産しています。“軽業師”のモデルは、彼女だったのかもしれません。
ダールは優れた児童小説を多く執筆したことで、「20世紀の子どもたちにとって最も偉大な語り部」と呼ばれました。
例えば、劇中で“英知と頭脳”は役に立たないと歌われますが、マチルダとクラスメイトは英知と頭脳を使い、勇気を出して戦い勝利しました。
ロアルド・ダールはいつの世にも存在する、毒親や独裁的な指導者には英知と頭脳で立ち向かえると教え、善良な大人と出会えたなら、一緒に解決に向かう協力を求めてほしいと伝えているのでしょう。
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は、子どもたちには読書や勉強、そして“勇気”の大切さを伝え、、大人には良識ある判断と“勇気”を出すよう訴えた作品といえるでしょう。
トランチブルのような人間の精神は、今でも根強く残り、社会に強靱な影響力を及ぼしています。現実にも“ルールを破って、ズルをする”独裁者は存在しています。そして、今も戦いは続いています。
劇中、フェルプスが仕返しはよくないと言い、マチルダが“相手の悪いところを直すならいい”と答える場面は、そういう大義で始まった戦争がまだ続いている……と感じさせました。
まとめ
映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は親や教育者の虐待から、創造力を高め特殊能力まで身に着けた、少女の正義感で子供の権利を取り戻す物語でした。
ミュージカル版だとトランチブル役は男性俳優が務めましたが、本作ではオスカー女優のエマ・トンプソンが、大がかりな特殊メイクで挑戦しているところにも注目です。
また、前作の映画『マチルダ』と比較されがちなようですが、演技力に加え、歌唱レベルはアリーシャ・ウェアが高いという評判があります。とはいえ本作は、現代社会に寄せた演出といえるので、“身近な問題提起”として良く描かれています。
ミュージカルは観る人を選びがちですが、本作は本で読み思い描いたことが、歌や映像でより深く腑に落ちるそんな効果もあり、家族で鑑賞し議論もできる良質な作品でした。
【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら