連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第35回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第35回は、1980年製作のアメリカ映画『トム・ホーン』。
『ブリット』(1968)、『栄光のル・マン』(1971)、『ゲッタウェイ』(1973)のスティーブ・マックイーンが製作総指揮と主演を務めた、生涯最後の西部劇です。
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CONTENTS
映画『トム・ホーン』の作品情報
【公開】
1980年(アメリカ映画)
【原題】
Tom Horn
【監督】
ウィリアム・ウィヤード
【脚色】
トーマス・マクゲイン、バッド・シュレイク
【製作】
フレッド・ワイントローブ
【製作総指揮】
スティーブ・マックイーン
【撮影】
ジョン・A・アロンゾ
【音楽】
アーネスト・ゴールド
【キャスト】
スティーブ・マックイーン、リンダ・エヴァンス、リチャード・ファーンズワース、ビリー・グリーン・ブッシュ、スリム・ピケンズ
【作品概要】
1950年代から70年代に活躍した大スター、スティーブ・マックイーンが、自身のプロダクションであるソーラープロで製作・主演した西部劇。
19世紀末から20世紀初頭の西部を舞台に、実在したガンマンであるトム・ホーンの生涯を、自ら書いた自伝をベースにトーマス・マックグァーンとバッド・シュレイクが脚色。
共演は『スワンソング』(2021)のリンダ・エヴァンス、『ストレイト・ストーリー』(1999)のリチャード・ファーンズワース、『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』(1970)のスリム・ピケンズなど。
80年3月に全米公開、翌月には日本公開されるも、マックィーンは11月に50歳で逝去。本作が最後の西部劇となりました。
映画『トム・ホーン』のあらすじとネタバレ
19世紀後半、騎兵隊の斥候として参戦したアパッチ戦争で、敵の首長ジェロニモを捕虜にする功績を上げ、その後も探偵や賞金稼ぎとして活躍したガンマン、トム・ホーン。
世紀が開けた1901年、ワイオミング州ハガービルに移ったホーンは、大牧場主のジョン・コーブルの訪問を受けます。コーブルは、町を荒らしている牛泥棒を退治する用心棒を依頼。
ワイオミングの大牧場主たちとも会ったホーンは、それを引き受けることに。ホーンを信頼するコーブルは、泥棒を倒す手段は問わないと言います。
半ば忘れられた存在となっていたホーンは、射撃の練習を始めてブランクを取り戻していきます。
牛の競売所に向かったホーンは、その場にいた泥棒とおぼしき者たちに警告。早速泥棒を働いていた4人のうち3人を仕留め、盗まれていた馬を解放し、瞬く間に町の評判を呼びます。
そんな中ホーンは、コーブルに連れられて行った組合集会で知り合った教師のグレンドレーネと恋に落ちます。野生の馬を調教し、彼女にプレゼントするホーンは平穏な日々を送ります。
しかしある日、牛泥棒に愛馬を撃たれたホーンは怒り、犯人に何発もの銃弾を浴びせた上に住処を焼き払います。さらに、ホーンに恨みを持つ男が襲い掛かるも、返り討ちに。
その手荒なやり方に、一部の牧場主の間で不満の声が上がります。ホーンの存在を疎ましく思っていた連邦保安官のジョー・ベルも、その1人でした。
スティーブ・マックイーンが自身を投影?実在ガンマンの生涯
本作『トム・ホーン』は、タイトル・ロールにもなっている実在のガンマンの晩年を描きます。
鉄道の人夫、駅馬車会社の職員などを経て騎兵隊斥候としてアパッチ戦争で活躍し、その後は銀の採掘業や探偵業、ロデオチャンピオンに用心棒と職を転々としたというこの人物の物語を、プロデューサーでもあったスティーブ・マックイーンが主演作にチョイス。
『人形の家』の劇作家ヘンリック・イプセンの戯曲を映画化した前主演作『民衆の敵』(1978)が興行的に失敗したマックイーンとしては、『ネバダ・スミス』(1966)以来の勝手知ったる西部劇で名誉挽回を狙おうとしたのは、想像に難くありません。
監督は当初、『突撃隊』(1962)でコンビを組んだドン・シーゲルが予定されるも、製作の主導権を握っていたマックイーンと衝突して降板。その後3人の監督交代を経て、最終的にウィリアム・ウィヤードに決まるも、実質的にはマックィーンがメガホンを取ったと云われています。
『突撃隊』に『栄光のル・マン』、遺作となった『ハンター』(1980)などでも監督降板騒動を起こしているマックイーンですが、彼演じるトム・ホーンもまた、自分のやり方を通しすぎて周囲と軋轢を生み、孤独となっていきます。
もしかするとマックイーンは、頻繁にトラブルを起こしまくっていた自身とホーンを重ねたのかもしれません。
無実の罪に問われたガンマンの哀愁
トム・ホーンが使っていたウィンチェスターライフルM1876
アクション視点で注目すべきは、やはりその巧みなライフルさばきでしょう。
拳銃を一切使わず、ウィンチェスターライフルのみで牛泥棒たちを仕留めていくホーン。レバーアクションと呼ばれる、ライフルのトリガー(引き金)近くのレバーを上下させることで弾の装填・排莢を行なう動作の素早さは、見事の一言。
2人ずつ2組に分かれた4人の泥棒を追うシーンでは、まず1組を馬で追跡して2人を射殺し、すぐさまもう1組の1人を撃つも、残り1人が若者と知ると見逃してやる――この一連の流れるアクションは、数々の西部劇に出演してきたマックィーンの真骨頂です。
ただ、そんなライフルさばきを脅威に感じた者たちの罠にはまり、少年殺しの罪を着せられたホーンは、ついに絞首刑に。彼を用心棒として迎え入れた牧場主のコーブルは、「こんなことになるなら、君に声をかけるべきではなかった」と詫びます。
それに対して「いや、もう古い西部は終わったんだ」とつぶやき、冤罪を証明することもなく死を受け入れたホーンには、19世紀から20世紀へと変わる時代の潮流に乗れなかった者の悲哀が漂っています。
「あなたの国に人々の歴史があるように、僕の国にも歴史がある。それがウェスタン。そして僕はその歴史に愛着を持っている」(「スクリーン」1967年4月号)
かつて日本の映画雑誌インタビューでこう答えていたマックイーンだけに、ホーンの言葉に1980年代に入り西部劇が衰退しつつあった映画界への嘆きを込めたと考えるのは、穿ちすぎでしょうか。
西部劇を愛した2大ハリウッドスターの奇縁
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悲劇的結末を迎えるも、本作『トム・ホーン』は50歳になったマックィーンの円熟さが良い味となっていただけに、結果的に生涯最後の西部劇となったのが惜しまれます。
そのマックイーンと並んで、西部劇に強い思い入れを持っていたスターといえばクリント・イーストウッドがいますが、両者にはいくつかの共通点があります。
共に1930年生まれで、マックイーンは『拳銃無宿』(1958~61)、イーストウッドは『ローハイド』(1959~65)と、テレビの西部劇ドラマで人気を博して映画界に進出。
世界的に名声を得たのも、マックイーンが『荒野の七人』、イーストウッドが『荒野の用心棒』(1964)とやはり西部劇でしたし、自主プロダクションを立ち上げて映画製作に乗り出したのもほぼ同時期でした。
『ダーティハリー』(1971)や前回の当コラムで取り上げた『ガントレット』(1976)などのイーストウッド作品は元々マックィーン主演を想定していましたし、『地獄の黙示録』(1979)でマーティン・シーンが演じたウィラード大尉は、当初はマックイーンやイーストウッドが候補に挙がっていました(マックイーンはマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐役を希望し、イーストウッドは長期のフィリピンロケを嫌ってそれぞれ辞退)。
「マックイーンかイーストウッドが主演すれば手堅くヒットする」、つまり60~70年代は、それだけ両者のニーズが高かったことがうかがえます。
一方のイーストウッドは、最後の西部劇として『許されざる者』(1992)を発表。
公の交流こそなかった2人ですが、イーストウッドは後年、マックイーンから電話で『地獄の黙示録』出演に関する相談を受けていたことを明かしています。
存命だったら2023年で93歳になっていたマックイーン。たらればになりますが、もしかしたら今なお現役で同い年のイーストウッドとの夢の共演が作られていたかも…と思わずにはいられません。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)