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Entry 2022/12/23
Update

【ネタバレ解説】荒野のストレンジャー|あらすじ感想考察と結末評価。幽霊の正体はダンカン?善悪なき“自然”の化身がアメリカ“淀み”の時代を破壊する

  • Writer :
  • 河合のび

クリント・イーストウッド初の西部劇“監督”作!
謎多き“流れ者”はいったい何者なのか?

俳優にして映画監督、クリント・イーストウッド。

数々の名作を手がけてきた彼が、監督デビュー作『恐怖のメロディ』(1971)に続けて発表した映画『荒野のストレンジャー』は、イーストウッドが初めて“監督”した西部劇映画でもあります。

多くの映画ファンから「異色の西部劇」と評されている本作。

本記事では、映画のネタバレ有りあらすじとともに、「主人公が幽霊」という本作最大の特徴と、幽霊を「自然」の化身を捉えた時に見えてくるイーストウッドが本作で創造・破壊したかったものを解説してきます。

映画『荒野のストレンジャー』の作品情報


(C)1973 Universal Studios City Studios, LLC. All Rights Reserved. Film:(C)1973 Universal City Studios, LLC and the Malpaso Company. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

【公開】
1973年(アメリカ映画)

【原題】
High Plains Drifter

【監督】
クリント・イーストウッド

【脚本】
アーネスト・タイディマン、ディーン・レイスナー

【音楽】
ディー・バートン

【キャスト】
クリント・イーストウッド、ヴァーナ・ブルーム、マリアンナ・ヒル、ミッチェル・ライアン、ジャック・キング、ステファン・ギーラシュ、テッド・ハートリー、ビリー・カーティス、ジェフリー・ルイス、ロバート・ドナー、アンソニー・ジェームズ、ダン・ヴァディス、ウォルター・バーンズ

【作品概要】
謎多きガンマンの来訪を描く、ミステリアスな異色の西部劇。監督デビュー作『恐怖のメロディ』(1971)に続く俳優クリント・イーストウッドの監督作であり、本作で初めて「西部劇映画」を手がけた。

脚本は、ウィリアム・フリードキン監督作『フレンチ・コネクション』(1971)でアカデミー脚本賞を受賞したアーネスト・タイディマン。

映画『荒野のストレンジャー』のあらすじとネタバレ


(C)1973 Universal Studios City Studios, LLC. All Rights Reserved. Film:(C)1973 Universal City Studios, LLC and the Malpaso Company. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

一人の流れ者が荒野の陽炎とともに現れ、やがて荒野の中に立つ町ラーゴに辿り着きます。

町の酒場へと入り、注文を済ませる流れ者。そこで彼は3人のガンマンに絡まれますが、「腕が違う」と全く相手にせず、そのまま髭剃りと風呂のために床屋へと足を運びます。

これから髭を剃り始めるというところで、先の3人組が床屋にも現れます。嫌がらせを続ける3人組でしたが、流れ者は瞬く間に全員を撃ち殺しました。

町民たちが騒ぎを聞きつけ床屋に集まる中、床屋で働く小男モーディカイは流れ者に名を尋ねますが、彼が答えることはありませんでした。

床屋を後にした流れ者は、通りでぶつかってきたのちに自身を侮蔑の言葉を浴びせた町娘のカリーを馬小屋に連れ込むと、そのまま彼女とを強引に行為へ及びました。

やがて流れ者は、ベルディングが経営する町のホテルに泊まることに。そこでの宿帳にも名を書くことを拒んだ彼は、鍵をかけた部屋で一人眠ります。

とある保安官が3人の男たちに鞭で嬲られ続け、町民たちは夜の闇の中で、助けを求める保安官をただ見殺しにする。保安官は「みな地獄に堕ちろ」という末期の言葉とともに、無念を抱いたまま絶命する……。

……そんな夢を見たのち、翌朝目を覚ました流れ者。再び床屋へ赴き風呂に入っていると、町の保安官サムが現れました。

「昨日流れ者が遭遇したビリー・アイク・フレッドは町の嫌われ者だったので、彼らを撃ち殺したことは咎めない」と伝えるサム。そこに、昨日流れ者に強引に抱かれたカリーが銃を手に襲撃し彼を殺そうとしますが、サムが取り押さえたことで事なきを得ました。

その頃、町長ジェイソン、鉱山会社を運営するドレイクとモーガンをはじめとする町民たちが、流れ者を町の用心棒として雇うことを話し合っていました。

かつてラーゴの鉱山会社では、ステイシー、コールとダンのカーリン兄弟の悪党3人を用心棒として雇っていました。しかし鉱山から金塊を盗み出した容疑をかけられ、くわえて町のもう一人の保安官であったダンカンを鞭で嬲り殺した罪を犯したことから、3人は酒で酔い潰れていたスキを狙われて逮捕・投獄されました。

そして、ステイシーたちは間もなく刑務所から出所することから、復讐を恐れた町民たちはビリー・アイク・フレッドを襲撃に備えての用心棒として雇っていましたが、その3人も流れ者に殺されてしまったため、急遽流れ者を新たに雇おうと考えたのです。

サムは用心棒になってくれないかと流れ者に頼みます。彼は依頼を断ろうとしますが、「礼は何でもする」というサムの言葉、そして「町の物は何でもタダで」という町長ジェイソンの言葉を聞いて、用心棒を引き受けることにしました。

町長ジェイソンが営む雑貨店で、ネイティブ・アメリカンの家族に店の品をタダでプレゼントする流れ者。その後も酒場の酒を店持ちで町民たちに振る舞い、自分用のブーツや馬具をタダも手に入れると、モーディカイを新たな町長兼保安官に任命。そして町民たちに、自警団「ラーゴ志願隊」を結成させます。

その頃、刑務所を出所したステイシーとカーリン兄弟。ラーゴの町民たちに復讐するため、道中で出くわした者を全員撃ち殺してその馬や服を奪うと、殺人の追っ手が来る前にと急ぎ町へと向かいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『荒野のストレンジャー』のネタバレ・結末の記載がございます。『荒野のストレンジャー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1973 Universal Studios City Studios, LLC. All Rights Reserved. Film:(C)1973 Universal City Studios, LLC and the Malpaso Company. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

ステイシー一味の町での待ち伏せ作戦に向けて、射撃訓練を行う流れ者。しかし的の人形には一発も当たらず、町民たちの銃の腕は全くアテにならないと彼は確信します。

その後、流れ者は町の大工に大きなテーブルを拵えるよう頼み、テーブルの材料としてベルディングが所有する納屋の建材を徴発させます。怒りを露わにするベルディングに、流れ者は「パーティ」に向けて大量のシーツ・赤ペンキと牛の丸焼きを用意すること、ホテルから自分以外の宿泊客を追い出すことをさらに命じます。

流れ者の横暴に耐えかね、ドレイクに不満をぶつけるべスティングとモーガン。しかしドレイクは、「保安官ダンカンを見殺しにした」という町民たちの弱みをステイシー一味は握っていることに触れた上で、全ての町民に責があるからこそ、一味を始末してくれる流れ者を雇い続けると答えました。

追い出されたホテルの宿泊客は、「人は皆神にとって兄弟」と嘯く牧師ロバートの自宅へ泊まることに。

一人ホテルに泊まる流れ者は、カリーを自身の泊まる最上等の客室へと招きます。その頃、教会で開かれた町民間の集会では、町民たちが流れ者の数々の横暴、そしてその始末について話し合っていました。

その日の晩、モーガンは町民たちは棍棒を手に、流れ者を始末しようと彼が眠る客室へと向かいます。流れ者に再び抱かれた後、客室から抜け出してきたカリーと代わって室内へと入った男たちは、ベッドへ棍棒を振り下ろします。

しかし、カリーが部屋を抜け出そうとした時点で襲撃を察知していた流れ者は、ダイナマイトで部屋ごと爆破して男たちを返り討ちにし、負傷しながらも馬で町を逃げ出したモーガンを除き、襲撃者全員を次々と撃ち殺していきました。

その後、ホテル内で唯一爆発の被害を免れた、べスティングの妻サラの寝室に泊まることにした流れ者。サラは助けを求めますが、夫べスティングは何も答えませんでした。

流れ者がサラもまた強引に抱いた翌朝、サラは流れ者に死んだ保安官ダンカンについて尋ねます。そして、ダンカンの墓標には名前が刻まれておらず、供養されない彼の幽霊が今もさまよい続けていること。幽霊としてさまよい続けているかもしれないダンカンが原因で、町民たちはよそ者を恐れるようになったことを明かしました。

サラの話を聞き終えた流れ者は、「何か身に覚えがあるからさ」とだけ答えると、サラを残して客室を後にしました。

身支度をするサラの前に現れる夫べスティング。「町の集会に参加しろ」と命じる彼を、サラは強くなじります。

ラーゴは金鉱業で栄え続けてきましたが、今から1年前、金鉱がある土地が国有地だ知ったダンカンはそのことを報告しようとしました。しかし、金鉱が国有地になってしまうと、自分たちの暮らしが成り立たなくなる町民たちは、あえてダンカンを見殺しにしたのです。

町民たちに失望したサラは、「町を出る」と夫に伝えます。べスティングは何も答えることなく、ただ黙ってその場を去るだけでした。

一方、流れ者はべスティングに用意させた赤ペンキで、町の名が記された看板に「HELL(地獄)」と書き込みます。そして町中の建物を赤ペンキで塗るよう町民に命じると、自分は逃亡中のモーガンの追跡へと向かいました。

モーガンは逃亡の果てに、ステイシー一味と遭遇。助けてほしいと懇願しますが、「鉱山会社の金庫の番号を教えろ」という一味の要求には答えられず、そのまま殺されてしまいます。その場を目撃した流れ者は、銃弾とダイナマイトで一味を翻弄するだけ翻弄すると、再び町へと戻りました。

流れ者が戻ると、町の建物は赤一色へと変貌していました。完成したテーブルは外に置かれ、上には牛の丸焼きが。シーツを縫い合わせて作った「歓迎」の旗も町の入り口に飾られ、「パーティ」の準備も完了していました。

流れ者はモーディカイを通じて待ち伏せの準備を促しますが、銃を持った町民たちは皆怯え、酒をあおって誤魔化している始末でした。ステイシー一味が町に近づく中、流れ者は馬へと跨り、呆然とした町民たちに見送られながら町を離れてしまいました。

ついにステイシー一味が町を襲撃。怯える町民たちはたちまち逃げ出し、ドレイクも撃ち殺されてしまいました。

夜、酒場に集められた町民たちの前で祝い酒をあおるステイシー。やがてコールに馬を取りに行かせようとしますが、突如コールの体に鞭が鋭く打たれます。

火をつけられた建物が炎上する光景を背に、流れ者は「お前は誰だ?」と問うコールに鞭を容赦なく放ち続け、絶命させました。ステイシーらも含め、その姿を目にした町民の誰もが、ダンカンが一味に嬲り殺された記憶を思い出していました。

酒場に投げ捨てられた鞭を見たステイシーらは、町民たちを追い立てながら酒場を出ます。そこに点火済みのダイナマイトが放り込まれ、人々は散り散りに逃げ出しますが、どのダイナマイトにも火薬は入っていませんでした。

その一瞬の油断を突き、流れ者はダンの首を鞭で絞め上げます。ダンは逃げる余地もなく事切れ、ステイシーは流れ者を探し続けます。

闇の中から聞こえる「助けてくれ」「助けてくれ」という声を聞いたステイシーの背後に、流れ者が姿を現し銃弾を放ちます。ステイシーはあっけなく斃れました。

ステイシーの死を見届ける流れ者の背中をべスティングは撃とうとしますが、モーディカイが彼を撃ち殺し流れ者を助けました。

夜が明け、町を出ていく支度を終えたサラと言葉なき別れを告げた後、流れ者は町を去ろうとします。また町の墓場では、モーディカイがダンカンの墓標に彼の名前を刻んでいる最中でした。

モーディカイは流れ者に、再び名前を尋ねます。流れ者は「知っているはずだ」とだけ答えると、陽炎の中へと姿を消しました。

映画『荒野のストレンジャー』の感想と評価


(C)1973 Universal Studios City Studios, LLC. All Rights Reserved. Film:(C)1973 Universal City Studios, LLC and the Malpaso Company. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

異色の西部劇が描く主人公は「幽霊」?

2022年時点で92歳、「生ける伝説」といっても過言ではない俳優クリント・イーストウッド。数々の名作を手がけてきた映画監督としても知られる彼が、1971年の監督デビュー作『恐怖のメロディ』に続けて手がけたのが映画『荒野のストレンジャー』です。

映画監督イーストウッドにとしては初の「西部劇映画」となった本作を、多くの人々が「異色の西部劇」と評するその要因は、やはり作中の主人公である流れ者(Drifter)が「幽霊」であるかのように描かれているという点でしょう。

まるで「以前顔を見たことのある人間」かのように流れ者を意識するサラと、彼女との会話の場面で描かれた、流れ者の町民たちの罪を知っているかのような素振り。映画ラストに描かれた、名を再び尋ねてきたモーディカイへの「知っているはずさ」という答え……そう想像できる描写は、映画作中からいくつも挙げることができます。

何より、流れ者と町で死んだ保安官ダンカンをイーストウッド自身が一人二役で演じている点からも、流れ者は死者ダンカンの「幽霊」と想像できるはずです。

「善も悪ももたらす自然現象」としての幽霊

ダンカンの「幽霊」と想像できる流れ者が突然現れ、理解不能な行動によって人々を振り回し、破壊をもたらしてゆく中で、幽霊が出現した原因となった町民たちが犯した罪という「因縁」が次第に明かされていく……。

ホラー西部劇」とでもいうべき物語が『荒野のストレンジャー』では描かれていきますが、果たしてイーストウッドは、ただ「異色の西部劇」または「ホラー西部劇」を描きたいがために本作の主人公を幽霊にように描いたのでしょうか

映画作中、流れ者は自身に敵意を向けた者を容赦なく撃ち殺し、女性に対しても無理矢理犯すなど非倫理的・暴力的な行為に及びます。一方で小男モーディカイを保安官兼町長に任命し、ネイティブ・アメリカンの家族に町長の雑貨店にあった品をタダで贈るなど、その善悪の感覚は一言では形容しがたいものとして描かれています。

ダンカンの幽霊であるかのように描写される流れ者が、善行も悪行も至極当然のようにもたらす……その姿からは、「幽霊」としての振る舞いというよりも、災害も恵みも等しく与える「自然」の在り様を連想させられます。

流れ者は、確かに死者ダンカンの姿と瓜二つの幽霊であるかもしれません。しかしながら、彼はあくまでも「死者ダンカンの姿と瓜二つ」な姿を持っている幽霊というだけであり、映画は「幽霊の流れ者=死者ダンカン」を明確には描いていません。

イーストウッドは、善と悪の一切を等しくもたらす、あるいは人間が考え出した善悪などを一切意に介すことなく、ただ破壊と再生のみをもたらす「自然」を象徴する存在として幽霊=流れ者を描いたのではないか

そして、死者ダンカンの姿と瓜二つなのは、ラーゴという町に残る彼の無念という「自然の一部」を偶然借りたに過ぎないのではないか……最後まで「幽霊の流れ者=死者ダンカン」を明確には描かなかった『荒野のストレンジャー』からは、そんな想像も可能なのかもしれません。

まとめ/自然の化身が破壊・再生する“流れ”


(C)1973 Universal Studios City Studios, LLC. All Rights Reserved. Film:(C)1973 Universal City Studios, LLC and the Malpaso Company. Copyright Renewed. All Rights Reserved.

もしイーストウッドが本作を通じて、善と悪の一切を等しくもたらす、あるいは人間が考え出した善悪などを一切意に介すことなく、ただ破壊と再生のみをもたらす「自然」を象徴する化身としての幽霊=流れ者を描こうとしていたのだとしたら、彼は流れ者に何を破壊し、再生してもらいたかったのでしょうか

本作の物語の舞台となる荒野に立つ町ラーゴは、金鉱で栄える町であり、その金鉱の利権を失いたくないという町民の総意が、保安官ダンカンを見殺しにするという非道をもたらしました。

そんな町民たちによる非道がもたらされた源流には、金鉱という富に固執するあまり同じ土地を離れられなくなり、「新たな幸福」または「新たな世界」を目指すなど夢にも見なくなった人々の心理……本来、社会の発展のために進歩を続け、世界の流動を続けるはずの人々の“淀み”の心理がうかがえます。

人々の“淀み”の心理……それは、多くの「西部劇」と呼ばれる作品が描く時代を象徴する言葉であり、新世界を自らの手によって切り拓こうとする「フロンティア・スピリット(開拓者精神)」と真逆の心といえます。

そして、ベトナム戦争の泥沼化やオイルショックによる不況、ウォーターゲート事件など政治スキャンダル、学生運動の衰退など、多くの人々が精神的停滞へと陥った1970年代のアメリカを評した言葉といっても過言ではないでしょう。

“淀み”の象徴である町ラーゴ(lago:イタリア語で「湖」)に大混乱を巻き起こし、町を徹底的に破壊。そして破壊された町に、フロンティア・スピリットに基づく人々の心の“流れ”を再生させる……1973年公開の映画『荒野のストレンジャー』の主人公であり、流れ者という「自然」の化身としての幽霊に、イーストウッドはその役目を託したのではないでしょうか。

映画ラストにて、サラは町を離れることを決意し、行動に移しています。彼女がそのような選択をとったことも、流れ者が再生した“流れ”の産物なのかもしれません。

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介





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