連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第124回
映画『トロール』は、ノルウェーのとある山脈に突如出現した巨人の妖精トロールに立ち向かう人々を描いたアドベンチャー・アクションです。
『THE WAVE ザ・ウェイブ』(2016)、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018)などで知られるローアル・ユートハウグが監督を務めた本作。
本記事では映画『トロール』のネタバレ有りあらすじとともに、作中に出現するトロールの「ある登場人物」がそっくりに描写された理由、そこから見えてくる本作の魅力などを考察・解説していきます。
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CONTENTS
映画『トロール』の作品情報
【配信】
2022年(ノルウェー映画)
【原題】
Troll
【監督】
ローアル・ユートハウグ
【脚本】
ローアル・ユートハウグ、エスペン・アウカン
【キャスト】
アイネ・マリー・ウィルマン、キム・ファルク、マッツ・ショーゴード・ペテルセン、ガルド・B・アイツボルド、カロリーネ・ビクトリア・スレッテン・ガルバン、ユスフ・トゥーシュ・イブラ、ビャーネ・イェルデ、アネッケ・ボン・デル・リッペ、デニス・ストーロイ、フリチョフ・ソーハイム
【作品概要】
ノルウェーのとある山脈に突如出現した巨人の妖精トロールに立ち向かう人々を描いたアドベンチャー・アクション。
監督をは『THE WAVE ザ・ウェイブ』(2016)、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018)などで知られるローアル・ユートハウグ。
映画『トロール』のあらすじとネタバレ
ロム峡谷の「トロールの壁」と呼ばれる場所。父トビアス・ティーデマンとその娘ノラはロッククライミングを経てとうとう山頂へ到着します。
「トロールの結婚式で、13人が酔って時を忘れてしまい、現れた太陽の光によって石になってしまった」……そんな妖精トロールのおとぎ話を「もう信じてない」と口にするノラに対し、父トビアスは「おとぎ話には真実も含まれてる」「信じなきゃ見られない」と答えます。
「土と石の体」「雪に覆われた心に氷の骨」「闇に蠢き、太陽の光で凍りつく」……父と娘はノルウェーで語り継がれるトロールの伝承を語り合います。
それから20年後のノルウェー北西部・大西洋岸。古生物学者となったノラは、資金も時間も尽こうという中で、ついに恐竜の化石の発掘に成功。発掘チームの面々と歓喜の声をあげていました。
その頃、同じくノルウェーのドブレ山脈では、山間部を貫通してのドブレ鉄道の延伸工事を進めていました。自然保護を訴えるデモ隊の声も気にすることなく、作業員たちは掘り進めていたトンネル内で突き当たった岩盤を爆破します。
爆破の成果を確かめにトンネル内へと入る作業員たち。すると突如周囲が大きく揺れ始め、トンネルは崩落してしまいます。
首都オスロのノルウェー軍作戦本部も、ドブレ山脈での揺れを察知。取り急ぎ空軍の偵察機を現場を派遣させます。偵察機が撮影した「巨大な何か」が這い出してきたかのような巨大な穴の映像を見て、ノルウェー軍の将軍は事態の重さを察します。
連絡を受けた首相は、首相補佐官アンドレアスに専門官の収集を命令。巨大な穴とともに映像で見たもの……「巨大な足跡」にしか見えない地面のくぼみから「生物」の可能性を感じていたアンドレアスは、古生物学者であるノラも作戦本部へと呼び出します。
空軍ヘリで連行されてきたノラは不満を口にしつつも、地面のくぼみの映像を見てすぐにそれが「巨大な足跡」ではと指摘します。しかし国防大臣は信じようとせず、他に召集された学者たちも鼻で笑うばかりです。
そこに、作戦本部のオペレーターであるシグリットが、デモ隊参加者のスマホから密かに入手した事故当時の撮影映像が届きます。その映像に映っていたのは、唸り声とともに地中から這い出てきた「二本脚で立つ巨人」でした。
映像を見ても、巨人の存在を「不自然」と否定する学者たち。対してノラは、ドブレ山脈での怪現象及び巨人の調査に参加することに決め、首相もまたノラを科学顧問に任命し、彼女の付き添い役を務めるようアンドレアスに命じます。
ノラたちは早速、巨人によって破壊されたと思われる、グドブラン峡谷・レスヤの老夫婦の家へと移動。現場に到着した二人は特殊作戦部隊の大尉クリスと合流し、軍が巨人の足跡の追跡を試みたものの、途中でその足跡が忽然と消えてしまったことを彼から聞かされます。
残された巨人の足跡から、あまりにも強すぎる「自然」の匂いを感じとるノラ。しかし足跡にUVライトを照射しても生物の痕跡らしきものは見つからず、巨人が「擬態」の能力を持つ可能性を考える一方で、ノラはかつて耳にした「古い詩」を思い出します。
ノラはアンドレアス、クリスととともに、ヨートゥンハイメンのスタインブ峡谷で一人暮らす父トビアスの家へ向かいます。「もうあそこには戻らん」と怒りながら銃を向けてきた父と一悶着ありつつも、ノラは例の映像をトビアスに見せます。
「ノルウェーでは、トロールと接触すると1840年までは最高刑だった」「トロール絶滅の理由はノルウェーのキリスト教化」「真実を公表する前にわしは監禁された」「民話集や神話、芸術品は全部真実を隠すために作られた」……空想じみた言葉を口々に言うトビアス。ノラは「トロールが実在したならとっくに化石が発掘されている」と父の主張を否定します。
民俗学者であるトビアスは長年、トロールの研究を続けていました。しかし彼はトロールの研究に没頭するあまりに精神を病んだと周囲に見なされ、教授の職を追われ、精神科病院に入院させられていた時期もありました。
それでもノラが父を調査に連れ出したのは、長年の研究によってトビアスは誰よりもドブレ山脈の地理に詳しくなっていたのを見込んでのことでした。
トビアスを連れ、ヘリで再び足跡が途絶えた場所へと向かう一行。すると、その場所へ到着したトビアスは「この場所の地形が、地図に記載されている地形と全く違う」と言い出します。
ノラも、足跡から感じた強すぎる「自然」の匂いがまたすることに気づきます。そして振り向いた時、そこには地面や岩肌に「擬態」していた巨人の姿がありました。
ヘリに乗り込みかろうじて窮地を脱した一行は、巨人の映像を作戦本部へと送信。首相たちがいよいよ巨人の存在を認めざるを得なくなった中、ヘリはオステルダーレンのレナ軍基地へと向かうことに。
ノラに止められるも、首相たちに巨人の正体は「トロール」だと訴えるトビアス。おとぎ話に登場する妖精の名を聞いて、国防大臣は呆れ返ります。首相も調査は打ち切った上で、軍に巨人への攻撃を任せることを決めます。
トロールの存在を信じ続ける父に愛想を尽かし、再び発掘現場へ戻ろうとするノラ。しかし父トビアスは、目覚めたら仲間が誰もいない「別世界」のような世界にいるトロールの孤独を指摘した上で、調査を続けるよう説得します。
巨人……トロールの調査という「冒険」を父と続けることにしたノラは、軍事作戦の現場へ調査のため同行させてほしいとクリスに頼みます。当初は断ろうとしたクリスですが、熱意に押されて渋々同行を許可します。
映画『トロール』の感想と評価
映画『トロール』をより知るための“父の姿”
「土と石の体」「雪に覆われた心に氷の骨」「闇に蠢き、太陽の光で凍りつく」……映画作中では古き詩の形で伝承が紹介される妖精トロールですが、『ハリーポッターと賢者の石』(2001)などでその存在を知る方の多くは、「怪力と凶暴性を併せ持つも、知能は決して高くない醜い巨人」というイメージを抱いているのではないでしょうか。
確かにトロールは「人間に悪意または敵意を持つ巨人」として描かれることが多いですが、一方では「白く長いあごひげの老人(デンマーク)」や「小人の妖精(スカンジナビア半島)」として描かれることも。また、その描写の違いを裏付けるかのような「変身能力を持ち、どんな姿にも変身可能」という伝承も存在します。
スカンジナビア半島では「優れた金属工芸の技術、薬草・魔法を用いた治療技術を持つ」という伝承も残されているというトロール。映画『トロール』でもそうしたトロールの知能の高さに言及しており、首相が作中で口にした「殺人兵器」とは異なる一面を描いています。
そしてその異なる一面を知る上で、最も重要なキーワードが「父の姿」です。
トロール王にそっくりな“あの人”
仲間も家族もいない「別世界」と化した世界で孤独を強いられ、結果として人間への警戒心・敵愾心も強まってしまった中で、それでも大切な家族のことを想い続ける……映画作中で描かれてゆくトロール王の哀しみを知れば知るほど、多くの方は「トロール王は“あの人”と似ている」と感じたのではないでしょうか。
その“あの人”とは、登場人物の中で誰よりも早くトロール王が抱える「別世界」での孤独を指摘し、誰よりも優しくトロール王に歩み寄ろうとしたノラの父トビアスです。
「生え放題で毛むくじゃらな口・あごヒゲ」というトロール王の姿と重なるビジュアルはもちろんのこと、トビアスがかつての父娘の「冒険」の思い出を手紙などに書き記した際、幼い娘ノラを「チビ助」、そして自身を「ノッポ」と表現していたのも、自身が探し求めるトロール王が「子を持つ父」でもあったと古くから気づいていたからではと推察できます。
もしかするとトビアスは、トロールという伝説の実在を証明するという目的以上に、トロール王が遭った悲劇、そして同じ「父」という立場であるがゆえに理解できてしまう、トロール王という「父」の哀しみを知ってしまったからこそ、トロールの研究を続けていたのかもしれません。
映画を観た人々がそう感じとっていたように、作中のトビアスも「父」としての自己の姿をトロール王に投影していた。そして映画終盤、照明灯の紫外線によって苦しむトロール王の姿を見続けることにノラが堪えられなくなったのも、トロール王の姿に自身の父トビアスの姿を重ねてしまったからに他ならないでしょう。
本作は「怪力と凶暴性を併せ持つも、知能は決して高くない醜い巨人」というイメージとはトロールの異なる一面として、人間とトロール、種族は違えども確かに存在する「父」の想いを描いた映画でもあったのです。
まとめ/映画という“おとぎ話”に潜む真実
映画『トロール』で描かれた、「父」の想いをめぐる物語。
その物語自体は「空想の産物」や「おとぎ話」であるものの、そこに潜む種を超えた「父」の想いは決しておとぎ話ではなく、映画を観る者が生きる現実の世界にも通じる真実であるはずです。
人はなぜ「おとぎ話」を……より現代的に言い換えれば、「フィクション」を求めるのか。
その答えは「現実世界を離れ、煩わしい他者とのつながりが存在しない“別世界”に耽りたいから」だけではなく、フィクションだから伝え得ることのできる非常に大切な、けれどありふれた「真実」を人々が知りたいからなのかもしれません。
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ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。