連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile168
誰かを傷つける可能性があるが使えば必ず自分の利益になる装置が目の前にあった時、あなたはその装置を使わずにいられるでしょうか。
人の欲は「少しだけ」を繰り返すことで当初からは考えられないほどに膨張していき、やがて身の破滅を導くことになります。
今回は「パラレルワールド」を題材に「人の業」と向き合ったカナダ産のSF映画『パラレル 多次元世界』(2018)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『パラレル 多次元世界』の作品情報
【公開】
2018年(カナダ映画)
【原題】
Parallel
【監督】
イサーク・エスバン
【脚本】
スコット・ブラザック
【キャスト】
アムル・アミーン、マルティン・バルストロム、ジョージア・キング、マーク・オブライエン、アリッサ・ディアス、キャスリーン・クインラン
【作品概要】
『パラドクス』(2016)や『ダークレイン』(2017)を手掛けたイサーク・エスバンが監督を務めたカナダ産のSFスリラー映画。
『メイズ・ランナー』(2015)のアムル・アミーンや『ブルー・バイユー』(2022)に出演したマーク・オブライエンが主要キャラクターで本作に参加しました。
映画『パラレル 多次元世界』のあらすじとネタバレ
ある日、エドワードの妻マリッサは仮面を被った人物に殺害されますが、その人物は仮面を取るとマリッサと全く同じ顔をしており、何事もなかったかのように彼女の人生を乗っ取りました。
アプリの制作と販売を行うためシェアハウスで企業したノエル、ジョシュ、デヴィン、リーナの4人でしたが、営業先を同業者に盗られただけでなくデヴィンが他社に引き抜かれることになり内部分裂が進んでいました。
4人が口論になった夜、些細なことから壁に穴を開けてしまいますが、その奥に不思議な空間があることに気づきます。
壁の穴を広げると屋根裏へと続く部屋があり、誰かが住んでいたことを確信させる物が散乱していました。
住んでいた人間(マリッサ)は自分と全く同じ顔の人間を執拗に尾行していた形跡があり、部屋には身体が入り込む鏡があります。
酒に酔ったジョシュは鏡に飛び込むと、そこには同じ間取りの家が広がっており、家の外にはジョシュも含む”自分たち”がいました。
興奮するジョシュは鏡から元の部屋へと戻ると自分が鏡の中にいた15分がノエルたちには5秒だったことから、時間が180倍に膨張していることに気づきます。
鏡は少しでも位置をずらすと作動せず、鏡は通るたびに別の「パラレルワールド」に繋がり、手を繋がなければそれぞれが別世界に飛ばされることが分かりました。
4人は「パラレルワールド」では経過する時間が少ないことや「パラレルワールド」の向こうの”自分たち”がこの鏡に気づいていないことから、「パラレルワールド」の先でアプリを開発することで驚くべき速度でアプリを開発できることを利用し始めます。
4週間の開発期間と言ったことでクライアントに断られてしまったアプリを「パラレルワールド」を使い僅か数日で仕上げた4人はクライアントを同業者のセスから勝ち取りました。
勢いに乗る4人は「パラレルワールド」を利用し、のしあがることを画策し始めます。
しかし、「パラレルワールド」は何もかもが同じというわけではなく、宝くじやギャンブルを的中させることは出来ませんでした。
4人は「パラレルワールド」の自分自身の預金を使い、贅沢の限りを尽くしながらそれぞれの世界の違いを調査をする中で、自分たちの住む家に住んでいたマリッサの日記を見つけます。
マリッサは旦那の死に絶望する中で鏡の存在に気づき、旦那のいる世界の自分とすり替わろうとしていたことを知ります。
ノエルとジョシュは別次元でライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが共演した「フランケンシュタイン」の映画を目にします。
自分たちの世界には2人の共演作に「フランケンシュタイン」はなく、いくら調べても差が出てこない複数の別次元でも、クリエイティブな分野に絞れば違いが生まれていると確信。
画家に憧れるも構図のセンスがなく諦めていたリーナは別次元にのみ存在する絵画をトレースした作品を作ることで脚光を浴び始めます。
ノエルは別次元のMITでの研究を自らのものとして発表し、会社はテレビで注目を受けるほどに事業を拡大。
ただ1人デヴィンだけが別次元からのトレースに不満を持っており、マリッサの日記から彼女が徐々に精神に異常をきたしていたこと知り慎重になっていました。
ある日、ジョシュが「パラレルワールド」の先で不倫していた女性の旦那に撃たれ死亡してしまいます。
ノエルたちは警察への「パラレルワールド」の露見を恐れ、ジョシュの死体を「パラレルワールド」へと移し、別の「パラレルワールド」から寝ているジョシュを誘拐。
目覚めたジョシュは自分の知っている世界との差に違和感を覚え、やがて精神を乱し始めていきます。
映画『パラレル 多次元世界』の感想と評価
他に類を見ない「多次元世界」の活用法を描いた作品
「並行宇宙」や「パラレルワールド」とも呼ばれる「多元宇宙論」を基軸とした、今自分たちが暮らしている世界とは少しだけ違う世界。
その世界では同じ人々が暮らしていながらも、自分の世界では取られなかった選択から生まれたさまざま物事のズレが存在しており、似て非なる世界が広がっている可能性もあるとされています。
そんなSF作品で古くから愛されている「パラレルワールド」を題材とした物語が展開される『パラレル 多次元世界』ですが、本作での「パラレルワールド」の活用法は類似の作品とは全く異なっていました。
「似て非なる世界」であるがゆえに、SF作品での「パラレルワールド」は「別次元の同一人物」に物語の対象を絞ることが多い印象があり、本作でも「別次元の同一人物」は鍵となる要素のひとつにはなっています。
しかし、本作の主人公の1人ノエルは、別次元の文化や時間のズレを使って自分の世界で大成する方法を模索しており、「そんな使い方もあったか」と思わず口にしてしまうような想定外の活用法を見せてくれました、
「多次元世界」を通して描かれる人の業
「パラレルワールド」に繋がる「鏡」の存在を知り活用方法を見出していく4人は、当初こそ誰も傷つけず自分たちが少しの得をする手段に絞って行動します。
しかし、徐々に「パラレルワールド」の先の人間に対する思いやりが欠けていき、やがて自分の親友でさえも躊躇いなく手に掛ける崩壊を迎えていくこととなります。
1を手に入れれば10欲しくなる、底をつくことのない人の欲望がそれぞれの葛藤とともに描かれる本作はあり得ない世界観のSFでありながら、誰にでも起こり得る人の愚かさを描いていました。
まとめ
「パラレルワールド」を通して描かれる人の欲望との対峙。
SFでありサスペンスでありヒューマンドラマでもある『パラレル 多次元世界』は、派手なシーンが決して多くない映画ではあるものの、どのジャンルとしても十分な満足感を得られる作品でした。
終盤にびっくりするほどのゴア描写があり、そういった描写が苦手な人には注意が必要ですが、一見の価値があると言える映画です。