連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第128回
故・松田優作の代表作とも言えるドラマ『探偵物語』(1979)をオマージュしたかのような映画『終末の探偵』。
主人公の探偵を生業とする連城新次郎は、借金を抱え、酒やギャンブルに浸る半面、情にはもろく、弱きを助け、強きを挫くまっすぐな気性の持ち主です。
<ヤクザVS中国系マフィアの抗争>と<謎の失踪を遂げたクルド人女性>の2つの事件に関わるうちに、ドス黒い野望に巻き込まれていく新次郎の行く末は如何に……。
井川広太郎監督が北村有起哉を主演に迎え、ニューヒーローとでもいうべき連城新次郎の「探偵物語」を完成させました。
映画『終末の探偵』は、2022年12月16日(金)よりシネマート新宿ほかにて公開。
映画公開に先駆けて、『終末の探偵』をご紹介します。
映画『終末の探偵』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【脚本】
中野太、木田紀生
【監督】
井川広太郎
【出演】
北村有起哉、松角洋平、武イリヤ、青木柚、髙石あかり、水石亜飛夢、佐藤五郎、茨城ヲデル、松澤蓮、牛丸亮、諏訪太朗、古山憲太郎、川瀬陽太、高川裕也、麿赤兒
【概要】
『終末の探偵』は、北村有起哉が裏社会を駆けずり回る型破りな私立探偵を演じる、クライムハードボイルド。監督は『東京失格』(2006)『キミサラズ』(2017)の井川広太郎が務めました。
主人公・蓮城新次郎役にはドラマ『ムショぼけ』(2021)などで活躍する北村有起哉。
共演として、『燃えよ剣』(2021)の松角洋平、俳優・モデルとして活躍する武イリヤ、『うみべの女の子』(2021)の青木柚、『ベイビーわるきゅーれ』(2021)の髙石あかりらが集結しました。
映画『終末の探偵』のあらすじ
とある街の喫茶店を事務所代わりにしてしがない探偵業を営む連城新次郎は、ギャンブル好きで酒癖の悪い中年男。
新次郎が探偵業を営んでいる街は、中国人が多く流入し、中国系の新興マフィア、バレットが急速に勢力を拡大させていました。
ある日、闇の賭博場でトラブルを起こした新次郎は、顔なじみのヤクザである笠原組幹部の恭一から面倒な仕事を押しつけられます。
それは笠原組が敵対する中国系マフィア、バレットの関与が疑われる放火事件の調査でした。
時同じくして新次郎は、フィリピン人の両親を強制送還させられた過去を持つミチコから、謎の失踪を遂げた親友のクルド人女性の捜索を依頼されます。
やがて恭一や新次郎が何者かによってボウガンを撃たれる事件が発生し、笠原組とバレットの対立が激化。
消えたクルド人女性は依然として行方知れず……。また、思いがけずに二大組織の抗争に巻き込まれてしまった新次郎。
全てが複雑に絡み合う一触即発の危機を、どのようにして切り抜けるのでしょう。
映画『終末の探偵』の感想と評価
困った人の依頼を受けて事件を解決する探偵業。
頭がよくカッコいい男性のイメージがありますが、本作の主人公の探偵・連城新次郎は、借金まみれで酒やギャンブル大好きという、かなりアウトローな男性です。
本作の台詞のなかに「世の中のどぶさらい」という言葉が出てきますが、まさにその言葉通りの探偵で、さえない仕事ぶりと推察できます。
ですが、本当は気は優しく曲がったことが大嫌いな連城新次郎。請け負った事件の裏に潜む社会の悪に気が付くと、奮起しました。
連城新次郎を演じるのは、北村有起哉。ドラマ出演が多い北村ですが、本作ではアウトローな探偵という役柄を、生きているのにやや疲れた中年男の哀愁と色気を漂わせて体現しています。
一見、喧嘩も弱そうに見える華奢な体系の北村が、血だらけになりながらも、いざというときにはどんな相手に向かっていきます。
こんなアクションシーンがふんだんに用意され、連城新次郎という探偵の掴みどころのない強さを印象付けています。
カッコ良く事件を解決するのが探偵ではありません。自らも血を流すほど親身になって事件の解決に挑む探偵こそ、皆から待ち望まれます。
たとえ、普段は酒やギャンブルに溺れていたとしても、有事の際にはいつでも味方になってくれる、そんなヒーローの姿が‟どぶさらい探偵”の連城新次郎に重なることでしょう。
まとめ
北村有起哉が体当たり演技で好演する『終末の探偵』をご紹介しました。
予告編で使用されている映画『終末の探偵』のメインテーマは、『探偵物語』を意識した楽曲と思われます。
「連城新次郎」という新たな探偵像と昭和の探偵ドラマをオマージュした音楽が被さり、ハードボイルド・ジャンルの伝統的な醍醐味が、新たに現代に蘇ります。
「世の中のどぶさらい」が「社会の悪」を始末するという痛快なクライム・エンターテインメントをお楽しみください。
映画『終末の探偵』は、2022年12月16日(金)よりシネマート新宿ほかにて公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。