連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第127回
映画『MEN 同じ顔の男たち』は、夫を亡くした傷心の女性が癒しのために滞在した美しい風景の田舎で恐ろしい体験をするSFスリラー。
『ミッドサマー』(2019)『ヘレディタリー/継承』(2018)を製作したアメリカの配給会社「A24」とSFスリラー『エクス・マキナ』(2015)のアレックス・ガーランド監督が、究極のタッグを組んだ作品です。
散歩途中の廃トンネルで見かけた人影が、緑の森から女性の方へ向かってきました。影におびえて逃げ出した彼女に、恐ろしい悪夢のような出来事が次々と襲い掛かります。
映画『MEN 同じ顔の男たち』は、2022年12月9日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
映画公開に先駆けて、映画『MEN 同じ顔の男たち』をご紹介します。
CONTENTS
映画『MEN 同じ顔の男たち』の作品情報
【日本公開】
2022年(イギリス映画)
【原題】
MEN
【脚本・監督】
アレックス・ガーランド
【音楽】
ジェフ・バーロウ、ベン・ソールズベリー
【出演】
ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィ
【概要】
『MEN 同じ顔の男たち』は、クオリティの高い映画製作に定評のあるアメリカの配給会社「A24」とSFスリラー『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督のタッグによって製作されました。
夫の死を目撃した過去のトラウマと目の前に現れる同じ顔の男たちの恐怖に対峙する主人公を見事に体現したのは、『ワイルド・ローズ』(2022)『ロスト・ドーター』(2021)に出演した、2022年度注目女優のジェシー・バックリー。
またダニエル・クレイグ版「007」シリーズで知られるロリー・キニアが、一人で何役もの「同じ顔の男たち」を怪演しています。
映画『MEN 同じ顔の男たち』のあらすじ
夫ジェームズ(パーパ・エッシードゥ)と離婚の話をしていたハーパー(ジェシー・バックリー)。激怒した夫は窓から外へ飛び出し、その死を目の前で目撃してしまいます。
彼女は心の傷を癒すため、イギリスの田舎町を訪れます。そして、中年男のジェフリー(ロリー・キニア)が管理人を務める、豪華なカントリーハウスに滞在することに……。
滞在を始めた翌日、ハーパーは森へ散歩に出かけました。緑一色の森の中には廃トンネルがあり、ハーパーの歌声が何重にもこだまします。
気持ちよく散歩していたハーパーですが、廃トンネルの向こう側に不審な人影を見つけ、薄気味悪くなってハウスへ戻りました。
やがて、町へ出かけたハーパー。ところが、お面を被った少年、牧師、そして警察官など、次々と出会う男たちが「管理人のジェフリーと全く同じ顔」と気づきます。
町に住む同じ顔の男たち。廃トンネルからついてくる謎の人影。木から大量に落ちるりんご。そして、幾度となくフラッシュバックする夫の死。
不穏な出来事はまるでこだまするかのように連鎖し続け、“得体の知れない恐怖”は徐々にその正体を現し始めます……。
映画『MEN 同じ顔の男たち』の感想と評価
美しい歌声が恐怖の世界へ導く
SFスリラー映画『MEN 同じ顔の男たち』は、前半緑豊かな美しい風景の中でファンタジックな展開をし、ジェシー・バックリーの歌声が響き渡ります。
「癒し系」の映画と思っていると、突如として怪しい人影が出現して物語は一転。楽しそうなジェシーの表情は消え失せ、得体のしれないモノに追われる恐怖に震える主人公に徹します。
経験したことのないような恐怖体験を体現するジェシー。見事な歌唱力で歌う彼女の歌声が途絶えた時から、観客も奇妙な世界へ引きずり込まれました。
廃トンネルの出口と入口の世界は、「天国と地獄」なのかもしれません。
夜のハウスに侵入を試みる全裸の不審者、教会で出会ったお面を被った少年、ジェシーの心の傷をさらに抉るようなアドバイスをする牧師、街で次々と出会う男たちは、不審者を逮捕したポリスマンでさえ、皆不気味なオーラをまとっています。
彼らが全員、ハウスの管理人と同じ顔というのもまた怖い。同じ顔を持つ人物は、ロリー・キニア一人が熱演。一人ひとりの役柄の特徴をよく捉えて演じ分けていました。
気鋭の配給会社「A24」が製作
映画『MEN 同じ顔の男たち』は、日本でも急速に名を知られるようになったアメリカの配給・製作会社「A24」(エー・トゥエンティフォー)が製作しています。
そのやり方は、まず各地の映画祭などで「これぞ」と感じた若手監督をピックアップ。映画の配給を行ったのち、新作をバックアップしてさらに育て上げていくというもの。
クオリティに関しては、基本的にそれぞれの創造性を信じ、全権を持たせています。このサイクルが見事に成功し、良質兼異質な作品が次々と誕生しました。本作もその一つではないでしょうか。
美しい音楽と風景で彩られた『MEN 同じ顔の男たち』ですが、ラストへと続く20分はトラウマになるほどの恐怖の悪夢が用意されています。
SFスリラーの名手アレックス・ガーランドと「A24」のタッグだからこそ出来た、完成度の高い恐怖が味わえる作品と言えます。
まとめ
SFスリラー映画『MEN 同じ顔の男たち』をご紹介しました。
予告動画の廃トンネルのシーンは、禁断の地の入り口に踏み入れようとしているかのような、得体の知れない恐怖の幕開けを予感させるカットとなっています。
ここではまだまだ恐怖の序章。次第に募る‟本当の怖さ”は後半ラストへ続く20分に凝縮していると言えます。
初めて見るような場面、そして二度と見たくないであろうグロテスクな映像に釘付けになることでしょう。
映画『MEN 同じ顔の男たち』は2022年12月9日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。