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Entry 2022/01/05
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映画『ロスト・ドーター』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。オリビア・コールマンが演じる母親の葛藤と喪失|Netflixおすすめ映画80

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『ロスト・ドーター』は2021年ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した作品。

『ロスト・ドーター』は、エレナ・フェッランテの小説を基に、『クレイジーハート』や『ダークナイト』などに出演している女優のマギー・ギレンホールが長編監督デビューを果たしたヒューマンドラマです。

2021年・第78回ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した本作は、Netflixにて2021年12月31日から配信開始されました。

主演は、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞を受賞したオリビア・コールマンです。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『ロスト・ドーター』の作品情報


Thelostdaughter

【公開】
2021年(ギリシャ・アメリカ・イギリス・イスラエル合作映画)

【監督】
マギー・ギレンホール

【原作】
エレナ・フェッランテ著「La figlia oscura」

【キャスト】
オリビア・コールマン、ジェシー・バックリー、ダコタ・ジョンソン、エド・ハリス、ピーター・サースガード、ポール・メスカル、ダグマーラ・ドミンスク、アルバ・ロルバケル、ジャック・ファーシング、オリバー・ジャクソン=コーエン、パノス・コロニス

【作品概要】
『クレイジーハート』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートの経験のある女優のマギー・ギレンホールが、エレナ・フェッランテの小説を元に監督、脚本を務めた本作。

マギー・ギレンホールは、父が映画監督のスティーブン・ギレンホール。母は脚本家のナオミ・フォーナー。弟は『遠い空の向こうに』や『ナイトクローラー』『サウスポー』など多様な役柄を演じる演技派俳優のジェイク・ギレンホールと、芸能一家に生まれ、本作で初めて長編映画デビューを果たしています。

主演のオリビア・コールマンは、ドラマシリーズ「ナイト・マネジャー」(2016)でゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞、『女王陛下のお気に入り』(2018)でエマ・ストーンと共演し、第91回アカデミー賞主演女優賞を受賞している実力派女優のひとりです。

最近では、アンソニー・ホプキンスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ファーザー』(2021)に出演しています。

本作は、ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞しています。ほかにも、ゴッサム賞で作品賞、ブレイクスルー賞、脚本賞、主演俳優賞を受賞。

ニューヨーク批評家協会賞にて作品賞を受賞、ワシントンD.C.映画批評家協会賞でオリビア・コールマンが主演女優賞を受賞しているほか、2022年1月9日に授賞式が行われる予定の第79回ゴールデングローブ賞にて監督賞と、主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされています。

映画『ロスト・ドーター』のネタバレとあらすじ


Thelostdaughter

キオペリに夏の休暇へとやってきた教授のレダ・カルーソ(オリビア・コールマン)。管理人のライル(エド・ハリス)に案内されて部屋に入ります。

翌朝宿のそばのビーチへと出かけた。遊ぶ若い母親ニーナ(ダコタ・ジョンソン)と幼い娘のエレーナの姿を見て涙ぐみ、水を飲みに行きます。自分の娘との思い出が蘇ってきたからでした。

部屋に戻ると娘のマーサから電話がありました。ヘアカラーを失敗したなど他愛のない会話をして電話を切ります。

また翌日ビーチへ行くと、その親子の夫や親族らしき人々が大勢ボートでやってきました。親族で集まりたいからとパラソルを移動するように言われたものの断ったことで口論になります。

しかし少ししてから再びその女性が話しかけてきました。彼女はカリーと言って、あと2ヶ月で出産予定。自分の誕生日だからみんなでお祝いしているのだと言います。

レダは現在48歳。ビアンカとマーサという25歳と23歳のふたりの娘がいることを打ち明けました。
帰り道に松ぼっくりが背中にあたりあざができたレダ。夕食に出かけます。

宿の下の階にあるバーでライルに話しかけられました。いつでも頼ってくれと言われます。レダは帰り際に誘うように耳元でライルに話しかけて部屋へと帰っていきました。

翌日ビーチにて、ニーナが夫と口論していると娘のエレーナが行方不明になり、大騒ぎになります。レダも一緒に探し、岩陰で遊んでいるのを見つけました。
ニーナの元に連れて行き、ニーナやカリーらに感謝されました。しかし、今度はエレーナの人形がなくなったことでエレーナは泣きじゃくっていました。

レダも過去にビアンカをビーチで見失い必死に探したことを思い出していました。そして、自分の人形をあげたのに大切に使わなかったビアンカに対して厳しく叱って人形を壊してしまった過去を思い出します。

思わず出来心でエレーナの人形を持ち帰ったレダでした。

ビーチハウスのアルバイトのウィルと一緒に夕食をとり、話をする内にビアンカとマーサの娘の話になりました。カリーら一族は悪人だから気を付けるようにと忠告されました。

若くして子どもを生んだレダは当時、学業と子育てに目の回る日々を過ごし、夫の協力も得られず追い詰められていました。

人形の洋服を買いに行った先で偶然ニーナやカリーらに会います。子育てに疲れた様子のニーナを気遣うレダ。カリーから自分の子育てのときのことを聞かれたものの覚えていないと言って言い合いになります。

人形は見つかるから買わないほうがいいとニーナに伝えて帰りました。

レダも過去にビアンカに手を焼き自分の時間が欲しいと願っていたことを思い出します。それと同時に楽しかった記憶も思い出していました。

家にハイカーを招き入れ、不思議と仲良くなった過去を思い出します。そのカップルは、男性に子どもが居ながらも、駆け落ちしていました。

現在、エレーナの人形に賞金が掛けられていることを捜索願いのビラを受け取って知ったレダ。そこへライルが新鮮なタコを持ってやってきます。タコを調理して食べながら会話をかわすふたり。

ライルにもたれかかるレダ。ライルは少し休んだ方がいいと言ってソファに座ってレダが目覚めるまで待っていました。

翌日ニーナの家に訪ねて行ったレダ。家の外でニーナとウィルが密会しているところを見てしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ロスト・ドーター』ネタバレ・結末の記載がございます。『ロスト・ドーター』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

レダは過去に学者のハーディから自分の論文を認められて学会に招かれました。娘たちをシッターに預けて出かけたレダ。

学会のあとの夕食会で、お酒を酌み交わし話をするうちに互いに惹かれあっていったレダとハーディは体を重ねました。その後、自宅に戻ったレダでしたが、子育ての合間にハーディと連絡をとり、会っていました。

現在、レダが露店で買い物をしているとニーナが会いに来ます。ウィルとのことを知られたと知って、非難しないでと言いに来ます。

レダは娘たちが7歳と5歳の時に丸3年彼女らを捨て、元夫と母親にその間世話をしてもらったと涙ながらに打ち明けます。

夜に街に繰り出したレダ。クラブで踊っているとニーナの親族がやってきて、ライルから帰るように言われます。

帰り道でウィルに話しかけられたレダ。部屋をウィルとレダに数時間貸してほしいと頼まれます。ニーナと話したいからと断ったレダ。

ニーナがレダの家に訪れます。自分はうつ状態だと打ち明けます。子育ての苦しみは終わるのかと尋ねるニーナにレダは、エレーナの人形を持ってきます。

出来心で盗んだと、自分には母性がないと告げるレダ。ニーナは怒り、覚えておきなさいと言って以前レダがつけてくれたかんざしでレダのお腹を突き刺しました。

荷物をまとめて海に向かったレダ。波打ち際で倒れこみ、朝を迎えます。マーサに電話を掛けます。マーサが話すのを聞きながらネーブルの皮をむくレダ。

映画『ロスト・ドーター』の感想と評価

夏の休暇に出かけた女性が、偶然出会った母娘の姿から自身の過去について思いを巡らすサスペンスタッチな作品でした。

本作の主人公レダは20代前半で母親になり学業に対する向上心、女性としての性の渇望や情熱を持ち合わせていました。

そんな中で出口の見えない子育てに苛立ち、ある選択をします。

母親の苦悩が生々しく描かれ、子育ての経験があるなしに関わらず、その葛藤のリアルさは胸を苦しくさせるでしょう。

オリビア・コールマン演じるレダは、かつての自分を見るような眼差しでニーナ(ダコタ・ジョンソン)を見つめます。

彼女に自分を重ね、かつて自身の犯した行いへの後悔を感じます。しかしニーナに人形を渡した時に言ったあのセリフから、そんな生き方をするしかなかったと、自分を認めることができたのではないでしょうか。

母は子を、何を犠牲にしても愛するもの。というのはよく映画でテーマになりますが、ひとりの人間の生きざま、ひとりの女の決断というのを赤裸々に描き切った作品だと言えるでしょう。

そして、彼女の生きざまを善とも悪ともしていないところが、本作の良さだと感じました。監督のマギー・ギレンホール曰く、原作者のエレナ・フェランテは、映画化にあたって女性監督であることを条件にしていたと語っています。

一般的な母性の概念に囚われない。しかし、娘などへの愛情も捨てきれないありのままのレダの人物像を生々しく描いた本作は見る人々の心に複雑な感情を残すのではないでしょうか。

共感するための映画というと違うかもしれませんが、母性や子育てについて考えさせられる作品だと思います。

まとめ

本作は、音楽や人形を使った演出などからサスペンスタッチな雰囲気を感じられるのが特徴的です。そして、何よりもオリビア・コールマンの緊張感ある表情や、孤独な空気をまとった佇まいが印象的です。

セリフは物語の展開上必要最低限で、ほとんどがオリビア・コールマンの演技によって物語られます。彼女の演技はラストシーンまで必見です。

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