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『ウンチク/うんこが地球を救う』あらすじ感想と評価解説。“排泄物”が環境問題SDGsを簡単に大事なことを教えてくれる

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第73回

今回取り上げるのは、2022年10月28日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開の『ウンチク/うんこが地球を救う』

生物が生きていく上で欠かせない排泄物=“うんこ”の歴史と人類社会の諸問題、そして地球環境を救うための未来を、真面目に考えます。

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『ウンチク/うんこが地球を救う』の作品情報


(C)TRICKY HALE FILMS

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
Shit Saves the World

【監督・ナレーション】
トロイ・ヘイル

【キャスト】
トロイ・ヘイル、エリック・シバーソン、バロン・パートロウ、ショーン・シャフナー

【日本語吹替ナレーション】
鈴木達央

【作品概要】
人間をはじめとした動物にとって欠かせないものでありながら、汚いものとして避けられてしまう“うんこ”に焦点を当てたドキュメンタリー。

ドキュメンタリー監督のトロイ・ヘイルが全米各地を始め、オーストラリア、イギリス、インド、メキシコ、スリランカ、タンザニアなど全世界を巡り、うんこの過去と歴史、現在抱える数々の問題、そして未来について検証していきます。

日本公開版のポスタービジュアルを、絵本やイラストレーションをはじめ様々な分野で幅広く活動している亀山達矢と中川敦子によるユニット・tupera tupera(ツペラツペラ)が書き下ろし。

さらに日本語吹替ナレーションを、テレビアニメ『七つの大罪』、『Free!』、『キングダム』などの声優の鈴木達央が担当します。

『ウンチク/うんこが地球を救う』のあらすじ


(C)TRICKY HALE FILMS

この世に生を受けたものは、生まれてから死ぬまで、排泄しなければ生きていけません。にもかかわらず、汚い物として忌み嫌われてきた糞便=“うんこ”。

しかし、人類の歴史はうんこと共にあり、また生き物にとって、もっとも身近で重要な問題でもあったのです。

本作ではドキュメンタリー監督のトロイ・ヘイルが、全米各地を始めとする世界各国を巡り、うんこにまつわるさまざまな“ウンチク”や現在抱える環境問題、そして可能性を秘めた未来を検証していきます。

映画史上初?のうんこドキュメンタリー


(C)TRICKY HALE FILMS

地球上には77億人の人間と、870万種の生物が暮らしています。当然ながら、すべての生き物は生まれてから死ぬまで、うんこをしなければ生きていけません。

そんなうんこは汚い物として避けられ、公の場で語ることすらはばかれます。コメディアンがうんこをネタにギャグを言えば、「下品だ」「教育上よろしくない」と良識派から叩かれる始末…。

しかしながら生き物、特に人類の歴史は、うんことは切っても切り離せないもの。そんな、うんこに着目した人物が、これまでに10本以上のドキュメンタリーを手がけてきたトロイ・ヘイルです。

2016年発表の長編『Fart: A Documentary(おならドキュメンタリー)』(日本未公開)では、“おなら”を聞くとなぜ人は笑ってしまうのか、“おなら”に含まれるメタンガスの可能性など、“おなら”について多角的かつ真面目に検証。

本作『ウンチク/うんこが地球を救う』は、トロイの長編2作目にして、『Fart: A Documentary』の姉妹編ともいえる、おそらく映画史上初の“うんこドキュメンタリー”です。

『Fart: A Documentary』(2016)

うんこが提示する社会問題とSDGsな希望

(C)TRICKY HALE FILMS

邦題に『ウンチク』とあるように、前半ではうんこにまつわるトリビアが提示されます。

人間の1日の排便量は平均約400グラム、1週間で約2.7キロ、1年で145キロにもなるといった統計を皮切りに、現代トイレの基盤は220年前からできていた、ベルサイユ宮殿にはトイレが1個もなかった、香水の誕生はうんこの匂いを消すためだった…などなど、過去の歴史から現在のデータまで網羅。

その中には、うんこを起因とする社会問題も含みます。

アメリカとメキシコの国境沿いでは、メキシコのティフアナの下水がアメリカのサンディエゴに流れてくるとして環境活動家が断絶を高らかに叫ぶ。さらには安全なトイレを利用できない人は45億人にも上り、その大半がトイレ設備が整っていない発展途上国なのだとか。

排泄するだけしておいて、見て見ぬふりをしていたうんこの処理がままならない今の状況は、まさに「deep shit(泥沼)」状態です。

(C)TRICKY HALE FILMS

かといって問題提起するだけでは終わりません。うんこと正面に向き合っている人たちも存在します。

マイクロソフト創始者で環境保全に尽力するビル・ゲイツが、うんこから水を作る研究を進めていることをご存知の方も多いと思いますが、タイではゾウのフンを紙に、メキシコでは牛のフンをレンガブロックにそれぞれ変えるという取り組みが行われています。

また、うんこから抽出されるメタンガスをバイオエネルギーに変えるという、画期的なプロジェクトまで。

健康のバロメーターにして、昨今叫ばれるSDGs=「持続可能な開発目標」の重要なキーアイテムとなっている、うんこ。

たかがうんこ、されどうんこ。あなたも本作鑑賞を機に、うんこについて真面目に考えてみてはいかがでしょうか。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219


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