連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第4回
今回ご紹介するのは、ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』です。
累計100万人を動員したドキュメンタリー映画「うまれる」シリーズを製作した豪田トモ監督による新作です。
とある保育園を舞台に、子どもたちが自由に発言する「こどもかいぎ」の様子を密着撮影した本作。
子どもたちの生き生きとした姿や、自由な発言から思いがけない気付きや癒しを貰える作品となっています。
それでは、本作の見どころを解説していきたいと思います。
映画『こどもかいぎ』の作品情報
【公開】
2022年
【監督】
豪田トモ
【ナレーション】
糸井重里
【作品情報】
一時の父である豪田トモが企画・監督・撮影を務めています。過去作には、命と家族をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』(2010/ナレーション=つるの剛士)。『ずっと、いっしょ』(2014/ナレーション=樹木希林/文部科学省選定・厚生労働省社会保障審議会特別推薦)。『ママ をやめてもいいですか!?』(2020/ナレーション=大泉洋)で、累計 100 万人以上を動員。そのほか、2019年に初の小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。
ナレーションは、広告・作詞・文筆など多彩な分野で活躍する糸井重里が担当。主題歌にはゴダイゴの名曲「ビューティフルネーム」が使われ、子どもたちの輝かしい未来を期待させるエンディングとなっています。
『こどもかいぎ』あらすじ
とある保育園で、新たな取り組みとしてこどもたちが自由に発言する「こどもかいぎ」を行うこととなりました。
子どもならではの「水はどこからくるの?」「どうして雨は降るの?」など素朴な疑問が飛び交ったり、お腹の中に居たときの記憶について話をする子もいます。
中には自分の気持ちを上手く言葉にできない子や、集中して他の子の話を聞けない子もいました。
子どもたちの自立心や発言する力を信じて見守り続けた1年間、一体どんな姿が見られるのでしょうか。
映画『こどもかいぎ』感想と評価
対話の本質って?
本作はとある保育園で行われた、子どもが主役となった「こどもかいぎ」の様子や、先生たちの真摯な姿を通して、癒しと気付きを得られるドキュメンタリー映画です。
「こどもかいぎ」は、子どもたちがさまざまな疑問や思いを口にする時間。
「なんで、おじいちゃんおばあちゃんになったら死んじゃうの?」「水はどこからくるの?」
など、子どもたちの素朴な疑問は、大人の予想をはるかに超えたものや、時には理解不能なこともあります。
このかいぎの様子を見ていて最も感心したのが、子どもたちの発言について先生が答えを与えたり、間違いを正したりしないということです。
「○○ちゃんはどう思う?」とさらに考えを深めたり、「それはすごいね」などと寄り添うことはあっても、正解を与えない。
この姿勢を保って子どもたちに接することで、子どもたちの考える力や自分の思いを言葉にする力、そして自信を育てているのです。
先生たちの根気強さと、子どもの力を信じる姿勢に感服すると共に、発言する人の意見をしっかりと聞くという「対話」の前提がそこにあったように感じました。
例え相手の意見に賛同できなかったとしても、一度受け入れる。相手が話し終わるまできちんと待つ。こんな基本的なことを出来ていない大人って案外いるんじゃないでしょうか?
わが身を省みながらも、可愛らしい子どもたちの言葉に笑顔がこみ上げてきてしまいます。
子ども同士だけでなく、大人にも必要な「対話」とは。
子どもと大人の関係性を描いた映画でいうと、マイク・ミルズ監督の『C’mon C’mon カモンカモン』(2022)が思い出されます。
ホアキン・フェニックス演じるラジオディレクターのジョニーが、妹の息子ジェシーと2人暮らし始めたことによって、自身を見つめなおす物語です。
そこで描かれるワンシーン、ジョニーが甥っ子のジェシーに謝罪するくだりは『こどもかいぎ』の本質に通じるものがありました。
自分の気持ちを素直に伝えること、それから相手の気持ちを聞くこと、そうすることで関係性を修復するこの場面は、まさに「対話」の1つの形です。
こどもとの対話が、自分自身と向き合うことにもつながっていくのです。
まとめ
四季折々の植物や空模様、巡る季節の美しさを映しているのも本作の魅力の1つです。
冒頭は桜が満開に咲き誇る中で、子どもたちが遊んでいるシーンから始まります。
時が経ち、燦燦と太陽が照り付ける中、子どもたちが水遊びを楽しむ夏が来ます。
秋が来て沢山の落ち葉を見た子どもたちは、せっせとほうきで落ち葉を集めていました。
深々と雪が降る寒い冬を超え、また春が来る。年長組の子どもたちは、卒園を迎えます。
季節が変わりゆくにつれて、子どもたちは成長し、こどもかいぎの発言に変化が表れる子もいました。
1年の間に子どもたちが、学び、吸収したことは計り知れません。
柔らかく素直な考えを持つ子どもたちがすくすくと成長する姿から、未来への希望を感じさせられます。
その未来を守る、育てるために、私たち大人にできることはなんだろうと改めて考えさせられます。
本作が撮影されたのは、2018年新型コロナウイルスが流行する前でした。
この2年の間、人々は対話する機会を奪われ、今でもそれは元通りに戻ったとはいえません。
人と人が面と向かって思いを伝え合うことが難しくなったからこそ、「対話」の重要性は高まっています。
子どもたちの驚くほど純粋で、思いがけず飛び出す本質的な発言から、きっと多くの気付きを得られるはずです。
『こどもかいぎ』は2022年7月22日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開予定。
山田あゆみのプロフィール
1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計13回開催中。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。
好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。