連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第91回
今回ご紹介するNetflix映画『その瞳に映るのは』は、1945年3月21日にイギリスの特殊任務である“カルタゴ作戦”で犠牲になった、デンマークのカトリック系インターナショナルスクールを襲った悲劇の実話を描いています。
監督は「呪いの箱」にまつわる実話を題材に描いたホラー『ポゼッション』(2013)で、注目を集めたオーレ・ボールネダルが務めます。
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CONTENTS
映画『その瞳に映るのは』の作品情報
【公開】
2022年(デンマーク映画)
【原題】
Skyggen i mit oje
【監督・脚本】
オーレ・ボールネダル
【キャスト】
バートラム・ビスゴ・エネボルドセン、エスター・バーチ、エラ・ヨセフィーネ・ルンド・ニルソン、マレーナ・ルシア・ロダール、ファニー・リアンダー・ボールネダル、アレックス・ホイ、アルバン・レンドルフ、ジェームズ・ターピー、キャスパー・ケアー・イェンセン、ダニカ・クルチッチ、マッツ・リーソム、マレーネ・ベルトフト・オルセン、クリスチャン・イブラー、リッケ・ルイーズ・アンデルソン
【作品概要】
デンマークのテレビドラマ「ギルティー」で主役を務め、本作で注目された子役のバートラム・ビスゴ・エネボルドセンが、ショッキングな経験によりPTSDを発症する少年ヘンリーを演じます。
デンマーク人レジスタンスを取り締まる、ゲシュタポの予備警察(HIPO)のフレデリックを演じるのは、デンマークの若手俳優リッケ・ルイーズ・アンデルソン。
シスターテレサ役のファニー・リアンダーはオーレ・ボールネダル監督の娘で、デンマークで女優として活躍中です。
映画『その瞳に映るのは』のあらすじとネタバレ
1945年2月。デンマークのユトランド半島は、第二次世界大戦下であることを忘れさせるほどに、平穏な時間が流れていました。
結婚式に向かう3人の村娘がタクシーに乗り込みはしゃぎます。車内は幸せに包まれ平和そのものでした。田舎道を朝取りの卵を自転車で運ぶ少年・・・。
うるさいエンジン音と悪路のガタゴト音に、上空からの異音はかき消され、運転手が気づいた時には、イギリス空軍の奇襲により機銃掃射されます。
3人の娘が着た白いドレスは血に染まり、運転手も死亡してしまいました。
卵を運ぶ少年は上空からの異音に気がつき、空を見上げると低空で飛行する戦闘機が飛び去って行きます。
少年は緩やかな坂道の先にただならぬ不安を感じながら進みます。やがて開けた草原に出ると、彼の目の前には炎上する自動車が停車しています。
恐る恐る近づいた少年が車内を覗き込むと、中で4人の遺体が焼かれていく様を目撃してしまい、自転車を乗り捨て逃げました。
村はずれの家にスヴェンという男がフレデリックを訪ね、かくまって欲しいと哀願します。しかし、フレデリックは立場的に助けられないと拒み、“シェルハウス”で会おうと言います。
スヴェンはフレデリックから借りていたという金を返し、不安げに去っていきます。家の中へ戻ったフレデリックは朝食を食べます。
そんな彼を見ながら父は妻に「こいつはお前が産んだ子ではない。恥を知れ」と、母国を裏切り“HIPO(予備警察)”に入ったフレデリックを罵ります。
一方、コペンハーゲン市街では母親に連れられ買い物にきたエヴァが、母から乳母車の赤ん坊を見ているよう言われ店の外で待ちます。
しかし、人が行き交う通りで異変が起きます。シェルハウスに向かうスヴェンですが、2人の男が呼び止め名前を確認すると「多くを知りすぎた」と射殺されます。
エヴァはその一部始終を目撃し、呆然としてしまいます。慌てて店から出てきた母はエヴァの目を隠し、その場を去っていきます。
燃えさかる自動車の中で、焼かれていく人を目撃してしまった少年ヘンリーは、そのショックから失語症となり、広々とした場所や空を恐れるようになっていました。
ヘンリーの母は息子を医師に診せるため病院へいきますが、医師は原因を探るため彼が体験したことを聞こうとしますが、必死に話そうとしても言葉を発せられません。
すると医師は突然声を荒げて「しっかりしろ!男になれ!」と恫喝します。医師は多少の恐怖が時には最善の治療法だと母にいいます。
しかし、ヘンリーはその声に怯えてしまい、必死に声を出しますが言葉にならず、涙がこぼれだしてしまい、医師は匙を投げてしまいました。
ヘンリーの母は妹が暮らしているコペンハーゲンなら、“広い空”を見ることもないだろうと、そこに預けて様子を見ると決めました。
一方、イギリス空軍では2人のパイロットのところに、特殊作戦執行部(SOE)の少佐が訪ねて来て、ユトランド諸島でドイツ車両を攻撃したか聞きます。
2人はそのことを認めますが、彼らが攻撃したのは一般のタクシーで、運転手と3人の女性が犠牲になったと伝え、誤射には十分気をつけるよう注意します。
コペンハーゲンのシェルハウスでは、スパイ行為をしているレジスタンスが、上半身裸にされ鞭で打たれ、SOEと自由評議会の指揮系統について尋問されます。
見張り役としてフレデリックも同席しています。激しい尋問が続くとレジスタンスは、何かつぶやきます。フレデリックも耳を傾けると、司令官を「お前はもう終わりだ、裏切り者!」と罵り掴みかかります。
その頃、シェルハウス近くの寄宿学校では若いシスターが、“自由のデンマーク”という見出しのユダヤ人迫害の記事を見ながら、自分の背中を鞭で打っていました。
シスターテレサは院長から自傷行為の理由を聞かれ、「神を探すため」と答えます。ユダヤ人迫害などの不条理に対して、なぜ神は見放すのか納得できないからです。
テレサは自らに罪を与えることで、罰を与える神が出現すると信じて疑いませんでした。しかし、院長はユダヤ人はキリストを否定したからと答えます。
テレサは子供たちまでがその犠牲になることに、心を痛めていました。院長は神への信仰を失くした者には、慰めも何も残らないとテレサに告げます。
映画『その瞳に映るのは』の感想と評価
デンマークがドイツに統治されていた時代
本作は第二次世界大戦中にナチスドイツに統治されていた、デンマークで実際に起きたイギリス空軍による特殊作戦、「カルタゴ作戦」の誤爆による悲劇を描いた映画です。
1945年3月21日の爆撃の時、学校には529名の人がいました。482人の子供、34人の修道女と13人の教師や関係者で、被害者は116名のうち子供が87名でした。
デンマークは中立的立場をとっていましたが、十分な兵力とドイツの侵攻に抵抗するための地形に恵まれなかったため、抵抗を感じながらも国に有利な条件を出し、降伏するしかありませんでした。
1943年8月にドイツによる事実上の占領下に陥り、1944年にはゲシュタポ司令部(シェルハウス)が配置されます。
デンマーク人によるHIPO(予備警察)が組織されたことは、ドイツに加担した意味となりデンマーク人にとっては裏切り行為になります。
ドイツ軍に抵抗する、デンマーク人のレジスタンスは彼らに取り締まられ、国民同士の衝突が生まれていきました。
そもそも中立の姿勢をとっていたデンマークをドイツが占領したのは、イギリスとフランスからデンマークを守るという、ドイツ側の勝手な大義が発端でした。
子供達の目に映ったものとは・・・?
兵士以外の戦争の犠牲者は女性や子供などの弱者です。戦争の手が入っていないユトランド半島で、まさかの誤射によって少年が心の病になります。
この誤射事件は実際に起きており、映画が劇場公開する際には加害者であるパイロットの親族が、抗議したため誤射を伝えるシーンはカットされ公開しました。
そもそも「カルタゴ作戦」はシェルハウスだけを標的にした作戦で、子供や民間人が犠牲になる想定にはなっていませんでした。
しかし、戦争には想定外のことが起き、起きるはずがないと思われた参事を生みます。
作中で明暗を分けた子供がいました。デルタとリーモア、エヴァとヘンリーです。
デルタとリーモアは“チューリンゲンのエリーザベト”の逸話を詳しく知っていました。つまり、神の奇蹟を純粋に信じる子供たちです。
エヴァとヘンリーは人が殺されてしまう現場を見て、大人に恫喝されるという共通の恐怖を味わっていました。
エヴァのお腹が痛いというのは虚言でしょう。神の奇蹟などないのだと薄々気がつき、パンも聖水に浸さずそのまま食べていました。
運命を分けた子供をテレサの話しで例えるなら、リーモアとデルタは神が2人を見ていなかった瞬間に亡くなり、エヴァとヘンリーは見守られていたため助かったといえます。
しかし、エヴァは父親が戒めた好き嫌いがあれば“死んでしまう”という言葉を信じ、ヘンリーは医師から言われた「男になれ」という言葉が、消防団長の指令によって開眼させました。
子供達は大人が戒めの話よりもおとぎ話が好きで、純粋に信じるものです。ところが人間の不条理を目撃したヘンリーとエヴァは、ショッキングな体験を機に偏食や病を克服でき、生き延びるための経験値を積みます。
幼い2人の死はテレサにとって、神の存在がないことを決定づけるもので、2人を犠牲にして生き残ってしまったと感じたでしょう。その苦しみから逃げるように自ら命を絶ちました。
まとめ
Netflix映画『その瞳に映るのは』は、2022年の国際情勢に鑑みることができます。正直、“事実は映画よりも奇なり”です。毎日見るニュース映像はヘンリーと共感しショックです。
そして、寝食に不自由のない今に感謝できる気持ちは、エヴァと共感できます。日本人はおとぎ話のような奇跡の中にいるといえます。
有事がない時に観ていたら、違った感想になったと思いますが、今は過去に起きていた過ちを再び犯す危機にあると、観ることのできる作品です。
何を信じてどう行動するのかシリアスな気持ちで、戦争が生む不条理を考えるきっかけとなる、非常にタイムリーな作品でした。
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