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『ポゼッサー』ネタバレ結末感想と評価考察。ラストに謎だらけの主人公が迎える‟変化”は理解不能な領域に突入する|サスペンスの神様の鼓動48

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動48

特殊なデバイスを使用し、殺人を請け負う企業の天才エージェント、タシャ。

完璧なはずの「遠隔殺人システム」に、狂いが生じたことから始まる、予測不能な物語を描いたSFサスペンスノワール『ポゼッサー』。

独自の道を進む鬼才、デビッド・クローネンバーグを父に持つ、ブランドン・クローネンバーグの長編2作目となる『ポゼッサー』は「遠隔殺人システム」という設定や、手加減無しの残酷描写から「R18+」に指定された作品です。

ブランドン・クローネンバーグは「刺殺シーンで、刺す回数を1回でも減らしたら、作品が台無しになっていたと思う」と語っており、無意味に残酷描写を入れた訳ではなく、CGを一切使用しないなど、強いこだわりを持ち制作し、独特の作品に仕上げています。

意識と記憶が錯綜する場面も多く、難解に感じる作品かもしれませんが、ラストは背筋が凍るような、恐ろしい解釈のできる作品なので、『ポゼッサー』という作品が持つ魅力を紹介すると共に内容を考察していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『ポゼッサー』のあらすじ


(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

他人の意識を乗っ取って操り、ターゲットを殺害した後に、乗っ取った人間を絶命させることで「離脱」を行う「遠隔殺人システム」。

タシャは「遠隔殺人システム」を使用し、殺人を請け負う企業のエージェントとして働いていました。

タシャの上司であるガーダーは、タシャの殺しの腕を高く評価し、自分の後継者に考えていました。

ですが、ある時を境に、タシャが任務遂行後に、乗っ取った人間を絶命に追い込むことができなくなり「離脱」がスムーズに行えなくなります。

また、タシャは離婚した夫のマイケルと、息子のアイラの存在が気になっていました。タシャはマイケルと離婚した後も、定期的に会っており、家族の時間を過ごしています。

マイケルに、自分の仕事を打ち明けていないタシャは、罪悪感からマイケルと意識的に距離を置こうとしていました。ですが、タシャはマイケルから復縁を提案されます。

マイケルとアイラに「仕事で長い出張に出る」と伝え、再び家を出たタシャは「遠隔殺人システム」による、次の殺しの依頼を受けます。

ターゲットは、データを改修する事業で大成功したジョン・パース。ジョンには娘のエヴァがいますが、エヴァのフィアンセであるコリンを良く思っていません。

タシャはコリンの意識を乗っ取り、精神に異常をきたしたふりをして、ジョンとエヴァを殺害するミッションを与えられます。

そして迎えた作戦決行当日。

タシャはコリンの意識を乗っ取り、エヴァに近付きます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ポゼッサー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ポゼッサー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

コリンの意識を乗っ取ったタシャですが、普段と様子が違うことを、エヴァに指摘され焦りを感じます。

それでも、エヴァに招待され、ジョンが開催したパーティーに参加することに成功します。

ここで、コリンが錯乱した印象を周囲に与える為に、タシャはコリンを操り、大勢の前でジョンを怒らせます。

一度は、パーティー会場から追い出されたコリンでしたが、パーティー終了のタイミングを計り、ジョンの屋敷に潜入します。

酔っぱらったジョンの前に現れたコリンは、銃を撃とうとしますが、銃の使用をためらい、持っていた刃物でジョンの喉元を貫きます。

その現場を見ていたエヴァを、銃で撃ち殺したコリンは、自らの口に銃口を突っ込みますが、引き金が引けません。

コリンは、床に落ちていたガラスの破片で胸を貫きますが、絶命までには至らず、中途半端に生き延びてしまいます。

コリンは友人の家に逃げ込みますが、眠っていたはずのコリンの意識が目覚めてしまい、コリンの中にあるタシャの意識に抵抗を始めます。

「離脱」ができないだけではなく、覚醒したコリンの意識にも苦しみ始めたタシャは、自身とコリンの記憶が錯綜を始め、混乱状態に陥ります。

苦しむタシャを救う為、エージェントのエディが派遣されます。

タシャはエディのアシストを受けながら「離脱」を行おうとしますが、再びコリンの意識に抵抗され、気が付けばエディを撃ち殺していました。

タシャとコリンの意識が錯綜しているコリンの体は、マイケルとアイラの住む住居に向かいます。住居の中に入ったコリンは、マイケルを殺そうとしますが抵抗されます。

ですが、タシャの意識がコリンに「マイケルは邪魔、殺しなさい」と命令し、コリンはマイケルの命を奪います。

その様子を見ていたアイラは、コリンの首に刃物を刺します。薄れゆく意識の中で、コリンはアイラに発砲し、撃ち殺します。

「離脱」に成功し目覚めたタシャ、隣にいたのは「遠隔殺人システム」を使用していたガーダーでした。

ガーダーはタシャを「離脱」させる為に、アイラの意識を乗っ取りコリンの命を奪ったのです。

無事に戻ったタシャは、ガーダーから「精神に異常が無いか?」を確認するテストを受けます。

テストの途中でタシャは、幼い頃に自分が殺した、蝶の標本を手に取り見つめました。

サスペンスを構築する要素①「全てが謎だらけの主人公タシャ」


(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

他人の意識を乗っ取り、殺しを行うエージェントのタシャと、タシャに抵抗するコリンの、精神的な戦いを描いた映画『ポゼッサー』。

『ポゼッサー』の主人公であるタシャは、他人の意識を乗っ取り、殺しを遂行する「遠隔殺人システム」を使用するエージェントです。

意識を乗っ取った他人を絶命させることで、タシャの意識は「離脱」し、元の体に戻るという設定なのですが、はっきり言ってしまえば、かなり悪趣味なシステムですね。

タシャは「遠隔殺人システム」を使用した、天才的なエージェントで、上司のガーダーも、その腕を高く評価し「自分の後継者に」と考えているようです。

ですが、タシャが所属している、この企業が一体何者なのか?そして、タシャが何故この仕事をしているのか?は全く説明されておらず不明なままです。

また、タシャは離婚した夫のマイケルを「危険な存在」と語っていますが、マイケルとは定期的に会っており、マイケルもタシャを必要している「良い夫」も見えます。

主人公であるはずのタシャについて、全く何の説明も無いまま、物語が進行していくことにより、観客は『ポゼッサー』の持つ「何か気持ち悪い謎」に引き込まれていきます。

サスペンスを構築する要素②「制御不能になる覚醒した意識」


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観客に詳しい説明も無いまま物語が進む『ポゼッサー』。中盤からは、資産家のジョン・パースを殺害するミッションがメインとなっていきます。

ジョンは、他人を見下す嫌な性格ではありますが、決して犯罪者ではないようです。

タシャが所属するこの企業は、報酬を貰えば善悪の区別はなく、誰でも殺すようなので、決して正義の為の組織でもなさそうです。

その辺りが、より一層不気味ですね。タシャは、ジョンに近付く為にコリンの意識を乗っ取ります。

途中まで、問題なくミッションは進んでいたように見えますが、突然コリンの意識が覚醒し、制御不能状態になります。

自分の体を取り戻そうとするコリンの意識と、タシャの意識との戦いが、中盤の見どころになる訳ですが、普通に考えたら、殺し屋に意識が乗っ取られることに抵抗する、コリンの方に正当性がありますよね。

タシャを物語の主軸に置くことで、制御不能になったコリンの意識を「厄介」と感じさせる、逆転の感覚を体感させるあたり、ブランドン・クローネンバーグ監督の手腕が光ります。

本作のタイトルになっている「ポゼッサー」とは「所有者」という意味です。

コリンの頭の中で対立する、タシャとコリンの意識。「どちらが所有者になるか?」が、後半の重要な展開となっていきます。

サスペンスを構築する要素③「マイケルを殺害した目的は?」


(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.
タシャとコリンの意識が共存するコリンの体は、本作の終盤で、マイケルの住居へと向かいます。

ここから「コリンの所有者がどちらになっているか?」が観客に分からなくなっており、普通に考えれば、タシャに恋人と人生を奪われたコリンが、タシャにとって大切な人間を、奪おうとしていると受け取れます。

ですが、途中からタシャの意識はコリンに「マイケルを殺せ」と命じるようになります。

これは一体どういうことなのでしょうか?

本作の序盤で、タシャは夫のマイケルを「危険な存在」と語っています。

これは、マイケルの人間性の話ではなく、殺しのエージェントとしての立場から、タシャは「危険」と語っているのです。

マイケルと息子のアイラの存在が、タシャに母親としての感情を芽生えさせ、その結果、意識を乗っ取った相手を絶命に追い込む「離脱」が出来なくなりました。

「離脱」するには、意識を乗っ取った相手を、自殺させることが必要なのですが、タシャの中に芽生えた「自殺の恐怖」つまり「離脱」が正確に行われず、タシャの意識そのものが、死んでしまうことを恐れるようになったのです。

タシャは、殺しのエージェントに徹する為に、マイケルやアイラと距離を取ったのでしょう。

ですが、マイケルから「復縁すること」を提案され、人間的な感情がより強くなってしまったタシャが、今後も殺しのエージェントとして活動する為には、マイケルとアイラは邪魔。

その考えから、タシャはコリンにマイケルとアイラを殺すように命じたのです。

では、タシャが思いとどまれば何事も起きなかったか?と言うと、そうとも言えません。

それは、ガーダーがアイラの意識を乗っ取り、コリンに殺されるように仕向けたことからも分かりますが、タシャを高く評価しているガーダーは、タシャの家族を奪い、タシャに殺しのエージェントの道しか、残らないようにしたと考えられます。

作品冒頭から、タシャは詳しい説明の無い謎の多いキャラクターでしたが、本作のエンディングでは、完全に人間の心を捨てた、誰も理解できない、冷徹な存在となってしまいました。

映画『ポゼッサー』まとめ


(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

主人公のタシャが、完全に人間の心を失うまでを描いた『ポゼッサー』という作品は、かなり恐ろしい映画です。

映像的にも、影がかかったような暗いタッチになっており「遠隔殺人システム」という発想も合わさり、ディストピア的な世界観になっています。

ただ、CG技術に頼らず作り上げた数々の場面は、他の映画とは違う独特の魅力に繋がっており、特にタシャがコリンの意識を乗っ取る描写は、一度溶けた体が再構築されるような、かなり面白い表現になっています。

タシャとコリンの記憶が錯綜する場面では、こちらも頭の中が混乱してくる演出になっており、本作は「観賞」というより「体験」という言葉が当てはまる作品です。

ただ、開始数分で、タシャがターゲットの喉元を切り裂くなど、残酷描写は容赦ないので、その辺りの覚悟も必要となります。

けれども、『ポゼッサー』は間違いなく唯一無二の魅力を持つ作品なので、その魅力を是非「体験」してみて下さい。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!





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