ジャマイカチームがボブスレーでオリンピックを目指した実話の『クール・ランニング』。
映画『クール・ランニング』は、1988年にジャマイカチームがボブスレーでオリンピックを目指した驚きの実話を描きました。
南国ジャマイカの青年らがもっとも縁遠い雪国のスポーツ、ボブスレーで、オリンピックに出場するために奮闘する姿をコミカルに描いた感動作。
『キッド』『フェノミナン』などのジョン・タートルトーブが監督を務めています。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(2020)の音楽を担当したハンス・ジマーによる、レゲエミュージックが効いた演出も見どころの本作。
そのあらすじと、個性的なキャラクターたちの魅力について解説していきます。
映画『クール・ランニング』の作品情報
【公開】
1993年(アメリカ映画)
【監督】
ジョン・タートルトーブ
【キャスト】
レオン、ダグ・E・ダグ、マリク・ヨバ、ジョン・キャンディ、レイモンド・J・バリー、ピーター・アウターブリッジ
【作品概要】
1988年にカルガリーで開催された冬季オリンピックに出場したジャマイカ選手たちの実話に基づく映画です。
監督は、『MEG ザ・モンスター』(2018)やブルース・ウィリス主演の『キッド』(2000)ジョン・トラボルタ主演の『フェノミナン』(1996)を手がけたジョン・タートルトーブ。
主人公のデリースを演じたレオンは、フォレスト・ウィテカー監督、ホイットニー・ヒューストン出演『ため息つかせて』(1995)や、ホアキン・フェニックス、エド・ハリス出演の『戦争のはじめかた』(2001)に出演しています。
サンカを演じた、ダグ・E・ダグは、ドリームワークス製作のアニメ映画『シャーク・テイル』(2004)にウィル・スミスやロバート・デ・ニーロらと共に声の出演をしています。
音楽は、『ライオン・キング』(1994)でアカデミー賞作曲賞を受賞し、のちに『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(2020)などの音楽も手がけているハンス・ジマーが担当。
映画『クール・ランニング』ネタバレあらすじ
1987年。デリース・バノック(レオン)は陸上選手としてオリンピックを目指していましたが、最終選考で、隣のレーンを走っていたジュニア(ロール・Dルイス)の転倒に巻き込まれて、さらに隣を走っていたユル(マリク・ヨバ)と共に最終選考に落ちてしまいました。
デリースは、ジャマイカのオリンピック委員会に再試合を歎願しに行きますが、認めてもらえません。
どうにかしてオリンピックに出場したいデリースは、手押し車の選手をしていた幼馴染のサンカ・コフィ(ダグ・E・ダグ)を誘って、ボブスレーを始めることを決意します。
過去にボブスレーでオリンピックに出場し2度金メダルを獲得し、世界記録を持つアーヴィング・ブリッツァー(以下アーヴ)(ジョン・キャンディ)に会いに行きます。
彼は短距離走の選手だったデリースに、ボブスレーの勧誘しに来たことがあるのでした。
オリンピックは3ヶ月後。とても間に合わないし、ジャマイカでボブスレーの練習なんて無理だとアーヴは断りますが、どうしてもコーチをしてほしいと言うデリースとサンカに根負けして引き受けました。
ユルがプレイヤーとして参加を志願します。ボブスレーをしたいわけではなく島を出る事が目的です。さらに、ジュニアも参加することになり合計4人のメンバーが揃いました。
ユルはサードマン、ジュリアはセカンドマン、サンカはブレーカー、デリースは一番重要なドライバーを担当することになります。
スコア5.7秒を目指して特訓を始めます。手作りのボブスレーに乗って坂道を下る練習をし、寒さに負けないために冷凍車に乗る訓練もしました。
前代未聞のジャマイカのボブスレーチームということで、スポンサー集めは難航します。路上で歌を歌ったり腕相撲をしたり、キス1回1ドルとうたったりしましたが、とても資金は足りません。
そこへジュニアが車を売って大金を持ってきます。不公平だと一度は断ったデリースでしたが陸上でオリンピックに行けなくなった埋め合わせだということでした。しかしジュリアは父にボブスレーのことを黙っていました。
カルガリーにやってきたチーム一行とコーチのアーヴ。アーヴは試合受付の会場でかつてのチームメイトたちに会いますが、ロジャーという友人を除いて冷たい態度を取られます。
アーヴはロジャーにソリを売ってほしいと頼み込み、どうにか練習用のソリを手に入れることができました。
氷に慣れるためにスケートリンクに行ったデリースらでしたが、滑って転んでしまいとてもまともに立っていられませんでした。
世界一のドライバーのヨセフ・グルールに馬鹿にされながらも予選に出場します。
初めてのコース練習の直前にトイレに行きたくなったサンカ。
ユルはジャマイカから出て大豪邸に建てるのが夢だと話しますが、こんな調子じゃ無理かもしれないと肩を落とします。サンカもそんなことは叶わないと言います。
しかし、ジュニアは自分の父は裸一貫でビジネスを始めてから成功を収め、大邸宅を建てました。全ては努力次第だから、自分たちも頑張ってジャマイカに夢を与えようと話します。
デリースは、アーヴのかつてのチームメイトからアーヴが昔、不正行為をしたと聞かされます。72年の試合でソリに重りを隠していたのが見つかってメダルをはく奪されたのです。
ボブスレーの練習の様子が新聞に載ったことでジュニアの父親から帰ってくるようにと手紙が届きました。
バーでジュニアを励ますユル。父親の言いなりになるなと言いますが、ジュリアは父が怖いから帰るといいます。
そこへグルールがやってきて場違いだ、ここで騒ぐなと感じ悪く話しかけます。ユルはジュニアを部屋の鏡の前に立たせて何が見えるか尋ねます。
ユルは「俺には、プライド、パワーが見える。(ジュニアの姿に対して)だが俺に見えてもしょうがない。お前も見るんだ。人にコケにされたら絶対にだまっちゃいない男だ」とジュニアに復唱させて奮い立たせます。
勇気が湧いてきたジュニアは、グルールにさっき言ったことを謝るように言いに行きます。そしてグルールらと大乱闘になりました。
アーヴから他の奴らに負けるわけにいかない、生半可な気持ちを捨てろと言われます。翌朝から全員で張り切って筋トレやランニング、そしてソリに乗って練習に励む4人。
予選通過タイムの変更、クロイチェックという人物が審査員から外れたことを知らされます。公正な審査員だったので落胆するアーヴ。
不安な気持ちを抱えたまま予選がスタート。59.46秒のスコアで無事予選を通過しました。
歓喜するアーヴとデリースたち。「穏やかなる旅路(旅に幸あれ)」という意味の「クール・ランニング」という名前をソリにつけました。
国際試合の経験がないと出場資格がないという通達が来ます。その理由でジャマイカチームは失格だというのです。
委員会に直談判をしに行ったアーヴ。16年前の不正について過ちを認め謝罪します。選手たちのために国を背負って試合に来ている選手のためにどうか出場させてほしいと歎願しました。
その必死の説得が通って、無事オリンピックへの参加が認められました。
映画『クール・ランニング』の感想と評価
常夏の国のジャマイカ人が、ボブスレーで冬季オリンピックに挑戦!? そんな驚きの実話をもとにした爽快な感動作です。
雪を見たことがなく、もはやボブスレーが何なのかも知らない青年たちの無謀すぎる挑戦。
しかもコーチも訳アリ…という、ゼロから、いやマイナスからのスタートともいえるこの状況で巻き起こる快進撃に、他にはない心地よさを感じます。
衣装や音楽による演出の巧みさ
本作のキャラクターはコーチも選手も架空の人物であり、実際にはなかった出来事も織り交ぜて描くことで、映画としてのおもしろさを最大限引き出す効果が発揮されています。
一面雪景色のカルガリーに降り立ったボブスレー選手団の4人。
早速買いに行った防寒着はジャマイカの民族衣装を彷彿とさせるカラフルなものでした。しかも4人全員が違う色なので、ひと際目立ちます。
一瞬の場面ですが、通行人の女性2人が笑顔で振り返ってカラフルな服装の4人を見る微笑ましい場面がありました。
真っ白な雪景色の中、赤、緑、黄、青と色とりどりのウェアを身につけた彼らが練習するシーンは、観ているだけで楽しくなります。
また、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』などで知られるハンス・ジマーが音楽を担当しており、ジャマイカらしいレゲエ音楽の軽快なリズムやメロディが映画全体の雰囲気を盛り上げています。
スポ根の熱さというよりは、太陽のような朗らかな明るさがこの映画全体を包んでいるのです。
雪国のカルガリーと南国ジャマイカの対比が効いた演出、また巧みな音楽効果が生んだ笑いを誘うシーンの数々は、時代に関係なく伝わるこの作品の大きな魅力です。
成長を通して誇りを貫く姿勢を描く
本作の魅力のひとつは、個性的なキャラクターたちそれぞれが互いに支え合って成長していくところです。
真面目なデリーク、お調子者のサンカ、気弱なジュニア、強気なユルという個性的な4人。
彼らの成長が見える印象的なシーンが2つありました。
1つ目は、ユルが父親の言いなりになっていたジュニアに誇りを持って生きることの大切さを説くシーンです。
ジュニアを鏡の前に立たせてユルは言います。
「何が見える?俺にはプライドとパワーが見える。でも俺に見えても仕方ない、お前にも見えなければ」
その言葉を受け、ジュニアは自分の意思をはっきりと言おうと決心しました。
ユルは対面するのではなく、ジュニアに鏡に映る自身の姿を見せながら話すことで、ジュニアはより自分を見つめ直すことができたといえます。
2つ目は、強豪国のスイスチームの真似をして上手くいかないと嘆くデリークに対してサンカが言葉をかけるシーンです。
「ジャマイカ人として誇りをもって試合に臨もう、見た目も話し方もジャマイカ人なら、ボブスレーだってジャマイカ人らしくやればいい」とサンカは言います。
目標とするチームの真似をしても彼らになれるわけではない。それなら、自分たちにしかない良さで思い切りやろうという考えは、ボブスレー以外でも同じように言えるでしょう。
このように、彼らが成長する場面を通して、アイデンティティや誇りを守りながら、良い意味でのマイペースさを貫くことの大切さをこの映画は教えてくれています。
まとめ
本作では何度か同じやり取りが出てきます。練習中に「死んだか?」と問いかけるセリフです。
このやりとりは序盤では笑いを誘う場面で使われていましたが、最後には、このセリフが感動的な展開に繋がっていきます。彼ららしさを感じられるこのラストシーンは必見です。
無謀な挑戦に挑む青年たちの姿をコミカルに描いた感動作、ぜひこの「死んだか?」が最後にどういう場面で登場するか、注目して観てはいかがでしょうか。