連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第77回
2021年12月9日(木)にNetflixで配信された、ミカイル・レッドが監督を務めた2020年製作のフィリピンのR15+指定のアクションアドベンチャー映画『アリサカ』。
命を狙う追手から逃れるため、そして復讐を遂げるために死の行進を追体験していく警察官の女性の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
警察官の女性が死の行進を追体験し、歩んでいく先に待ち受けていたものが何かを描いた、東京国際2021上映作品であるアクションアドベンチャー映画『アリサカ』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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映画『アリサカ』の作品情報
【配信】
2021年(フィリピン映画)
【脚本】
アントン・サンタマリア
【監督】
ミカイル・レッド
【キャスト】
マハ・サルバドール、モン・コンフィアード、アート・アクーニャ、シェラ・メイ・ロムアルド、マイケル・ロイ・ジョルナレス、キール・ロドリゲス、ロイス・カブレラ、アポロ・アブラハム、アーチ・アダモス
【作品概要】
『BIRDSHOT』(2016)や『デッド・キッズ』(2019)、『カトリックスクールの怪異』(2019)などを手掛けるミカイル・レッドが監督を務めた、フィリピンのアクションアドベンチャー作品。
2021年、第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され上映されました。
主演を務めるのはマハ・サルバドール。共演は、『GOYO 若き将軍』(2018)のモン・コンフィアードや『Tabi-Tabi Po』(2016)のマイケル・ロイ・ジョルナレスら豪華俳優陣が出演しています。
映画『アリサカ』のあらすじとネタバレ
第二次世界大戦中、日本軍によるフィリピン侵攻作戦において、パターン半島である行進が行われました。
それは「バターン死の行進」と呼ばれる、バターン半島で日本軍に投降したアメリカ軍・アメリカ領フィリピン軍の捕虜が、100キロ先にある捕虜収容所に食料も水も与えられないまま延々と歩かされ続け、大勢の捕虜が死亡した行進です。
地域警察の女性警察官マリアーノは上官たちと一緒に、副市長を連れて死の行進を移動中、突然前方の車と後方の車が同時に停車。2台の車から降りてきた仲間の警官が、マリアーノたちが乗る車を銃撃してきました。
副市長は死の間際、マリアーノにある不正の全容を記録した携帯を手渡しました。唯一生き残ったマリアーノは、撃たれた腹の傷を庇いながら何とか車内から這い出て、その携帯に入っている麻薬に関与した要人の名前を読み上げていきました。
「アマレンテス、カブレソ、モンタナ。ナザレソ、セブラン………」………夜が更け、マリアーノたちを襲った地域警察の警官トレホンとヤン、アバイとサロメが、死体の確認と証拠隠滅のために戻ってきました。
車体の下に潜り込み、息を潜めてやり過ごそうとするマリアーノ。しかし、マリアーノがいないことに気づいた1人の警官ヤンが、車体の下を覗き込み、他の仲間にマリアーノが隠れていることを知らせてしまいます。
その瞬間、マリアーノは覗き込んできたヤンの足目掛けて銃を発砲。自身の命を狙う追手から逃げつつ、持っていた銃で迎撃します。
しかし、暗闇で前がよく見えなかったせいか、マリアーノは足を滑らせ崖から滑落。幸か不幸か、大きな岩の陰に落ちたおかげで、追いかけてきたアバイとサロメに発見されずにすみました。
翌朝。気絶していたマリアーノは激痛によって意識を取り戻し、制服の上着を歯で噛み千切り、とりあえず腹と腕の傷口に巻いて止血を施しました。
その頃道路上では、マリアーノを取り逃がしてしまったトレホンたちの元へ、彼らがボスと呼ぶ男ソニーが、武装した部下コンを引き連れ合流。右足首に重傷を負ったヤンを、アバイの銃を使って始末しました。
ソニーはトレホンから報告を受け、アバイたちが目撃者であるマリアーノの死体を確認していないことを知り、コンに命じて犬を導入。マリアーノの捜索に取り掛かりました。
マリアーノがいた痕跡を見つけ、死体がないことを確認したソニーは、さらに森の奥へ進もうとしますが、アバイたちは森の奥へ進むことを躊躇います。
その理由は、この森が日本軍の捕虜が逃げ込み、虐殺が起きた森だからです。今もその遺骨が残っており、不吉な予感がしてなりません。
そんなアバイたちに、ソニーはこう言いました。「怖いのは不確かな害か?それとも確かな害たるネズミか?」
「今夜、ネズミを狩る」………携帯が壊れ、中に入っていた麻薬に関与した要人の名前を忘れないように呟きながら、近くにあった木の枝を杖代わりにして、森の中を歩くマリアーノ。枝が折れ、地面に倒れこんだ瞬間、彼女の脳裏にある光景が浮かびました。
それは、太い木の幹に鎖で縛られた男を、ソニーやトレホンに命じられてマリアーノが処刑する場面。処刑を躊躇うマリアーノに、ソニーたちはこう囁きました。
「新人民軍の上層部に処刑を命じられたら、相手がテロリストだろうがタリバンの構成員だろうが、活動家だろうが何だろうが殺すだけだ。同僚や組織への忠誠心を示すために」
「たとえ記者に叩かれようと、麻薬関与者リストとやらに載せられても、俺たち全員で互いに庇い合う」
「組織のために処刑するのが嫌なら、家族のためにやれ」「生活を支える金が要るだろう?家族を守るために、赤の他人を殺すことなど造作もないだろう」
川を見つけたマリアーノは、途中で見つけた「M.M」とイニシャルが彫られた水筒に水を入れて乾いた喉を潤し、返り血を浴びた顔を洗いました。
綺麗になった顔をあげると、マリアーノは対岸に、この森に住むアエタ族の少女ナウイがいるのを発見。互いに無言のまま、じっと見つめていると、いつの間にかナウイは姿を消していました。
マリアーノが腕の傷の具合を確かめていると、先ほど姿を消したナウイが再び現れ、手に持っていた薬草を使って、マリアーノの傷の手当てをしてくれました。
マリアーノはお礼に水筒に入った水をあげ、森を出て町へ行く方法をナウイに尋ねます。するとその瞬間、マリアーノの匂いを辿ってきた犬が襲い掛かってきて、マリアーノは咄嗟に銃を発砲。
倒れ込んだ犬に止めを刺そうとした瞬間、マリアーノの脳裏によぎったのは、ソニーたちに処刑するよう命じられた男が助命を乞う姿でした。
マリアーノは犬とその男を重ねてみて躊躇し、止めを刺すのをやめた瞬間、犬を追いかけてきたコンが襲来。コンが銃を構える前に、マリアーノは2発銃弾を放って牽制し、近くの岩陰に身を潜めます。
マリアーノとは別の場所でナウイが岩陰に身を隠す中、マリアーノはコンと銃撃戦を繰り広げていきました。
激しい銃撃戦の末、マリアーノは止めを刺しに近づいてきたコンが、ナウイに気づいて銃口を向けた隙を突き、返り討ちにしました。
その後、ナウイは恐る恐る倒れたマリアーノに近づき、家族が待つ家へ彼女を運び、傷の手当てをしました。
映画『アリサカ』の感想と評価
突如同僚である警官たちに襲われ、その後も命を狙われ続けてしまう女性警察官マリアーノ。
瀕死状態に陥りながらも、森の中を彷徨い歩きながら逃げ続けるマリアーノの姿は、いつ敵に見つかってしまうのか、いつその体が力尽きてしまうのかとハラハラドキドキさせられます。
また、マリアーノの脳裏によぎった光景や夢が何を意味していたのか、作中では明確に描かれていませんが、おそらく第二次世界大戦中にこの森の中で起きたことの追体験。
そして、おそらく麻薬取引を行っていたソニーたちの組織、フィリピンのフィリピン共産党の軍事組織「新人民軍」に所属していた頃の記憶だと考察できます。
マリアーノがソニーの命令に背いたのは、マリアーノの母親が「命は尊いものだから、殺生してはいけない」と教えたことを忠実に守ったからでしょう。
ただそれでも、マリアーノは自分を保護してくれたナウイの家族を虐殺したソニーたちを、許すことは出来ませんでした。
復讐を遂げるために有坂銃を持ち、ソニーたちを狙撃していくマリアーノの姿は、とても格好良いです。
まとめ
突如命を狙われた女性警察官が、同僚や副市長、自分を保護してくれた少女の家族の仇を討つため、執拗に命を狙う男たちと死闘を繰り広げていくフィリピンのアクションアドベンチャー作品でした。
結局ソニーたちは何の組織に属していたのか、作中では明確に描かれていません。ただソニーの発言を聞くと、彼らは麻薬取引を行っていた新人民軍に属していたのではないかと考察できます。
したがって、副市長が命を狙われたのは、新人民軍に協力し麻薬取引に関与した要人たちのことを、記者を通じて世間に知らせようとしたからでしょう。
副市長を暗殺する場面を目撃した者として、マリアーノや彼女の同僚たちは巻き添えを食らってしまいます。
ただソニーに付き従うトレホンたちには、マリアーノを殺すことへの躊躇いがあったのでしょう。何度もソニーに撤収するよう進言していました。
保護してくれた少女の家族のため、殺された同僚のために有坂銃を手にして戦う女性警察官の姿を描いた、終始ハラハラドキドキするアクションアドベンチャー映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。