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Entry 2019/09/25
Update

NETFLIX韓国映画『人狼』ネタバレ感想と評価。実写版ラストは押井守アニメと異なる!?|SF恐怖映画という名の観覧車68

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile068

予算や技術の都合上、アニメーションでしか描けなかったSF映画の世界が時代の進化により実写で描けるようになった現代。

20周年を迎えたSF映画の傑作『マトリックス』(1999)に深い影響を与え、クエンティン・タランティーノやギレルモ・デル・トロなど世界中にファンの多い押井守監督の描く壮大な世界も次々と実写化されてきました。

今回のコラムでは押井守が原作と脚本を務め、今も根強い人気を誇るアニメ映画『人狼 JIN-ROH』(2000)を韓国で実写化したNETFLIX独占配信作『人狼』(2018)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『人狼』の作品情報

【日本公開】
2018年(NETFLIX独占配信映画)

【原題】
인랑

【監督】
キム・ジウン

【キャスト】
カン・ドンウォン、ハン・ヒョジュ、チョン・ウソン、キム・ムヨル

【作品概要】
押井守が構想と執筆を続ける「ケルベロス」サーガの1作である『人狼 JIN-ROH』を韓国で実写化した作品。

監督を務めたのは『悪魔を見た』(2011)など国内のみならず国外でも評価を受ける作品を制作した後に、映画『ラストスタンド』(2013)を監督しアーノルド・シュワルツェネッガーのアクション俳優復帰を担ったキム・ジウン。

映画『人狼』のあらすじとネタバレ

>Netflix映画『人狼』

2024年、中国と敵対関係となっていた日本が再び軍国化。

このことで大国から挟まれることとなった韓国は北朝鮮と南北を統一することで対抗しようとしますが、アメリカやロシア、中国や日本といった大国の反発を買い、経済的な悪化に追い込まれ南北統一を果たすことができませんでした。

さらに、国内には南北統一に反対する過激なテロリスト「セクト」が登場し、韓国の治安は悪化の一途をたどります。

ゲリラ的戦法を行うセクトを封じ込めるため、国は「特機隊」と呼ばれる対セクト用特殊部隊を設立。

しかし、「血の金曜日」と呼ばれる事件で特機隊は無実の少女15人を射殺してしまったことから隊員の一部は精神を崩壊し、過激な行動を伴うようになってしまいます。

高い戦闘力を持つ特機隊の権限を手中に収めるべく警察の公安部も動き始め、対セクトとして協力する一方で水面下では特機隊上層部と公安部による過激な権力争いが繰り広げられていました。

2029年、デモ隊の中に紛れたセクトの闘士により警官隊が爆弾や銃器で襲撃されます。

通常のデモ隊への誤射を恐れ攻撃ができない警官隊を尻目に特機隊が現場に到着。

特機隊の隊長チャン・ジンテはセクトの殲滅を命じると、特機隊の隊員は地下の下水道に張り巡らされたセクトのアジトへと侵入。

追い詰められたセクトの構成員は、特機隊による投降命令に従わず、激しい銃撃戦の末に死亡していきます。

デモ隊に紛れたセクトの構成員に爆弾を手渡す役目である「赤ずきん」と呼ばれる少女は特機隊から逃れようとしますが、特機隊のイムに発見されます。

イムに投降するように求められた少女は爆弾のスイッチに手をかけます。

他の隊員に少女を射殺するように命じられるイムでしたが、躊躇っているうちに少女が自爆しイムも爆発に巻き込まれてしまいました。

翌日、テロの鎮圧中に少女を死亡させたことと爆破に紛れセクトのリーダーの逃走を許したことを世間が批判し、イムは再訓練行きとなります。

大統領秘書官はイムが血の金曜日事件にも参加していたことを知ると、全ての罪をイムに被せる提案をしますが、チャンはイムのこれまでの貢献と部隊の士気の低下の恐れからその案を受け入れませんでした。

しかし、秘書官の危惧通り、公安部はこの事件を機に特機隊の解体を目論み、事件の捜査と特機隊の4週間の謹慎処分と言った形で動き出し始めました。

元特機隊であり現公安部のハンはこの事件の担当者となり、元同期であるイムに面会します。

ハンは死んだ少女はイ・ジェヒと言う名の高校1年生の少女であり、セクトは彼女を「赤ずきん」と呼び爆弾の運搬係に利用していたことをイムに伝え、彼女の手帳をイムに渡します。

最期を見届けた人間から彼女の姉に手帳を届けてほしいと言われたイムはいぶかしみますが、少女の手帳に書かれた真っ直ぐな言葉に少なからず動揺している様子でした。

訓練中にも少女の幻覚を見るイムは、兵舎を抜け出し、イ・ジェヒの姉イ・ユニと連絡を取り彼女に会うことにしました。

ユニと会うイムは彼女の妹がセクトに入ったことから彼女の家庭は崩壊し、今は死別した父のために古書店を経営していることを知ります。

彼女から悲劇で終わる「赤ずきん」の物語を聞き、恨むべき相手が飢えた狼なのか、それとも少女を送り出した親なのかが分からないと彼女の想いを告げられ、失意のまま兵舎へと戻っていきます。

その様子を遠くから眺めていたハンはユニを車に乗せると、そのままイムに自身を信じさせるようにと彼女に命令。

実はユニは自身の減刑と弟の医療費のためにイムを騙す行為に加担していたのです。

ハンが公安部の上司と共に警察庁長官と会合すると、長官は特機隊の権限を自身の傘下に収めるべく公安を使った様々な案について議論します。

公安部の部長は、その中で「人狼」と呼ばれる凄腕の殺し屋集団の存在を仄めかします。

人狼は政治を転覆させようと何人もの高官を殺害してきた恐るべき腕を持つ集団であり、その目的も正体も不明でした。

長官は人狼の正体はセクトの人間ではないかと言いますが、公安部としては特機隊の一部の人間の呼称なのではないかと目星をつけていました。

人狼の動きに脅威を感じる公安部は特機隊を壊滅に追い込むために、ハン主導のもとユニを使ってイムを嵌めることで特大のスキャンダルを作り出そうと動き始めます。

ハンの命令でユニはイムを呼び出し待ち合わせ場所へと向かいますが、その途中でセクトの闘士ク・ミギョンに遭遇し、セクトを裏切り公安と手を組んでいることを非難されます。

ユニはセクトのリーダーであるオムと連絡が取れないことから、セクトは終わりだとミギョンに話し、早く逃げるようにと言います。

しかし、ユニと離れた途端ミギョンは特機隊のキムにより捕らわれ、尋問室のような場所に連れていかれます。

イムがユニと会っていたことを知るチャンはミギョンに対し、オムが公安部と繋がりを持っており、かつてそのことを暴こうとした検察部がユニによって殺害されたことを話します。

このことはユニにとっても公安部にとっても致命的な汚点であることを語ると、チャンはミギョンにオムを見つけることを条件に新しい身分証を渡す取引を持ち掛け、ミギョンはその条件を飲みました。

イムとユニに動きがあり、イムの携帯が盗聴されていることを知ったチャンは公安部の何かしらの作戦が始まったことを悟ります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『人狼』のネタバレ・結末の記載がございます。『人狼』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

夜、展望台でイムと合流したユニにはハンによる公安部の計画がありました。

爆弾騒動の後にユニがイムの前で拳銃を落とし、観光客として紛れ込んでいる公安部がそれを確認次第イムを爆弾テロ犯として取り押さえる計画でしたが、拳銃を落とす寸前にミギョンが現れたことにより計画は崩壊。

イムの射殺に目的を切り替えた公安部の人間を驚くべき身体能力でイムは殺害していき、ユニ共に展望台からの脱出を図ります。

火災用のホースを使い展望台から降りたイムとユニは、公安部の人間から車を奪い取ると追ってきたハンと対峙。

ハンは特機隊のチャンは血の金曜日の時のようにお前を見捨てると投降を促しますが、イムはハンの抑止を無視し車で強引に突破しました。

公安部により指名手配となったことに気が付きチャンと連絡を取るイムは、チャンの指示により近場の隠れ家へと向かいます。

一方、作戦が失敗したことにより上層部の信頼を失ったハンは、2人を殺害する指示を完遂させるためイムの行動を追います。

途中、人狼の可能性があるとされる特機隊のキムを捕らえ尋問を試みますが、重要な情報を得る前に暴れたキムを射殺してしまいます。

度重なる検問により隠れ家への道が閉ざされたことをチャンに報告するイムは、チャンから地下水道で合流する指示を受けます。

用済みであったユニも連れてくるようにと念を押され反感を抱くイムでしたが、チャンの指示通りに行動を開始します。

現状への不安や今の暮らしの酷さを訴え、ともにどこかへ逃げることをイムに懇願するユニでしたが、イムが無視したことによりユニはハンからもらった追跡装置を起動します。

追跡装置によりイムの場所を知ったハンは、公安部の戦闘部隊である特殊任務班を動員し両名の射殺を命令。

一方、チャンは公安部の動きを察知しており、地下水道での戦いに備えていました。

地下水道についたイムはユニから追跡装置を起動していたことを告白され逃げるように促されますが動じません。

チャンと合流し、彼の用意した武器一式とボディアーマーを着始めるイム。

チャンはユニの正体が爆死した少女とは無関係であるだけでなく公安部のスパイであることすら見抜いており、ユニにイムこそが「人狼」の1人であると語ります。

特殊任務班と共に地下水道に侵入したハンは総力でイムを殺害しようとしますが、人狼としての正体を見せたイムにより次々と特殊任務班の隊員が殺されていきます。

人狼が現れたことに取り乱し撤退を提案する部下を射殺したハンはついにイムと対面しますが、圧倒的な戦力差の前に追い詰められ射殺されます。

全てが終わりチャンのもとに戻ったイムは、ユニをどうするのかとチャンに尋ねますが、ユニは本部で始末するとチャンは冷酷に語ると車にユニを乗せ出発しました。

自身に充てられた車に1人乗るイムは、罠であったとはいえユニとの記憶を思い出し涙を流します。

人狼の本部である廃墟でチャンはユニに目隠しをし銃殺しようとしますが、そこにイムが現れ彼女に罪はないので見逃してほしいと懇願。

彼女が元セクトであり、死刑に相当する罪を犯しているとチャンはイムに言い聞かせますが、退こうとしないイムに銃を渡しユニを銃殺するように命ずるとその場を離れていきました。

イムを騙していたとはいえ一緒に逃げようと思った気持ちが本当であり、狼に騙され殺される赤ずきんが自分であったというユニを殺害できず見逃すイム。

戻ってきたチャンはユニがいないことに激怒するとボディアーマーを着込んだ状態でイムに銃撃。

激しい戦いの末、お互い銃を向けあうイムとチャン。

血の金曜日の時から任務に疑問を持っていたイムと、世の中のためには間違った命令でも遂行しないといけないと考えるチャンの想いは平行線をたどり、イムは人狼から抜けることを言い銃を捨てるとその場に銃声が鳴り響きました。

その後、セクトのリーダーのオムは逮捕され、公安部はセクトとの繋がりを検察に糾弾されることになります。

チャンとの契約通り、新しい戸籍を手に入れたミギョンは多額の振り込みを確認。

一方、チャンはイムの写真を焼き捨てると、新たな部下たちの指導に向かいます。

そして、弟と電車に乗り新たな地を目指すユニを、電車の外でイムが見守っていました。

映画『人狼』の感想と評価

参考:原作アニメ『人狼 JIN-ROH』(2000)の予告編

複雑に絡み合う上層部の思惑と二つの組織の諜報戦、そしてその駒として生きる男達が「血の金曜日」と言う事件を経て駒としての機能に疑問を持つ、と言う幾重にも張り巡らされた展開が原作の大きな魅力でした。

もちろんその部分はアレンジを加えた上で描かれている本作ですが、何よりも魅力的なのは実写となったことでより存在感の高まった「プロテクトギア」のビジュアルです。

特機隊の正式兵装であるプロテクトギアは赤外線センサーのついた特異なマスクの形状がとても不気味であり、彼らの持つ硬い意志の象徴として強烈な印象を与えてきます。

実写としての質感がマスクによる冷静さや冷酷さのイメージをより深く感じさせるため、イムの持つ2面性がマスクの効果により際立っていました。

さらに本作は『ラストスタンド』のキム・ジウン監督ならではこそのアクションのキレの良さが目立ち、中盤の展望台での戦闘シーンは年間でも一二を争う秀逸さ。

良くも悪くもライトな人向けに変化はあるものの、ビジュアルとアクションにおいて尖った印象を残す秀逸な実写化作品でした。

まとめ

SFでありながらもその中で渦巻く人間ドラマが最重要ともいえるこの作品において、その中枢を担う俳優の選出も見事と言える本作。

「血の金曜日」と言う事件を経て、駒としての生き方に疑問を感じ始めたイム、特機隊の壊滅を目指した始めたハン、そして大義のために生きようとするチャン。

それぞれの「正義」が行き着く先にある「大義」が、熱いアクションと人間ドラマたっぷりに描かれた本作はNETFLIXが独占配信中。

原作好きの方も、まだ原作を観れていないと言う方もぜひご覧になってみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile069では、NETFLIXが独占配信した中国産SF映画『上海要塞』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

10月2日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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