連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第76回
恋人に裏切られ仕事まで失った女性が、バス運転手として人生を挽回していく姿を描いた香港発のヒューマンドラマ『人生の運転手』。
監督・脚本は、香港に生きる男女のラブストーリーを多く手がけてきたパトリック・コンが担当し、女優としても活躍する人気シンガーソングライターのイヴァナ・ウォンが主人公・ソックを好演しています。
「人生はバスに乗るようなもの。乘るバスを間違えたなら乗り換えればいい」。先輩バス運転手の言葉を胸に、失恋・失業・失意の「三失(さんしつ)」に陥ったソックの人生挽回物語がスタートします。
映画『人生の運転手』は、2021年10月1日(金)よりシネマカリテほか全国順次公開!
映画『人生の運転手』の作品情報
【日本公開】
2021年(香港映画)
【原題】
阿索的故事 The Calling of a Bus Driver
【脚本・監督】
パトリック・コン
【キャスト】
イヴァナ・ウォン、フィリップ・キョン、エドモンド・リョン、ジャッキー・ツァイ、スーザン・ショウ、キャンディ・チャン、ダニー・サマー、ナタリー・トン、ボブ・ラム、ベン・ユエン
【作品情報】
恋にも仕事にも一生懸命な女性が恋人に裏切られ、仕事を失うという最悪な状況から明るく前向きに歩む姿を描いた1本の香港映画『人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』。
主人公ソックを演じるのは香港でシンガーソングライターとして活躍する女優イヴァナ・ウォン。『ソウルフル・ワールド』(2020)の吹き替えも務め、幅広く活躍しています。
復讐に燃える男レイ・ザンマンにはフィリップ・キョン。ヤクザなどハードな役からコミカルな役まで演じることができる実力派俳優です。また、人気歌手のエドモンド・リョンが気弱で浮気者のジーコウを演じ、ソックたちの運命を狂わせる悪女ケイケイは『インビジブル・スパイ』(2019)などにも出演したジャッキー・ツァイが扮します。
個性的な俳優陣をとりまとめるのはパトリック・コン監督。
映画『人生の運転手』のあらすじ
恋人のジーコウが経営するチリソース店「陳三益」で働くソック。今の生活に特に不満もなく、ジーコウを助けるため毎日一生懸命働いています。
ある日2人の前に、中国への企業の進出を持ちかける実業家のケイケイという女性が現れました。ビジネス展開の問題で、ソックとジーコウはすれ違い始めます。
そしてジーコウとケイケイの浮気現場に遭遇し、ソックはジーコウの元を離れました。
ソックは失意の中、心機一転幼いころからの夢であったバス運転手になります。
徐々に穏やかな日常を取り戻し始めるが、そんな時にジーコウとケイケイの結婚式に招待され、そこで偶然にあったケイケイの元カレというレイ・ザンマンから“復讐話”を持ち掛けられ……。
映画『人生の運転手』の感想と評価
七転び八起の人生と恋愛
恋も仕事も充実している毎日を過ごす主人公ソック。ある日、美女の実業家ケイケイが現れたことで幸せな毎日が180度変わってしまいます。
三角関係に陥った恋愛は彼氏の裏切りであっけなく敗れ、仕事も一緒に奪われて、奈落の底に落ちたソック。やがて、新しい仕事を見つけ人生の再出発を図るのですが、元恋人への“復讐”に一役買うことになって……。
人生の応援歌のような本作の監督を務めたのは、パトリック・コン。日本での公開作品はありませんが、「恋愛4部作」と言われる『独家試愛(原題)』(2006)、『十分愛(原題)』(2007)、『我的最愛(原題)』(2008)、『記念日(原題)』(2015)があります。
多種多様な恋模様を描く監督ですが、特に「三角関係」が得意!
本作のソックの恋敵・ケイケイ(琪琪)は、パトリック・コン監督作品ではヒロインの恋敵としてしばしば登場し、『記念日』(2015)でもジャッキー・ツァイがケイケイを演じているといいます。
美しさを鼻にかける悪女ケイケイに扮したジャッキー・ツァイと、親しみやすい笑顔が魅力的な元気娘役のイヴァナ・ウォン。
コミカルに描かれる2人の対立ですが、その実状はまじめに生きている女性には耐えられないほど酷なもので、人生と恋愛におけるリアリティあふれる修羅場となっています。
そんな闘いに負け人生の敗北を味わうソックを応援したくなり、彼女が立ち直っていく姿からは、困難に立ち向かう勇気をもらえることでしょう。
香港名物2階建てバス
本作の主人公・ソックは、小さい頃から好きだったバスの運転手になって、人生の巻き返しを図ります。
映画に出てくる大きな2階建てバスに驚かれた人も多いのではないでしょうか。2階建てバスは、香港の代名詞にもなるほど香港人にはなじみ深い便利な交通機関なのです。
道幅も狭い裏路地のような道でも、大きな2階建てバスが颯爽と走りぬけていく香港。
公共交通機関が発達した香港においての移動は非常に便利で、大きな2階建てバスは、香港内のほとんどのエリアを網羅していると言います。
主人公ソックを演じるイヴァナ・ウォンは、役作りのためにバス運転の免許を取得したそうですが、気持ちよく運転出来る反面、危険度も増す大型車輛のその運転技術は、映画の中でも見応えあります。
人々の暮らしに溶け込み、日常的にも愛着あるであろう存在のバス。それを操作する運転手を、本作のキーワードにしている狙いがよくわかりました。
まとめ
映画『人生の運転手』は、恋人からフラれて失業した女性がバスの運転手になって人生を再起させる物語です。
バスに乗るのが好きだった彼女を慰めてくれたのは、バスの運転手バンの言葉でした。
人生はバスに乗ることと似ている。乗り間違えても正しいバスに乗ればいい。
心配ない。必ず目的地に着く―――
焦らずに自分の進むべき道を指示してくれる温かな言葉は、ソックをはじめ作品を観る人の心に響くことでしょう。
「座右の銘」ともいうべきこの言葉を聞いて、自分らしく生きることを決意したソックの明るい笑顔に元気をもらえるに違いありません。
パトリック・コン監督の得意とするスパイスのきいたラブコメに、笑って怒って泣いて、仕掛けられた温かな物語を堪能してください。
映画『人生の運転手』は、2021年10月1日(金)よりシネマカリテほか全国順次公開!