ピート・ドクター監督のファンタジーアドベンチャー映画『ソウルフル・ワールド』。
映画『ソウルフル・ワールド』は、Disney+で2020年12月25日から配信開始したディズニー&ピクサーによる長編アニメーション作品です。
元々は映画館で公開予定でしたが、2020年のコロナウイルス感染拡大により、現在Disney+の配信のみで視聴可能となっています。
映画や音楽などカルチャーに造詣が深いことでも知られているアメリカのオバマ元大統領の2020年お気に入り映画に選出されたことでも、注目を集めた作品です。
映画『ソウルフル・ワールド』の作品情報
【公開】
2020年
【原題】
Soul
【監督】
ピート・ドクター
【キャスト】
ジェイミー・フォックス、ティナ・フェイ、グレアム・ノートン、レイチェル・ハウス、アリシー・ブラガ、リチャード・アイオアディ、フィリシア・ラシャド、ドネル・ローリングス、クエストラブ、アンジェラ・バセット、マーゴ・ホール、ダビード・ディグス、ローデッサ・ジョーンズ、ウェス・ステューディ、サキナ・ジャフリー
【作品概要】
監督のピート・ドクターは、『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)と『インサイド・ヘッド』(2015)でアカデミー賞長編アニメーションを受賞しています。
過去には、ピクサーの初長編作品である『トイストーリー』(1995)に原案、アニメーターとして参加し、スタジオジブリの『ハウルの動く城』の英語版演出も担当している有能な技術者です。
日本版の吹き替えでは、ジョーを担当したのが浜野謙太。ファンクバンド「在日ファンク」のリーダー兼ボーカルです。俳優としても活躍しており、映画『婚前特急』で第33回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞しています。
22番の声を担当したのが川栄李奈。2015年にアイドルグループAKB48を卒業したのち女優として目覚ましい活躍を見せています。出演作は映画『亜人』(2017)、『センセイ君主』(2018)、『恋のしずく』(2018)、『ステップ』(2020)など。声優としては『KUBO クボ二本の弦の秘密』(2016)、『きみと、波にのれたら』(2019)でその才能を示しています
映画『ソウルフル・ワールド』のあらすじとネタバレ
セブンティ中学で生徒たちに音楽を教える非常勤講師のジョーは、昔父親と一緒にジャズクラブに行って以来すっかりジャズの虜になりました。
非常勤講師から常勤の正式採用の話があり、母親は「やっと音楽で暮らしていけるじゃない」と喜んでいましたが、ジャズミュージシャンの夢を捨てきれないジョーは戸惑っていました。
そこへ元生徒のカーリーからドロシア・ウィリアムズとのバンド演奏に参加しないかと誘いの電話がかかってきます。
バンドメンバーが蒸発したため代理の参加でした。プロサックス奏者のドロシアにその腕を認められたジョーは、今夜の7時に良いスーツを着てライブに参加するように言われます。
ドロシアに認められて、やっとジャズミュージシャンになる夢が叶ったと有頂天のジョーは街中を電話をしながら歩いていました。周りを見ずに歩いていたせいで、ぽっかりと開いたマンホールの穴に落ちてしまいました。
目が覚めると体は小さくなり、水色の丸いフォルムに。宇宙のような空間で死後の世界に繋がる道の上にいました。そこで出会った同じような形をした人たちは、どんどん死後の世界へと吸い込まれていきます。
どうしても今夜のライブに行きたいジョーは、その道から飛び出して下へとどんどん落ちていきます。
辿り着いた先は、「生前の世界」で、たくさんのソウル(生まれる前の魂)たちとメンター(指導者)がいる空間でした。
カウンセラーのジェリーはジョーの話を聞いて、ジョーと何人かのソウルを連れてユーセミナーへ向かいました。
「興奮しやすい館」「愛想なしの館」などがあり、ソウルたちはそこでそれぞれの性格が決まるようになっています。
地上へはポータルを通って向かいます。ポータルを通って地上に降りるには通行証が必要なので、ジョーはそのままでは地上に戻ることが出来ません。
計算係のテリーが魂の数が合わないとジェリーに伝えにきます。自分で解決するためにカルテを確認しに向かったテリーでした。
ジョーはメンターのふりをしてユーセミナーに参加しました。ソウルにひとりひとりの「きらめき」を見つけるのがメンターの役目。すべての性格の要素を集め、通行書(バッジ)を完成させたら地上へと降りることが出来ます。
ひとりのソウルにメンターがひとりずつ割り当てられます。
メンターはいかに地上の人生がすばらしいかを伝えるために自分の人生を見せることができます。
ジョーは児童心理学者のメンターになりすましてソウル22番とペアになりました。
マザー・テレサ、マリー・アントワネット、モハメド・アリら偉人が過去にメンターを務めたものの、誰ひとりとして22番の「きらめき」を見つけることはできませんでした。ひねくれもので厄介なソウルです。
ジョーのみじめな人生を見た22番は、なぜジョーが地上に戻りたいのかわかりませんでした。
味覚も嗅覚も触覚もない世界。22番のきらめきを見つけたら、地上への通行書をもらって生き返れると分かったジョーは、万物の殿堂へと向かいます。
スポーツや科学文学など何を試しても22番のきらめきは見つかりません。
22番はジョーを「肉体と精神の間=ゾーン」へと連れていきます。人間が何かに集中したときに入りこむ世界のことです。
そこで22番はジョーにムーンウィンドを紹介します。ムーンウィンドは、地上で集中している状態でゾーン入っています。不安や強迫観念に駆られて魂を失ってしまった人間を、仲間たちと一緒に救っていました。
ムーンウィンドの協力で地上の病室で眠っているジョーを見つけることが出来ました。
ジョーは慌てて体に戻ろうとしたせいで一緒にいた猫の体に戻ってしまい、ジョーの体に22番が入ってしまいました。
地上でムーンウィンドを見つけて魂を戻そうと決めたふたりは病院から抜け出し、ニューヨークの町を歩き回ります。
初めての現実世界の音や痛みに怯える22番(ジョーの体)に、ジョー(猫の体)はピザを食べさせます。初めての美味しさを感じた22番はすっかり気に入りました。
ムーンウィンドの元へ辿り着いたふたり。地上と宇宙の間に薄い地点ができた瞬間でないとふたりをもとの体には戻せないと言われます。その日の6時半に店で会う約束をして一度家に戻ることにしました。
そんな時、道端でばったりドロシアと遭遇してしまい、院内衣を着てピザを食べている姿を見られてしまいます。
家に着いたふたりの元へカーリーから電話がかかってきます。ジョーの姿を見て不審がったドロシアは別の人にライブの代役を頼んでしまいました。
しかし、ジョーの実力を信じているカーリーは自分がなんとかするから、ばっちりスーツできめて早めにライブへ来るよう言ってくれたのでした。
そこへジョーの教え子がやってきます。彼女はトロンボーンをやめると言って楽器を返しに来ました。しかし、彼女は22番に演奏を聞いてもらうと、やはり楽器を続けようと決めて帰っていきました。
口では意味がないと言っていても好きだからやめられないのです。その様子を見た22番は自分も地上で自分のきらめきを探すことにします。
一方生前の世界では、テリーがついに数が合わない理由がジョーだと突き止めていました。テリーは自分で解決すると言って地上へ降りていきます。
ジョーは髪の毛を整えに行きつけの床屋へ向かいました。床屋のデズとはいつもジャスの話だけしていました。しかし22番は人生の生きる意味について話しはじめます。床屋のほかの客もその話にくぎ付けになっていました。
デズも自分の身の上話をはじめます。海軍を除隊したら獣医になる夢があったのですが娘が病気をして学費の安い美容師にの資格を取っていたのです。
夢をあきらめたけれど床屋として人を幸せにすることに喜びを感じていると語ってくれました。22番がジャス以外の話をしてくれてデズは喜んでいました。
テリーはジョーを探してニューヨークへやってきていました。建物や陰に姿を隠して街中を動き回ります。一方ジョーはスーツのおしりが破けてしまい、地下鉄に乗って母親がやっている仕立て屋に向かいます。
ライブに参加することがばれてしまい母親は不機嫌でした。教員の正規採用を望んでいたからです。
ジョーは母親に正直な気持ちを話します。母親は、夫が音楽の夢を追いかけられたのは自分が働いていたからで、生活ができないと意味がないと話します。
しかしジョーは、ジャズは自分の生きている意味だからどうしてもライブには参加したいのだと切に伝えました。
はじめて正直に話したことで理解してくれた母親は、夫のスーツをジョー用に仕立て直して着せてくれました。上質なスーツを着たジョーはムーンウィンドのもとに向かいます。
映画『ソウルフル・ワールド』の感想と評価
本作『ソウルフル・ワールド』はアニメーションながら、大人向けの哲学的な作品です。特に人生で何かに悩み、つまずき迷っている人にこそ刺さる内容になっています。
ジョーは22番と一緒に行動しながら、当たり前のように過ごしていた生活自体が自分のきらめきだったのだと気づきます。
きらめきは目的や生きる意味じゃなく、心が喜ぶ瞬間を感じて生きることだったのです。家族と過ごす瞬間、美味しいものを食べる瞬間、生徒のために何かを教える瞬間、全てが自分の大切な瞬間でした。
なぜ、その大切さにいつの間にか気づかなくなってしまうのでしょうか。それは、心の余裕がなくなってしまっているからです。
例えば、ネット上で人と人が簡単に繋がれる現代ではSNSで手軽に自己表現ができます。いつの間にか、SNS上での評価が自分そのものの価値だと思い、自分を見失う人もいるでしょう。
また、ノルマや業務をこなすためだけの仕事に毎日打ち込み、自分の喜びに気づけなくなってしまう人もいます。
他者からの評価ややるべきことに追われて、いつの間にか疲れ切った心を抱えた人たちは精神を病んでいきます。それは、自分の大切な瞬間に気づく余裕がなくなっているからです。
作中では、行きつけの床屋で初めて身の上話をしたときに周りのひとの知らなかった一面を知ることで主人公は喜びを感じます。
また、母親ときちんと向きあって正直に話せたときに心が通じ合う幸せを感じました。
そんな他者との交流の中で自分自身に向きあうこともできるのだと本作は教えてくれます。
自分の殻や思い込みにとらわれ過ぎず、余裕を持った素直な心でまわりを見回してみる。そうすると人生は違った風に見えてくるのかもしれません。
心に感じた幸福をひとつひとつ大切にして生きていくことの素晴らしさを教えてくれる作品です。
まとめ
映画『ソウルフル・ワールド』は、アカデミー賞長編アニメーションを受賞したピート・ドクター監督が手掛けた作品ですので、本作を見た後は『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)や『インサイド・ヘッド』(2015)などの名作も、また観たくなることは間違いありません。
本作は、大人のための人生のきらめきを教えてくれる作品。「Disney+」配信なので、映画館で観ることが出来ずにとても残念です。
自宅でいつでもクオリティ高い作品が観れるというのはとても贅沢ですが、映画館でもこんなゴージャスな気分を味わってみたいものです。