映画『アナザーラウンド』は、2021年9月3日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国ロードショー。
映画『アナザーラウンド』は、アカデミー賞長編外国語映画賞を受賞したデンマークの映画です。
『偽りなき者』(2012)でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞、『007/カジノ・ロワイヤル』で敵役を演じその存在感を世界中に知らしめた、マッツ・ミケルセンの主演作品。
血中アルコール濃度を0.05%を保つことで、仕事もプライベートもうまくいくという学者の理論を実証した高校教師らを描いたヒューマンドラマです。
監督はトマス・ヴィンターベア。主演を務めるマッツ・ミケルセンは、『偽りなき者』の主演以来、監督と9年ぶりの再タッグを組みました。 脚本は『偽りなき者』の時と同様、トビアス・リンホルム。
CONTENTS
映画『アナザーラウンド』の作品情報
【日本公開】
2021年(デンマーク映画)
【監督】
トマス・ヴィンターベア
【キャスト】
マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネビー、ヘリーヌ・ラインゴー・ノイマン、スーセ・ウォルド
【作品概要】
映画『アナザーラウンド』は、2020年のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出され、第78回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。
また、第33回ヨーロッパ映画賞作品賞、英国アカデミー賞、セザール賞など数々の映画賞を受賞し、第93回アカデミー賞で監督賞、国際長編映画賞の2部門にノミネートされ、国際長編映画賞も受賞しています。
監督のトマス・ヴィンターベアは、『偽りなき者』(2012)でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、同作品主演のマッツ・ミケルセンはカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞しています。
マッツ・ミケルセンは元体操選手、ダンサーという経歴を持ちますが、地元のデンマークの映画に多数出演したのち、『007/カジノ・ロワイヤル』や「ハンニバル」ドラマシリーズでレクター博士役を演じ、一気に俳優として世界的に注目を集めました。
北欧の鬼才監督アナス・トマス・イェンセンの『ライダーズ・オブ・ジャスティス』が2022年1月に公開を控え、インディジョーンズシリーズの新作『Untitled IndiananJones Project』(2022予定)にもハリソン・フォードらと共に出演が決まっています。
映画『アナザーラウンド』あらすじとネタバレ
高校の歴史教師マーティン(マッツ・ミケルセン)は、夜勤のある妻アニカ(マリア・ボネヴィー)とはすれ違い、ふたりの息子ともうまくコミュニケーションを取れずにいました。
学校では、授業のレベルが低いと生徒やその親から抗議されてしまいます。
その夜、同僚の心理学教師のニコライ(マグナス・ミラン)の40歳の誕生日会が開かれました。体育教師のトミー(トマス・ボー・ラーセン)と音楽教師のピーター(ラース・ランゼ)の仲の良い4人でディナーをします。
3人が酒を飲む中、ひとり水を飲んでいるマーティンに対して「君に欠けているのは自信と楽しむ気持ちじゃないのか?」とニコライは言います。
そして、ノルウェー人学者の理論「人間は血中アルコール濃度が0.05%に保たれていると、仕事もプライベートもうまくいく」という仮説についての話題になりました。
その話に耳を傾けつつ、仲間たちに促されてマーティンはお酒を飲みました。その夜は仲間たちと気持ちよく酔っ払い、解放感と心地よ さを感じた一夜となりました。
翌朝、マーティンは昨夜の理論を実証すべく少しお酒を飲んで授業を行います。そのことを友人らに話し、記録をとりながら実証することになりました。
4人は飲酒ルールを決めます。体内アルコール濃度を機械を使って呼気で測り、0.05%を維持するというもので、夜20時以降と休日は飲酒しないという約束を決めました。
すると、4人とも見違えるような授業をして生徒たちからも大人気に。刺激的で新鮮な指導が生徒たちにウケたのでした。
手ごたえを感じたマーティンはアルコール濃度の制限をなくそうと提案し、自ら実行します。0.06%~0.12%にあげると、足取りがおぼつかない状態になりました。職場での様子もおかしく、壁に頭をぶつけるほどでした。
しかし、授業は大成功。生徒たちから喝采をあび、信頼を集めはじめていました。
その姿を見たニコライも濃度をあげ、トミーとピーターもアルコール濃度を上げて飲酒を続けます。
マーティンは8年ぶりに家族旅行に出かけ、妻と昔した時のようにカヌーに乗ったり、キャンプをして家族団らんを楽しみました。久しぶりに妻とも愛し合い、幸せな生活が戻ってきたように思えました。
トミーは指導している少年サッカーの試合でチームが勝利を納めて、いじめられていた少年がチームメイトから認められたり、ピーターには恋人ができ、それぞれ人生が前向きになっていました。
そこで、仮説実証のために、アルコール濃度を限界まで上げようとニコライが提案し、全員で強いお酒を飲むことになりました。
家で飲んで踊り、バーでもカウンターに乗ったりピアノを弾いて大騒ぎをした4人。
帰宅して家族のベッドに入ったニコライはおねしょをしてしまい、妻から激怒されます。小さな子どもたちの世話も任せられないと一喝されます。
マーティンはその帰りに酔いつぶれ、道端でおでこを怪我して眠っていたところを息子に抱えられて帰宅しました。
家族に事情を説明するように妻から言われたマーティン。飲みすぎてしまったと謝ったものの妻と言い合いなり、不倫を問い詰め、彼女が認めたことで大喧嘩に発展します。今すぐ出て行けと激昂するマーティン。
息子たちもおびえながら見守っていました。マーティンらは、これ以上の実証は、アルコール依存症になるのでやめようと決めました。
映画『アナザーラウンド』感想、考察
本作に込められたメッセージは、単純に飲酒を肯定するものでも否定するものでもありません。自信や生きる喜びを見失った大人たちに向けた、すこし毒のある人生讃歌となっています。
人生の楽しみや幸福は意外と近くにある、けれどその落とし穴も同じくそのすぐそばにあるのだという教訓を読み取ることができました。
さりげない伏線と丁寧な演出
マッツ・ミケルセン主演ということで、彼の演技や存在感が最後まで作品の魅力を最大限引き出していましたが、それだけではなく見事な脚本力、演出力のある作品です。
特に、マッツ・ミケルセン演じるマーティンの次に物語の鍵を握っていた人物、トミーの人物像の描き方が秀逸です。
まず、ニコライの誕生日ディナーの時、涙を流しながら酒を次々に煽るマーティンに「ほどほどにしておけ」と制したのはトミーでした。
酔っぱらったマーティンが、職員室で頭をぶつけて鼻血を出したときに優しくかばったものトミーです。また、4人での会話で「アルコール依存症じゃないよな」と確認するセリフを言ったのもトミーでした。
自制心のある、友人思いの人物であることを描いています。自宅では老犬の介護をし、少年サッカーのコーチとして子どもからも慕われる存在でした。
トミーのさりげない行動すべてに意味があって、あの出来事に繋がるのです。さりげなくも丁寧に張られた伏線に唸ります。
若者たちと中年世代の対比
本作は、冴えない人生を送っている高校教師4人が主人公となっていますが、冒頭のシーンは学生たちが湖のまわりをお酒を飲んで走り回るゲームの様子から始まります。
その後も、授業中の様子や卒業式後の港のパーティなど、学生たちの若さとエネルギッシュさが映し出されます。
人生においてこれから楽しみや試練を知るだろう若い世代と、40歳を越えた中年世代にとっては、それぞれ抱える苦悩や直面する課題は違うはずです。
しかし、どの世代も共通するのはお酒を飲めば楽しくなり、抱えていた悩みから解放されるということ。
良いことがあれば悪いこともあって長い人生が続いていくのだと言うことを、「若者」と「中年」の年齢の差で表現しているように感じました。
また、学生のひとりで卒業試験に対する不安でいっぱいだったセバスチャンが、試験で「不安の概念」について説明をするシーンは物語とリンクしています。失敗を繰り返して他者や自分の人生を投げ出さずに生きていく、というような内容でした。
こういった様々なシーンから、主人公たちが高校教師という設定の意味を読み取ることができます。
楽曲による巧みなストーリーテリング
本作の演出の巧みさは楽曲の使い方にも顕著に表れていました。
ニコライの誕生日ディナーのシーンでは、人生の終わりを予感させるような暗い内容の歌が聞こえてきて、その歌を聞きながらマーティンは我慢していたお酒に手をつけます。
物語が進むに連れて、楽曲は明るいものに変わります。学生たちの卒業の儀式で歌われたのは人生の喜びに触れるような歌詞でした。
そして、ラストのダンスシーンで使われた「What A Life」はまさに人生の苦さと喜びを表現した内容です。
「それでも自分らしく生きるんだ」という歌詞とともに舞うマーティンの姿から、なんとも言いようのない解放感と高揚感を感じることでしょう。
ピアノのクラシックの楽曲から、ポップな楽曲など様々な音楽が、展開とともに空気を緩めたり引き締めたりして、とても印象的な使われ方をしていたと言えます。
まとめ
舞台となるデンマークでは、16歳からアルコールを購入することができ、飲酒に関しては年齢制限は設けられていません。
実際に主演のマッツ・ミケルセンは13歳ごろから飲酒していたとインタビューで語っています。
作中で生徒に飲酒を促すシーンは日本だとありえない行為ですが、デンマークでは違法でないのです。
ですが、お酒はほどほどに。人生をより謳歌するために適量を楽しみたいですね。