ジャンルごと物語が変わる驚異のジェットコースタームービー
物語の半ばで大きく様相が変わり、視聴者の予想を裏切る展開のことを「どんでん返し」と呼びます。
ミステリを始めサスペンスや果てには恋愛映画まで、ジャンルを問わず今や「どんでん返し」を主体とした映画は多く、映画製作者たちはその「どんでん返し」に特色を持たせさらなる驚きを提供しようと日々奮闘しています。
そして2021年、若手映画監督として注目を集めている阪元裕吾監督が「どんでん返し」へと殴り込みをかけます。
そんな訳で、今回は物語の途中で映画そのもののジャンルが大きく変わる映画『黄龍の村』(2021)の魅力をご紹介させていただきます。
映画『黄龍の村』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
阪元裕吾
【キャスト】
水石亜飛夢、松本卓也、鈴木麻由、秋乃ゆに、ウメモトジンギ、石塚汐花(アイドルカレッジ)、大坂健太、上のしおり、藤井愛稀、中村龍介、小玉百夏、安田ユウ、陸野銀次郎、海道力也、一ノ瀬ワタル、伊能昌幸
【作品概要】
過激な社会風刺で話題となった『ファミリー☆ウォーズ』(2018)で商業映画デビューを果たし、『ベイビーわるきゅーれ』(2021)で注目を集める阪元裕吾が監督を務めた最新ホラー映画。
ミュージカル「テニスの王子様 2nd Season」での俳優デビュー後、『鋼の錬金術師』(2017)や『青夏 きみに恋した30日』(2018)など話題作に多く出演する水石亜飛夢が主人公の北村優希を熱演。
助演として単身タイに渡りムエタイの修業をした元格闘家でありながらも『宮本から君へ』(2019)や「HiGH&LOW」シリーズに出演する俳優一ノ瀬ワタルが出演することでも話題を集めています。
映画『黄龍の村』のあらすじ
同窓の生徒たち7人と共に思い出づくりのキャンプへと向かう大学生の北村優希(水石亜飛夢)。
旅の途中、宿泊先へと向かう道中の山道で車がパンクしてしまい、助けを求めた一行は山奥の辺境で「龍切村」を発見します。
しかし、村を訪れた一行を出迎えたのは頭部に包丁の刺さった案山子や話しかけても反応しない村民でした。
徐々に気味の悪さを覚える優希たちでしたが、親切な村民である新次郎(陸野銀次郎)に出会い温かく迎え入れられます。
優希は旅行者を歓迎する新次郎の過剰な接待に違和感を覚えながらも、彼に勧められるがままに「龍切村」で一晩を過ごすことにしますが……。
「村ホラー」に隠された衝撃の展開
本作は8人の大学生が「とある風習」を持つ村に迷い込み、村の真実を知ったことで大きな恐怖に取り込まれていく物語が展開されます。
序盤の展開は村人全員が恐怖の対象となる「村ホラー」映画としての定番を兼ねそろえたものとなっており、日本の田舎が持つ独特の雰囲気と「村ホラー」がマッチし恐怖感と閉鎖感が増幅されていました。
しかし、本作『黄龍の村』は単なる「村ホラー」としての完成度高さだけでは終わることはなく、展開される物語の先に衝撃の展開を用意していました。
「ホラー」+「???」
「ホラー」映画の裏に別のジャンルを隠した「どんでん返し」映画は近年では珍しくありません。
衝撃の展開が話題となり、小規模上映が瞬く間に全国上映へと切り替わり大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』(2017)もその映画の1つであり、「ホラー」を「コメディ」に突然切り換えることで「ホッ」とした雰囲気を作り出し、鑑賞者をコメディの世界に引きずり込むことに成功していました。
他にも「ホラー」が「人情サスペンス」へと切り替わり善悪を考えさせられる物語へと急変する『<a href="https://cinemarche.net/vod/tallman-vod/"トールマン』(2012)や、「ホラー」に「SF」の要素を追加しカルト的人気を持ち続ける『<a href="https://cinemarche.net/vod/cabin-vod/"キャビン』(2013)など、別のジャンルへと唐突な切り替えが衝撃を生みやすい「ホラー」はさまざまなジャンルとの融合が試されてきたと言えます。
そして最新映画『黄龍の村』では「村ホラー」映画が突如ファンの多い「とあるジャンル」への切り替わることとなり、鑑賞者だけでなく登場人物さえも驚愕する「どんでん返し」の真髄を味わうこととなります。
阪元裕吾監督は本作を「ごった煮」と評し、原作のないオリジナル脚本だからこそ描くことの出来る衝撃を生み出していました。
張られた伏線を一瞬たりとも見逃すな!
ミステリや「どんでん返し」を主軸とした作品では、明らかになる真相に対し伏線を張ることを求められます。
伏線の有無は作品の隙の無さに繋がるだけでなく、「このシーンはあのシーンに繋がるんだ」と言う再鑑賞の楽しさを与えてくれる要素にもなります。
その一方で衝撃度を高めるために伏線を張らずひた隠しにするケースも多く、製作陣は隙の無さを取るか衝撃度を取るかと言う苦渋の決断を取らされるこことなります。
しかし、『黄龍の村』では劇中だけでなく作品情報の発表方法にも拘ったことで、隙の無さと衝撃度のどちらも譲ることなく両立させることに成功しており、物語の導入部分からしっかりと伏線を張った上で予想もしない方向へと鑑賞者を導いていきます。
伏線をしっかりと張ることで再鑑賞に対するモチベーションをあげながらも、「想像を裏切り鑑賞者を驚かせたい」と言う一心をも強く感じる作品でした。
まとめ
風習や概念、そしてお金に縛られる人間を真正面から描き、世の中の汚さや闇を嫌と言うほど見せつけながらも、その一方でどこか穏やかな気持ちになるような気の抜けたシーンも描く阪元裕吾監督の作風。
緩急を織り交ぜるその作風や登場人物同士の掛け合いは本作でも炸裂しており、監督のファンならばニヤリとしてしまう要素も盛りだくさん。
「ホラー」の一歩先を進んだ映画を観たい人、阪元裕吾監督の作風に触れたい人、衝撃の展開をその身に浴びたい人。
俳優の秀逸な演技があってこそ光る「どんでん返し」が鑑賞者を襲う最新映画『黄龍の村』をぜひとも劇場でご覧になってください。