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Entry 2021/07/18
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映画『共謀家族』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。愛する家族を守る為完全犯罪を企てる男が仕掛ける‟最後の謎”|サスペンスの神様の鼓動45

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動45

愛する家族を守る為、タイ警察を相手に「映画の知識」のみで完全犯罪を企てた男の、孤独な頭脳戦を描いたサスペンス映画『共謀家族』。

2015年のインド映画『ビジョン』をリメイクした本作は、主人公のリーが、本来なら共謀関係にある観客すら騙してくる、さまざまな仕掛けのある作品でした。

今回は映画『共謀家族』の魅力と、本作では明かされていない最後の謎に関して、考察していきます。

「1000の映画を知る」リーと「1000の事件を知る」警察局長ラーウェン。

我が子を救う為、激しい頭脳戦を繰り広げる2人の戦いを描いた本作は、2020年の「中国年間興収」で第9位という大ヒットを記録しています。

主人公のリーを、中国で歌手、俳優、監督、脚本家とマルチに活躍する人気俳優シャオ・ヤンが演じる他、リーを追い詰める警察局長、ラーウェンを演じるジョアン・チェンは『ラストエンペラー』(1987)で、皇后婉容を演じ、世界的に注目されて以降、海外でも活躍している国際的な女優です。

監督は、本作が長編デビュー作でありながら、卓越したストーリーテリングが高く評価されている、新鋭サム・クァー。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『共謀家族』のあらすじ


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

幼き日に、タイへ移り住んできた中国人のリー・ウェイジエ。

彼は両親を失い孤児になった辛い過去がありますが、現在は小さなインターネット回線会社を経営しています。

信心深く誠実な人柄のリーは、周囲の人に好かれ、妻のアユー、高校生の娘ピンピン、まだ幼い娘のアンアンと幸せに暮らしています。

また、リーは映画好きで「映画を1000本観れば、世界に分からない事は無い」が信条です。

ある日、リーは行きつけの食堂の店主、ソンに自分が考えた「棺桶に隠れて脱獄を企てる男」の物語を聞かせていましたが、ソンは呆れた様子を見せます。

さらに、リーは映画『ショーシャンクの空に』の名場面について熱く語り出します。

ですが、ソンの食堂で聞き込みをしていた警察官、サンクンに「うるさい!」と恫喝されます。

サンクンは、殺人事件の捜査を行っていますが、警察の権力で住民を脅し、賄賂を払わせている悪徳警官で、地域の住民に嫌われています。

タイ警察の女性警察局長、ラーウェンは「1000の事件を研究すれば、解決できない犯罪はない」が信条の敏腕警察官です。

ですが、事件解決の為なら、証拠品の捏造すらもしてしまう、危険な性格でもあります。

ある日、リーが自宅に戻ると、ピンピンが「サマーキャンプに行きたい」と、リーに書類を渡します。

リーは会社の社長ですが、決して裕福ではなく、墓地の隣にある安い自宅に住んでいます。

サマーキャンプの参加費を見たリーは、高額なことに驚きますが、ピンピンの為に参加費を払います。

そんなリーに、新たな仕事が舞い込みます。

増築されるタイ警察署の通信回線を担当することになり、リーはソンの食堂で打ち合わせを行います。

それから数日後、キャンプから帰宅したピンピンは、家族を避けるような態度を取るようになります。

ピンピンはサマーキャンプで、ラーウェンの息子であるスーチャットに薬を盛られ、意識がもうろうとしている中で、暴行されます。

その暴行の様子を撮影されてしまい、スーチャットに「逆らえば、動画をネットで拡散する」と脅されます。

スーチャットは、これまでも数々の暴行事件を起こしてきた問題児でしたが、警察局長である母親ラーウェンと、議員である父親デゥポンにより、罪を揉み消されていました。

ですが、市長選に立候補したデゥポンは、これ以上スーチャットが問題を起こし、選挙に影響する事を危惧していました。

ピンピンは、権力者の両親を持つスーチャットに逆らうことができず、スーチャットに呼び出された倉庫へ、夜中に向かいます。

スーチャットはピンピンに、再び暴行しようとしますが、ピンピンの普段とは違う様子を察知したアユーも倉庫に現れ、スーチャットと揉み合いになります。

ピンピンは、スーチャットのスマホを壊そうと、倉庫にあった農具を振りかざします。

しかし、農具はスーチャットの頭に当たってしまい、スーチャットは死亡します。

その頃、リーはホテルの回線を修理する為、1泊の出張に出ていました。

仕事を終えたリーは、ムエタイを観戦し、家族に電話をしますが、全く電話回線が繋がりません。

異常を察したリーが帰宅すると、アユーが泣いているピンピンを抱きしめていました。

警察局長と議員の1人息子を殺してしまったことで「通報すれば、必ずピンピンが刑務所に入れられる」と考えたアユーは、スーチャットの死体を自宅の隣にある墓地に埋めていました。

リーは愛する家族を守る為、犯罪映画のトリックに関する知識を使い、完全犯罪を計画します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『共謀家族』ネタバレ・結末の記載がございます。『共謀家族』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

次の日、リーはスーチャットの車とスマホを処分しに行きます。

スマホは工事現場の粉砕機の中に入れ、車は湖の底に沈めます。

誰にも気づかれず、完璧にこなしたつもりでしたが、スーチャットの車に乗る所を、サンクンに見られていました。

スーチャットの車とスマホを隠滅したリーは、次に家族を連れてムエタイ観戦に出かけます。

遠出をするバスの中で、知り合いに会ったリーは積極的に会話をし、ホテルでは予約の手続きが上手くいっておらずトラブルを起こします。

さらに、ムエタイの会場では売り子のポップコーンを落としてしまうなど、さまざまな場所で、リーと家族がいた痕跡を残していきます。

それは、4月2日から3日の昼にかけてのことでした。

帰宅したリーは家族に、警察から尋問を受けた際の、振る舞い方を練習させます。

スーチャットの殺害を隠蔽して以降も、リーは普通に仕事をこなしており、新たに増築される警察署の下見に来ていました。

建設担当者の説明を聞きながら、リーは工事中の床に、大きな穴が開いていることに気付き、無言で眺めます。

建設担当者との打ち合わせが終わったリーでしたが、サンクンが現れ、自分に逆らった建設担当者を殴り始めます。

リーが止めに入ると、サンクンは拳銃を出し、近くにいた山羊を撃ち殺して、その場を立ち去ります。

スーチャットが行方不明になり数日が経過した為、タイ警察はスーチャットの捜索を始めます。

捜査会議に参加したサンクンは、数日前にリーが、スーチャットの車に乗っていたことを思い出します。

サンクンは、学校に向かいピンピンを尋問しますが、事前にリーと練習をしていたピンピンの証言に矛盾はありませんでした。

サンクンは、自宅にいたリーとアユーを取り調べますが、こちらも証言に矛盾はありません。

数日後、湖の底に沈んでいたスーチャットの車が発見されます。

スーチャットが行方不明であることに、事件性を確信したラーウェンは、サンクンの助言に従い、リーの家族を強制連行し、一斉に取り調べを行います。

それでも、一家の証言に矛盾はありません。

逆に、何の証拠も無くリーと家族を連行したことに、リーの知人たちが抗議します。

ラーウェンはリーと家族を釈放しますが、代わりにリーの知人たちに事情徴収を行います。

結果、4月2日と3日は、リーの家族は遠出しており、スーチャットを殺害し証拠隠滅を図ることは「不可能」という結論になりました。

それでも、これまで数々の事件を解決してきた「警官の勘」で、リーを疑い続けるラーウェンは、リーが映画好きであることを知ります。

ラーウェンは、リーの自宅からコレクションの映像ソフトを押収し、犯罪に繋がりそうな映画を研究します。

その結果、リーは大ヒットした韓国映画『悪魔は誰だ』に用いられたトリックを、応用したことが分かります。

リーが家族と遠出をし、ホテルに宿泊してムエタイを観戦したのは事実でしたが、リーは知人たちの記憶を巧みに操り、時間の感覚を狂わせていたのです。

つまり、4月2日と3日に、リーは家族で遠出はしていたが、関わった人達の時間の感覚が曖昧な為、スーチャットが死亡した時刻の、リーと一家のアリバイを立証したことにはなりません。

しかし、これはラーウェンの推理でしかなく、さらなる確証が必要となります。

そこへ、アメリカに滞在していたスーチャットの友人がタイに帰国し、タイ警察署を訪れます。

そして、ラーウェンに「サマーキャンプで、スーチャットがピンピンに暴行をし、映像を撮影した」と伝え、撮影した動画も見せます。

ラーウェンは、この動画が原因で「ピンピンがスーチャットを殺害した」と確信し、再びリーと家族を拘束します。

ラーウェンは「本当の事を言わないと、この動画を拡散する」とピンピンを脅し、サンクンにリーを痛めつけるように命令します。

サンクンに殴られるリーの姿に耐えられず、泣き始めるアンアンに、ラーウェンは「本当のことを言えば、お父さんを助けるが、言わないならここで殺す」と脅します。

耐えられなくなったアンアンは、スーチャット殺害の事実を話してしまい、リーと家族は逮捕されます。

そして始まった現場検証。

容赦なく墓地を掘り起こすタイ警察に住民の怒りは爆発し、リーの無実を信じる人達の訴えがテレビで流されます。

そして、サンクンが「スーチャットを埋めた場所」と確信した墓を掘り起こすと、そこにあったのは、スーチャットの死体ではなく、サンクンが撃ち殺した山羊の死体でした。

先祖の墓を荒らされた市民の怒りが爆発し、タイ警察に向けて暴動が起きます。

その暴動は街を飲み込んだ為、ラーウェンは責任を取り警察局長を辞任、デゥポンも議員の職を奪われます。

数日後、リーはラーウェンとデゥポンに偶然会い、強引だった取り調べを謝罪されます。

そこで「子供を心配する親の気持ち」を受け取ったリーは、スーチャット殺害の罪を全て被り自首します。

リーが自首したことで、街は騒然としますが、街の人達は全員、家族を守ろうとしたリーに同情し、釈放を要求します。

刑務所に収監されたリーは、刑務所内を掃除している際に、運ばれる棺桶に気付き、何かを考えたような素振りを見せます。

サスペンスを構築する要素①「映画の知識で目論む完全犯罪」


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

家族を守る為に、完全犯罪を計画した男と、タイ警察の攻防を描いたサスペンス『共謀家族』。

この設定を聞いただけだと、いくら家族を守る為とは言え、完全犯罪に挑む主人公リーに「共感できないのではないか?」と感じる人もいるでしょう。

リーは、不良高校生のスーチャットを殺してしまった娘のピンピンの為に、完全犯罪を企てるのですが、問題は殺害されたスーチャットの家柄です。

スーチャットの母親ラーウェンは、タイ国際警察の局長です。

これまでスーチャットは、数多くの暴力事件を起こしていますが、全てラーウェンが揉み消してきました。

ラーウェンは、可愛い1人息子であるスーチャットの「未来の可能性」を信じていますが、逆に言うと、スーチャットの未来しか見えておらず、それを邪魔する要因は、どんな理由であれ全て排除する危険な性格です。

本作の中盤でも、スーチャットが撮影した、ピンピンを暴行する動画を見ても、即座に「極秘情報」にして、この事実を揉み消し、ピンピンに謝罪するどころか「本当のことを言わないと、この動画を拡散させる」という、脅迫の道具に使います。

おそらく、スーチャット殺害後に、ピンピンが警察に自首をしても、ピンピンが暴行された事実は揉み消され、重い罪が課せられただけでしょう。

つまり、真実を話しても、スーチャットにとって都合の悪い部分は隠蔽される可能性が高く、ピンピンの正当防衛など認められるはずがないのです。

そこでリーは家族を守る為、タイ警察を相手に完全犯罪を成立させる為の戦いを始めます。

とは言え、お金も権力も無いリーの、唯一の武器は「映画の知識」のみです。

「1000本の映画を観れば、世界に分からないことは無い」というリーの持論は非常に共感できますが、対するラーウェンは「1000の事件を研究すれば、解決できない犯罪はない」が信条で、事件解決の為なら証拠品も捏造する危険な人物です。

愛する息子の為に、血眼になって捜査をするラーウェンから、果たしてリーは家族を守り切れるのか?

これが『共謀家族』の物語の主軸となっていきます。

サスペンスを構築する要素②「観客すらも騙すリーのトリック」


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

家族を守る為に、完全犯罪を企むリーですが、序盤ではスーチャットの車に乗り込むところを、タイ警察のサンクンに見られたうえ、湖にスーチャットの車を沈める場面では、なかなか沈まないスーチャットの車を、山羊使いの老人に見られそうになるという、頼りない部分が目立ちます。

その後、リーは家族に、警察に尋問された時の対処法を教えるのですが、映画で得ただけの知識で乗り切ろうとするリーを、おそらく多くの人が「大丈夫か?」と不安に感じるでしょう。

しかし、作品中盤で明らかになる、リーが企てた「アリバイ工作」のトリックは、実に見事なものでした。

リーが参考にした映画は、2013年に公開された、韓国のサスペンス映画『悪魔は誰だ』です。

なのですが、今回の「アリバイ工作」のトリックは、映画を構成するうえで必要不可欠となる「フィルム」の考え方が適用されています。

リーは、スーチャットが殺害された次の日に、家族を連れて旅行に出かけ、さまざまな人の印象に残るように振る舞います。

これで、旅行先で関わった人達へ「視覚的な情報」として「リーの家族が旅行に来ていた」という事を覚えさせます。

その後、リーは旅行先で関わった人達に再び会い「4月2日と3日に旅行へ行っていた」「一昨日、このホテルを利用した」「昨日、このムエタイの会場でポップコーンをばらまいた」と、時間的な情報を記憶させます。

そして、タイ警察が、犯行時刻のリーのアリバイを事情徴収した際、リーと関係した人達の「視覚的に得た記憶」と「リーに印象付けられた時間軸」が、1つのフィルムのように繋がり、リーのアリバイ工作が完成します。

まさに、映画を愛するリーだからこそのトリックと言えます。

このトリックが解明される中盤になると、タイ警察は「リーを甘く見ていた」と後悔しますが、それは観客も一緒です。

この時点で、リーと共謀関係にあると思っていた観客は、リーに騙されて裏をかかれた気持ちになりますが、リーが仕掛けた最大のトリックは、実はクライマックスに待っていたのです。

サスペンスを構築する要素③「スーチャットの死体の行方は…?」


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

本作のクライマックスでは、強硬手段に出たラーウェンにより、リーの家族は逮捕され、スーチャットの死体が埋められているとされる、墓地の検証が行われます。

リーの妻アユーは、殺害したスーチャットの死体を「墓地に埋めた」と言っている為、スーチャットの死体は、確実に墓地に埋められている…はずでした。

しかし、掘り出されたのは山羊の死体。

ここで、先祖の墓を荒らされた地域の住民の怒りが爆発し、暴動が起きます。

そして、そのままラストに向かう為、作中で「スーチャットの死体が、どこに埋められたか?」は、明確に語られていません。

これこそが、リーが仕掛けた最大のトリックで、共謀関係にあった家族にすら秘密にしていたことです。

リーは家族だけでなく、再び観客を騙し、煙に巻いてきます。ですが、作中の場面をヒントに考えると、何となく場所が分かるようになっています。

まず、リーがスーチャットの死体を掘り起こす場面があるので、墓地から別の場所にリーが変えたのは事実です。

では「スーチャットの死体を何処に隠したか?」と言うと、新たに増築されたタイ警察署の中でしょう。

作品の序盤で、工事中のタイ警察署を、仕事で視察に来たリーが、床に開けられた大きな穴に気付き、無言で眺める場面があります。

何気ない場面なので、見落としてしまうかもしれませんが、ちょうど、人ひとりが入る大きさの穴なので、ここにスーチャットの死体を隠したと思われます。

本作のラストで、スーチャットの死体をタイ警察が見つけましたが「場所は非公開にした」という情報が流れます。

権力を誇示し、民衆を抑圧してきたタイ警察の署内に、探していた死体が埋まっていたとすれば、タイ警察の恥になります。

だから、タイ警察は発見場所を非公開にし、リーもそのことを計算していたのでしょうね。

映画『共謀家族』まとめ


(C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

本作のラストで、リーは全ての罪を被り自首をします。

愛する人の罪を隠す為、警察を相手に工作を図り、最後は自分が全ての罪を被るという展開は、東野圭吾原作で、2008年に映画化もされた『容疑者Xの献身』を彷彿とさせます。

リーもラーウェンも、結局助けたかったのは「愛する我が子」。あまりにも悲しい両者の戦いの末、残されたのは「家族愛」だけです。

本作は「家族の物語」なのですが、理不尽な権力に抑圧される、一般市民の不満を描いた、政治的なメッセージも強い作品です。

中盤までは、見応えのあるリーとラーウェンの頭脳戦が展開され、それ以降は、誰しも身近に感じる「家族愛」を描きながら、政治的な問題定義も込めた映画『共謀家族』。

かなり完成度の高い作品でした。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!


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