過去を変えようと奔走する青年の姿を描いたSFアドベンチャー
チーノ・ソレンティーノが監督を務め、タイムループにハマった青年の運命を描いた、2020年製作のイタリアのSFアドベンチャー映画『T-NET/タイムネット』。
過去に戻って盗まれたスクーターを取り返すだけのはずが、タイムトラベル中に緊急事態が発生し、タイムループから抜け出せなくなってしまった青年の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
イタリアの田舎町を舞台に繰り広げられる、タイムループからの脱出を描いたイタリアのSFアドベンチャー映画、『T-NET/タイムネット』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
映画『T-NET/タイムネット』の作品情報
【公開】
2020年(イタリア映画)
【監督】
チーロ・ソレンティーノ
【キャスト】
サム・ギッティンズ、ミーノ・スフェッラ、エリー・プソ、エリアナ・マンヴァティ、ミケランジェロ・ジェンティル
【作品概要】
チーノ・ソレンティーノが監督を務めた、イタリアのSFアドベンチャー作品。タイムループにハマった青年の運命を描きだします。
『ゼイカム 到来』(2019)のサム・ギッティンズが、本作の主演を務めました。
映画『T-NET/タイムネット』のあらすじとネタバレ
西暦2018年、イタリアの静かな田舎町。
若き科学者リッキー・ファリーナは、母と暮らすイギリスを出て、夢想家であり野心的な科学者でもある父親リカルドの研究を手伝っていました。
リカルドとリッキーが取り組んでいる研究とは、「エーテル理論(相対性理論が発表される前、19世紀の末頃に真剣に科学者たちの間で検討された物理学理論のこと)」に基づいて作った、マシンを使った磁場の研究です。
エーテル理論に基づいた実証実験は、天才発明家テスラですら成し遂げられなかったものであるため、それを長年執念深く続けるリカルドのことを、科学界の人間は皆「妄想癖がある変人」扱いして追い出しました。
そのせいで、リカルドは研究員を雇ったり、設備が整った研究室を持ったりする余裕がないほど、お金がありません。
農場の倉庫を研究室代わりにしている中、リカルドの研究を手伝いに来たリッキー。彼が導き出した数式は完璧です。
しかし、マシンは上手く作動せず、失敗してしまいます。そこでリカルドは、リッキーにこう言いました。
「私1人で確認作業をするから、お前はマリオの店に行って、ロトを買ってきてくれ」と。
カフェの店主マリオは、宝くじの販売もしていました。
リッキーは、リカルドが大事にしている赤いスクーター「ベスパ」に乗り、彼が突如頭に浮んだと言う5つの数字が書かれたメモを持ち、研究室から少し離れた街へ向かいます。
マリオの店までの道中、リッキーは偶然、好意を寄せている食料品店の店員、オリビアと会いました。
リッキーは勇気を出して、オリビアをデートに誘いましたが、連絡してきたリカルドによる横槍と、食料品店の店主ロッコが彼女を呼んだことで失敗。
リッキーはオリビアと別れ、マリオの店に行き、宝くじの当選結果を調べている間に、マリオと雑談を交わします。
しかしその時、店先に停めておいたベスパが、何者かによって盗まれてしまったのです。
途方に暮れるリッキー。そんな彼は、テラス席に座っていた女性から突然、声をかけられました。
その女性の名は、セレスティーヌ・ディジュー博士。彼女は大学で働く心理学者です。
リカルドに会いに来たディジュー博士は、家に帰るための足を失ったリッキーを、自身の愛車で送り届けました。
リッキーは研究室に戻り、ぶつぶつと独り言を話すリカルドに謝罪しますが、彼は聞く耳を持ちません。
それどころか、リカルドは隣に来たリッキーを、作動中のマシンへ突き飛ばし、無理矢理中に押し込んできたのです。
マシンの中に入ったリッキーが、マシンを通って出た場所は、何と自分がベスパに乗って出かけたばかりの、65分前の過去でした。
リッキーは、過去の自分を見送ったリカルドからそう言われ、「つまり父さんが作っていたのはタイムマシンで、自分は過去へタイムトラベルしてきた」という、信じ難い現実を知って困惑します。
きっかり65分前後、過去と未来を行き来できるタイムマシン。リッキーはそれを作ったリカルドに、実験台にしたのかと怒ります。
これに対し、リカルドはこう答えました。
「お前じゃない、実験台は(農場で飼っている豚の)チッチョだ。未来から伝言をもたらした」
リカルド曰く、実験台にしたチッチョは、マシン作動直後に過去に来ましたが、それよりも早く未来のリッキー(以下、リッキー2と表記)が来たのです。
そして「未来からの伝言」とは、誰かが未来から研究室に置いた、女性の筆跡でフランス語の格言、「時間を弄ぶと裏切られる」と記されたメモのことでした。
ファリーナ親子を知っているフランス人女性、リッキー2が思いあたった人物は、フランス人のディジュー博士です。
リッキー2は、とりあえずベスパの盗難を防げば、この事態を引き起こした犯人かもしれないディジュー博士と出会わずにすむと考え、すぐさま街へ向かいました。
しかし、そのリッキー2の作戦は、リッキー1と会う前のディジュー博士がテラス席にいたため、店先の角から出られず失敗。
ベスパはまた盗まれてしまったものの、リッキーの過去が変わった出来事が1つありました。
それは、リッキー1とディジュー博士が去った後、マリオの店に駆け込んだリッキー2は、彼から400万分の1の確率で当たる宝くじに見事当選したことでした。
賞金は3,000万ユーロと大金です。リッキー2は宝くじの券を持って浮かれながら、ふらっと食料品店へ行きました。
しかし、真っ暗な食料品店の中にいたオリビアは、店の帽子を被った男と、キスをしていたのです。
傷心のリッキー2は、研究室までの道中で、ディジュー博士の車を発見。
リッキー2は、鍵がかかっていないディジュー博士の後部座席の扉を開け、彼女の鞄から大学ノートを取り出し、あの格言がないか探します。
すると、ディジュー博士の大学ノートには、リッキー2が予想していた通り、フランス語の格言が書いてありました。
それどころか、ディジュー博士の大学ノートには、ファリーナ親子しか知らないはずの、タイムマシンに関する記述があったのです。
本当にディジュー博士が、この事態を引き起こした真犯人なのか。
リッキー2は半信半疑のまま研究室へ戻ると、リッキー1とリカルドがいる研修室内を覗いている、ディジュー博士の姿を発見します。
疑いが確信に変わったリッキー2は、タイムマシンを見て興奮しているディジュー博士を、リッキー1をマシンに押し込んだばかりのリカルドに突き出しました。
そこへ、タイミングを図ったかのように、ベスパを盗んだ犯人が現れます。
リカルドはベスパを盗んだ犯人と外で、リッキー2はディジュー博士と研究室内で、それぞれ尋問しました。
しかし、ディジュー博士は何故ここにいるのか、何故タイムマシンを止めようと必死なのか、リッキー2に話そうとしません。
リッキー2はディジュー博士への尋問中、外が不気味なほど静かなことに気づき、リカルドの安否を確かめるために外へ出ます。
そこにリカルドの姿は見当たらず、真っ暗な外でリッキー2に明るいヘッドライトを照らしてくる犯人しかいません。
リッキー2はベスパに近づいた直後、後ろから何者かにスコップで殴られ、気絶。
目覚めた彼のそばには、食料品店の帽子がありました。その帽子は、ロッコのものです。
リッキー2は、ロッコが真犯人かと疑い、逃げ去る彼を追いかけましたが、途中で見失ってしまいました。
リッキー2はその直後、研究室の方から聞こえる悲鳴と、何かが倒れた音を聞き、慌ててきた道を引き返します。
研究室前に到着したリッキー2が見たのは、ディジュー博士がリカルドであろう人物を、崖から突き落とした姿でした。
リッキー2は、ディジュー博士を糾弾後、リカルドを死なせないために、タイムマシンを使って過去へ戻ります。
映画『T-NET/タイムネット』の感想と評価
科学者のリッキーが、父親のリカルドに作動中のタイムマシンの中に押し込まれ、過去と未来を行き来する物語でした。
物語の後半までは、リッキーが思っていたように、観ている人全てが「真犯人はリカルドかディジュー博士のどちらかだ」と考えてしまいます。
しかし物語の後半で、3回目のタイムトラベルをしたリッキー3が、「リカルドにロトを買うなと警告し、ベスパを盗んだのちオリビアとキスした」張本人だったことが判明するのです。
全ては過去を変えようと奔走したリッキーが、リカルドに宝くじで大金を得ようとしたきっかけを作り、またディジュー博士がタイムマシンについて知ったきっかけを与えたことになります。
そのことが分かった瞬間、過去で起きていたこと全てが点と点で繋がって頭がクリアになるので、タイムループが関わるSF映画好きやそうでない人も、この作品の世界観に没入して楽しめること間違いなしです。
そして何より、失った親子の絆を修復するために、研究成果がだめなら手に入れた大金を、リッキーにあげようとしたリカルドの親心。
リカルドを救うために、過去と未来を行き来し奔走するリッキーの父親への愛情。2人の親子愛も感じられる作品なので、子供を持つ親、親と離れて暮らす子供には、心にグッとくるものがあります。
まとめ
主人公リッキーが、過去を変えるために過去と未来を行き来する、イタリアのSFアドベンチャー作品でした。
本作の最大の見どころは、リッキーが過去と未来を行き来できるタイムトラベルをするところです。
過去の自分と未来の自分が、同じ時代に存在することへの不思議な感覚を楽しみつつ、真犯人を探していくミステリーサスペンス要素が含まれています。
しかもそれが、物語の終盤あたりでは、リッキーが3人存在して同じく過去を変えようとするのですから、戸惑いよりも面白さが勝ちますね。
結局のところ全ての犯人はリッキーだったという結末に、何かの陰謀が隠れているのではと考えた人には、少し物足りなく感じてしまうことでしょう。
ただ、リッキーが過去から来た別の自分と鉢合わせしたところで終わったので、もし続編が製作されるとしたなら、違った展開があるかもしれないと期待できます。
不器用な科学者親子の親子愛を感じつつ、過去と未来を行き来する複雑さと楽しさを味わえる、SFアドベンチャー映画が観たい人には、とてもオススメな作品です。