連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第64回
ローズメイカーと呼ばれるバラの育種家であるバラ園経営者の女性・エヴと素人集団たちが、世界屈指のバラ・コンクールに挑む姿を描いた映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』。
本作は、2021年5月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開予定です。
フランス郊外で父が遺した小さなバラ園を経営する頑固者のエヴ。倒産寸前のバラ園の立て直しのために、新品種の開発に全てをかけますが……。
監督はピエール・ピノー。主人公エヴにカトリーヌ・フロ、エヴの元で働く3人の素人の雇人に、メラン・オメルタ、ファッシャー・ブヤメッド、オリビア・コートが扮しています。
CONTENTS
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』の作品情報
【日本公開】
2021年(フランス映画)
【原題】
La fine fleur
【監督】
ピエール・ピノー
【脚本】
ピエール・ピノー、ファデット・ドゥルアール、フィリップ・ル・ゲイ
【製作】
ステファニー・カレーラス、フィリップ・プジョ
【キャスト】
カトリーヌ・フロ、メラン・オメルタ、ファッシャー・ブヤメッド、オリビア・コート、マリー・プショー、バンサン・ドゥディエンヌ
【作品情報】
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』は、『大統領の料理人』(2012)『偉大なるマルグリット』(2015)『ルージュの手紙』(2018)のカトリーヌ・フロ演じるバラ園経営者と素人集団たちが世界屈指のバラ・コンクールに挑む姿を描いた作品です。
監督は本作が長編監督2作目となるピエール・ピノー。主人公エヴにカトリーヌ・フロが扮し、エヴの元で働く3人の素人に、メラン・オメルタ、ファッシャー・ブヤメッド、オリビア・コートが共演します。
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』のあらすじ
緑豊かなフランス郊外。
新品種のバラを開発し、過去に数々の賞に輝いてきたバラ育種家のエヴが、新品種コンクールに自慢の白バラを出品させていました。
しかし、結果は今年も惨敗。
エヴは毎年新品種のバラをコンクールに出品していますが、数年前から巨大企業のラマルゼル社に、優勝を奪われ続けていたのです。
おかげで賞どころか顧客もラマルゼル社に奪われ続け、亡き父が遺してくれたバラ園も今では倒産寸前になっていました。
助手のヴェラが何とか経営を立て直そうと、職業訓練所から格安料金で前科者のフレッド、定職に就けないサミール、異様に内気なナデージュを雇いました。
けれども3人は園芸に関しては全くの素人です。
手助けどころか、温室の温度設定を間違えて、一晩で200株のバラをダメにするというミスをします。
そんな時に、エヴに新品種のアイディアが閃きました。
交配に必要なバラがラマルゼル社のバラ園にしかないと知ったエヴは、フレッドにある“特技”を披露させます。
パリの新品種コンクールまであと1年。
エヴと素人園芸家たちの生き残りをかけた壮大な奮闘が、始まりました。
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』の感想と評価
カトリーヌ・フロの育種家ぶり
バラを愛してバラ園を作った父親亡き後、バラの育種とバラ園経営を担ったエヴ。
何よりもバラのことを第一に考える彼女は、助手のヴェラと2人でバラ園を切り盛りしていました。
バラ園が倒産しそうでも、新品種のバラを創れば立て直せる! そんな希望を胸にエヴは奮闘します。
赤、黄、白、ピンクと、色とりどりのバラに囲まれて、バラの世話をするときのエヴは何と幸せそうに見えることでしょう。
花びらの一つひとつを愛おしそうになで、かぐわしい香りをかぐことで、疲れもイライラも吹っ飛ぶようです。
その慈愛に満ちた眼差しを見れば、どれだけエヴがバラを愛しているのかがわかります。
愛するばかりでなく、花の色、形、香りと究極の美を追求する本物のプロフェッショナル・エヴを、ユーモアと情熱を込めて演じきったのは、フランスが誇る大女優のカトリーヌ・フロ。
本当に花が好きな人でないと表現できないラブリィな演技を披露しています。
バラと人の育成物語
本作は、バラ育種家のエヴと雇人3人のバラ園経営立て直しの物語。ですが、最重要キャストは何と言っても、物言わぬバラ、でしょう。
このバラの魅力でスクリーンを満たすため、監修としてフランス屈指の花のスペシャリスト達が集結したそうです。
世界にひとつの新しいバラが誕生するまでの交配と栽培の過程も詳細に明かされます。エヴが作中でバラの交配を実施して、「結婚させるの」ととても嬉しそうに語るシーンは必見。
また、パリのバガテル公園で開催されるバラのコンクールが忠実に再現されているのも見所のひとつとなっています。
このようにバラにスポットをあてた本作は、長編監督2作目となるピエール・ピノー監督が手掛けました。
本作の仕上がりを楽しみにしていたという監督の亡き母への想いも込められた『ローズメイカー 奇跡のバラ』。
バラを育てる苦労を知ると共に、人間育成という面でも大きな教訓を含んでいます。
個々の寄せ集めから一つのチームへと、エヴと雇人たちの関係が変化していくのですが、何よりもエヴ自身が変わったとしか言いようがありません。
エヴの指導によって生きる希望を見出す雇人たちの姿に、自分もまた誰かの長所を見つけ、それぞれの将来への道を築くことが出来るかもしれないと、希望を持たせてくれる作品となっています。
まとめ
美しく咲き誇るバラに人生の全てをかけて来たと言っても過言ではない育種家エヴ。
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』は、ある意味自己主張が強く人との交わりよりもバラだけを愛してきたエヴと、バラについてはド素人の3人の雇人が四苦八苦しながらバラの新種に取り組む物語でした。
エヴはただ花を愛するだけの育種家ではありません。
バラ園を守るために、雇人たちと一緒に新種を作る秘密作戦を企て、あの手この手と知恵を出し合って鉢植えのバラを売る方法を思案しました。
エヴはバラのことだけ考えているのですが、いつの間にか雇人たちとの繋がりも築かれていたのです。
自己中心的な考え方しかなかったエヴが、皆の力を借りるうちに徐々に彼らのことを考えるようになって行くという、その変化もまた見応えあるもの。
見事に咲いた花は見る人を魅了します。そして、花を咲かせる努力もまた美しい。
努力の賜物の新品種のバラ育成はどうなったのでしょう。結果は観てからのお楽しみに……。
映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』は、2021年5月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開予定!