連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第15回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回は「初任務~鼓屋敷編」の名言/名シーンを紹介・解説していきます。
鬼殺隊隊士としての任務をこなす中で、炭治郎が直面する“現実”。以降の物語にてかけがえのない仲間となる善逸や伊之助、信頼できる協力者としての珠世・兪史郎との出会い。そして宿敵・鬼舞辻無惨との邂逅が描かれる中で、どのような名言/名シーンが登場するのでしょうか。
今回はそんな「初任務~鼓屋敷編」の名言/名シーンを振り返っていきます。
CONTENTS
「黒いな…」
炭治郎が初めて手にした日輪刀が黒く変化するのを見た鱗滝のつぶやきです。
使い手の素質により刃の色が変化する日輪刀において、黒色は実例が少なく謎が多い事を後に鱗滝が説明していますが、鱗滝ですら「あまり見ない」黒い日輪刀は、後の物語に関わる大きな伏線にもなっています。
しかしながら、鱗滝の薄い反応に不安を覚え、うろたえる炭治郎と日輪刀を持ってきた鋼鐵塚が予想外に黒色に変化したことにより癇癪を起し暴れ始めるコミカルな場面になっています。
「失っても失っても生きていくしかないんです どんなに打ちのめされようと」
初任務で沼の鬼を倒した後、婚約者を鬼に殺され悲しみに暮れる青年・和巳に炭治郎が掛ける言葉です。
この言葉の直後、和巳は「お前に何がわかるんだ!」「お前みたいな子供に!」と激高し炭治郎に掴みかかります。しかし炭治郎は、そっと解いた和巳の手を優しく押し戻します。
その時、和巳は炭治郎が自身と同じく親しい人物を失い、その悲しみを乗り越えて尚生きていく覚悟を決めた人間であることに気が付き、去り行く炭治郎に謝罪します。
心無い言葉を掛けられた炭治郎は、自分も同じ境遇だったと声高に叫ぶこともできたはずですが、ただ悲しげな微笑みを浮かべ去ろうとする姿が印象的です。またアニメ版では、炭治郎がこの言葉を告げる際の、どこか無情であると知りながらも諭すように語る花江夏樹の演技にも注目です。
「冗談です!!」
朱紗丸・矢琶羽の襲撃を受け、兪史郎は珠世に対し、炭治郎たちをおとりにして逃げる事を提案します。しかし、ショックを受ける珠世の反応を見て即座にこのセリフを発し撤回します。
その身代わりの速さと必死の形相で撤回する兪史郎の様子に笑いを誘われますが、このセリフは裏を返すと、兪史郎にとって珠世がどれだけ大事であるかを物語っているとも言えます。
珠世の身を案じるあまり、炭治郎に協力することに否定的で、事あるごとに珠世に協力を考え直すよう進言する兪史郎。しかし珠世を心酔するあまり、結局その言葉に従ってしまう彼の一途さがよく表れている場面です。
コミカルな場面ではありますが、アニメ版では兪史郎演じる山下大輝の渾身の叫びに珠世への想いの強さが伝わってきます。
「痛い!! いやこれは………かなり痛い!!」
矢琶羽の不可視の矢印(ベクトル)を操る血鬼術「紅潔の矢」により、何度も地面に叩きつけられる炭治郎が胸中でこの言葉を叫びます。
この直前に矢琶羽から伸びていた「隙の糸」をたどり、必殺の一撃を狙うも糸が切れてしまった事もあり、炭治郎の心中の弱音が悲痛に感じられます。
またこれまでの戦いでは「隙の糸」をたどれば確実に相手を倒してきただけに、これからの戦いが一筋縄ではいかない事を予感させる場面でもあります。
「お前の妹は美人だよ」
去り行く炭治郎に向かって兪史郎が言う言葉で、そっぽを向き、きまりが悪そうにポツリとつぶやく山下大輝の演技がアニメ版では印象的なセリフでした。
兪史郎は対面当初、禰豆子を醜女(いわゆるブサイク)と評し、炭治郎の怒りを買っていました。それだけにこの言葉は兪史郎なりの炭治郎・禰豆子への感謝の言葉のように感じらえます。
また、朱紗丸・矢琶羽との戦いの後、禰豆子が珠世を抱きしめ、兪史郎の頭を撫でる一幕がありましたが、兪史郎は「人間を家族と思う」と言う鱗滝の暗示もあって、禰豆子は二人を“人間”と思っている事を炭治郎から聞かされます。そこで彼はかつて病気から助かる為に鬼となった自身の過去を思い出し、それでも禰豆子はそんな自身を“人間”だと感じてくれていた事も、この言葉を言う切っ掛けとなったのではないでしょうか。
「頼むよ!! 頼む頼む頼む!!」
炭治郎が新たな任務に向かう途中、突如聞こえる善逸の叫びです。
この後、炭治郎が見ず知らずの娘に泣きじゃくりながら求婚する善逸を止め、諫める一連の場面がコミカルであり、炭治郎が善逸と最終選別以来の再会を果たす場面でもあります。
以降の物語でも善逸は何度となく似たような問答を繰り返しますが、この場面では善逸のネガティブさと女の子が絡むと手が付けられない様子が強く表れ、善逸の強烈なキャラクターが前面に押し出されています。
アニメ版では、善逸を演じる下野鉱のテンションの異様な高さに対しネガティブなニュアンスが含まれている、何とも言えない「叫び」の表現にも注目です。
「猪突猛進!! 猪突猛進!!」
ファンにとっては説明不要な伊之助のセリフです。
伊之助の初登場時には、笑いながらこのセリフを叫び登場。猪の被り物に上半身が裸と言うヴィジュアルも相まって放たれる強烈なインパクトに、炭治郎のみならず多くのファンが呆気にとられたのではないでしょうか。
伊之助が事あるごとに叫ぶ「猪突猛進!」は、迷いなく決して止まることのない伊之助のキャラクターを表現しており、『鬼滅の刃』の中でも異質なキャラクター像を確立しています。またアニメ版では、伊之助を演じる松岡禎丞の力強く叫ぶ演技にも注目です。
「長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
元“下弦の陸”の鬼・響凱との「鼓屋敷」での戦いの最中、以前の戦いの傷が完治せず、痛みで思うように動けない炭治郎が胸中でつぶやくセリフです。
厳しい戦いの中、ふと思い浮かんだ「勝てるのか?」と言う疑問に炭治郎は次々とネガティブな想像をしてしまいます。その中で痛みに耐えてきた自分を自己肯定するためにこの言葉を呟きますが、どこか言い訳めいて聞こえてしまっている炭治郎にしては珍しいセリフです。
また、ネット上では「長男だから〜」「次男だったら〜」という分かるようで分からない根拠が話題を呼び、炭治郎の“迷言”としても広く知られています。しかし子供達には人気があり、事あるごとに「長男だから」と炭治郎をマネして頑張る子供が多かったようで、意外な所にも「鬼滅の刃」の人気が現れている事がうかがえる場面です。
「俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!!」/「俺が挫けることは絶対に無い!!」
響凱を前に自らを鼓舞するために叫ぶ炭治郎の言葉です。
前述のセリフからも分かる通り、この直前まで炭治郎は完治していない傷と攻略の糸口が掴めない響凱の血鬼術によって、珍しく弱気になっていました。しかし鱗滝の教えを思い出し、自身が操る「水の呼吸」が変幻自在でどんな敵にも対応できる事、怪我のせいで自身が弱気になっている事に気が付き、これらのセリフを叫んで自らに喝を入れます。
この言葉には決して根拠があるわけではなく、恐らく炭治郎自身もそれを理解しているように感じられます。しかしそれでも心を強く持つために叫び、炭治郎のどこまでも前向きであろうとする姿に胸を打たれる名言です。
大声を出せば折れている骨も軋むと理解する中、額に脂汗を浮かべ苦痛を感じながらも、敢えて“心”の為に叫んだ炭治郎。アニメ版では苦痛をにじませながらも、それを押しとどめる気迫を感じさせる叫びによって表現し切った花江夏樹の名演が観る事ができます。
「俺…守ったよ……お前が…これ…命より大事なものだって…言ってたから………」
禰豆子が入った箱を伊之助から必死に守る善逸が、響凱を倒し「鼓屋敷」から出てきた炭治郎に語り掛けるセリフです。
この場面にて兄妹の事情を知らない伊之助は、直感で箱の中の禰豆子が鬼だと気が付き、殺そうとします。しかしそこに居合わせた善逸は、はじめから箱の中身が“鬼(禰豆子)”である事をその類い稀なる聴覚によって察しながらも、「泣きたくなるような優しい音がする」炭治郎の語った「命より大事なもの」という言葉を信じ、必死に守り抜きます。
ネガティブな発言や、ともすれば危険から逃げ出そうとする様子が多々見られた善逸ですが、自らの身を挺し傷だらけになりながらも箱を守る感動的な場面であり、下野鉱の見事な演技により、弱々しくも強い想いで語り掛ける善逸の姿に胸が熱くなります。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
「初任務~鼓屋敷編」名言/名シーン集、いかがだったでしょうか。
鬼殺隊隊士となり、ようやく「禰豆子を人に戻す」と言う目標に向かって歩み始める炭治郎の鬼たちとの激闘、その中で出会うかけがえのない仲間たちとの出会いが描かれる「初任務~鼓屋敷編」。
炭治郎の物語が大きく動き始めることを予感させる物語展開の中で、胸に響く名言はもちろん、シリアスな中にも時折、頬を緩ませる“迷言”もたびたび登場しファンを楽しませてくれます。
次回記事では、「兄妹の絆編」の名言/名シーンをピックアップ。
『鬼滅の刃』の全ての始まりとなる物語である「兄妹の絆編」。炭治郎が禰豆子への想いを叫ぶあの名言や、令和の始まりに一世を風靡したあの“迷言”も登場します。