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Entry 2021/04/30
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鬼滅の刃名シーン/名言|炭治郎/禰豆子兄妹の絆×累の感動の“再会”に注目【鬼滅の刃全集中の考察14】

  • Writer :
  • 薬師寺源次郎

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第14回

大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。

今回は「那田蜘蛛山編」の名言/名シーンを紹介・解説していきます。


(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

2019年放送のTVアニメにおいてはハイライトと言っても過言ではない「那田蜘蛛山編」。

善逸・伊之助との初めて合同で挑む任務、試される炭治郎と禰豆子の兄妹の絆、“柱”の登場と冨岡との再会、“下弦の伍”こと累の悲しき過去……見どころ盛りだくさんのエピソードの中を、多くの名言/名シーンが彩ります。

今回はそんな「那田蜘蛛山編」の名言/名シーンを振り返っていきます。

【連載コラム】『鬼滅の刃全集中の考察』記事一覧はこちら

「人も鬼もみんな仲良くすればいいのに」

事態が悪化する那田蜘蛛山に派遣されるべく、鬼殺隊の現当主・産屋敷に呼び出された“水柱”冨岡義勇と“蟲柱”胡蝶しのぶ。この時にしのぶが冨岡に語りかけたセリフです。

“柱”という聞きなれぬ役職、炭治郎と禰豆子の運命を変えた冨岡の再登場、そして鬼殺隊の隊士とは思えないセリフが描かれたこの場面。「しのぶの初登場シーン」という要因もあって多くのファンの記憶に残ったはずです。

またこのセリフは、しのぶが禰豆子や珠代、兪史郎のような人間に害を及ぼさない鬼の存在を知り、ともすれば全力で守ることも厭わない炭治郎と同様の物のように字面では見えますが、セリフを発する彼女の雰囲気にはどこか違和感を感じさせます。その理由は、のちの「蝶屋敷編」での炭治郎との対話の中で明かされる事になります。

アニメでは、そうした違和感を持たせながらも不自然ではない僅かなニュアンスを、しのぶを演じる早見沙織が表現。可憐でありながらもミステリアスなキャラクターを作り上げています。

「泣いていい 逃げてもていい ただ諦めるな」

兄蜘蛛と対峙した善逸が回想の中で思い出した、自身が“じいちゃん”と慕う育手・桑島慈悟郎の言葉です。

この言葉は一見優しい言葉にも感じられますが、厳しい現実からの一時的な逃避を認めながらも決して立ち向かうことをやめてはならないと諭す厳しさも含まれています。善逸の“弱さ”を肯定しながらも諦めない“強さ”を信じる、桑島の厳しさと優しさが感じられる深いセリフであり、そんな桑島だからこそ善逸は慕っていたのかもしれません。

回想の中で、“じいちゃん”こと桑島は常に善逸に振り回される役どころで登場し、彼を演じた千葉繁のコミカルな演技によって笑いを生み出しています。

しかしこのセリフを口にした場面では一転、静かな声色を通じて厳しさと優しさを滲ませ、威厳と共に善逸に教え諭します。それはまさしく、レジェンド声優・千葉繁だからこそ表現できるギャップと言えます。

「痛くても 苦しくても 楽な方に逃げるな じいちゃんにぶっ叩かれる」

毒に蝕まれながらも兄蜘蛛に勝利した善逸ですが、薄れゆく意識の中で思わず死を受け入れようとしてしまいます。しかし“じいちゃん”こと桑島の「諦めるな」と言う言葉を思い出し、このセリフを胸中でつぶやきながら生に縋りつくようにあがき始めます。

先の「泣いていい〜」と同様、“じいちゃん”の言葉がいかに善逸の心の奥深くに刻まれているかが分かる場面であり、これまで事あるごとに怯え逃げ出そうとする善逸が、自らつらく苦しい道に進もうとする姿が印象的であり、善逸とじいちゃんとの絆や信頼が感じられる名言と言えます。

アニメでは善逸演じる下野鉱が、弱々しくしかし力強さも感じさせる声色で、死に瀕しながらも必死に生きようとする善逸の意志を見事に表現しています。

「禰豆子を守らねば たとえ相打ちになったとしても!!」

曰く「絆」を欲する“下弦の伍”累は、自らの身を挺し炭治郎をかばった禰豆子を自らのものとすれば「絆」が手に入ると考え、禰豆子を奪おうとします。炭治郎は禰豆子を守るため、自らの命も顧みずに累へ立ち向かい、胸中でこの言葉を叫びます。

この場面は物語に大きく関わっていく「ヒノカミ神楽」が登場する重要な場面であり、このセリフの直後に禰豆子は血鬼術「爆血」を発動させるなど、その熱い展開から屈指の人気を誇る場面です。

また炭治郎の禰豆子への想いはもちろん、回想の中で登場する父・炭十郎、母・葵の想いが折り重なる「家族の絆」を象徴する場面でもあります。アニメ版では、炭治郎の決死の覚悟が伝わる花江夏樹の渾身の叫びにも注目です。

「俺と禰豆子の絆は誰にも引き裂けない!!」

前述のセリフに続き、累との死闘の場面で炭治郎が叫んだセリフです。

圧倒的な実力差の中、禰豆子との連携で彼の首を斬ろうとした炭治郎が叫んだこのセリフ。恐怖で他者を縛り付けることを「家族の絆」と勘違いしている累に対し、炭治郎は本当の「家族の絆」によって応えます。

アニメでも、炭治郎演じる花江夏樹は先の「禰豆子を守らねば〜」以上に熱量が増し、おもわず鳥肌が立つ程に熱い演技を発揮。それは、このセリフが登場するアニメ1期・第19話「ヒノカミ」を“神回”と言わしめる一因となりました。

「うっかりです」

姉蜘蛛を倒した後、毒を用いる自らの手腕を語ったしのぶが最後に言うセリフです。

初めは姉蜘蛛に対しても「仲よくしましょう」と言うしのぶですが、向かってきた姉蜘蛛に「仲良くするのは無理そうですね」と言う言葉と共に倒します。それは、あたかも初めから仲良くする気がなかったように感じられます。

このセリフも「死んでいるから聞こえませんね」と前置きしながら口にしていますが、気遣いと言うには白々しく感じられ、しのぶというキャラクターのミステリアスさが強調される場面となっています。

アニメでもしのぶの一見可憐で、時に可愛らしい振る舞いを見せながらもどこか寒々しさを感じる雰囲気を、早見沙織の抑揚を付けながらもベースに冷たさを保った演技が見事です。

「俺が来るまでよく堪えた 後は任せろ」

渾身の一撃を放ちながらも累を倒す事が出来ず、逆に窮地に陥ってしまう炭治郎の前に颯爽と現れた冨岡義勇が炭治郎を労う言葉です。

突然の再会に驚く炭治郎を尻目に、累を一刀のもとに倒してしまう“水柱”の実力を見せた冨岡の姿には、誰もが衝撃を受けたはずです。

炭治郎に対し事務的に声をかけているように感じられますが、普段から非常に口数が少ない冨岡にして見れば、格上の相手に善戦した炭治郎に感心し声を掛けたとも見受けられます。

そして冨岡は炭治郎が、かつて禰豆子を倒そうとした際に対峙し、鱗滝の下へと導いた少年であった事に気が付いていなかった事がのちに判明したため、その関心は強かったのではないでしょうか。

「一緒に行くよ 地獄でも」

死にゆく累は炭治郎の手の温もりを通じて、かつての両親の温もりを思い出しますが、同時に自身が地獄へと落ちる事、故にもう二度と両親と会う事ができないと悟ります。しかし、いつの間にか累のそばに寄り添っていた両親は、累と共に地獄へ向かう事を告げます。

その時、累の父親はこのセリフを口にし、累はただ子供のように泣きじゃくり「ごめんなさい」と叫びながら、家族は炎の中へと消えてゆきます。

はるか前に死んだはずの両親が子の行く末を案じ、天国へ向かうことなく彼を待ち続けた結果、累と共に地獄へ向かう……親が子を想う強い気持ち、そしてその哀しみ・切なさを感じられます。しかしそれは、累が長い間探し続けていた「絆」の一つの形でもあったのです。

「醜い化け物なんかじゃない 鬼は虚しい生き物だ 悲しい生き物だ」

前述の場面にて、死にゆく累に情を感じる炭治郎の様子に気づいた冨岡は「情けをかけるな」と諭します。しかし炭治郎は反論しこの言葉を投げかけます。

累を一撃で倒した冨岡の技量を見ていた炭治郎は、冨岡が自身よりはるかに優れた剣士である事はもとより、かつての出来事で冨岡に恩義も感じているはずです。しかしそれとは別に、自身が信じる想いをまっすぐぶつけていく炭治郎の“人間”としての強さが感じられるセリフです。

また、冨岡にとって、この時の炭治郎の迷いがなく力強い眼差しが記憶を呼び戻す切っ掛けになっている事から、言葉ではなく、その想いに突き動かされた冨岡と炭治郎の出会いを彷彿とさせる場面でもあります。

アニメでは極度に体力を消耗し、息も絶え絶えにふり絞り発する声の中にも、決して譲れない想いを宿した力強い言葉で語る炭治郎を演じ切った花江夏樹の演技にも注目です。

「俺は嫌われていない」

しのぶの「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」という言葉に対しての冨岡の反論の言葉であり、彼の最も有名な“迷言”として知られているセリフです。

この場面では事情を知らないしのぶが、鬼である禰豆子に攻撃を仕掛けますが、冨岡がそれを阻止。しのぶ自身は鬼(禰豆子)を前に動こうとしない冨岡を助ける目的もあったのですが、その冨岡に妨害される形になり理解ができないと感じています。

そのうえ、口数が少ない上に口下手な冨岡は事情を詳しく説明しようとしないため、思わずなのか根に持ってか「嫌われる」という言葉を出します。

その言葉に冨岡は引っ掛かり、返答の第一声は状況の説明ではなく反論をしたわけですが、冷静沈着でクールなキャラクターで思われていた冨岡のズレた回答がコミカルであり、意外な一面を知ることができる場面になっています。

まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……

那田蜘蛛山編」名言/名シーン集、いかがだったでしょうか。

炭治郎と禰豆子の絆や熱い想いはもちろん、善逸の彼なりの覚悟、“水柱”としての冨岡のカッコいい名言、しのぶの意味深な言葉が飛び交いました。

その中でも、死にゆく累と両親の最期の場面は印象的です。「家族の絆」が主題の一つにある『鬼滅の刃』において炭治郎・禰豆子とはまた別の形の「絆」に涙を誘われた人が多かったのではないでしょうか。

次回記事では、「初任務~鼓屋敷編」の名言/名シーンをピックアップ。

選別試験を経て、晴れて鬼殺隊隊士となった炭治郎は鬼との過酷な戦いに身を投じていきます。その中で炭治郎はかけがえのない仲間との出会いを果たしていきます。

【連載コラム】『鬼滅の刃全集中の考察』記事一覧はこちら





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