連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第36回
今回ご紹介するNetflix映画『闇はささやく』は、アメリカの小説家、エリザベス・ブランデージの小説、『All Things Cease to Appear』が原作です。
マンハッタンで暮す若い夫婦が、夫の新しい仕事の都合で、郊外のハドソン・バレーの農村の家に引越し、新生活をはじめます。ところが次第に互いの人生観の違いや隠していた秘密、家にまつわる忌まわしい過去を知ることになります。
カンヌ国際映画祭(2003年)ある視点部門出品、アカデミー賞脚本賞のノミネート作品『アメリカン・スプレンダー』(2004)の、シャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニのコンビが監督と脚本を手がけました。
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映画『闇はささやく』の作品情報
(C)2021 Netflix
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Things Heard & Seen
【監督/脚本】
シャリ・スプリンガー・バーマン、ロバート・プルチーニ
【原作】
エリザベス・ブランデージ
【キャスト】
アマンダ・セイフライド、ジェームズ・ノートン、ナタリア・ダイアー、アレックス・ニューステッター、F・マーレイ・エイブラハム、レイ・シーホーン、マイケル・オキーフ、カレン・アレン、ジャック・ゴア、ジェームズ・アーバニアク、アナ・ソフィア・ヘーガー
【作品概要】
『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』(2018)、『Mank マンク』(2020)のアマンダ・セイフライドが妻キャサリン、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2020)のジェームズ・ノートンが夫ジョージを務めます。
他に『アマデウス』(1984)で宮廷音楽家サリエリ役を演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞した、F・マーレイ・エイブラハムや、「インディ・ジョーンズ」シリーズのカレン・アレンがキーパーソンを演じます。
映画『闇はささやく』のあらすじとネタバレ
(C)2021 Netflix
1980年冬の朝、農道を1台の車が家に向かって走ります。1人の男が車をガレージに入れると、フロントガラスに血のようなものが落ちてきました。
それはガレージの天井から落ちています。男は慌てて家に入ると、リビングのソファーに彼の娘と思われる幼い子が、立ちつくしていました。男はその子を抱きかかえ、野原を駆け抜けます。
その年の春、美術修復家のキャサリン・クレアは、夫のジョージと娘のフラニーと一緒にマンハッタンに住んでいました。
その日マンハッタンのアパートではフラニーの誕生会と、美術史教授として郊外の大学に就職の決まった、ジョージのパーティーが行われています。
しかし、ジョージはそれまで無職で、彼の両親からの援助で生活していました。キャサリンはその支援が打ち切られたことをきっかけに、事実を知りました。
さらに大学への就職を機にジョージは、職場に近い農村の家を勝手に契約してしまい、マンハッタンを離れることになり、不満を抱いています。
家は19世紀後半に建てられた、納屋もある立派な物件でしたが、修繕もかなり必要でした。家財道具はないと思いましたが、1つだけアンティークのピアノが残されています。
クレア一家は越して来ると、掃除や修繕をしながら暮し始めます。その様子を少し離れたところからみつめる2人。
キャサリンはピアノの上に、ジョージの描いた海の絵を飾りたいが、見つからないと言うと、彼は新しいオフィスに飾るために送ったとこたえます。
キャサリンはその絵を気に入っていて、絵画の才能があるのだから、この家でまた描き始めたらいいと勧めます。しかしジョージは、絵よりも執筆の方が向いてると言います。
その晩、就寝する家族は異変に遭遇します。夫婦の寝室では排気ガスのような臭いが漂い、フラニーの部屋ではルームライトが怪しく点滅すると、椅子が激しく動きます。
翌日、ジョージは仕事先のサギノー大学へ行き、フロイド・デビアス学部長に迎えられ、採用理由のひとつとして、論文に“スウェーデンボルグ”に関する記述があったからだと言います。
フロイドをはじめ大学の界隈では、スウェーデンボルグの“神学”を信じる者が多いからです。
しかし、ジョージはスウェーデンボルグの説く神秘主義を、信じているわけではないと言い切ります。
フロイドはジョージに、スウェーデンボルグ著書の“天界と地獄”を贈り、降霊会にも招待すると言い、ジョージはキャサリンを連れて行くと答えます。
家ではキャサリンが体重を測っていると、突然電動歯ブラシが動き出す現象が……。彼女が驚いていると、誰かが家を訪ねてきました。
町に住むエディという青年と弟のコールです。彼らはキャサリンに使用人が必要な時には、雇ってほしいと挨拶に来ました。
コールのフラニーへの対応を見たキャサリンは、彼らを気に入り、夕食の時にジョージに雇うことを伝えます。
サラダを食べるキャサリンにジョージは「また、サラダしか食べない気か? 医者が勧めてくれたプロテイン飲料は?」と聞きます。キャシーは“摂食障害”を患っていました。
キャシーが後片付けをしていると、食器棚の上に古い聖書を見つけます。聖書をめくっていくと、“追悼”と書かれた帯が挟まるページにたどり着きます。
そこにはその家にまつわる人たちのと思しき、“家系図”が書かれていました。出生と“死亡”の欄があり、死亡した最後の名前は黒く塗りつぶされ、1877年“地獄行き”と書かれていました。
更に洗い物をしているキャサリンの目の前を、蜃気楼のような光りが通り過ぎ、目で追うと窓の縁金具に古い指輪が挟まれており、彼女はそれを抜き取ります。
指輪には2人の女性が向き合う、姿が彫られたカメオがはめ込まれています。
すると、指輪をみつめるキャサリンの目の前を、再び光りの影が通りすぎ、ただならぬ気配に彼女は怯えます。
以下、『闇はささやく』ネタバレ・結末の記載がございます。『闇はささやく』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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キャサリンは町の歴史協会に出向き、ボランティアの参加を申し出ます。そして、家で見つけた聖書や指輪、不思議な現象の原因が家にあると思い、ルーツを知る資料がないか聞きます。
受付の女性はキャサリンの住所を見ると、あなたの家なら施工主の夫婦と一緒に写った写真が、展示してあると教えてくれます。
家を建てた人物は“ジェイコブ・スミット”。家系図に“地獄行き”と書かれて塗りつぶされた名前と同じでした。
一方、フラニーを図書館に連れて出かけたジョージは、カラヴァッジオの画集を持った、若い女性に興味をもち声をかけます。
彼女はウィリスといい大学を休学し、クロウヒル厩舎で働いていると言います。ジョージは隣りのテニスクラブに、たまに行くと自己紹介します。
ウィリスはジョージ・クレアの名前を聞くと、キャサリンに雇われたエディは友達だと言います。
秋になり、キャサリンはエディのことを聞きます。彼の両親は自動車事故で亡くなり、叔父に引き取られていると知ります。
ジョージは大学で織物講師のジャスティン・ソコロフから声をかけられ、夫がテニス仲間のブラムだと言います。彼女はジョージとキャサリンを食事に招待したいと誘います。
ジョージのオフィスに飾られていた、海の絵を見たジャスティンは、その絵を称賛しますが、ジョージはさほど喜びもしません。
その晩、キャサリンは寝室に漂う、排気ガス臭が強くなっていると訴えます。ジョージは階下がガレージだからだと「幽霊の仕業だとか言わないよな?」と取り合いません。
キャサリンはガレージでファンを回すため降りますが、ピアノの音色が聞こえたのでリビングに行くと、ピアノは鳴りやみ、フラニーが悲鳴をあげ部屋を飛び出て来ます。
フラニーは部屋に女の人がいたと訴えます。ジョージはキャサリンに小児科が処方した、鎮静剤を飲ませないからだと言います。
ウィリスはエディにジョージと会ったことを教え、まだ、ジョージと面識のないエディは、どんな人だったか聞きます。
彼女はとジョージが色目を使ってきたから、「不誠実で嘘つき」だと思ったといいます。
キャサリンは書斎でフロイドが贈った“天界と地獄”を見つけ、“現世と同じものが霊界に存在し、互いに結びついている”という一説に目をとめます。
ジョギングに出たジョージは、クロスヒルの厩舎までウィリスに会いに行きます。彼女は「あなたって厚かましい、バカな男」と言いつつ、ジョージと親密な関係になります。
キャサリンは電話で母親に誰とも交流がなく孤独だと伝え、幻が見えるようになってしまったが、ジョージには怖くて話せてないと言います。
ジョギングから帰ったジョージは、摘んできた野花をキャサリンに渡します。彼女は花を生ける瓶を取りに行きますが、置いてあった指輪を取り、問いかけるようにカメオをみつめます。
出勤するジョージが外へ出ると、そこにエディが通りかかり、彼はジョージに自己紹介します。
ジョージは「ヴェイルの息子か? 妻には君たちが以前、ここに住んでいたことや、“例のこと”を知られたくない」といいます。
後日、ジャスティンに招かれたジョージは、キャサリンを連れて出かけます。キャサリンはジャスティンとすぐに意気投合しました。
ジャスティンは織物に精神世界からくる、スピチュアルなイメージを織り込んでいると説明します。
キャサリンはフラニーに何か織って欲しいと言うと、ジャスティンはジョージから、母へのプレゼントも頼まれていると伝えます。
帰り道、気が大きくなったジョージは車を暴走させ、キャサリンを怖がらせます。車を降り歩いて帰ろうとするキャサリンは、ジョージにこれまでの不満をぶつけました。
自分の名誉だけのために“憧れの夫婦像”、“妻と田舎暮らしをする教授”そんな経歴や肩書のために、自分だけが多くのことを諦めてきたと言います。
ジョージは「ろくに食べもしないで酒なんて飲むな」とキャサリンを非難し、もみあいになると彼女を路肩に突き飛ばしてしまいます。
家に帰りフラニーのベッドに横になるキャサリンに、「不安な君に寄り添わなかったことを謝る。君を愛してる」と言いますが、ルームライトが怪しく点滅し破裂してしまいました。
ある日、ジョージはフロイドのヨットでセーリングに出かけると、優秀な従弟が19歳の時に、ヨットの事故で溺死してしまったことを話します。
セーリングの帰りにジョージはフロイドを家に招待します。キャサリンは“天界と地獄”を読んでいて、フロイドはそれを見て喜びます。
キャサリンが「表紙の絵に魅かれて……」と言うと、フロイドは「これは魂が死後の世界に向かう瞬間だ」と説明します。
キャサリンは興味津々に耳を傾けると、「この絵を描いた画家は著者の支持者で、死は誕生と平行していると信じていた」と話を進めます。
ジョージは話を中断し、キャサリンに家を案内するよう言って2階を案内していると、フロイドは光りの影が通り過ぎるのを見ます。
フロイドはキャサリンに「彼女は君に危害は加えない。君のためにいる」と教えると、キャサリンは「彼女の存在を感じるたびに、安らぎをおぼえる」と話します。
キャサリンは女性の正体は、家を建てたジェイコブ・スミットの妻ではないかと伝え、フロイドは大学で詳しく調べておくが、ここでジョージ抜きの降霊会を開こうと言います。
フロイドは上機嫌で帰宅し、ジョージは学部の同僚を招いて、パーティーがしたいと言い出します。
キャサリンは地域の一員になるため、近所の人たちも招待すると提案し、改装パーティーを開きます。
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招待した不動産コーディネーターのメアが、「エディとコールまで雇うなんて、聖人みたいな人ね」とキャサリンに言います。
キャサリンは何のことか聞くと、ジョージには家が彼らの生家だと最初に“事情”を説明してあったと話します。
話しを聞いていないキャサリンは、指輪を見せるとメアは、エラが外したことがない指輪だと言い、家の“事情”を話し始めます。
エディの父親カルヴィン・ヴェイルは、妻のエラと2人の息子を鎮静剤で眠らせ、家畜の牛を全て射殺し、ガレージの2台のトラックにエンジンをかけて、2階で眠るエラの隣りに横たわり、2度と起きてこなかったと話します。
パーティーが終わるとキャサリンは、ジョージに家で起きていた事実を言わなかったことを責めます。
ジョージは「君を守ろうとした。この家で幸せに暮してほしかった」と言うと、突然ラジオがかかり、ジョージがコンセントを抜いても止まりません。
怪奇現象を目の当たりにしたジョージに、フラニーを連れて実家で過ごすよう勧め、ジョージのいない留守にフロイドを呼び、降霊会を開きます。
キャサリンが家で見た女性の姿は、エラ・ヴェイルでしたが、フロイドは家の最初のオーナーのジェイコブ・スミットの妻は、スウェイデンボルグの信者だったと話します。
しかし、ジェイコブがカルバン派の敬虔な神父だったため、妻が精神世界にはまることを全否定し、彼女は26歳の時に不可解な死を遂げていたと話します。
キャサリンは素朴な疑問として、霊とは邪悪な者ではないのか質問します。邪悪な霊は邪悪な者にしか、問いかけないと諭されます。
降霊をはじめるとエラと思われる霊が現れ、それを引き戻そうとする、霊体もいました。もう1つの霊の正体がわかるまで用心するよう伝えます。
ある日、ジョージのクラスがNYの美術館へ出かけると、彼は前職のウォーレン教授と偶然会います。談笑していると生徒が、「クレア教授」と話しかけました。
ウォーレンは怪訝そうな顔をし「推薦状もなくどうやって教職についた?」と問い詰めます。ジョージは臨時講師だと説明しますが、ウォーレンは信用せずその場を去りました。
その話しを聞いていたジャスティンは「今の話、どういうこと?」と問いますが、ジョージははぐらかし、ジャスティンは何のことか知ってしまいました。
次の日、ジョージがフロイドに声をかけると、問題が発生して調査をするところだと話します。フロイドは意を決して、シルビー・ウォーレン博士から、電話が来たことを伝えます。
ジョージが大学に出した書類の推薦状に、ウォーレン博士のサインがあったが、彼は書いていないという話です。ジョージが推薦状を偽造していたことが知れた瞬間でした。
その晩、ジョージの家ではホームパーティーが開かれ、ジョージの父親が19歳で溺死した、従弟の話を出します。
母親は才能豊かで海岸線や海鳥、灯台の水彩画を描いていて、追悼展覧会を開こうとしたのに、絵が紛失してみつからないと話します。
キャサリンがジョージの描いた絵だと信じていたものは、溺死した従弟の作品だったと理解します。
その晩、ジョージに誰かが「誰も我々を理解していない。私はお前のそばにいる。ジョージ自分を解放しろ」と語りかけます。
休暇明け、切羽詰まったジョージは、セーリングに出ようとするフロイドに声をかけます。
フロイドは約束の日を切り上げ、船で話を聞くことを許し乗船させ、ジョージに処分は免れない解雇だろうと告げます。
その頃、ジャスティンはカフェで、ジョージが母のためにと注文したショールを巻くウィリスに会い、ショールのことを聞くと、もらったものだと言われます。
ジョージはずぶ濡れの姿で大学に戻ってきたところ、ジャスティンが声をかけ、お母さんはショールを気に入ってくれたか訊ねます。
ジョージは安っぽいから気に入らなかったと答えると、彼女は「だから安っぽい女にあげたの?」と言い捨て、車を発進させます。
しばらく車を走らせると追いかけてくる車が現れ煽られました。ジャスティンは運転手の顔を確認しますが、激しく衝突され木に激突してしまいます。
翌朝、キャサリンはブラムからの連絡で病院へいくと、ジャスティンが事故で昏睡状態であることを知ります。
また、見舞いから帰る時カーラジオからは、ハドソン川からフロイドの水死体がみつかったことを告げるニュースが流れ、キャサリンは驚愕します。
キャサリンが出かけたのを確認していたジョージは、調剤薬局に行きフラニーの処方箋で鎮静剤を入手します。
危険を感じたキャサリンは、フラニーと家を出る準備をしますが、帰宅したジョージに気づかれ、鎮静剤入りのプロテインを飲まされます。
キャサリンはフラフラになりながら、寝室の電話を使おうとして意識を失い、ジョージの手によって斧で惨殺されてしまいます。
翌日ジョージはコールにキャサリンは具合が悪くて寝ているから、起こさずフラニーにはジュースを必ず飲ませて、眠ったら帰っていいとメモを残します。
そして、仕事から帰りキャサリンの遺体の第一発見者として通報をし、何もかもうまく行く予定でした。
キャサリンはエラの霊と手を結び、ジャスティンの意識の中に入り事の顛末を見せて、昏睡状態から目覚めさせます。
ジャスティンはジョージに「私を覚えてる? 私は全て覚えている」と、メッセージを残します。
ジョージは溺死した従弟のヨット、“ロスト・ホライゾン(失われた地平線)号”に乗って船出します。彼が向かった先は一体どこだったのでしょうか?
Netflix映画『闇はささやく』の感想と評価
(C)2021 Netflix
映画『闇はささやく』は、悲劇の死を遂げた妻達の元凶に迫ります。邪悪な霊によって、サイコパス夫が殺人を犯し、善き霊魂の正義によって、夫を地獄へ落とすストーリーでした。
本作はスウェーデンボルグの教義をヒントにした、善と悪の攻防や悪の連鎖は正義によって、断ち切ることができ、悪には地獄が待っているという、“黙示録”的な要素がありました。
作中、信者の1人が“今世で勝利できなければ、来世で勝利する”と、説明しています。
夫のジョージはサイコパスで、妻のキャサリンは摂食障害という、不幸な組合せの夫婦でした。
家の創立者ジェイコブ・スミット夫妻、前住人のカルヴィン・ヴェイルも似たような夫婦であったことがわかります。
ジョージはおそらく幼少のころから、才能あふれる従弟と比較され自尊心を傷つけられ、サイコパスが発症したものと推測できます。
キャサリンの摂食障害について、その要因には触れられていません。過去の2人の女性と共通しているのは、極度の不安や強迫概念、心配症のような性質を持ち、精神世界に傾倒しやすいタイプだったといえるでしょう。
スウェイデンボルグが説く“霊界”とは?
ラストシーンに出てくるスミット夫人の写真には、指に指輪がはめられています。スウェイデンボルグ信者だった、スミット婦人は天に召され、エラに受継がれました。
“指輪”には、善の2つの魂が、受け継がれていく姿を示しているようにみえます。
スウェイデンボルグの説く“霊界”とは天界のことです。人は死ぬと“地獄行き”か“天界行き”かを振り分けられる、3つの段階があると説いています。
まるで仏教上の閻魔大王が裁くかのようですが、この場合、“守護霊”や自分の身近な人の霊が会いにきて、その人の本性を暴き天界に連れて行くか、地獄へ落とすか決定すると言われています。
エラにとってはスミット夫人が守護霊で、キャサリンにとってはエラがそうであったというのが、この指輪の意味だったのでしょう。
ジェイコブが地獄行きと書かれた理由とは?
スウェイデンボルグの描く“地獄”には、良心の呵責を感じる霊は存在せず、自己愛(利己愛)によって、他人を支配し最悪なのは、表面上は正直さや上品さで隠し、自分自身の悪さに自覚がなく気づけない者です。
まさにジョージがそのような人間でした。遡って考えてみると、ジェイコブやカルヴィンも利己愛者で、妻を支配しようとしていたと考えるのが自然です。
“悪霊とは邪悪な心を持つものに語りかける”つまり、地獄に落ちて悪霊となったジェイコブのささやきによって、カルヴィンは残酷な事件を起こしたと見ることができます。
ジェイコブは敬虔なカルヴァン派の神父だったにも関わらず、なぜ“地獄行き”と書かれ、また誰が書いたのでしょう? カルヴァン派の道に外れた行為をしたからなのでしょうか?
カルヴァン派は「予定説」に基づいた教えで、人は生まれ持って平等ではなく、生まれた前から神によって、運命が定まっているという、キリストへの絶対服従主義です。
スウェイデンボルグの考え方とは真逆で、救うチャンスを与えない冷たい印象があります。したがってスミット夫人は、夫ジェイコブによって、異端扱いされ虐待され死んだのでは?と考えることができます。
スウェイデンボルグ信者の目線でいえば、ジェイコブは無慈悲な利己主義といえるため、“地獄行き”と書かれたのでしょう。
本作に出てくるジョージ・イエネ作の“死の影の谷”は人が死ぬと、まず行く場所でそこで心の中に潜む、“本性”をあらわにされ、天界に召されるか決まるところです。
邪悪な者でも罪を認め心を改めれば、天界への道も開けると言われていますが、ジョージは意識の戻ったジャスティンを亡き者にしようとして、自ら地獄行きの扉を開けてしまったのでしょう。
したがって最後に出てくる絵は、海に出たジョージの行く先が地獄行きとわかります。空には逆十字も描かれていました。
まとめ
映画『闇はささやく』は、“スウェイデンボルグの神学論”を視点に、人の善悪や死んだら魂はどうなるのかを、ジョージとキャサリンの若い夫婦と、一軒の家にまつわる忌まわしいできごとを通し、描いたサスペンスホラーでした。
日本でも「嘘をつけば舌を抜かれる」や、「悪い事をすれば地獄に落ちる」とか、「善根を積めば天界へ行ける」などの戒めがあり、これと似たようなことをスウェイデンボルグは訴えかけており、この作品に反映していました。
作品を観終えて思ったことは、あとに残されたフラニーがどんな女性に育つのか?とうこと。あまりにショッキングなできごとで、映画の中とはいえ心配に感じた人もいたのではないでしょうか?
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