この作品を最後に女優業を引退したグレース・ケリー。
彼女のキュートな魅力溢れるミュージカル・コメディ作品『上流社会』をご紹介します。
映画『上流社会』の作品情報
【公開】
1956年(アメリカ)
【原題】
High Society
【監督】
チャールズ・ウォルターズ
【キャスト】
ビング・クロスビー、グレース・ケリー、フランク・シナトラ、セレステ・ホルム、ルイ・アームストロング、ジョン・ランド、ルイス・カルハーン、シドニー・ブラックマー
【作品概要】
第29回アカデミー賞(1957年)ミュージカル部門作曲賞(ジョニー・グリーン、ソウル・チャップリン)、主題歌賞(“True Love”)ノミネート作品。
映画『上流社会』のあらすじとネタバレ
舞台はアメリカ、ロードアイランド州の避暑地ニューポート。サッチモの愛称で知られるジャズミュージシャン、ルイ・アームストロング一行を乗せたリムジンは、陽気な歌声に満ち満ちていました。
一行が目指しているのは当地の富豪デクスター邸。この地で開催される恒例のジャズ・フェスティバルに出演する彼らに、富豪のデクスターが自邸を宿として提供したのです。
デクスター邸の隣には、こちらも大富豪のロード邸がありました。ロード家の娘トレイシーとデクスターはかつて結婚していた仲。駆け落ちの末だったにも関わらず、色々なことが重なり、結局数年前に離婚。
そのロード邸では、翌日の結婚式を控え大忙し。トレイシーが再婚するのです。相手の男性ジョージは、優しくて人間的には悪くないのですが、堅物でつまらない男というのが玉に瑕。
トレイシーの妹キャロラインは、そんなジョージとの結婚を快く思っていませんでした。彼女はデクスターの方を気に入っていて、彼が兄になってくれた方がいいと思っていました。その気持ちを母や姉に直接伝えたりと、周囲を困らせるのでした。
そんな中、とあるゴシップ誌からロード家へ連絡が入ります。彼らが言うには、当家の主人セスに関わる女性スキャンダルを握っているが、明日の結婚式に密着取材させてもらえるならその記事は差し止めるとのこと。
遊び人の父に対しての怒りを抱えながらも、仕方なくその条件を受け入れるトレイシー。しかし、彼女の頭にはある考えがひらめいていました。妹キャロラインと結託して、マヌケな振りをすることで記者を煙に巻こうというのです。
そうして、やってきたゴシップ誌の記者マイクとカメラマンのリズ。トレイシーとキャロラインは作戦通り進めようとしますが、そこに婚約者のジョージやお祝いにきたデクスター、叔父のウィリーが登場し、計画はご破算に。
一方デクスターは、いまだにトレイシーに未練たらたら。彼女のわがままで自分勝手な性格を知り抜いている彼は、堅物のジョージなんかに彼女の夫が務まるわけがないと思っていました。
デクスターはプールで泳いでいたトレイシーを見つけ、近付いていきます。結婚祝いを渡すためでした。彼が贈ったのは、新婚旅行の時にクルージングしたヨット“True Love号”の模型。それをプールに浮かべると、2人の幸せだった頃の想い出が呼び覚まされ、複雑な思いに駆られるトレイシー。
その後、ようやく父親のセスがやってきます。今回のスキャンダルのことを含めて、思うところのあったトレイシーが彼に思いの丈をぶつけますが、逆に父から彼女の身勝手な性格を指摘されてしまいます。女性としての全てを兼ね備えているのに、本当に大切な人を思いやる心が欠けているというのです。
その指摘が的を射ていたからか落ち込むトレイシー。気晴らしに記者のマイクを誘ってドライヴへと出掛けます。マイクは、そんな彼女の奔放な姿に少しずつ心惹かれていく自分がいることに気が付いたのでした。
映画『上流社会』の感想と評価
『上流社会』最大の魅力は何といってもグレース・ケリー(トレイシー役)の存在でしょう。信じられないくらいキュートで、なおかつ美しさと優雅さを兼ね備えた唯一無二の存在と言っても過言ではありません。
1956年にモナコ公妃となったグレース・ケリーは、同時に女優業から引退することになるわけですが、何を隠そうこの『上流社会』という作品がスクリーンで彼女の姿を見られる最後となったのです。そういった意味合いにおいても歴史的作品と言えるでしょう。
また、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ルイ・アームストロングといった当時のミュージックシーンを席巻する大物たちが揃って出演していることも注目です。
言わずと知れたトップスター歌手であるビング・クロスビー(デクスター役)。一時期スランプに陥っていたものの『地上より永遠に』(1953)で見事なカムバックを遂げたフランク・シナトラ(マイク役)。ジャズ界の巨人ルイ・アームストロングは何と本人役で登場と、何とも豪華なラインナップです。
ミュージカル映画という観点からすると、40年代から50年代初頭にかけて流行した歌とダンスが散りばめられたタイプのものとは違い、あくまで歌と演奏を聞かせることに終始したチャールズ・ウォルターズ監督の演出も光っています。
ルイ・アームストロングによる主題歌”High Society”に始まり、初共演となったビング・クロスビーとフランク・シナトラによるデュエットは鳥肌もの。
さらに、グレース・ケリーとクロスビーによるデュエット“True Love”は当時のビルボードチャート最高5位を獲得するなど大ヒットを記録し、アカデミー賞ノミネートにまで至るなど、素晴らしい楽曲に彩られた作品となっています。
まとめ
当初、この作品がアカデミー賞の3部門にノミネートされていたということは、今ではあまり知られていないかもしれません。その3つとは、作曲賞・主題歌賞ともう一つ。脚本賞もその対象だったのです。
しかし、ある作品の焼き直しだという異議があったため、この部門でのノミネートは取り消されました。それこそが、1940年に公開された『フィラデルフィア物語』。『上流社会』はこの作品のミュージカル版リメイクにあたるものなのです。
ちなみに『フィラデルフィア物語』は、ジョージ・キューカー監督の手によって元々ブロードウェイの舞台作品だったものを映画化したもので、1940年の第13回アカデミー賞では、主演男優賞(ジェームズ・スチュワート)と脚色賞を受賞したコメディ映画の傑作として名高い作品です。
こういったいわくつきのエピソードがあるものの、決してこの作品の魅力が損なわれるというようなことはありませんのでご安心を。ミュージカル映画というよりは、音楽映画と言った方がしっくりくる『上流社会』が持つ軽快で陽気な雰囲気は、きっとあなたを幸せな気持ちにするに違いありません。